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深夜のコンビニバイト五十一日目 番外編 安藤さんと夏のコミックマーケット
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「ゆ、ゆかり...?そろそろ寝ないと」
薄緑色のネグリジェ姿のサキュバスは、ゆかりの仕事場(いつも同人誌を描く部屋)をそーっと覗き込み声をかける。
「この原稿書き終わらないと寝れない。副店長×店長本を明後日までにあげないといけないの。寝られないわ」
栄養ドリンクとブラックコーヒーがボウリングのピンのように何本も立っている机にしがみつくようにガリガリガリガリ筆を走らせるゆかりに、
「よくわからないけど、わ、私も何か手伝う事あるかしら?」
おずおずと部屋に入り手伝う事を提案するサキュバス。
「今猫の手も借りたいの。ありがとう。このマークついてる部分にベタ塗りして、塗りつぶして!」
「分かったわ...って、何これ。何よこれ...ゆ、ゆかり...これってコンビニで昨日レジに立ってた男達よね。なんでこの二人こんなことになってるの」
顔を真っ赤にして震えるサキュバスに、
「サキュバスさんってこういうの平気だと思ってた」
淡々と話しながらガリガリ筆を走らせるゆかりに、
「ゆかり...あ、あなた、私より何倍もエッチだったのね」
「ありがとう。今回の夏コミはかなり気合入ってるのよ。いいスペースに入れることになったし、売り子にスペシャルゲストを呼んだし、後はこの原稿を...かきあげるだけよ。ふふ、頑張りましょうサキュバスさん」
クマの酷い目で微笑むゆかりは、何かを企んでいるかのように口元を歪ませていた。
***
「えっ、店長もう一回いってください」
「実はね。ゆかりさんに今度の夏のコミックマーケットっていうので張山君と売り子をしてほしいって頼まれたんだ」
「夏コミって普通可愛いコスプレイヤーの女の子が売り子するような感じだと思ってたんですが」
「そ、そうなのかぃ?俺よく分かんないんだけど...とりあえず衣装とかも用意してあるから会場に着いたら連絡してって言われちまってねぇ...」
困ったねぇと頭をかく店長。
正直張山さんは高身長イケメンだし声も格好良かったし売り子には最適だと思うが、店長は人見知りガチムチの強面だぞ。
売り子としてどうなの。大丈夫なのか店長。
だが衣装に店長の売り子。めちゃくちゃ気になるな。あぁ、ちょっと見に行ってみようか。
「僕も店長の応援に様子を見に行きますね」
「ありがとう。売り子なんて俺にできるか不安だけど頑張ってくるよ」
弱々しく微笑む店長に、
「店長なら大丈夫ですよ!差し入れ持っていくんで頑張ってくださいね!」
頑張ってくださいね!なんて簡単に言ってしまった俺は、会場で変わり果てた店長を見て後悔することになる。
***
コミケ当日。
会場は物凄い人で溢れかえって来た。コスプレの人が多く、コンビニに来るお客さんみたいな人外が紛れても誰も気がつかないんだろうな、なんて考えながらゆかりさんのスペースへと向かう。
てか俺は一つ恐ろしい事に気がついてしまった。
パンフレットの中に書いてあるゆかりさんのサークル名は「しがないコンビニバイト」
同人誌のタイトル「副店長×店長本」と書いてある。
これ、もしかしてゆかりさん。
店長と副店長でBL同人誌描いてたりしてる?いやいやまさか、まさかね。
そんな事あるはずがないよね。うん、だよね。あのゆかりさんに限って。
清楚でメガネのゆかりさんに限って。
だが俺の予想はスペースにたどり着いて的中する事になる。
大々的にスペースには「副店長×店長」の文字と、二人に似た男達二人が服をはだけ抱き合うイラストの看板。
長い長い行列の一番後ろで、男が恐らく唯一俺一人、女性達の好機の目に晒されながら並ぶ列。
「え?あの人もゆかり様の副店長×店長本買いに来たのかな?」
「いかにも受け顔よね」
「いや、攻めでしょ」
何、俺並んでただけで突然俺が受けか攻めか前の女の子達討論し始めたんだけど。
