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深夜のコンビニバイト番外編 安藤ゆかりです。
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「ただいま~」
私は、安藤ゆかり。
お昼のコンビニバイト勤務のごく普通な三つ編みメガネの大学三年生。
昼のコンビニバイトと、BL同人誌を描いて生計を立てている。
今日もバイトから疲れて帰宅すると、リビングでパンツ一枚の巨乳美女が待っている。
「サキュバスさん、またそんな格好で風邪ひきますよ」
「えー、だって暑いんだもん~んぁー暑いーこの暑さなんとかならないのー」
バタバタ暴れるサキュバスさん。
クーラーつけてもいいよって言ったのに、電気代がかかるからとか言って律儀に家でほぼ全裸姿で扇風機の風のみで過ごしてくれている。ちょっと可愛い。
「夏ですからねぇ。今ご飯作りますよ」
サキュバスさんは、耳の上にごつごつとした丸まったツノみたいなものが生えた、青いふわふわショートヘアの美人な女性、あと巨乳。むぅ...。
自分の胸と見比べて少し自信をなくす。
「んー、精力つくものでよろしく~」
サキュバスさんは、道端に倒れている所を介抱したらそのまま家に居ついてしまったんだけど、まぁサキュバスさん男の人に好かれやすいフェロモンがいっぱい出ているみたいだから、ちょっと危ないしあんまり家から出ない方がいいのかも。
サクサクとキャベツを切りながら、そんな事を考えていると、後ろからぎゅっと抱きしめられる。
「うわっ!急にどうしたんですか。包丁使ってるんですよ」
「私も手伝う~」
黒いガーターベルトのパンツ一枚に、私の昔使ってた白いエプロンで、裸エプロンのような恥ずかしい姿のサキュバスさんは、
「私は何をすればいいの?」
ニコニコ微笑むサキュバスさんに、
「そうだな...じゃあ、野菜の皮むきをお願いするね」
「ふふ...皮むきだなんて。分かったわ今からこのにんじんをツルツルにひん剥くわね」
「うん、お願い」
真顔で答えるもう慣れた。
サキュバスさんは、サキュバスさんなだけあって下ネタも言うし、エロい。
過去に編集さんを口説いていたのを見たけど、きっとサキュバスさんはサキュバスの中でも上位のサキュバスさんなんだと思う。
でもいつもみたいに私と二人きりの時はだらーんとしてごろごろしている姿が私は好き。
「そういえば最近はどうなのー?あのゆかりにご執心の男」
「あぁ...王神(おうがみ)さんね。毎日コンビニに来てくれるよ」
「あら、毎日?相当ご執心なのね~変なことされたら私にすぐ言うのよ。ゆかりに何かしたら私が色んなコネを使って東京湾に沈めてあげるから」
きゅうりに勢いよくピューラーを走らせるサキュバスさんの笑顔は目が笑ってなくて怖かった。
この人...本気だ。
「だ、大丈夫だよ。いい人だよ」
慌てて弁解する。
「そう、まぁ男なんてまず信用できないからね~」
サキュバスさんがそれを言うんだ...。
王神さんとの出会いは、今思い出しても少し面白くて、笑ってしまう。
あれは、私とサキュバスさんが出会って一ヶ月くらいがたったある日の事。
「サキュバスさん、夕飯の買い物くらい一人で行けますよ」
「一人で部屋にいるのが暇なのよ、いいでしょー?サキュバスはうさぎなのよ。一人にされると死んじゃうの、もっと私を構いなさいよ!」
サキュバスさんが私の腕にがっちり抱きつきながらスーパーへ向かうバイトが休みのお昼ご飯の材料を買いに行く午前11.30分頃。
私は休みの日はコンタクトで三つ編みも面倒くさいからしてない。
サキュバスさんはいつも通り薄手のワンピース。
たまに面白がって私のメガネをかけて出かけたりするが、今日はしてないみたい。
