深夜のコンビニバイト始めたけど魔王とか河童とか変な人来すぎて正直続けていける自信がない

ガイア

文字の大きさ
77 / 96

深夜のコンビニバイト七十七日目 番外編運動会前編

しおりを挟む
深夜のコンビニバイト番外編 雲子の運動会前編

村松家は、家族行事があると張り切る。

「雲子、お弁当は期待しててね。運動会、いってらっしゃい」

「ありがとう、母さん」

そう言って無表情で雲子にグッと親指を立てるのは、村松雪穂(むらまつゆきほ)俺の母親だ。年齢よりかなり若く見られ、高校の時も晴のお母さんは美人だと言われた自慢の母さんだ。
あまり表情の変わらないところは小雨に似ていて、長くて綺麗な黒髪を一つ縛りにしている。雲子の綺麗な黒髪は母さん譲りだろう。

「そうだぞ~ママは、今日朝の三時に起きて雲子の為に張り切ってお弁当作ってたからな」

「ば、馬鹿...言わないでよ。パパったら」

隣でニコニコ微笑む、優しさが全身からにじみ出てるこの人は、村松太陽(たいよう)、俺の父さんだ。
父さんは、人柄がよく誰にでも優しい。
友達がとにかく多く、変わった人や好かれやすく常に俺の家には色んな人が父に会いに来る。名前の通り太陽のような人だとよく言われているそうだ。

「ハッハッハッ、全くママは可愛いなぁ」

さりげなく、父さんは母さんの肩に腕を回す。

「パパだって、今日も格好いいよ...」

そっと父さんに寄り添う母さん。

「いってきます」

雲子は、慣れてるというようにくるりと二人に背を向けた。
鬼夫婦の二人よりは母さん達の方がまだマシだろう。ぽむぽむきっちょむじゃなくてママとパパだからね。うん、大丈夫。
俺達は村松家の子供達は常にこんな感じの二人を常に見ながら、愛のある家庭で愛のある生活を過ごしている。

「お兄ちゃん、今日頑張って来るね」

雲子は、力強い視線を俺に向けた。

「うん、頑張ってこい」

「お、お兄ちゃん...あの、あのさ、私、選手リレーに選ばれた話は、したよね?代表で、もし一位が取れたら、私のお願い一つ聞いてくれる?」

「あぁ、何でも聞いてやるよ。頑張っておいで」

「.....うん!」

なんとも言えない光悦な表情を浮かべた雲子は、家を後にした。

とりあえず小雨を起こしてから、雲子の運動会へ行こう。

高校の運動会。
俺と、雲子は同じ高校だ。
懐かしいな、高校の母校は。でももう俺は21だ。知ってる先生なんていないんだろうな。
それに、妹がこの年で一緒に運動会を見に行く俺と同い年くらいの人なんているものなのだろうか?
まぁいいや。同級生には今は色々あって会いたくない。
ただ、過ごしていた高校の校舎、グラウンド、玄関、どこを見ても、懐かしい自分がこの学校で生活していた頃を思い出して、浮かび上がってきて、なんだか懐かしくてなんとも言えない切ない気分になった。

先生がいたとしても会いたくないな。
今何してるの?と聞かれたら...。

「晴!こっちこっち」

父さんが俺を呼ぶ声がして、俺は嫌なモヤモヤを払うように駆け出した。
父さんは早速隣のおじいさんと楽しく談笑している。コミュ力が相変わらず凄まじい、母さんは雲子と一緒にプログラム表を見ていた。