それにしても、ゆかり様って言われるだけあるな。こんなに並んでいるなんて相当この界隈でゆかりさんは有名なのだろう。
後俺が一番不安なのは、副店長×店長本を出すに渡って二人に許可を取っているのかという事だ。色々権利とか発生するんじゃないだろうか。絶対店長BL同人誌とか知らないだろ。張山さんもイケメンのリア充って感じだし知らないんだろうな大丈夫なのかな。
長い長い列を乗り越え、前の列の女の子達の討論も「どっちもイケそうな万能タイプ」という事でかたがつき、とうとう俺は列の前の方までたどり着いた。
並ぶだけでも結構疲れるもんだな。
前の方を少し顔を出して見て見ると、女の子の人だかりができていて、多分その中心には張山さんと店長がいるんだろう。大丈夫かな店長女の子に囲まれて...。
「あの副店長と店長コスの二人めっちゃクオリティ高くない?」
「やばい尊い...めっちゃ写真撮っちゃった」
「店長の強面受けオーラやばみ...」
思わず吹き出してしまった。
前に並んでいた女の子に変な目で見られたので必死に笑いをこらえる。
副店長と店長コスの二人がなんだって?やばい...写真撮影とかしてるのかあの二人あの輪の中で...くっ...笑うな。笑うな。だが女の子に囲まれて死んだ目で写真に撮られてる店長を想像すると本当に面白すぎて笑いをこらえるのに必死だった。
俺も記念に写真撮らせてもらおう。
店長の写真一枚も持ってないし。
とうとうお楽しみの俺の番。
何だここまで来てみるとあんまり待ってない気持ちになる。
「おぉ!!?バイトの村松君!?」
「貴方も...こういうの、興味あったのね」
声を上げるゆかりさんと隣にいるサキュバスさんも目を丸くしていた。
「来てくれたの?ありがとう~いやー村松君もまさかこういう界隈に興味があったなんて...でもごめんね私推し固定派だからさ。二人でイチャイチャしてほしいの。だから村松君も新しいペアの男の子とか、あっ待ってあの前に一緒にバイトしてたマック君だっけ?彼やめちゃったけど彼との関係を詳しく聞かせてくれたりなんかしたら」
「落ち着いてください安藤さん」
安藤さんは、赤いベレー帽をかぶり店長の顔が真ん中に大きくデフォルメで描かれたTシャツを着ていた。サキュバスさんは隣で張山さんのデフォルメTシャツを着ている。
何店長グッズ化までしてるの。買ってこ。
「あの、安藤さん一つお聞きしたいんですが、ちゃんと二人に許可は取ってるんですよね?」
「えぇ、勿論よ。初期の頃に店長と張山さんに話を聞いたもの」
「ど、どんな感じでですか」
「張山さんに、副店長×店長の漫画を読んでもらって、同人誌にしてもいいですか?って聞いたら「俺も読みたい」ってGOサインもらったんだよね」
頭おかしいだろ。何で自分のBL同人誌読みたがってるのあの人。
イケメンリア充のイメージが音を立てて崩れ落ちた。
「店長には俺が許可を取っておく。心配するなって言われたのよ。一応店長にも、店長を主役にした漫画を描いてるんだけどって話はしてあるわ。そしたら「恥ずかしいねぇ...」って喜んでくれたわ」
「ぐ、グッズ化の件は」
「これは張山さんに原案見せに行ったら店長のTシャツ100枚買うから俺用に作ってくれって。流石に予算的にも100枚は無理だから10枚くらい作って渡したけど」
店長好きすぎだろ張山さん。Tシャツ全力プッシュしてるし。
「売るのは流石に来年にしようかなって。店長に、漫画が好評で主人公の店長のTシャツを作ってもいいかって聞いたんだけど、「恥ずかしいねぇ...」って喜んでくれたから大丈夫」
恥ずかしがってんだろさっきから思ってたけど喜んでたのそれ。
そして来年副店長と店長グッズ化されて世に出るの本当に笑えるな。
何だこの全てが頭おかしいのに大ヒットしちゃって取り返しつかなくなった感。
同人誌を買って、差し入れのお菓子を持って女の子達の輪の中へ。
売り子というか、二人はそこに座ってるだけで人が集まってくる客寄せパンダみたいな事をさせられていた。
胸元があいた白いワイシャツに黒いスラックスの二人は椅子に座って女子達に囲まれて写真を撮られたり、明るい感じの何人かの女の子には筋肉を触られたり、暗めの一人で来た感じの女の子にはサインをしてくれと頼まれたり。
