深夜のコンビニバイト始めたけど魔王とか河童とか変な人来すぎて正直続けていける自信がない

ガイア

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深夜のコンビニバイト六十四日目 シンデレラ来店

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ピロリロピロリロ。

「いらっしゃいませ」

綺麗なブロンドの髪をポニーテールにし、薄汚れたバンダナを巻いて布と布をつなぎ合わせたようなワンピースを着た青い目の美人が無表情で来店してきた。
まっすぐ俺のレジまで来ると、

「楽に死ねる薬ってないかしら」

「.....え?」

深夜のコンビニバイト六十四日目。

「そ、そういうのはドラッグストアに、っじゃなくてっ!何言ってんですか!突然!」

「ないんですか。じゃあいいです」

彼女は裸足だった。

「あの、考え直した方がいいですよ。まだ貴方は若いじゃないですか。まだまだ人生やり直せますよ」

彼女は、俺を振り返らず入り口まで来ると、

「若いから何ですか。やり直せるって何で貴方がわかるんですか」

彼女の足は傷だらけで汚れていた。
ガラスを踏んだのか、石を踏んだのか、今日だけ裸足だったというわけでは決してないような足だった。

振り返った彼女の目は体が凍りつく程に、目を合わせたら自分が殺されそうなそんな目をしていた。
普通に生きてる人が絶対にできないような目つきに俺は戦慄した。
この人は本当に誰に何をされて生きてきたんだ?

「貴方は幸せにぬくぬくと家族に愛されて生きてきたんでしょうね。目を見ればわかります。私とは違う」

確かに、俺は両親に愛されてなに不自由なく育ててもらった。
でも、だからって人生の中で苦労してないなんて事はないし、ただぽけーっと生きてきたわけじゃない。

「貴方が誰になにをされてそんな風になってしまったのかは俺はわかりませんが、俺は自分が間違っている事を言っているとは思ってません」

「普通の人はそう思うでしょうね。私は普通じゃないんです。不幸の連続で普通の人生を歩んでないので殺したい人もいれば神だって死ぬ程憎んでる。なんなら、私はこの世界で私より幸せな奴は皆死ねばいいと思っていますよ」

ピロリロピロリロ。

「やーん♡てんちょーいるー?」

くねくねしながら来店してきたのは久々金ちゃんこと金太郎さんだった。
相変わらずのムキムキの体に今日は透き通った青空のようなマーメイドドレスを着ていた。
体のラインがはっきり出ている為ピッチピチだ。スリットも入って固そうな足が見えている。ちゃんとすね毛は剃ってある。

「あら~先客がいたの」

「お久しぶりです金太郎さん」

にこぉっと笑って厚化粧の金太郎さんは俺のレジの方に近寄ってきた。

「あら、久しぶりねぇボウヤ。あら?なんか前にあった時よりいい男になったんじゃなぁい?ちょっとぉ、あの例の彼女と何かあったの?ぐふっ」

バンバン俺の肩を叩きながらの近所のおばちゃんみたいな絡みやめてくれますかね。痛いしっ割と本気で痛い。
でもなんか今はそれがとても安心するんだよなぁ。

「それに比べてそちらのお客さんは不幸のどん底みたいな顔してるわね。金ちゃんがオハナシ聞いてあげるわよ?オネエさんに話してみなさいよ?」

「.....」

金太郎さんを警戒するように、睨みつける彼女の様子はまるで威嚇をしているようだった。

「あら~なかなか可愛い子じゃない」

明らかに私に近づくなというオーラを放つ彼女に金太郎さんは臆することなくずんずん近づいていった。

「お嬢ちゃん可愛い顔が台無しよ。もっとニコニコってしなさいな。絶対笑った方が可愛いわよ」

彼女に触れようとした金太郎さんの手は勢いよく払われた。
バシッという強い音が空気を割く。

「気安く触らないでくれますか。もう帰ります」

「いやぁよ。金ちゃんはお節介な世話焼きオネエさんなんだから」
 
ぷんと頬を膨らませながら、両手に腰を当てる金太郎さん。

「貴方には関係ない事じゃないですか。赤の他人じゃないですか」

「赤の他人じゃないわよ。今日今貴方と出会って金ちゃんは貴方とオハナシしてるでしょう?もう赤の他人じゃなくて立派な知り合いよ。関係あるわ」

「私に知り合いと呼べる人なんていませんし友人もいません。家族もいません。放っておいて下さい」

「嘘よ。貴方は誰かに助けを求めている!!そうでしょう?もう我慢の限界って顔してる。死にたいって思ってるでしょう?一目見て感じたわよ。この子は今苦しんでるって」

「違います...貴方の勝手な勘違いです」

「勘違いだったらどんだけいいかわからないわよ。何か抱えてるなら金ちゃんがオハナシ聞いてあげるわよ」

「話をしたって何か変わるわけじゃありませんし、貴方に何か出来ることがあるとは思えません」

「金ちゃんスナックのママなの。いろんなこの世界の人達の話を聞いてるうちに最初は金ちゃんの外見を馬鹿にしてくる人もいたけど今は皆に「聖母ゴールド」って呼ばれているわ」