サキュバスさん...男性にすごい変な目で見られてるし、やっぱり女性フェロモンが凄いんだろうな。めちゃくちゃ抑えてるって言ってたけど、漏れてるよねこれ。早く連れて帰らないと。
早歩きで二人で向かうスーパー。
いつもの事だ。
「ねぇ、お姉さん。よかったら俺とカフェにでも行かない?」
前に立ちはだかる多数のナンパ男達。
いつもの事だ。
「結構です、結構です。無理です。無理!!」
それを避ける避ける避ける。
いつもの事だ。
「スーパーに行くのも一苦労ね」
「何楽しそうにしてるのよ。こっちがどれだけ苦労してると」
そこでトンと誰かにぶつかる。
パシャっという音と共に、冷たい水しぶきがかかった。
「あっ、ごめんなさ」
「あー、あーあーあー、今ジュースこぼしちゃったよTシャツに。君がよそ見してたからだよね?これどうしてくれるの。めちゃくちゃお気に入りのTシャツだったんだよ」
白いUMEOKAYUというTシャツに男性が持っていたであろうオレンジジュースのオレンジ色の染みが広がった。
キャップをかぶってピアスを沢山つけたいかにもチャラそうで私が苦手なタイプの男だった。
「ごめんなさい」
「困るんだよね、俺モデルだからさこれから撮影とかあるし、どうすればいいのこれ。ビッチャビチャなんだけど」
オレンジジュースの染みができたTシャツをこれみよがしに見せつける男に、
「これで弁償しますから」
とリュックからお財布を取り出した。
「ゆかり、お金いらないわよ。こいつわざとこぼしたんだわ」
目を細めて、男を睨みつけるサキュバスさんが私のお財布をしまうように促すが、男は全然悪気があるような様子はなく、
「えー?なんでそういうこと言うのー傷つくなぁ。その子がよそ見してたからだよー?どーすんのこれ。このTシャツ限定品だから200万円くらいすんだけどー?」
「200万円!?」
嘘だ。確実に。
でもなんでこんなわかりやすい嘘を?
「200万円今から払ってくれなんて言わないよ。俺もかわいこちゃん相手にそんなに鬼じゃないよー、たださ、これからちょっと俺と遊んでくれればいいのわけよ」
だめだこいつ、すぐ逃げなきゃ。
サキュバスさんの腕を掴み逃げようとすると、
「おっと、ダメだよ~お姉ちゃん」
別の男が、避けようとするとまた別の男が。
辺りを見るとキャップを被った男達に囲まれていた。
どうしよう、逃げられない。サキュバスさんは、無表情で谷間の間から注射器みたいなものを取り出...そうとしたのを私が全力で止めた。
「だめだよ!」
小声で、でも強く囁く。
「何故、ゆかりピンチよ」
「そ、そういうのはあれだよ、街中で危ないからだめだよ」
「何話してんのー?さーいこうよ」
男の人にぎゅっと腕を掴まれる。
嫌悪感で背筋が凍った。
「や、やめてください!」
だがその刹那、プーーーッという車のクラクションの音がして、男達の腕が少し弱まる。
「な、なんだ?」
私は、その瞬間を見逃さず男を突き飛ばしてサキュバスさんの手を引き逃げた。
だがそこでまたトンと胸板にぶつかる。
泣きそうになりながら顔を上げると、その相手は白いスーツに、頭に狼の被り物をしていた。
さっきの人達と違う...人種まで違うことは明らかだった。
「大丈夫だったかい?変な男達に囲まれて怖い思いをしたな。もう大丈夫だぜ」
その人は、私達を隠すように前に出て男達に一人で立ち向かっていった。
「なんだよお前...気色悪りぃ被り物しやがって、俺たちはその子らに用があるんだよ」
「彼女達の代わりに俺が話を聞こう」
「何言ってんだよ、興味ないんだってお前には。テメェはあの子達のなんなんだよ」
本当になんなんだこの狼の被り物をした人は。私も本当にわからん。
サキュバスさんをみてもなんだこいつって顔してるし。
「俺は、後ろの彼女に街中で一目惚れしたもんだ。好きな相手を守るのは男として当たり前だろう?ちっと花屋を回ってて彼女を発見するのが遅れちまったがな」
この人もサキュバスさんに惚れた人か!