張山さんは流石だ。ノリノリで写真をとったり、店長に肩を組んでファンサービスしたり。
一方店長は女の子達に囲まれて固まっている。汗を時折ふきながら女の子に声をかけられても緊張して何も喋れないという感じだ。張山さんが、
「店長も今日皆に会えて嬉しいって」と勝手に通訳してて、そのたびにきゃー!と黄色い声が上がる。
店長、大丈夫なのだろうか。
女の子達はぼそぼそと、
「生副店長に生店長萌え」
「二人ともお揃いワイシャツ可愛いすぎて禿げる」
「マジ無理もう無理!無理しか言えない辛い」
皆さんが何言ってるのかよくわからないがとにかく無理らしい。
生店長ってなんだよ、店長は最初から生ものだよ。
「張山さん、店長、差し入れです」
「ありがとう村松君夏祭りの時は忙しかったね。ありがとうね」
「お、おぉ。村松君村松君...」
助けに来てくれたのねとプリンセスみたいな憂いを帯びた目をされても俺は何もしてあげられないんですよ店長ごめんなさい...。
「店長、大丈夫ですか」
「...俺にも何が何だかわからねぇんだ...でも俺なんかを見て安藤さんや皆さんが喜んでくれてるみたいだから最後までここで大人しく座ってようと思うよ。面白い顔してるんだろうなぁ俺...」
自分が面白い顔してるからここに座らされて写真とか撮られてると思ってる店長可愛いすぎるな。
一枚俺も写真撮りたいけど撮ったら店長きっと村松君も俺の顔が面白いから写真を撮ろうとしてるんだって思うんだろうな。それだけはだめだ。
俺はお菓子だけ差し入れしてその場を去った。
くっ...俺も店長と写真撮りたかった。
さて、帰ろうと列を通り過ぎる時俺は衝撃的なものを目にしてしまった。
列にキョロキョロしながら俺の妹雲子が副店長×店長本の列に並んでいたのだ。
何やってんだ雲子!!お前も副店長×店長本を読んでたのかよ。
自分のコンビニバイトしてる店長と副店長のBL同人誌買いに来る兄と、兄の働いてるコンビニの副店長と店長のBL本買いに来る妹ってこの兄妹どうなってんだよ。
俺は頭を押さえながらその場を去った。
店長、頑張れ。
薄緑色のネグリジェ姿のサキュバスは、ゆかりの仕事場(いつも同人誌を描く部屋)をそーっと覗き込み声をかける。
「この原稿書き終わらないと寝れない。副店長×店長本を明後日までにあげないといけないの。寝られないわ」
栄養ドリンクとブラックコーヒーがボウリングのピンのように何本も立っている机にしがみつくようにガリガリガリガリ筆を走らせるゆかりに、
「よくわからないけど、わ、私も何か手伝う事あるかしら?」
おずおずと部屋に入り手伝う事を提案するサキュバス。
「今猫の手も借りたいの。ありがとう。このマークついてる部分にベタ塗りして、塗りつぶして!」
「分かったわ...って、何これ。何よこれ...ゆ、ゆかり...これってコンビニで昨日レジに立ってた男達よね。なんでこの二人こんなことになってるの」
顔を真っ赤にして震えるサキュバスに、
「サキュバスさんってこういうの平気だと思ってた」
淡々と話しながらガリガリ筆を走らせるゆかりに、
「ゆかり...あ、あなた、私より何倍もエッチだったのね」
「ありがとう。今回の夏コミはかなり気合入ってるのよ。いいスペースに入れることになったし、売り子にスペシャルゲストを呼んだし、後はこの原稿を...かきあげるだけよ。ふふ、頑張りましょうサキュバスさん」
クマの酷い目で微笑むゆかりは、何かを企んでいるかのように口元を歪ませていた。
***
「えっ、店長もう一回いってください」
「実はね。ゆかりさんに今度の夏のコミックマーケットっていうので張山君と売り子をしてほしいって頼まれたんだ」
「夏コミって普通可愛いコスプレイヤーの女の子が売り子するような感じだと思ってたんですが」
「そ、そうなのかぃ?俺よく分かんないんだけど...とりあえず衣装とかも用意してあるから会場に着いたら連絡してって言われちまってねぇ...」
困ったねぇと頭をかく店長。
