深夜のコンビニバイト始めたけど魔王とか河童とか変な人来すぎて正直続けていける自信がない

ガイア

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深夜のコンビニバイト五十四日目 不思議の国のアリス来店

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深夜のコンビニバイト五十四日目。

今日は一人で深夜のコンビニバイト。
まぁ、昨日は特殊だったみたいだしな。
今日全くお客さん来る気配ないし、商品出ししたりしよう。
いつも何だかんだ色々あって本来の仕事ができなかったりするからな。

裏に届いた在庫の商品を取りに行こうとレジを離れた刹那、休憩室がギィッと開いた。

「店長?」

開いたのに、その先には誰もいない。
そもそも、休憩室の開いた扉の先は休憩室ではなく、真っ暗な空間だった。

「何だ、何で休憩室に行く為の扉が開いてるのに、その先に休憩室がないの!?店長は!?休憩室で寝てる店長は!?」

慌てる俺をよそに真っ暗な空間は、渦を巻いて動きだし、中からぴょこんと二足歩行のうさぎが飛び出してきた。
両手をえっほえっほと振りながら人間が走るようにトタタタッとレジ前を通り過ぎる二足歩行全力疾走うさぎ。
何者かから逃げているのか。

また真っ暗な空間は、渦を巻いた。
また何か出て来るのか!?
中からふわりとしたブロンド髪に青い目、青いワンピースにエプロンを着たまさに不思議の国のアリスという容貌の可愛い女の子がスカートの裾をつまみながら飛び出してきた。
ダダダダッとレジ前を通り過ぎる全力疾走二足歩行アリス美少女。
うさぎを追いかけているのだろうか。
これで終わりかと思いきや、更に真っ黒な空間は渦を巻く。

ピョーンと長い足で空間を飛び超えるように飛び出してきたのは、紫と赤のパッチワークのおしゃれな帽子をかぶり、大きな黄色と赤の水玉の蝶ネクタイに、ピンクと白のストライプスーツのいかにも新宿にいそうな男だった。杖もマスキングテープか何か巻いてあるのだろうか、白と赤のクリスマスによく見る杖の形をした飴のような杖。
この流れならきっと帽子屋だろう。俺はこのメンバーが大体どういう繋がりなのか何となく把握していた。
レジ横を長い足で帽子を押さえながら横切る早歩き二足歩行おしゃれおじさん。
アリスとうさぎを追っているのだろうか。

そしてこれが最後だと思いきや、またまた黒い空間は渦を巻いた。どんだけ出てくるんだ。
短い足で、黒い空間をまたぐように出てきたのは、大きなたまごの形をしたお馴染みのまさにハンプティダンプティだった。どういう仕組みかわからないがツルツルの卵の下の方に赤い蝶ネクタイをして、汗を拭くように小さなハンカチを額に当てている。
レジ前を、割れやすいのか、自分の体を案じてぶつからないように、気をつけながら走っている二足歩行たまご。
一匹と二人を追っているのだろうか。

コンビニをぐるぐると走るうさぎを追いかけるアリス、の後ろを追いかける帽子屋、の後ろを棚にぶつからないように走るハンプティダンプティ。
不思議の国のアリスに出て来るキャラがコンビニで追いかけっこをしていた。
何この状況。初めてだよ。
外からじゃなくて中から来店してくる人達は。

扉は勝手にバタンとしまって、俺は恐る恐る休憩室の扉を開けると黒い空間が広がっていた。
なにこれ、どこに繋がってるの。
休憩室で今も寝ている店長はどこへ行ったの!?店長!?
休憩室とコンビニの中を走り回る不思議の国のアリスのメンバーを交互に見ながら動揺する俺をよそに、とうとう先頭のうさぎがアリスにがっちり捕まった。

