深夜のコンビニバイト始めたけど魔王とか河童とか変な人来すぎて正直続けていける自信がない

ガイア

文字の大きさ
76 / 96

深夜のコンビニバイト七十六日目 貧乏神来店

しおりを挟む
深夜のコンビニバイト七十六日目。

昨日と違って、今日の店長の背中は丸まっていた。

「どうしたんですか?店長」

「あ、いや...昨日はなんというか、凄く売れ行きが良くて大繁盛って感じだったんだけどね.....?その、今日は逆に酷いくらい全然で」

「え?」

「昼までは普通だったんだけど、夜の九時くらいからがくんと人が来なくなっちゃって...から今の時間まで昨日は止めどなく人が並んでたのに、今日は一人も来てないよ」

昨日は多分座敷わらしの笑子ちゃんがいたから大繁盛だったんだろうな。

「昨日と同じくらい人が来ると困ると思って、今日は深夜にマリーさんもいれたから、三人で。何かあったら呼んでね」

「昨日物凄い人でしたもんね...三人、か」

ロッカーで着替えながら、三人、また新しく入ったんだ。
どんな人なんだろうなんて呑気なことを考えていた。

着替えてレジに向かう為に、深呼吸して扉を開ける。
一応俺は先輩なんだから、先輩らしく、先輩らしく。

ガチャリと扉を開けると、

「こらっ!だめでしょー金梨君!」

「チッ」

マリーさんに怒られて、舌打ちしながら正座させられている見知らぬ男の子。

「正座ちゃんとするの!何よその態度は!私はセンパイ、センパイなのよ!」

「はっはー、ボクはコレが正常運転なんで」

「今貴方はクルマを運転してないでしょう?今貴方は座ってるの!何笑ってるの!こら!ちゃんとセンパイの話を聞きなさーい!」

「.....何してるんですかレジの裏で新人の男の子正座させて」

俺は呆れたようにマリーさんに話しかけると、

「あらあらっ!久しぶりね!確か名前は....えっと、そうね、確か...貴方はゆかりが言っていた確か...."攻め"の村松君ね!」

思いの他クソみたいな覚え方されてた。
明るく元気に言うなそういう事。

「はい、そうです。攻めの村松です」

何言ってんだ俺。

「受けのマック君はお元気?」

マジでやめろ。
ゆかりさんこの何も知らない純粋なお姫様に何教えてんだ。

「残念ながら知りません」

「そうだ!村松君。彼を紹介するわ!私の後輩で新しく入った金梨一門梨(かねなしいちもんなし)君よ。仲良くしてあげてね」

彼に名前をつけた親は一体何考えてんだ。彼にどんな人生を歩ませたいんだ。
金梨君は、マリーさんより背が低く、無表情で真っ黒な目、片目を隠すくらい前髪が長い彼は、俯きがちに俺を見た。

「梨が二つ名前についていてしゃりしゃりっていい音がしそうな感じね」

何言ってんだこの人。

「ほら、金梨君挨拶して」

「.....金梨です」

無愛想に、そっぽを向いて呟いた金梨君に、俺は笑顔で応じる。

「よろしくね、金梨君」

「ノンノン!金梨です。よろしくお願いしますお兄さん、でしょう?もう、顔は可愛らしいんだからもっとニコニコシャリッとしなさい!」

梨に繋げるの気に入ったんだな。マリーさん。

「.....うっせ」

「何よ!その態度は!お姉さんに対して!」

プンスコ怒るマリーさんだが、何となく楽しそうに見える。面倒見の良さが滲み出てるな。

「それにしても、全くお客さん来ないわ。退屈ね.....昨日はね、本当ここはパーティ会場かしらってくらい人がいたのに。今じゃ閑古鳥の鳴き声が聞こえて来るようだわ」

レジ台に頬杖をつきながら退屈そうに口を尖らせるマリーさん。

「金梨君に私のレジ姿を見せてあげられなくて残念だわ」

金梨君は、目を伏せて呟いた。

「別に...いい」

プルルルルルル...プルルルルルル...。

電話が鳴った、店長に電話対応の仕方を教えてもらったので俺は電話に出る。

「おたくのコンビニで買った充電器なんですが、不良品で」

苦情の電話だ...。
冷静に、淡々とコンビニで買った商品が急に使えなくなったとの苦情の電話だった。
こんな時間に苦情の電話がかかってくるなんて初めてだ。どうしよう。