正直張山さんは高身長イケメンだし声も格好良かったし売り子には最適だと思うが、店長は人見知りガチムチの強面だぞ。
売り子としてどうなの。大丈夫なのか店長。
だが衣装に店長の売り子。めちゃくちゃ気になるな。あぁ、ちょっと見に行ってみようか。
「僕も店長の応援に様子を見に行きますね」
「ありがとう。売り子なんて俺にできるか不安だけど頑張ってくるよ」
弱々しく微笑む店長に、
「店長なら大丈夫ですよ!差し入れ持っていくんで頑張ってくださいね!」
頑張ってくださいね!なんて簡単に言ってしまった俺は、会場で変わり果てた店長を見て後悔することになる。
***
コミケ当日。
会場は物凄い人で溢れかえって来た。コスプレの人が多く、コンビニに来るお客さんみたいな人外が紛れても誰も気がつかないんだろうな、なんて考えながらゆかりさんのスペースへと向かう。
てか俺は一つ恐ろしい事に気がついてしまった。
パンフレットの中に書いてあるゆかりさんのサークル名は「しがないコンビニバイト」
同人誌のタイトル「副店長×店長本」と書いてある。
これ、もしかしてゆかりさん。
店長と副店長でBL同人誌描いてたりしてる?いやいやまさか、まさかね。
そんな事あるはずがないよね。うん、だよね。あのゆかりさんに限って。
清楚でメガネのゆかりさんに限って。
だが俺の予想はスペースにたどり着いて的中する事になる。
大々的にスペースには「副店長×店長」の文字と、二人に似た男達二人が服をはだけ抱き合うイラストの看板。
長い長い行列の一番後ろで、男が恐らく唯一俺一人、女性達の好機の目に晒されながら並ぶ列。
「え?あの人もゆかり様の副店長×店長本買いに来たのかな?」
「いかにも受け顔よね」
「いや、攻めでしょ」
何、俺並んでただけで突然俺が受けか攻めか前の女の子達討論し始めたんだけど。
それにしても、ゆかり様って言われるだけあるな。こんなに並んでいるなんて相当この界隈でゆかりさんは有名なのだろう。
後俺が一番不安なのは、副店長×店長本を出すに渡って二人に許可を取っているのかという事だ。色々権利とか発生するんじゃないだろうか。絶対店長BL同人誌とか知らないだろ。張山さんもイケメンのリア充って感じだし知らないんだろうな大丈夫なのかな。
長い長い列を乗り越え、前の列の女の子達の討論も「どっちもイケそうな万能タイプ」という事でかたがつき、とうとう俺は列の前の方までたどり着いた。
並ぶだけでも結構疲れるもんだな。
前の方を少し顔を出して見て見ると、女の子の人だかりができていて、多分その中心には張山さんと店長がいるんだろう。大丈夫かな店長女の子に囲まれて...。
「あの副店長と店長コスの二人めっちゃクオリティ高くない?」
「やばい尊い...めっちゃ写真撮っちゃった」
「店長の強面受けオーラやばみ...」
思わず吹き出してしまった。
前に並んでいた女の子に変な目で見られたので必死に笑いをこらえる。
副店長と店長コスの二人がなんだって?やばい...写真撮影とかしてるのかあの二人あの輪の中で...くっ...笑うな。笑うな。だが女の子に囲まれて死んだ目で写真に撮られてる店長を想像すると本当に面白すぎて笑いをこらえるのに必死だった。
俺も記念に写真撮らせてもらおう。
店長の写真一枚も持ってないし。
とうとうお楽しみの俺の番。
何だここまで来てみるとあんまり待ってない気持ちになる。
「おぉ!!?バイトの村松君!?」
「貴方も...こういうの、興味あったのね」
声を上げるゆかりさんと隣にいるサキュバスさんも目を丸くしていた。
「来てくれたの?ありがとう~いやー村松君もまさかこういう界隈に興味があったなんて...でもごめんね私推し固定派だからさ。二人でイチャイチャしてほしいの。だから村松君も新しいペアの男の子とか、あっ待ってあの前に一緒にバイトしてたマック君だっけ?彼やめちゃったけど彼との関係を詳しく聞かせてくれたりなんかしたら」
「落ち着いてください安藤さん」
安藤さんは、赤いベレー帽をかぶり店長の顔が真ん中に大きくデフォルメで描かれたTシャツを着ていた。サキュバスさんは隣で張山さんのデフォルメTシャツを着ている。
何店長グッズ化までしてるの。買ってこ。
