深夜のコンビニバイト始めたけど魔王とか河童とか変な人来すぎて正直続けていける自信がない

ガイア

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深夜のコンビニバイト七十八日目 運動会中編

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前回のあらすじというか、今の状況。
妹の運動会に行ったら父さんが隣のテントのおじいちゃんと仲良しになった。
だがその隣のテントのおじいちゃんは、妖怪の総大将、ぬらりひょんで、溺愛する孫の応援に来ていた──。

俺は、汗をダラダラ流しながら魔王に父親を人質に取られた平民の気分で両手を祈るように握りしめ妖怪の総大将ぬらりひょんと、父さんの様子を見守っていた。
下手な事をしたらどうなるかわからない。正直一刻も早くここから離れたいんだけど...。
コミュ力の高い父さんはニコニコとぬらりひょんと談笑していた。怖い、もう俺は父さんが怖い。
そうだよ、前から父さんのこの人間離れしたコミュニケーション能力の高さと、変な人を惹きつけるオーラなのか何かそういう電波を発してるのか知らないけど、その伝説はちょくちょく母さんから聞いていた。

過去にたまたま銀行強盗に会って、そこにたまたま居合わせた外国の王様と仲良くなって、過去に弁護士をしていた事もある父さんが屁理屈で銀行強盗犯を説得している間に、王様が中にいる人の避難を誘導して、怪我人が一人もいなかった事があった。
だが、父さんはその手柄を全部その国の王様に渡した上に、お礼を言われる前に姿を消したが、その後どうにかして父さんの住所を探した王様から、国の一部をもらったとか。

過去に、海外旅行に行ったときにたまたま道を聞かれたのが城を抜け出して来たその国のお姫様で、護衛も兼ねて国を案内している最中にテロにあったが、過去にSPをしていた経験もある父さんは、なんとかお姫様を守りながら城まで送り届け、名も名乗らず姿を消したとか。

いやよく考えたら父さんコンビニに来る変わったお客様よりとんでもない人なのかな!?母さんもよくこんなとんでもない人と結婚しようと思ったな...。
まぁ、母さんも随分変わってる人みたいで、大学だと「氷結の姫君」って二つ名がついてたって言ってたからな。

競技は順調に進んでいく。

「次の種目は、親族二人三脚です。選手の皆さんは、応援に来てくれた親族の方々に声をかけに行ってください」

「何だそれ」

ぬらりひょんが、すくっと立ち上がると、

「おいっちにー!さんしー!」

準備体操を始めた。ご老体だけどまさか出るつもりなのか!?大丈夫なんだろうか?

父さんも、よいしょと立ち上がるとぬらりひょんと一緒に、

「おいっちにー!さんしー!」

まさかの体操を始めた。マジでやめてくれ恥ずかしい。

「ちょ、父さん...」

声をかけようとした時、雲子が縫楽さんと一緒にこちらに走ってきていた。
縫楽さんは、俺の父さんと一緒に準備体操をしているぬらりひょんを見て、

「ちょ、やめてよおじいちゃん...何してんの?」

若干引き気味の縫楽さんに、キラキラした顔で、

「孫との二人三脚に備えとるだけじゃい!」

「いや、出ないよおじいちゃんは。身長差がまずやばいからね。おじいちゃん140センチくらいしかないじゃん?」

「142センチあるわい!」

後ろで物凄く出たいオーラを感じて振り向くと、二宮金次郎さんがサングラスに、どこから持ってきたのかピンクのカーディガンを俳優風に羽織って肩で結び、俺を指名しろというようなポーズで待っていた。いや何してんの早々に学校の指定の位置に戻ってください。

「いや...金ジロー重そうだから、烏天狗さんに一緒に出てもらうわ...」

「えぇ!?わ、わたくしですかお嬢!?」

「飛べるから身軽そうだしー」

ぬらりひょんと、二宮金次郎さんはがくりと膝をついた。

「おのれ...烏天狗め。今夜はカラスのアラを煮た汁をつくるぞ...」

「物騒な事言わんでください!!」

叫んだ烏天狗さん、縫楽さんは雲子を見て悪戯っぽく笑った。

「委員長はまた妹ちゃんと出るの?」

「いや?私は、お兄ちゃんと出る」

「お兄ちゃん?」

「....え?」

突然の指名に俺は固まる。

「ほら、お兄ちゃん来て」 

雲子が俺の手を引こうと俺に手を伸ばす。

「いやいやいや俺!?無理だよ俺全然運動とかしてないし!父さんや、母さんや小雨の方がいいよ」

「.....お兄ちゃんじゃないと嫌なの!お兄ちゃんと二人三脚したいの!...合法的にお兄ちゃんとくっつけるし...」

雲子がぼそっと何か言ったがよく聞き取れなかった。

「.....村松さんってまさかとは思ったけど...やっぱり、そっか、そうだったんだ」

今度は縫楽さんがぼそりと呟いた。

「委員長のお兄さんだったんだね...いいなぁ、うらやましー、負けられないなーこれは」

縫楽さんは、頭の後ろで手を組んで雲子をギンと見た。雲子は何かを察したようで鋭い瞳で縫楽さんを見つめる。

「えっ、なんか火花散ってない?何?どうしたの2人共」

縫楽さんは、雲子に見せつけるように俺に近づいて耳打ちする。

「ねぇ?村松さん、もし二人三脚であたしが勝ったら今度あたしとデートしてよ」

「えぇ!?」

縫楽さんの突然の提案に俺は声が裏返る。

「何?二人で何話してるの?」

「あ、デートってのは変な意味じゃないから、彼女さんがいることも知ってるし。あたし買い物するとついつい買いすぎちゃうから、買い物に付き合って荷物持ちしてもらうだけ。だめ?」