「捕まえた~」

満遍の震え上がるくらい恐ろしい笑み。
俺はこんなに目が真っ黒で口元を怪しく歪ませる恐ろしい笑みは、クロノアさん以来かもしれない。

「嫌だ!離せ!お前たちのキチガイお茶会なんて誰が参加するか!頭がおかしくなる!」

「キチガイお茶会なんて、うふふやっぱりうさぎさんって面白いのねうふふ」

「離せ!頭のおかしいお前らには付き合いきれん!」

うさぎを、アリスと帽子屋とハンプティダンプティが取り囲みふふふとウフッにひひと笑う。

「ウフッ頭がおかしいなんて酷いこといいますネェ!喋るうさぎのアナタという存在がオカシイこの世界で、喋るただの帽子屋のワタクシ達の方がおかしいと?こりゃまた可笑しいったらないや!」

「帽子屋!お前が一番おかしいぞ!ネズミはどうした!あいつが一番まともだ!いや、いっつも寝てやがるからまともかもよくわからんけど!」

「ネズミの代わりに俺様がきてやったのさヨォ白うさぎ。俺はハンプティダンプティ様だぜ!ネムリネズミの代わりにお茶を飲みに誘われたからあの高い塀からそうっと降りて、皆と一緒にお前を追いかけてきたのさ!」

「うるせぇ!たまごてめぇフレンチトーストにするぞ!いつも誘われないくせに!」

「なんで俺だけそんな対応!?たまごは割れやすいんだよ心もたまごみたいに繊細なの!やめて!酷いこというのやめてヒビが入るから!」

アリスたちにがっちり捕まったうさぎはジタバタ暴れながら休憩スペースまで連れていかれた。

「こんなところに机と椅子があるわ。これでお茶会ができるわね。それにしてもここ、不思議なところね。緑も風もお花もないわ」

ぐるりとコンビニを見回すアリスに、

「お前たちから逃げてる間に変な次元が開いてこんな所まで来ちゃったみたいだな。全くこんな狭いところにでるなら元の世界で逃げ回ってる方がマシだった」

絶望したような表情で椅子に座らされ、帽子屋がポケットから虹色のカラフルな縄を取り出した。

「ンフッ固定固定~」

「やめろ!おい!動物を椅子に縛り付けるなって母親に教わらなかったのか!」

うさぎは椅子にぐるぐる巻きに固定され、帽子屋は帽子からファサッと大きな紫と黒の怪しいテーブルクロスを取り出して休憩スペースのテーブルにかけた。

「さーて、俺様も椅子に座るかな」

足が短すぎて椅子に届かないハンプティダンプティ。

「おい、誰か俺様を椅子に乗せてくれ」

「さて、これでお茶会が始められるわね」

「ハァイ!ワタクシの不思議な帽子からティーセットがかちゃかちゃ出てきまぁす!」

「え?本当にこの状況で始めるのお茶会!?ワタシ椅子にぐるぐる固定!?」

「なぁ俺様は!?俺様ここにいるんだけど何!?まだ着席してないんだけどぉ!?」

ぴょんぴょん飛び跳ねるハンプティダンプティをガン無視しながらお茶会は進んでいく。
ガン無視といえばレジにいる俺もガン無視されている。なんだこの不思議な国の住人たち特有の空間は。
しかもあの中にいるのにガン無視されてるハンプティダンプティ可哀想すぎだから誰か椅子に乗せてあげてくれ。
いや、俺は嫌だよあんな中に入っていけない。
言うなればあの空間は、保育園の頃から社会人になるまでめちゃくちゃ仲のいい仲良しグループに、シラフで仲間に入れてーと入っていくようなものだ。あそこにはあそこの絆がある。そうそう、あれは俺みたいな一般人が立ち入っちゃいけない領域だ。うん...うん。
というのは建前で本当はあの狂った空間に足を踏み入れてはいけないという人間的防衛本能からだ。足を踏み入れたが最後戻れなくなる気がする。

「ンンー?このローズヒップティーちょっと酸っぱいデスねぇ。不思議の国のラビットの涙はちょっぴり甘いと聞きましたぁ。シュガー代わりにラビットの涙をいれて味の調整をしたらきっともっと美味しいお茶が楽しめるでしょうネェ」