「何気色悪りぃこと言ってんだよ。裏に行こうぜお前をボコボコにしてから彼女達の相手をするからよー」
「いいぜ...この日のためにかった白スーツが汚れないようにしないと」
変な人だけどこんな怖そうな男の人達に囲まれていた私達を、助けてくれた。
前に立って救ってくれた。
なんだこの人は。白スーツに狼男のマスク姿で現れて...。
裏路地に連れていかれた彼をみて、サキュバスさんが私の腕を引いた。
「彼の犠牲を無駄にしてはいけないわ。今のうちに逃げましょうゆかり」
「で、でも。あの人...私達を助けてくれたんだよ?」
「もともとあの数をあの人一人で相手にするのは無理があるのは目に見えているわよ。行きましょう」
「ちゃんとまだ、お礼言えてないから」
道の隣に止まっている白いポルシェが視界に入る。その中には奇妙なことに赤いバラが敷き詰められていた。
彼は、サキュバスさんに一目惚れして白いスーツを着てポルシェを用意して、サキュバスさんを守るためにこうして前に立って...私は涙が出そうになった。
「そんな人を見捨てるなんてできないわ」
きっと今頃集団リンチにあっているはずだよ...あの人。そうだ、警察、警察呼ばなきゃ!なんで思いつかなかったの私!携帯を取り出そうとするのと同時に、パンパンという音がして、手を払いながら、スーツの汚れを落としながら平気な顔で明るい通りに出る狼マスクの白スーツの人は、にっこりとこっちに歩いてきた。
「無事でよかった」
何この人...か、格好良すぎるでしょう。
「だ、大丈夫だったんですか?」
「はい、お陰様で。それより、今日は貴方に伝えたい事があってきたんです」
スーツを直しながら照れる狼マスクの白スーツの人は、いつも通り他の人のようにサキュバスさんに告白するのだろう。
私は、少し横にずれる。それにしても、この人...すごいな。あれだけの人数の男の人達を一人で。
いつも私は言い寄る男の人をさばいてるけど、今日の人達は本当に怖かったな。腕を掴まれた時の感触...まだ残ってる。
腕をさすると、何故だか涙が溢れてきた。
「ゆかり?」
サキュバスさんに声をかけられて、ゴシゴシ目をこすると、潤む視界の目の前にバラの花束を持った狼男のマスクの白スーツ姿の男の人が立っていた。
「へ?」
「貴方の泣き顔なんて、みたくありません。これからは一生貴方を笑顔にしたい。貴方に出会う前の俺の心はくもり空。でも、貴方に会ったら綺麗な晴空に虹がかかったんです。貴方は俺のくもり空を晴空にしてくれるサンサンに光る太陽なんですよ」
突然何言ってんだよこの人...。
「ふふ、はは、あははは!」
成り行きで大きなバラの花束まで受け取っちゃって、私を元気付けるために面白いギャグまで。
なんて人なんだろう。
「ありがとうございます、ふふ。何かお礼を」
「それでしたら、これから浜辺に行きませんか?夏のサンサンのサンライトビーチで海を眺めながら俺達の将来について語りましょうよ」
ポルシェに飛び乗りサングラスをかける彼に、
「サキュバスさん、面白そうなので彼について行ってみるのはどうかな。なんだか彼は悪い人じゃない気がするんだ」
そして私達は、バラの匂いでむせかえるような車に乗って、浜辺に向かった。
三人で海を眺めながら、
「そうだ、自己紹介が遅れました。私は安藤ゆかりと申します。彼女は...えーっと、外人の、サバスさんです。失礼ですが貴方は?」
謎の多いミステリアスな彼に問うと、
「俺は...おおかみ...いや、えっと、オウガミ、そう、王神です。ゆ、ゆかりさん。ですね。これから末長くよろしくお願いしますゆかりさん」
後半は波の音でかき消されてよく聞こえなかった。
帰り際に、また何かあったら呼んでくれと連絡先を交換したんだけど、あれから毎日王神さんから連絡があるし、毎日コンビニに来てくれるし、SNSのアカウントペア画にしたいとか言うし、あれ?と思って聞いたら。
「えぇ!?俺が一目惚れしたのは、ゆかりさんの方ですよ!今更何を言ってるんですか!」
とわざわざその電話の次の日にコンビニではっきり言われた。
サキュバスさんじゃなくて、私の事を好きな人がいるなんて。