成る程、保護者的な意味ね。まぁそりゃそうか。

「何?二人でなんの話をしているの?」

怒りで目が真っ黒な雲子に俺は汗がダラダラ止まらない。なんでいつも大人しくて可愛い雲子がこんなに怒ってるんだ?

「いや?ただ、二人三脚であたしが勝ったら村松さんにデートしてもらおうかなって思ってるだけだけど?」

「デート!?何よそれ!?はぁ!?...ごほん、そんなの私が許すわけないでしょう?」

雲子が今まで聞いたことも無いような大きな声を出した。
 
「そろそろ位置について下さい」

放送が流れ、俺の腕は雲子に抱きしめられがっちりホールドされる。まるで子猫が母猫を取られないよう腕に抱きついているように、シャーと縫楽さんに威嚇しながら雲子は俺を指定位置まで連れていった。俺に拒否権はないんだな?

「いや雲子、俺運動不足だし、さ、あのちゃんと走れるかどうかも」

「大丈夫よお兄ちゃん、私に任せて。全て私がなんとかするから」

目が全く笑ってないんですが。

「あの、あの...お嬢、あの、私、頑張ります...」

烏天狗さんが一番可哀想なんだけどこの状況...捨てられそうな子犬みたいな目で縫楽さんを見る烏天狗さんに、

「大丈夫ー大丈夫ー☆あたしについてきてくれればいいからー。もしダメでも全然怒ったりしないから」

「ひ、ひゃい....」

目が全く笑ってないんですが。
チラチラ俺に助けを求める視線を送るのやめて?いたたまれなくなるから。

「そろそろ足に紐を結んで下さい」

放送で指示が出て、俺達はお互いの足をくっつける。

「俺が縛るよ、肩につかまってていいぞ」

「か、肩に!?あ...ふふ、ありがとう。お兄ちゃんと二人三脚する日が来るなんて...生きててよかった」

ボソボソと俺の頭上で何かを言いながら俺の肩に手を添える雲子。
外れないように結構きつく縛る。

「痛くないか?」

「平気だよ、お兄ちゃん」

よいしょ、と結び終わって顔を上げる。

「ブッ!!!!」

思わず吹き出してしまった。口を押さえ俯く。動揺に体が震えだす。いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやおかしい。おかしいおかしいおかしい。おかしいって。

「ど、どうしたのお兄ちゃん?」

「あ、いや、気のせいかもしれん」

俺は、信じられない光景を目にした為一回深呼吸して、もう一回顔を上げる。
あれ、いなくなっている?

「おい坊主、ワシのこと見てどうしたのじゃ」

「うわぁあ!!」

驚いて少しよろけそうになる。下の方から声がした。見ると会場の外のテントにいるはずのぬらりひょんさんが、何故かこの場にいた。
さっきの気のせいじゃなかった!?

「いやいやいや何してるんですか!?なんでここに!?」

「まぁちょっとツレと変わってもらったんじゃよ。まぁ信じんと思うがワシには特別な力があってのぅ...カッカッカ...」

高笑いしたぬらりひょんとは対照的に、絶望した顔の縫楽さんが立ち尽くしている。いやいや、このおじいちゃん妖怪の総大将の力とんでもないところでフル活用してきたんだけど!?

「まぁ、孫と一緒にワシは一位をとるからのう」

ニカッと笑うおじいちゃん。いや、縫楽さん女子でも身長高いモデル体型で、170センチくらいあるのに、おじいちゃん140センチくらいだろう?身長差やばすぎるから、俺が見えないくらいだから肩を組めるのかもわかんないけど大丈夫なのか?

「縫楽さんが、ふらふらと近づいてきた」

「さっきのデートの件なんだけど」

「あぁ、無しにしよう。やっぱりこういうのは.....」

縫楽さんは、俺と雲子を真正面に見据え、

「二人三脚で、ペアの人が紐結ぼうとしたら転んで骨折れたから、二人三脚辞退する事にしたんだよね...だから、最後の選手リレーで、あたしと委員長走るんだよね。だからそれで勝った方が村松さんと買い物デートができるって事にしてくれない?」

いやむちゃくちゃな嘘をつくんじゃありません。
辞退する事にしたんだな...ぬらりひょん折角力を使ってまで出てきたのに。
ちょっと離れて準備運動をしているぬらりひょんがいたたまれなくなる。

「.....辞退したなら仕方ない。最後の選手リレー、私達二人アンカーだったよね。いいよ?どうせ負けないけど」

雲子はフッと余裕の笑みを浮かべ、縫楽さんも力強く微笑み、俺達にくるりと背を向けた。
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