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深夜のコンビニバイト六十三日目 フランケンシュタイン来店
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「最近ゴツい顔した図体のでかい不審者がこの辺で目撃されてるらしいんだ」
えっ...店長!?
「ね、ねぇ昼に皆に言った時皆も同じ反応したよ?何で皆俺をみて同じ顔するの?」
店長じゃ.....ない!?
「また皆もその顔したよ。何で皆俺がこの話すると同じ顔をするんだろう」
うーんと顎に手を当てて考える店長可愛い。本当に今更だし、考えた事も考えようともしなかったな。
知らないうちに店長が不審者扱いされてる事案に関しては。気の毒すぎる。
「大丈夫ですよ。店長が本当はいい人だって事は俺達従業員は皆分かってますから」
「ん?ん、あ、ありがとう。どうして俺を当然褒めたの?」.
頰をぽりぽりかきながらちょっと嬉しそうな店長に俺は心を痛めた。
何だよぉ!誰だよこんなに可愛くて優しい店長に不審者とか噂してるやつ!
いや俺も一発で店長を疑っちゃったのはどうかと思うけど!!そのビジュアルでこの辺に出没する人なんて本当店長以外思いつかないんだよな。
「コンビニにそういう人が来たら迷わず通報するように言われてるからよろしくね」
「け、警察の人が来たんですか?」
「うん。警察の人と張山君が仲良しだから最初このコンビニを包囲するように警察の人が居たんだけどね。張山君がこのコンビニには不審者は来た事ないので大丈夫ですよって言ってくれてねぇ...まぁお客様も駐車場にパトカーがいっぱい停まってたら緊張しちゃうと思うから」
いやそれ店長警察の人に疑われて見張られてる説!!張山さんナイスだけど、店長がこのまま疑われたままだとあまりにも不憫すぎる。見た目だけじゃないか。
「不審者ってその、何かしたんですか」
「子供を誘拐しようとした、とか。犬をいじめていたとか」
そんな酷い噂があるのか不審者。
それなら尚更不審者を見つけて店長の疑いを晴らさないと。
「不審者見かけたら全力で通報します」
「う、うん。全力で?」
深夜のコンビニバイト六十三日目。
ピロリロピロリロ。
「いらっしゃいま...あっ..」
薄緑色のフードに店長以上の長身。二メートル以上はあるだろうか。
フードをかぶり顔は見えないが、筋肉質で店長より強そう。身長が高いからかのしっのしっと猫背気味で歩いてくる。
ボロボロのズボンにサンダル。顔が見えないからか余計に怪しい。この人、噂の不審者じゃないか?
顔を見ようと気づかれないように下から覗き込もうと試みるが、すぐさま気がついて相手はサッとフードの両端を自分の顔に寄せ隠すようにして俺から隠れるようにして店の奥へと進んでいく。
何だ何故顔を隠した。
怪しい男は、何種類かの菓子パンと数々のお菓子、ミネラルウォーターをカゴに詰めレジに持って来た。
黙ってカゴを置き、俺はレジを打つ。
その中にポツンとあるカツサンド。魔王をふと思い出し、ハッと我に帰る。
「920円になります」
怪しい男が出したのは、少ししわしわの千円。一切何も話さず、お釣りを返すと軽く会釈をして出口へのしのし向かっていった。
どうしよう、通報すべきなんだろうか。でも、まだ決まったわけじゃないし、どうしようか。
ピロリロピロリロ。
「あ、ありがとうございました!」
うーむ、とりあえず今日はまだ不審者があの人かわからないし、何もしない方がいいかもな。
切り替えて仕事だ仕事。俺はいつものように商品の前出しをしようと売り場へ向かう、がそこで違和感に気づく。
「あれ」
ここも、あそこも、あれ、パンのところもお菓子のところも。
何でこんなに綺麗に前出しされてるの。
いつもはこの時間帯にバラバラガタガタなのを直すのに。
あまりにも綺麗なのでゴミ箱の様子を見に行く事にした。
ピロリロピロリロ。
「え!?」
緑のフードの怪しい男が、コンビニの前にしゃがみこんでいた。
まだいたのか!?何してるんだ!?
