深夜のコンビニバイト始めたけど魔王とか河童とか変な人来すぎて正直続けていける自信がない

ガイア

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深夜のコンビニバイト二十四日目 サキュバスさん来店

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深夜のコンビニバイト二十四日目。

ピロリロピロリロ。

「いらっしゃ...」

俺は、ごくりと喉を鳴らして緊張に体を強張らせた。
頭の耳の上に二つのごつごつした丸まったツノのようなものが生え、薄いピンクのネグリジェからは、ゆっさゆっさと零れ落ちそうな胸が揺れていた。
薄い生地のネグリジェのせいで体のラインが出てしまっているような格好でどこに目を向けたらいいかわからない。

「ふわぁ...」

大きくあくびをしながら伸びをしている彼女は、さらにそのメロンのような胸は主張し、俺は目がぐるぐる回り、ちょっと気持ち悪くなっていた。メロンに酔っていた。

そのいるだけで爆弾のような女性は、くらくらするようなピンクのオーラ、いや、フェロモンというのだろうか、を撒き散らしてこっちに歩いてきた。

「可愛い...お姉さんをみて緊張してるの?」

青いふわふわしたショートヘアを耳にかけながら色っぽい口元のほくろに思わず目がいってしまい、ドキドキして俺は眼球を限界まで痛いくらい右に寄せて、見ないようにしていた。

「ふふ、いいのよ。もっと見ても...」

胸元のネグリジェを人差し指で下げて誘惑してくるお姉さんだが、俺はそっちより、入り口前で首をかくんとちょっと曲げながら、目をガンびらきにしてこちらを見ている口裂け女さんこと俺の恋人、綾女さんに戦慄していた。

あっ...み、見てる。綾女さん、めっちゃこっち見てる...あ、あぁ、こわ、こわなんでそんな親の仇みたいな目で俺のこと見てんの。待って違うよ!?

「あやっ綾女さん違うんですよこれは!」

「.....ハル、誰この女」

低い声で淡々と、聞かれても俺は知らない!

「初対面ですよ、知らない知らない!」

ブンブン首が吹っ飛ぶんじゃないかって勢いで首を振る俺に、

「あら~もしかして、彼女?」

首を振りすぎて若干気持ち悪くなってきた俺に、人差し指を濡れた口元にあてて首を傾げたフェロモンの多いお客様に、

「そうです」

うんと、頷くと綾女さんはぼっと顔を赤くして俯いた。さっきのホラーな表情の事は忘れた。やっぱ綾女さん可愛い。
今日の綾女さんは、白いワンピースに赤いカーディガンを羽織っていた。

「そっかそっか~へぇ~どうりで。私のフェロモン受けてるのにそんなに反応が薄いの、おかしいと思ったんだよね」

フェロモンの多いお客様は、綾女さんをチラッと見て、フッと企んだように笑うと、

「えい!」

俺の腕に唐突に抱きついてきた。

「ひっ!!」

唐突に腕に押し付けられる爆弾に、俺の心は爆発寸前だった。

「.....何ハルに触ってるのよ。殺すわよ」

対して冷静に、氷点下ゼロというような冷たい表情の綾女さんは、鎌を振り上げて、低い声で呟いた。

「あらあら、可愛い彼女さんね」

ふふっと笑うが、俺の腕からはひっついて離れないお客様。
すごいいい匂いするし、柔らかいし、脳が何だか蕩けそうだった。頭がぼーっとして、お客様に抱きつかれてなかったら膝から崩れ落ちそうな俺は、もしかしてさっき綾女さんに全力で首振った時に酔ったのかなとか思いながら霞んだ瞳でお客様を見た。

「ふふ、そうそう、その表情(カオ)よ。本当はあれだけ側にいたらこの表情(カオ)になるはずなのに...ボクったら、こうして密着までしないと私の催眠にかからないんだもんね...悔しくて普段はしないのに抱きついちゃった」

「何...催眠?」

俺は、吹き出す汗と霞む視界で、頭を抑えながら呟いた。
お客様は、俺の耳元でそっと囁いた。ブルっと体が震えて固まった。

「そう、お姉さんはね、サキュバス。お姉さんの趣味はね...仲のいい恋人同士の関係が、お姉さんのせいで壊れちゃって、彼女が怒り狂る表情が...だぁいすきなの」

俺の耳元から口元を離すと、鎌で襲いかかってきた綾女さんの手を俺の手に片手を絡めつつ、掴んだ。
綾女さんの攻撃を片手で止めるなんて。

「いいわぁ...その表情(カオ)。私が見た中で、一番ぞくぞくする顔してる。はぁ、ダメよぉ、彼にもっと凄い事したら貴方はどんな表情(カオ)をしちゃうのか...はぁ、今から楽しみで、楽しみで」

「なっ...凄い力...」

綾女さんが、掴まれている腕が痛いのか苦しそうな顔をする。止めなきゃ、でも、体が動かない。

「私ね、こんな性格してるからやっぱり貴方みたいな誘惑された彼氏の彼女に何回も、何回も殺されかけてるの。それを防いだり戦ったりしてるうちに、自然と戦闘能力が身についていったわ。私、その彼女達から裏で、「リア充クラッシャー」なんて、言われているの...よっ!」