「これより、青波高校運動会を、開催致します」

赤いハチマキを巻き、ポニーテールにした雲子の後ろ姿が見えた。
凛々しく、格好良く、どのクラスメイトよりも目立っていた。

最初の競技は100m走。雲子は選手リレーに出るから出ないようだ。
次は借り物競争。これは雲子が出ていた。

よーいどんとパァンという重い音で始まるスタート。
雲子は、ぶっちぎりで他の生徒を追い抜き一番に借り物のリストが書いてある紙の場所までたどり着く。

「雲子、速いわね」

ほくほくと嬉しそうな母さんと、ちょっと自慢げな小雨が、微かに微笑んだ。

「何でもできるからね雲子お姉ちゃんは」

「いやー、あれがうちの自慢の娘雲子です。可愛いでしょう?」

「いやいやうちの孫も負けてませんよ。湖から湧き出た女神のように可愛らしいですからのう」

父さんは隣のテントのおじいさんとめちゃくちゃ話してる。
それにしても、隣の人達まだ秋っていっても暑いのに、何で皆和服なんだろう。

雲子は、相変わらずの足の速さで何故かこちらまで走ってきた。

「雲子?どうしたの?」

俺達のテントの所まで来ると、

「小雨借りて行くわ!」

「え」

小雨をお姫様抱っこしたかと思ったら、雲子はタッタッタッと相変わらずの軽やかな走りで俺達を後にした。

「一位は、村松雲子さん──同着一位、縫楽莉嘉さん」

「同着!?あの足の速い雲子と同着だと!?」

父さんが声を上げ、雲子と同着一位、縫楽さんの方を見る。
縫楽さんは、俺のバイト仲間で夏休みだけコンビニでバイトしていたらしい。
一回だけ一緒に深夜一緒になって話をした。ギャルっぽい見た目だが、あぁ見えてぬらりひょんの孫なんだそうだ。
縫楽さん、運動できたんだな。

「村松さんのお題は、「可愛い妹」」

小雨は、嬉しそうな恥ずかしそうな表情を浮かべて雲子の隣に立っていた。

「小雨ちゃん!?」

どこかで、天邪鬼君の声がしたような気がした。

「すぐに見つかるお題でよかったです」

いやイケメンすぎんだろ俺の妹。
その横で照れてる俺の妹可愛すぎるだろ。

「一方、縫楽さんのお題は「笛」これは結構難しかったんじゃないですか?」

「イェーイ楽勝☆楽勝☆身内が持ってて助かったわ」

縫楽さんが持っていた笛は、黒光した立派な横笛だった。
あれ待って俺なんかあれに似たの見た事ある気がする。

「久々だな。人の子よ」

隣のテントから聞き覚えのある声がした。
マスクと帽子とサングラスに、黒い着物をきた見るからに怪しい人。だが声は聞き覚えがある。あの横笛の主──。

「覚えているか?烏天狗だ」

「な!?何でこんなところにいるんですか!?」

思わず大きな声を出しそうになったがグッと堪える。

「お嬢を応援に来たんだよ」

「お、お嬢...?」

「うぉおおおおお!!りかぁあああ!!!可愛いぞおおおお!!最高じゃぞおおお!!一位おめでとうおおお!!!!」

父さんがさっきまで話していたおじいさんが感極まり涙を流しながら立ち上がった。おじいさんは、特徴的な形の坊主の頭を隠すためか、帽子をかぶっていたが、ハチマキをおもむろに取り出して帽子を脱ぎ捨て、特徴的な形の坊主頭に「孫命」という白地に赤文字のハチマキを巻いた。ボロボロと涙を流し、高そうな着物に涙が流れ落ちて行く。
父さんも、涙を流して喜んでいる。

「おめでとうございます!お互い娘とお孫さんが一位なんて...嬉しい限りです!」

「最高の孫じゃあ!!!」

「あの、待ってください。確か縫楽さんのお爺さんって.....あの」

俺は恐る恐る立ち上がったおじいさんを指した。

「あぁ、そうだぞ。知らなかったのか?あのお方は百鬼夜行を率いる妖怪の総大将。ぬらりひょん様だぞ」

父さんが、涙を流しながら妖怪の総大将に肩を組んだ。

「お互い愛する家族を応援しましょう!おじいちゃん!」

「おうよ!」

父さん!!!!それおじいちゃんじゃない!妖怪の総大将!!いやいや待って待って待って待って父さんとんでもない人と肩組んじゃってんだよ今!?ねぇ!?大丈夫この運動会!?

しおりを挟む
感想 64

あなたにおすすめの小説

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...