不思議な帽子から不思議なお湯の出るポットや、不思議な色のアンティークティーセットを広げ早速お茶会が始まる。

「うふふ、面白いジョークだわ帽子屋さん。うさぎさん、ちょっと泣いて見せて頂戴よ。大丈夫よ誰もうさぎさんが泣いても皆悲しんだりしないわ。何故ならあなたの涙は甘いのでしょう?甘いものを嫌いな人はいないもの」

「うわぁああ!やめてくれ!!頭がおかしくなる!!誰か助けてくれ!」

「俺様を無視してお茶会を始めるな!」

「うさぎってどうして耳が長いのかしら?遠くで悪口を言っていても聞こえるようにってどこかで聞いたことがあるのだけれど、聞きたくない悪口を聞くお耳なんて短い方がいいと思わない?」

完全にガン無視の不憫なハンプティダンプティと、うさぎさんが言っていた通りのキチガイなお茶会に俺はドン引きだった。絶対中に入りたくない。

「ラビットはどうしてそんなに目が赤くて綺麗なんでしょうネェ!ビー玉が埋め込まれていると聞いた事がありますが、ンフッワタクシビー玉をペロペロ舐めるのを趣味にしていた事もありましたぁ、涙が甘いってことは目はビー玉じゃなくてアメ玉、キャンディなんでしょうカァ?」

「ワタシのアイデンティティを二人で汚すんじゃねえ!」

「おい!俺様そろそろキレるぞ!俺様を無視するなと何度言っているんだ!こら!こら!」

アリスのところまでトテトテ走り、アリスの足をプラプラ揺らすハンプティダンプティに、アリスはまたさっきの真っ黒な目で怪しく歪んだ口元。
ゾッとするような笑みを浮かべ、

「あれ?どうしてハンプティダンプティさんがここにいるの?」

「な、なんでだよ!お前ら俺を誘っただろ?ネムリネズミの代わりに来てやったんだよ!その笑い方やめろよぉ!めちゃくちゃこえぇよ!」

「だぁれ?ハンプティダンプティさんをお茶会に誘ったの。私はネムリネズミさんが来るとは聞いていたけれど、ハンプティダンプティさんが来るとは聞いてないわ。そもそもいつからここにいたの?私全然気がつかなかったわ」

「ンンー?おかしいですネェ?ハンプティダンプティさんはこの時間、塀の上でオネンネしてる時間なのになんでこんな所にいるんでショウ?アナタはどうしてこんなところにいるんデス?早くお帰りになった方がいいんじゃないデスかぁ?」

「お、お前ら....」

「誰もお前を誘ってないって事らしいけど、何でお前ここにいるんだよ」

ピシピシッとハンプティダンプティのたまごにヒビが入った。
いや可哀想すぎるだろ。今までいることさえ認識されてないし誘われたと思って来たらすぐ帰れって言われてるのうさぎさんより扱いが酷すぎるだろ彼の。

ギィッと休憩室の扉が突然開いた。
皆が扉に注目する。勿論俺も。

「ニャァ、そろそろ戻ってこーい女王様がお前らを探してるぞぉ」

黒い空間から怪しいダミ声が聞こえて来たかと思うと、皆は次々と重い腰をあげた。

「もっと楽しみたかったけれど、仕方ないわね。そろそろ戻りましょうか」

「続きはまたトゥモロウ。ンフッまたラビットとスウィート、スリーピィを引き連れて今度はカモミールティでもどうですかぁ?」

「お茶を飲む雰囲気でもないし私に至ってはぐるぐる巻きでお茶も飲めない状況だったんですが」

二人プラス一匹は暗黒空間へと横一列に並んで話しながら帰っていった。
取り残されたハンプティダンプティと、俺はパチリと目があった。

無言の時間が続き、俺はとりあえず軽く会釈しておいた。
ハンプティダンプティは、今にも泣き出しそうな顔でタタタッと休憩室の空間まで走り出した。

「あの!」

俺は、そんな彼に一言励ましの言葉を言おうと勇気を出して声を発した。
くるりと振り返るハンプティダンプティに、

「俺もあの濃いメンツの中地味すぎたのか気がつかれませんでした。大丈夫ですよ」

そんな俺の一言で、少しだけまたヒビが入ったハンプティダンプティは、無言のままコンビニを後にした。

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