深夜のコンビニバイト始めたけど魔王とか河童とか変な人来すぎて正直続けていける自信がない

ガイア

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深夜のコンビニバイト六十二日目 メロス来店

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深夜のコンビニバイト六十二日目。

ピロリロピロリロ。

「かくまってくれ!!」
「死んでしまう!!」

叫びながらコンビニに飛び込んで来たのは、赤いジャージと青いジャージを着た赤い髪と黒い髪の長髪を後ろで縛った男性二人。ジャージ姿からでもわかる赤いジャージの方の彼は筋肉が凄い。
漫才コンビみたいな格好で息を切らしながら死んでしまう!なんて物騒な事を言うものだからシュールすぎて俺はわけがわからなかった。

「死んでしまう、とは?」

「ハァッ、ハァッ、恐ろしい奴だ。俺達を小さな部屋に監禁してひたすら仕事をさせ、ハァッ、拷問にも似た所業だ。あいつは悪魔だ。セリヌンティウス、もうあの部屋はだめだ。戻ったらあいつにすぐ見つかってしまう」

赤いジャージの男性は、汗を拭きながらしきりにコンビニの入り口を確認した。

「そうだ、悪魔だ。メロスこんな所に来るのではなかったな。このままじゃあいつに殺されてしまうよ」

青いジャージの男性は、眉毛を下げて怯えたように体を震わせた。

どういうことかよくわからなかったが、とにかくこの二人は悪魔に監禁され仕事をさせられていたが、耐えられなくなって逃げてきたというところだろう。

ピロリロピロリロ。

「ヒィッ!!」
「アヒッ!」

「メロスくーん。セリヌンくーん。探したよぉ?」

メガネをかけたいかにも真面目そうなスーツを着た男性が口元を怪しく歪ませながら二人に怖くないよ?というように近づいた。

「嫌だ!俺はもうこんな仕事したくないんだ!」
 
メロスと呼ばれていた方の男性が頭をぶんぶん振り乱す。

「どんだけ原稿サボってると思ってんの?もう締め切り過ぎちゃってるんだよ。明日の朝6時までに俺は原稿を受け取らないといけないんだよ。いつまでも逃げてないでおとなしく原稿を渡しなさいよ」

ほら、出しなさいよと笑顔で二人に手を伸ばす男性に、二人は抱き合いながらじりじりと下がる。

「描けてないとは言わせないよ?君達は今日の深夜2時までにあげれる?って聞いたら「はい」っていったんだからね?」

「あんなの言わされたのと同じですよ」

セリヌンティウスと言われた方の男性が怯えつつ反論する。
この二人やっぱりそうだ。あの有名なお話に出てくる──。

「君達の熱い友情ギャグ漫画。とっとこ走るよメロス君は好評でね。小さい子供達から大人まで多くの人に愛されているんだ。君達の漫画を待ってくれている人達がいるんだよ。勿体ぶってないで原稿を俺に渡してくれないかな?」

俺も聞いたことある。そろそろアニメ化なんて囁かれている最近巷で大人気の漫画だ。

「だ、だから俺達はもう描きたくないんだって!」

メロスさんの弱々しい抵抗も、メガネをかちゃりとあげた男性が、

「描きたい描きたくないじゃないんだよ。今回の原稿を渡してって言ってるの。セリヌン君がストーリーもう書いてくれてるじゃん。何話先までさ。後はメロス君、君が原稿を描くだけなんだよ。もしかして描けてないの?描けてないとは言わせないよ」

「.....もう俺達はあんたに騙されないぞ!編集谷口め!倒れていた俺達を助けてくれて、衣食住を与える代わりに面白い漫画を描けと言われてちょっと描いてみたら毎週毎週同じレベルの面白さで締め切りを守って描けって言われて、ちょっと描いてみたらサイン会、書籍化、今度はアニメ化なんて。もっと忙しくなるじゃぁないか!」