すごくいい話なのに聖母ゴールドって全部持っていかれるんだけど。

「貴方もこの世界の人じゃないんでしょ?」

「...貴方もなの」

「えぇ、金ちゃんは金太郎の金ちゃん。貴方の名前を教えて?」

「教える程の名前なんてないわよ。灰かぶりのシンデレラってずっとずっと馬鹿にされてたんだもの」

「シンデレラ!?俺の知ってるシンデレラは彼女みたいにこの世の全てを憎んでいるみたいな感じじゃなくて、王子様とガラスの靴で幸せになって...みたいな感じだった気がするけど」

「この世界ではガラスの靴が魔法使いが、なんて言われてるみたいだけど魔法使いなんて来なかった。ガラスの靴なんてなかった。王子様は私の所には来なかった。ずっと継母に姉達にいじめられながら苦しんで苦しんでここまで生きてきたの。雑巾を投げつけられたり、その水を頭にかけられたり、ご飯を作ればまずいって皿を投げつけられるし、ちょっと気に入らなければ八つ当たりされる。あの物語は私がまだ心が綺麗だった時に思い描いていた夢物語。それが何故か現実になって出回ってるみたいね。本当に奇妙な事に」

この人は、魔法使いに出会わなかったシンデレラって事か?
なんだそれ、今までそんな事あったっけ。その物語のレールから外れた人物がこのコンビニに来る事なんて、あっただろうか?
変な人が来すぎて皆そうに思える。そもそも俺の目の前にいる金太郎さんかオカ...オネエな時点でもうおかしいからそういう人も来るって言われればそうなんだって思ってしまう。

「突然一人でこの世界に来たけど、私一人じゃ何もできないし、どうしていいかわからない。だから死のうって思ったの。でも、外の世界ってこんなにも明るいのね」

コンビニの光が眩しいというように目を細めた彼女の前で金太郎さんは顔を覆った。

「がえらなくていい!!!!!!」

「は?」

「がえらなくていい!!!!!!」

金太郎さんは、飛びつくように我が子を抱きしめるようにシンデレラさんを強く強く抱きしめた。

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」

ギリギリと締め付けられるシンデレラさん。まるで格闘技の絞め技。トドメの一撃。

「ちょ、何?なんなのよ!痛いんですけど」

「あだじの所にぎなざいよ!!貴方一人くらい手厚く世話してあげるわ!」

「は、はぁ?何ですか急に」

「死んじゃやーよ!!金ちゃんがあんたを幸せにしてあげるわよ!!だからあたしのところに来なさい!!」

「幸せに...なんて、私がなれるわけないじゃないですか」

「金ちゃんが幸せにする!!!絶対に幸せにしてやっから!!黙ってオレについてこいや!!!!!」

声フェチの女性なら誰もが振り返ってしまうだろうイケメンボイスで筋肉でできた固そうな胸板をバァンッと叩くと、誰もがドキッとしてしまえような台詞を叫んだ金ちゃんに俺も不覚にもドキッとしてしまった。
金太郎さんこっちの方が店長を落とせると思うんだけどな。

「.....」

「今日からシンちゃんは金ちゃんの娘よ!金ちゃんの事はママって呼びなさい♡」

バチコンとバサバサまつげでウインクをして金太郎さんはシンデレラさんの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

「...パパの間違いでしょ」

「パパはここのコンビニの店長だからね~♡今度会ったらそう呼びな」

圧がすごい。
店長いつのまにかパパにされとる。

「んーじゃパパによろしくぅ~ボウヤ♡」

「は、はぁ...」

シンデレラさんの肩をがしっと掴み、二人で出て行った。心なしかシンデレラさんの表情がフッと軽くなったような気がした。

「また来てくださいね。シンデレラさん!今度はママと一緒に」

「あら♡」

シンデレラさんは、俯いて初めてここで少しだけ、ほんの少しだけ笑顔を見せた。

「.....さぁね」
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