にわかには信じられなかったけど、彼の真剣な目を見て信じる事にした。
「そうだったんですか..その、ありがとうございます...」
面と向かって好きと言われると恥ずかしい。私は今まで、いやこれからと陰キャ腐女子だからそんな事言われたこともないし...。
でも、なんだか彼との出会いからこんな風に毎日出会う関係になるまでの過程は少しふふ、と笑ってしまう。
車に積んであった999本のバラを全部くれると言ったのは流石に断ったけど、彼は決して悪い人ではないんだろう。
ピロリロピロリロ。
「いらっしゃいませー」
「ゆかりさん!へへ、こんにちは」
「ふふ、またきてくださったんですね」
そして彼は今日も私に会いにコンビニを訪れてくれるのです。
私は、安藤ゆかり。
お昼のコンビニバイト勤務のごく普通な三つ編みメガネの大学三年生。
昼のコンビニバイトと、BL同人誌を描いて生計を立てている。
今日もバイトから疲れて帰宅すると、リビングでパンツ一枚の巨乳美女が待っている。
「サキュバスさん、またそんな格好で風邪ひきますよ」
「えー、だって暑いんだもん~んぁー暑いーこの暑さなんとかならないのー」
バタバタ暴れるサキュバスさん。
クーラーつけてもいいよって言ったのに、電気代がかかるからとか言って律儀に家でほぼ全裸姿で扇風機の風のみで過ごしてくれている。ちょっと可愛い。
「夏ですからねぇ。今ご飯作りますよ」
サキュバスさんは、耳の上にごつごつとした丸まったツノみたいなものが生えた、青いふわふわショートヘアの美人な女性、あと巨乳。むぅ...。
自分の胸と見比べて少し自信をなくす。
「んー、精力つくものでよろしく~」
サキュバスさんは、道端に倒れている所を介抱したらそのまま家に居ついてしまったんだけど、まぁサキュバスさん男の人に好かれやすいフェロモンがいっぱい出ているみたいだから、ちょっと危ないしあんまり家から出ない方がいいのかも。
サクサクとキャベツを切りながら、そんな事を考えていると、後ろからぎゅっと抱きしめられる。
「うわっ!急にどうしたんですか。包丁使ってるんですよ」
「私も手伝う~」
黒いガーターベルトのパンツ一枚に、私の昔使ってた白いエプロンで、裸エプロンのような恥ずかしい姿のサキュバスさんは、
「私は何をすればいいの?」
ニコニコ微笑むサキュバスさんに、
「そうだな...じゃあ、野菜の皮むきをお願いするね」
「ふふ...皮むきだなんて。分かったわ今からこのにんじんをツルツルにひん剥くわね」
「うん、お願い」
真顔で答えるもう慣れた。
サキュバスさんは、サキュバスさんなだけあって下ネタも言うし、エロい。
過去に編集さんを口説いていたのを見たけど、きっとサキュバスさんはサキュバスの中でも上位のサキュバスさんなんだと思う。
でもいつもみたいに私と二人きりの時はだらーんとしてごろごろしている姿が私は好き。
「そういえば最近はどうなのー?あのゆかりにご執心の男」
「あぁ...王神(おうがみ)さんね。毎日コンビニに来てくれるよ」
「あら、毎日?相当ご執心なのね~変なことされたら私にすぐ言うのよ。ゆかりに何かしたら私が色んなコネを使って東京湾に沈めてあげるから」
きゅうりに勢いよくピューラーを走らせるサキュバスさんの笑顔は目が笑ってなくて怖かった。
この人...本気だ。
「だ、大丈夫だよ。いい人だよ」
慌てて弁解する。
「そう、まぁ男なんてまず信用できないからね~」
サキュバスさんがそれを言うんだ...。
王神さんとの出会いは、今思い出しても少し面白くて、笑ってしまう。
あれは、私とサキュバスさんが出会って一ヶ月くらいがたったある日の事。
「サキュバスさん、夕飯の買い物くらい一人で行けますよ」
「一人で部屋にいるのが暇なのよ、いいでしょー?サキュバスはうさぎなのよ。一人にされると死んじゃうの、もっと私を構いなさいよ!」
サキュバスさんが私の腕にがっちり抱きつきながらスーパーへ向かうバイトが休みのお昼ご飯の材料を買いに行く午前11.30分頃。
私は休みの日はコンタクトで三つ編みも面倒くさいからしてない。