「結構な事じゃないか」

ニヤリと笑う編集谷口さん。この人絶対やり手漫画編集さんだよ。

「忙しすぎて俺達は死にそうなんだよ!休ませてくれと何度言った事か!それはどれも叶わなかったけどな!」

ケッと吐き捨てるメロスさんにずんずんと近づく編集谷口さん。

「な、なんだよ」

ガシッとメロスさんの筋肉質の肩を掴む。

「メロスッ...メ、メロスを離せっ!」 

勇気を振り絞り、編集谷口の腕に掴みかかるセリヌンティウスさん。だが力が弱いのか、

「うわ!」

あっさりあしらわれて尻餅をついた。

「メロス、お前の長所なんて俺からの逃げ足が速いことと絵が描ける事と友達思いな所くらいだろうが!」

「へ、へっ、なんだよ当然。あ、ありがとうよ!!!」

「そして短所を教えてやる。原稿から逃げる事だ」

鬼の形相でそう事実を突きつけると、メロスさんは付き合ったばかりの女の子から翌日に振られたような顔をした。
編集谷口さんは、突如セリヌンティウスさんを羽交い締めにした。

「ぐ、ぐぁあ...」

「セリヌン君を助けてほしくば、朝の6時までに原稿を完成させて持ってくるんだな」

「セリヌンティウス!!谷口き、貴様ッなんて卑劣な!」

闘い(バトル)が始まるッ──。

「ぼ、僕の事はいい。早く原稿からも、そして編集からも、逃げてくれ」

「ダメだッセリヌンティウス!!親友を見捨てる事なんてできるわけないだろう!?俺が妹の結婚式に行って、セリヌンティウスをその間磔にしている間どんな気持ちだったと思ってるんだ...もうあんな思いしたくないんだよ」

「早く行くんだメロス。親友の為に」

「お前が言うな!!谷口め!もし、時間内に戻らなかったらセリヌンティウスをどうするつもりだ!」

ゴクリとその場にいる編集谷口以外の喉が鳴る。

「セリヌン君はとっとこ走るよメロス君のストーリー担当。君みたいに締め切りを守らない子より新人漫画家の可愛い女の子と組ませた方がいいかもね」

「こ、コンビ...解散、だと!?」

「俺の権限でどうにでもできるから」

メロスは激怒した。
そんなこと許されるはずがない。
セリヌンティウスと自分の絆は、あの日妹の結婚式に向かう際に見たあの夕日より大きく、踏みしめた地面より固い。

「絶対に戻ってくる──セリヌンティウス。待っていてくれ!!」

飛び出して行ったメロス。
走れメロス!!原稿を取りに!!

俺は、暇だったので頭の中で三人の熱い闘い(バトル)を自分でナレーター風に話しながら三人を眺めていた。

「上手くいったな。セリヌン」

「あぁ、全くだ」

編集谷口さんに羽交い締めされていたセリヌンティウスさんが、先程とは全く違う、強キャラの中の強キャラのような険しい顔で立ち上がる。
なにこの顔の変わりよう。先程までの弱々しい人質のような表情は嘘みたいだ。

「僕はとっとこ走るよメロス君は一つのビジネスだと思っている。書籍化、アニメ化ときたら次は映画化だ。メロスにはもっと働いてもらわないといけない。あいつのモチベを上げるのには毎回苦労するが、石工だった俺が王様になれるチャンス──絶対に掴みとってやる」

どうしたのセリヌンティウス君。

「君がいて助かってるよ毎回。メロス君に同意していると見せかけて、自分は別に逃げなくてもいいのに行動を共にし、やる気にさせる。君と俺と目指す道は一緒なんだよな。そう、俺も映画化を考えているよ」

「えぇ、ただ今回の原稿はこれでいいとして次回はどうやって描かせます?」

「そうだな──例えば」

二人の話し合いは続く。
話し合いの内容はかなり人間不信になりそうな事が多かったが、走れメロスって人を信じる心が大事だというような話じゃなかったっけ。メロスさん.....原稿頑張って。
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