俺に気がついたのかびくりと体を震わせると重そうな体をすぐさま起き上がらせ逃げようとする。
「あ、ま、待って!」
俺は彼のフードを掴んだ。
「あ、あの。もしかして、なんですけど」
「.....」
ゴミ箱がめちゃくちゃ綺麗になっている。
いつもはペットボトルが散乱してるのに、ゴミ袋からゴミが飛び出てるのに。
新しいゴミ袋を入れてまである。
「前出しもゴミもあなたがやってくれたんですか?」
足元を見ると、花が水に濡れて潤っている。さっき買ったミネラルウォーター.....。
でも彼は俺から逃げようとブンブンと首を振る。
「どうしていい事をしてくれたのに逃げようとするんですか?俺は怒ってません。むしろ感謝していますありがとうございます。仕事早すぎてびっくりしましたけど」
「.....」
俯いて何も言わない彼は、ゆっくりと俺を見る。
コンビニの外灯の光に照らされ彼の顔が俺の瞳に映る。
つぎはぎだらけの顔に、おでこがボコッともりあがり、顎はしゃくれ、前歯の上の歯が一本、下の歯が一本歪んだ唇から飛び出ている。この世のものとは思えない醜い顔と言われたら、誰でも頷くような顔といえばいいのだろうか。
彼は怯えたようにフードでまた顔を隠すようにフードを抑えた。
「お.....で...ふ...らん...けん...しゅ...だいん...お....で..び......にく....い」
唸るようにまるで動物のような声。ただ俺には少し寂しそうに聞こえた。
「大丈夫ですよ。俺はあなたの事醜いって非難したりしません」
「.....な...で...?」
「どんだけこのコンビニに変なやつが来てると思ってるんですか。あなたみたいなただ優しいだけの人別に何とも思わないですよ」
顔がイケメンだからこの人はいい人だなんて限らないし、顔が怖いからこの人は悪い人だなんてことは絶対にないと思っている。俺は店長と一緒に過ごして学んだ。最初はあんな見た目で怖くて話しかけるのも深呼吸6回、手に命と書いて飲み込んだりしてたけど話してみたら家事が得意でお花を愛する可愛くて優しい人だった。
そういう事があるから、俺は人を見た目で判断するのは良くないと思うようになったんだ。
「...あ...で...が...ど....」
「どういたしまして」
「.....お....で...こど....も...と..い...ぬ..ず..ぎ。ば....ん..お...が...し..あで..る...よ..く...あぞ...ぶ」
お菓子とパンの入った紙袋を俺にみて!と差し出してくるのをみて、俺はなんとなく察した。
周りの人が犬にパンをあげる姿を見ていじめてるって言ったんだ。
子供と遊んでいる彼を見て誘拐しようとしているって言ったんだ。
「...で...ぼざい...ぎん...ごど...もに..ぢが...っぐ..な...で..い....わ..れた」
彼の悲痛な絞り出すような声色に俺は心を打たれて泣きそうになった。この人はただ大好きぬ子供と犬と遊んでいただけなのに、周りがそれを見て酷い事を言うんだ。そんなのおかしい。
「そんなの聞く必要ないですよ!!あなたは悪くない!!ただ子供達と遊んでいるだけなんでしょう!?そんなにパンとお菓子買って楽しみにしてるんでしょう?遊ぶの。周りの声なんて気にしてはいけないですよ!」
「....あ...でが....ど。ご...ども...だぢ...ご....で...ぼ...っでい....ぐど...わら...っで....ぐ..でる...う...でじ...い」
彼は深く深く会釈して子供達が笑ってくれるから、と袋の持ち手をぎゅっと握りしめ俺に背を向け心なしか軽やかにのっしのっしと闇夜に消えていった。
俺は彼が幸せになってほしいと思った。
「また来てくださいね!!」
聞こえているといいな。
俺は暗闇に精一杯明るく声をかけた。
えっ...店長!?