「きゃっ!」

サキュバスさんが、片手をブンと振ると綾女さんはバランスを崩し、床に倒れこみ、鎌はカランカランと滑りながら綾女さんの手から離れた。

「綾女...さん」

「まだ、そんな事を....催眠が足りなかったのかしら...理性なんて捨てちゃって、お姉さんに身を任せちゃいなさいよ」

一瞬、焦ったような声色で今度は強く両手を絡めてくるサキュバスさんに、また俺はむせかえるようなフェロモンに頭がやられそうになる。

「彼女の事、忘れさせてあげるから...」

そんな事を耳元で囁れると、息が上がって胸がドキドキしすぎて苦しくなってきた。胸を抑えながら、口でぜぇ、はぁと呼吸する。

「ハルがとても苦しそうだわ、何をしたの」

「私の強すぎるフェロモンのせいね、歩いているだけで男を魅了してしまうフェロモンを振りまく私が、男に触れるとね、むせかえるようなフェロンが彼の全身に回って、毒のようにじわじわと体を蝕んでいって、私しか見れない、私の事しか考えられない体になってしまうわ...」

「毒...ハル、苦しいの...やめて」

綾女さんの目から等々涙が零れ落ちた。掠れた瞳に、彼女の泣き顔を捉える。

「彼は...私に唯一心の底から綺麗って...言ってくれた、大切な人なの...お願い、彼が苦しそう。何でもするわ。おねがい...彼を離して」

「そんなに、彼に自分の事を忘れて欲しくないの?私に彼を取られるのが嫌なんだ」

心底楽しそうに笑うサキュバスさんに、

「私の事忘れてもいいから!彼が、苦しそうだわ!汗も沢山出てるし、息も荒い...早く彼を開放して!」

サキュバスさんに必死に泣き叫ぶ綾女さんの声。

「何ですか...それ、綾女さん」

俺は、動機が激しく、喋るのも苦しい中、精一杯声を絞り出す。

「...え?」

「綾女さんの事...忘れてもいいって、何ですか...そんなわけ、ないじゃないですか...俺が、クロノアさんにキスされたと勘違いした時、言ってましたよね...「ハルがあの人にとられちゃうんじゃないかって思ったら、涙が出た」って...そうやって俺の事考えて泣いてくれて、今だって...それなのに、なんで、そんな事言うんですか。俺が貴方のこと忘れたら、貴方はもっと傷ついて泣いちゃうに決まってるじゃないですか」

「ハル...そうよ、嫌よ。嫌に決まってるじゃない。でも、でも...」

「俺の事なら、大丈夫ですよ。今だってそうやって俺の事考えて、泣いてくれる貴方が、俺なんかの事が大好きって言ってくれる貴方の事が、大好きですからね」

「.....何よ、それ。何で貴方、私の催眠のかかりがそんなに弱いのよ。前に一回、催眠にかかって耐性がついている!?そんな馬鹿な...私の魅力が足りないっていうの...?」

「催眠...?」

そういえば、一回どこかでそんな言葉を聞いたような。
そうだ、そう。吸血姫が来店した際、俺は催眠をかけられた事がある。その時も、綾女さんに守ってもらったんだ。

「離して下さい。彼女が泣いているんです」

俺は、少ない気力を振り絞って自分の腕をブンと振ると、サキュバスさんは目を見開いて手を離した。

「ハル...!」

呆然と立ち尽くすサキュバスさんを横切り、ふらふらの俺を抱きしめる綾女さんの腕の中で、俺は安心したように微笑んだ。

「いつも綾女さんには、助けてもらってばかりですね」

「そんな事ないわよ...私が貴方に救ってもらって...じゃなくて、そうね。私は貴方の恋人なんだもの、貴方を悪い女から助けて当然だわ」

彼女は、雨上がりに見せる太陽のような笑顔で微笑んだ。本当にこの人は、綺麗だ。

綾女さんの後ろに立ったサキュバスさんは、俺達を理解できないものを見るような目で見ていた。

「...こんな気持ち、初めてだわ」

サキュバスさんは、唐突にスッとしゃがんで綾女さんのおでこにキスをした。

「なっ!?な、なな何するのよ!変態!」
「突然何してるんですか!?」

慌てておでこを抑える綾女さんに、

「つばをつけておいたのよ。私はリア充クラッシャー。男の方がダメならあなたの心を奪いにくるわ」

「もう私達に関わらないで」

「やーよ。私がこんなに余裕がなくなったのは初めてなんだから。それに、私のことは忘れてもいいから彼を離して、なんていう人初めてだったから、あなたに興味が湧いたわ」

綾女さんの頰に手を添え、うっとりとした表情で微笑んだサキュバスさんは、

「その熱い愛情が私に向けられたらって考えると...ぞくぞくしちゃうもの。こんなの初めてよ。ふふ、綾女ちゃん。私は百戦錬磨なの。必ずあなたを私のものに」

立ち上がって俺達にくるりと背を向けて行ってしまったサキュバスさん。
扉から出るのを確認したら、2人でどっと力が抜けた。

「はぁ、何だかどっと疲れましたね」

「えぇ、でもあなたが私にこうして体を預けてくれるのが、嬉しいわ」

「重くないですか?」

「重くないわ。幸せよ」

幸せと言ってくれる彼女の言葉に甘えて、俺はもう少しだけ、彼女の腕の中にいようと思った。
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