サキュバスさんはいつも通り薄手のワンピース。
たまに面白がって私のメガネをかけて出かけたりするが、今日はしてないみたい。
サキュバスさん...男性にすごい変な目で見られてるし、やっぱり女性フェロモンが凄いんだろうな。めちゃくちゃ抑えてるって言ってたけど、漏れてるよねこれ。早く連れて帰らないと。
早歩きで二人で向かうスーパー。
いつもの事だ。
「ねぇ、お姉さん。よかったら俺とカフェにでも行かない?」
前に立ちはだかる多数のナンパ男達。
いつもの事だ。
「結構です、結構です。無理です。無理!!」
それを避ける避ける避ける。
いつもの事だ。
「スーパーに行くのも一苦労ね」
「何楽しそうにしてるのよ。こっちがどれだけ苦労してると」
そこでトンと誰かにぶつかる。
パシャっという音と共に、冷たい水しぶきがかかった。
「あっ、ごめんなさ」
「あー、あーあーあー、今ジュースこぼしちゃったよTシャツに。君がよそ見してたからだよね?これどうしてくれるの。めちゃくちゃお気に入りのTシャツだったんだよ」
白いUMEOKAYUというTシャツに男性が持っていたであろうオレンジジュースのオレンジ色の染みが広がった。
キャップをかぶってピアスを沢山つけたいかにもチャラそうで私が苦手なタイプの男だった。
「ごめんなさい」
「困るんだよね、俺モデルだからさこれから撮影とかあるし、どうすればいいのこれ。ビッチャビチャなんだけど」
オレンジジュースの染みができたTシャツをこれみよがしに見せつける男に、
「これで弁償しますから」
とリュックからお財布を取り出した。
「ゆかり、お金いらないわよ。こいつわざとこぼしたんだわ」
目を細めて、男を睨みつけるサキュバスさんが私のお財布をしまうように促すが、男は全然悪気があるような様子はなく、
「えー?なんでそういうこと言うのー傷つくなぁ。その子がよそ見してたからだよー?どーすんのこれ。このTシャツ限定品だから200万円くらいすんだけどー?」
「200万円!?」
嘘だ。確実に。
でもなんでこんなわかりやすい嘘を?
「200万円今から払ってくれなんて言わないよ。俺もかわいこちゃん相手にそんなに鬼じゃないよー、たださ、これからちょっと俺と遊んでくれればいいのわけよ」
だめだこいつ、すぐ逃げなきゃ。
サキュバスさんの腕を掴み逃げようとすると、
「おっと、ダメだよ~お姉ちゃん」
別の男が、避けようとするとまた別の男が。
辺りを見るとキャップを被った男達に囲まれていた。
どうしよう、逃げられない。サキュバスさんは、無表情で谷間の間から注射器みたいなものを取り出...そうとしたのを私が全力で止めた。
「だめだよ!」
小声で、でも強く囁く。
「何故、ゆかりピンチよ」
「そ、そういうのはあれだよ、街中で危ないからだめだよ」
「何話してんのー?さーいこうよ」
男の人にぎゅっと腕を掴まれる。
嫌悪感で背筋が凍った。
「や、やめてください!」
だがその刹那、プーーーッという車のクラクションの音がして、男達の腕が少し弱まる。
「な、なんだ?」
私は、その瞬間を見逃さず男を突き飛ばしてサキュバスさんの手を引き逃げた。
だがそこでまたトンと胸板にぶつかる。
泣きそうになりながら顔を上げると、その相手は白いスーツに、頭に狼の被り物をしていた。
さっきの人達と違う...人種まで違うことは明らかだった。
「大丈夫だったかい?変な男達に囲まれて怖い思いをしたな。もう大丈夫だぜ」
その人は、私達を隠すように前に出て男達に一人で立ち向かっていった。
「なんだよお前...気色悪りぃ被り物しやがって、俺たちはその子らに用があるんだよ」
「彼女達の代わりに俺が話を聞こう」
「何言ってんだよ、興味ないんだってお前には。テメェはあの子達のなんなんだよ」
本当になんなんだこの狼の被り物をした人は。私も本当にわからん。
サキュバスさんをみてもなんだこいつって顔してるし。
「俺は、後ろの彼女に街中で一目惚れしたもんだ。好きな相手を守るのは男として当たり前だろう?ちっと花屋を回ってて彼女を発見するのが遅れちまったがな」
この人もサキュバスさんに惚れた人か!