「ね、ねぇ昼に皆に言った時皆も同じ反応したよ?何で皆俺をみて同じ顔するの?」
店長じゃ.....ない!?
「また皆もその顔したよ。何で皆俺がこの話すると同じ顔をするんだろう」
うーんと顎に手を当てて考える店長可愛い。本当に今更だし、考えた事も考えようともしなかったな。
知らないうちに店長が不審者扱いされてる事案に関しては。気の毒すぎる。
「大丈夫ですよ。店長が本当はいい人だって事は俺達従業員は皆分かってますから」
「ん?ん、あ、ありがとう。どうして俺を当然褒めたの?」.
頰をぽりぽりかきながらちょっと嬉しそうな店長に俺は心を痛めた。
何だよぉ!誰だよこんなに可愛くて優しい店長に不審者とか噂してるやつ!
いや俺も一発で店長を疑っちゃったのはどうかと思うけど!!そのビジュアルでこの辺に出没する人なんて本当店長以外思いつかないんだよな。
「コンビニにそういう人が来たら迷わず通報するように言われてるからよろしくね」
「け、警察の人が来たんですか?」
「うん。警察の人と張山君が仲良しだから最初このコンビニを包囲するように警察の人が居たんだけどね。張山君がこのコンビニには不審者は来た事ないので大丈夫ですよって言ってくれてねぇ...まぁお客様も駐車場にパトカーがいっぱい停まってたら緊張しちゃうと思うから」
いやそれ店長警察の人に疑われて見張られてる説!!張山さんナイスだけど、店長がこのまま疑われたままだとあまりにも不憫すぎる。見た目だけじゃないか。
「不審者ってその、何かしたんですか」
「子供を誘拐しようとした、とか。犬をいじめていたとか」
そんな酷い噂があるのか不審者。
それなら尚更不審者を見つけて店長の疑いを晴らさないと。
「不審者見かけたら全力で通報します」
「う、うん。全力で?」
深夜のコンビニバイト六十三日目。
ピロリロピロリロ。
「いらっしゃいま...あっ..」
薄緑色のフードに店長以上の長身。二メートル以上はあるだろうか。
フードをかぶり顔は見えないが、筋肉質で店長より強そう。身長が高いからかのしっのしっと猫背気味で歩いてくる。
ボロボロのズボンにサンダル。顔が見えないからか余計に怪しい。この人、噂の不審者じゃないか?
顔を見ようと気づかれないように下から覗き込もうと試みるが、すぐさま気がついて相手はサッとフードの両端を自分の顔に寄せ隠すようにして俺から隠れるようにして店の奥へと進んでいく。
何だ何故顔を隠した。
怪しい男は、何種類かの菓子パンと数々のお菓子、ミネラルウォーターをカゴに詰めレジに持って来た。
黙ってカゴを置き、俺はレジを打つ。
その中にポツンとあるカツサンド。魔王をふと思い出し、ハッと我に帰る。
「920円になります」
怪しい男が出したのは、少ししわしわの千円。一切何も話さず、お釣りを返すと軽く会釈をして出口へのしのし向かっていった。
どうしよう、通報すべきなんだろうか。でも、まだ決まったわけじゃないし、どうしようか。
ピロリロピロリロ。
「あ、ありがとうございました!」
うーむ、とりあえず今日はまだ不審者があの人かわからないし、何もしない方がいいかもな。
切り替えて仕事だ仕事。俺はいつものように商品の前出しをしようと売り場へ向かう、がそこで違和感に気づく。
「あれ」
ここも、あそこも、あれ、パンのところもお菓子のところも。
何でこんなに綺麗に前出しされてるの。
いつもはこの時間帯にバラバラガタガタなのを直すのに。
あまりにも綺麗なのでゴミ箱の様子を見に行く事にした。
ピロリロピロリロ。
「え!?」
緑のフードの怪しい男が、コンビニの前にしゃがみこんでいた。
まだいたのか!?何してるんだ!?