「あの、安藤さん一つお聞きしたいんですが、ちゃんと二人に許可は取ってるんですよね?」
「えぇ、勿論よ。初期の頃に店長と張山さんに話を聞いたもの」
「ど、どんな感じでですか」
「張山さんに、副店長×店長の漫画を読んでもらって、同人誌にしてもいいですか?って聞いたら「俺も読みたい」ってGOサインもらったんだよね」
頭おかしいだろ。何で自分のBL同人誌読みたがってるのあの人。
イケメンリア充のイメージが音を立てて崩れ落ちた。
「店長には俺が許可を取っておく。心配するなって言われたのよ。一応店長にも、店長を主役にした漫画を描いてるんだけどって話はしてあるわ。そしたら「恥ずかしいねぇ...」って喜んでくれたわ」
「ぐ、グッズ化の件は」
「これは張山さんに原案見せに行ったら店長のTシャツ100枚買うから俺用に作ってくれって。流石に予算的にも100枚は無理だから10枚くらい作って渡したけど」
店長好きすぎだろ張山さん。Tシャツ全力プッシュしてるし。
「売るのは流石に来年にしようかなって。店長に、漫画が好評で主人公の店長のTシャツを作ってもいいかって聞いたんだけど、「恥ずかしいねぇ...」って喜んでくれたから大丈夫」
恥ずかしがってんだろさっきから思ってたけど喜んでたのそれ。
そして来年副店長と店長グッズ化されて世に出るの本当に笑えるな。
何だこの全てが頭おかしいのに大ヒットしちゃって取り返しつかなくなった感。
同人誌を買って、差し入れのお菓子を持って女の子達の輪の中へ。
売り子というか、二人はそこに座ってるだけで人が集まってくる客寄せパンダみたいな事をさせられていた。
胸元があいた白いワイシャツに黒いスラックスの二人は椅子に座って女子達に囲まれて写真を撮られたり、明るい感じの何人かの女の子には筋肉を触られたり、暗めの一人で来た感じの女の子にはサインをしてくれと頼まれたり。
張山さんは流石だ。ノリノリで写真をとったり、店長に肩を組んでファンサービスしたり。
一方店長は女の子達に囲まれて固まっている。汗を時折ふきながら女の子に声をかけられても緊張して何も喋れないという感じだ。張山さんが、
「店長も今日皆に会えて嬉しいって」と勝手に通訳してて、そのたびにきゃー!と黄色い声が上がる。
店長、大丈夫なのだろうか。
女の子達はぼそぼそと、
「生副店長に生店長萌え」
「二人ともお揃いワイシャツ可愛いすぎて禿げる」
「マジ無理もう無理!無理しか言えない辛い」
皆さんが何言ってるのかよくわからないがとにかく無理らしい。
生店長ってなんだよ、店長は最初から生ものだよ。
「張山さん、店長、差し入れです」
「ありがとう村松君夏祭りの時は忙しかったね。ありがとうね」
「お、おぉ。村松君村松君...」
助けに来てくれたのねとプリンセスみたいな憂いを帯びた目をされても俺は何もしてあげられないんですよ店長ごめんなさい...。
「店長、大丈夫ですか」
「...俺にも何が何だかわからねぇんだ...でも俺なんかを見て安藤さんや皆さんが喜んでくれてるみたいだから最後までここで大人しく座ってようと思うよ。面白い顔してるんだろうなぁ俺...」
自分が面白い顔してるからここに座らされて写真とか撮られてると思ってる店長可愛いすぎるな。
一枚俺も写真撮りたいけど撮ったら店長きっと村松君も俺の顔が面白いから写真を撮ろうとしてるんだって思うんだろうな。それだけはだめだ。
俺はお菓子だけ差し入れしてその場を去った。
くっ...俺も店長と写真撮りたかった。
さて、帰ろうと列を通り過ぎる時俺は衝撃的なものを目にしてしまった。
列にキョロキョロしながら俺の妹雲子が副店長×店長本の列に並んでいたのだ。
何やってんだ雲子!!お前も副店長×店長本を読んでたのかよ。
自分のコンビニバイトしてる店長と副店長のBL同人誌買いに来る兄と、兄の働いてるコンビニの副店長と店長のBL本買いに来る妹ってこの兄妹どうなってんだよ。
俺は頭を押さえながらその場を去った。
店長、頑張れ。
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