「何気色悪りぃこと言ってんだよ。裏に行こうぜお前をボコボコにしてから彼女達の相手をするからよー」
「いいぜ...この日のためにかった白スーツが汚れないようにしないと」
変な人だけどこんな怖そうな男の人達に囲まれていた私達を、助けてくれた。
前に立って救ってくれた。
なんだこの人は。白スーツに狼男のマスク姿で現れて...。
裏路地に連れていかれた彼をみて、サキュバスさんが私の腕を引いた。
「彼の犠牲を無駄にしてはいけないわ。今のうちに逃げましょうゆかり」
「で、でも。あの人...私達を助けてくれたんだよ?」
「もともとあの数をあの人一人で相手にするのは無理があるのは目に見えているわよ。行きましょう」
「ちゃんとまだ、お礼言えてないから」
道の隣に止まっている白いポルシェが視界に入る。その中には奇妙なことに赤いバラが敷き詰められていた。
彼は、サキュバスさんに一目惚れして白いスーツを着てポルシェを用意して、サキュバスさんを守るためにこうして前に立って...私は涙が出そうになった。
「そんな人を見捨てるなんてできないわ」
きっと今頃集団リンチにあっているはずだよ...あの人。そうだ、警察、警察呼ばなきゃ!なんで思いつかなかったの私!携帯を取り出そうとするのと同時に、パンパンという音がして、手を払いながら、スーツの汚れを落としながら平気な顔で明るい通りに出る狼マスクの白スーツの人は、にっこりとこっちに歩いてきた。
「無事でよかった」
何この人...か、格好良すぎるでしょう。
「だ、大丈夫だったんですか?」
「はい、お陰様で。それより、今日は貴方に伝えたい事があってきたんです」
スーツを直しながら照れる狼マスクの白スーツの人は、いつも通り他の人のようにサキュバスさんに告白するのだろう。
私は、少し横にずれる。それにしても、この人...すごいな。あれだけの人数の男の人達を一人で。
いつも私は言い寄る男の人をさばいてるけど、今日の人達は本当に怖かったな。腕を掴まれた時の感触...まだ残ってる。
腕をさすると、何故だか涙が溢れてきた。
「ゆかり?」
サキュバスさんに声をかけられて、ゴシゴシ目をこすると、潤む視界の目の前にバラの花束を持った狼男のマスクの白スーツ姿の男の人が立っていた。
「へ?」
「貴方の泣き顔なんて、みたくありません。これからは一生貴方を笑顔にしたい。貴方に出会う前の俺の心はくもり空。でも、貴方に会ったら綺麗な晴空に虹がかかったんです。貴方は俺のくもり空を晴空にしてくれるサンサンに光る太陽なんですよ」
突然何言ってんだよこの人...。
「ふふ、はは、あははは!」
成り行きで大きなバラの花束まで受け取っちゃって、私を元気付けるために面白いギャグまで。
なんて人なんだろう。
「ありがとうございます、ふふ。何かお礼を」
「それでしたら、これから浜辺に行きませんか?夏のサンサンのサンライトビーチで海を眺めながら俺達の将来について語りましょうよ」
ポルシェに飛び乗りサングラスをかける彼に、
「サキュバスさん、面白そうなので彼について行ってみるのはどうかな。なんだか彼は悪い人じゃない気がするんだ」
そして私達は、バラの匂いでむせかえるような車に乗って、浜辺に向かった。
三人で海を眺めながら、
「そうだ、自己紹介が遅れました。私は安藤ゆかりと申します。彼女は...えーっと、外人の、サバスさんです。失礼ですが貴方は?」
謎の多いミステリアスな彼に問うと、
「俺は...おおかみ...いや、えっと、オウガミ、そう、王神です。ゆ、ゆかりさん。ですね。これから末長くよろしくお願いしますゆかりさん」
後半は波の音でかき消されてよく聞こえなかった。
帰り際に、また何かあったら呼んでくれと連絡先を交換したんだけど、あれから毎日王神さんから連絡があるし、毎日コンビニに来てくれるし、SNSのアカウントペア画にしたいとか言うし、あれ?と思って聞いたら。
「えぇ!?俺が一目惚れしたのは、ゆかりさんの方ですよ!今更何を言ってるんですか!」
とわざわざその電話の次の日にコンビニではっきり言われた。
サキュバスさんじゃなくて、私の事を好きな人がいるなんて。
にわかには信じられなかったけど、彼の真剣な目を見て信じる事にした。
「そうだったんですか..その、ありがとうございます...」
面と向かって好きと言われると恥ずかしい。私は今まで、いやこれからと陰キャ腐女子だからそんな事言われたこともないし...。
でも、なんだか彼との出会いからこんな風に毎日出会う関係になるまでの過程は少しふふ、と笑ってしまう。
車に積んであった999本のバラを全部くれると言ったのは流石に断ったけど、彼は決して悪い人ではないんだろう。
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名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
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