俺に気がついたのかびくりと体を震わせると重そうな体をすぐさま起き上がらせ逃げようとする。
「あ、ま、待って!」
俺は彼のフードを掴んだ。
「あ、あの。もしかして、なんですけど」
「.....」
ゴミ箱がめちゃくちゃ綺麗になっている。
いつもはペットボトルが散乱してるのに、ゴミ袋からゴミが飛び出てるのに。
新しいゴミ袋を入れてまである。
「前出しもゴミもあなたがやってくれたんですか?」
足元を見ると、花が水に濡れて潤っている。さっき買ったミネラルウォーター.....。
でも彼は俺から逃げようとブンブンと首を振る。
「どうしていい事をしてくれたのに逃げようとするんですか?俺は怒ってません。むしろ感謝していますありがとうございます。仕事早すぎてびっくりしましたけど」
「.....」
俯いて何も言わない彼は、ゆっくりと俺を見る。
コンビニの外灯の光に照らされ彼の顔が俺の瞳に映る。
つぎはぎだらけの顔に、おでこがボコッともりあがり、顎はしゃくれ、前歯の上の歯が一本、下の歯が一本歪んだ唇から飛び出ている。この世のものとは思えない醜い顔と言われたら、誰でも頷くような顔といえばいいのだろうか。
彼は怯えたようにフードでまた顔を隠すようにフードを抑えた。
「お.....で...ふ...らん...けん...しゅ...だいん...お....で..び......にく....い」
唸るようにまるで動物のような声。ただ俺には少し寂しそうに聞こえた。
「大丈夫ですよ。俺はあなたの事醜いって非難したりしません」
「.....な...で...?」
「どんだけこのコンビニに変なやつが来てると思ってるんですか。あなたみたいなただ優しいだけの人別に何とも思わないですよ」
顔がイケメンだからこの人はいい人だなんて限らないし、顔が怖いからこの人は悪い人だなんてことは絶対にないと思っている。俺は店長と一緒に過ごして学んだ。最初はあんな見た目で怖くて話しかけるのも深呼吸6回、手に命と書いて飲み込んだりしてたけど話してみたら家事が得意でお花を愛する可愛くて優しい人だった。
そういう事があるから、俺は人を見た目で判断するのは良くないと思うようになったんだ。
「...あ...で...が...ど....」
「どういたしまして」
「.....お....で...こど....も...と..い...ぬ..ず..ぎ。ば....ん..お...が...し..あで..る...よ..く...あぞ...ぶ」
お菓子とパンの入った紙袋を俺にみて!と差し出してくるのをみて、俺はなんとなく察した。
周りの人が犬にパンをあげる姿を見ていじめてるって言ったんだ。
子供と遊んでいる彼を見て誘拐しようとしているって言ったんだ。
「...で...ぼざい...ぎん...ごど...もに..ぢが...っぐ..な...で..い....わ..れた」
彼の悲痛な絞り出すような声色に俺は心を打たれて泣きそうになった。この人はただ大好きぬ子供と犬と遊んでいただけなのに、周りがそれを見て酷い事を言うんだ。そんなのおかしい。
「そんなの聞く必要ないですよ!!あなたは悪くない!!ただ子供達と遊んでいるだけなんでしょう!?そんなにパンとお菓子買って楽しみにしてるんでしょう?遊ぶの。周りの声なんて気にしてはいけないですよ!」
「....あ...でが....ど。ご...ども...だぢ...ご....で...ぼ...っでい....ぐど...わら...っで....ぐ..でる...う...でじ...い」
彼は深く深く会釈して子供達が笑ってくれるから、と袋の持ち手をぎゅっと握りしめ俺に背を向け心なしか軽やかにのっしのっしと闇夜に消えていった。
俺は彼が幸せになってほしいと思った。
「また来てくださいね!!」
聞こえているといいな。
俺は暗闇に精一杯明るく声をかけた。
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