「て、店長に」

「店長、呼んできたわよ」

マリーさんは、先回りして店長を呼びに行ってくれていた。店長が急いで俺と電話を交代する。
10分程して電話を切った店長は、ふぅと一息したかと思ったら──。
プルルルルルル...また電話だ。

「はい──」

また謝っている。どうやら苦情の電話らしい。また不良品だったとかだろうか。
電話が終わったと思ったら、またプルルルルルル、電話がかかってきた。

「.....帰る」

金梨君が一言ポツリと呟いた。

「どうしたの?まだ帰っちゃダメよ金梨君」

マリーさんが、俯いて俺達に背を向ける金梨君を呼び止めた。

「...ボクが帰れば電話止まるよ」

「どういう事?」

マリーさんが、金梨君の腕を掴んで迷子の子供に話を聞くように、目線を合わせる。

「ボクがいるから、お客さん来ないんだよ。ボクがいるから、苦情の電話がなりやまないんだよ。このままボクがここにいたら、今度はまた前みたいにコンビニ強盗が起きると思うよ」

「そんなの金梨君に関係ないことばかりよ?」

「あるよ、ボクは...貧乏神だから」

貧乏神。
俺は、金梨君の顔を凝視した。貧乏の神さま、貧乏神。昨日バイトをしていた座敷わらしこと、笑子ちゃんと正反対の存在。

「ボクがいるとこの店に不幸をもたらすからさ。ボクなんていない方がいいんだよ。前の銀行強盗の時だって、ボクは少し前からこっそり買い物に来てたからだよ。怖くて隠れてたけど」

「そんな事あるわけないでしょう?ビンボウガミってなによ。金梨君は神様じゃなくて、普通の男の子でしょう?不幸をもたらすなんて勘違いよ」

マリーさんは尚も金梨君の言葉を信じずに真っ直ぐに彼を見る。
昨日の座敷わらしとしての笑子ちゃんを見てしまうと、正反対の金梨君が貧乏神なのだという事を、俺は理解してしまう。
金梨君は、黙って首を振った。

「コンビニでバイトとか、してみたくてこうしてやってみたけど、ダメだねやっぱ。ボクは台風みたいに店に災害をもたらして人を不幸にする事しかできないんだ。ボクがいるとこの店も潰れちゃうよ」

泣きそうな顔で俯く彼の顔を、マリーさんは両手で挟み込みパァンと叩いた。

「いっ...!?」

「お馬鹿ね!あなたは本当お馬鹿だわ!あなた一人のせいでこの大きなお城が潰れるわけないでしょう?帰さないわよ!今日は私が色々教えてあげるんだから!私のことはマリーお姉さんって呼びなさい!お客さんの事は店長がなんとかしてくれるわ!お客さんが怒ってお店に来たら私がなんとかしてあげるわ!ボクなんていない方がいいなんて、悲しいこと言わないで?」

「.....ボクは、ずっと不幸の申し子だって言われて来た。いない方がいいって言われて来たから...」

「この世にいない方がいい子なんて一人もいないのよ」

マリーさんは、にっこり微笑んで金梨君の頭を優しく撫でた。

「よしよし、私はいつも幸せなのよ。金梨君が不幸なら、私の幸せを分けてあげるわ。ほら、ぎゅーって」

「や、やめろよ!」

流石一王国の女王様だ。
金梨君は、照れたように俯いた。

苦情の電話が収まって、店長はふぅと汗を拭きながら休憩室へと足を進ませる。

「店長、お疲れ様です...」

「ありがとう...明日返金、返品って事で話がついたよ。それにしても、今日は本当にお客様少ないね。俺とマリーさんと村松君の"三人"じゃぁ、余るくらいだったねぇ...」

成る程な...成る程、成る程なぁ...俺はあえて聞き返さなかった。
金梨君、他の人に見えないんだ...マリーさんは、なんとなくそういう人達にも好かれそうだから見えるのも納得だけど..。
しおりを挟む
感想 64

あなたにおすすめの小説

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...