深夜のコンビニバイト始めたけど魔王とか河童とか変な人来すぎて正直続けていける自信がない

ガイア

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深夜のコンビニバイト七十五日目 座敷わらし来店

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深夜のコンビニバイト七十五日目。

今日出勤したら、背の低いおかっぱの可愛らしい女の子がレジに立っていた。

「こんにちは、お兄さん」

また新しいバイトの子か。
いつも新しい人が入ると真っ先に紹介してくれる店長は、今日は何も言ってなかったな。俺とレジを交代する為休憩室に戻っていった店長は交代してすぐ疲れたのかスヤスヤ寝てしまっていた。

「はじめまして、新しいバイトの子かな?俺は村松晴。よろしくね」

「うんっ!よろしくね!お兄さん!」

「君の名前は...?」

女の子には、名札がついていなかった。

「名札ついてないじゃん。店長に言って...」

くるりと休憩室に背を向けた俺の袖口をくいっと引っ張ると、女の子は

「あたし、笑子(えみこ)。笑う子って書いてえみこ」

「そ、そうか。苗字は?」

名札プレートは基本的に苗字だ。
仕事中も基本的に苗字で呼び合う。

「みょうじ?...えみこはえみこだよ」

おかしいね、お兄さんと笑うえみこちゃんを見て俺は首を傾げた。
なんだか、この子不思議な雰囲気だな。

「えみこちゃんは──」

「ほら、お客さん来たよ」

ピロリロピロリロ。

「い、いらっしゃいませ!」

「おぉ、久々だな、お主」

馬に乗って来店して来たのは、いつぞやの織田信長様だった。

「いやここペット禁止だって!!ダメですって!前も言ったじゃないですか!」

「おぉ、そうじゃったな」

織田信長様は、前のだるそうなオタクティーシャツではなくしっかりとしたセレブっぽいヒョウ柄のバスローブのようにものを着ている織田信長様。

「何ですかどうしたんですか突然」

「いや、久々にお主に会いとうなってな。紹介したい者もいるし」

目を細くして嬉しい事を言ってくれる織田信長様。いやこの人天下の織田信長様だぞ。何で今ただのコンビニ店員の俺が織田信長様に会いたがられるなんて事が起きてんだ。

「あ、ありがとうございます。何ですかどうしたんですか突然」

「入れ入れ。あっ馬はおいてこい」

ぞろぞろと入ってきたバスローブの男達。
ヒョウ柄バスローブ織田信長が真ん中。右にゼブラ柄バスローブの背が低い肥満体の織田信長様と同い年くらいの男性と左には、茶色のローブを着た背が低い織田信長様より少し若い猿顔の男性。

「ゲーム会社天下統一のメンバーじゃ。紹介する、右が徳川家康。左が猿こと豊臣秀吉じゃ」

「いやこのコンビニ史上一番とんでもないメンツコンビニに連れてこないでください!!」

「猿がコンビニに興味があるというのでな、連れて来たのだ。三人で買い物して帰ることにする」

三人共資産やばそう。
織田信長様が課金カード買った時も120枚とか課金カード買ってたからな。ポケットマネーも何十万何百万とかだからなこの人。大丈夫なんだろうか。

「ふふ、ふふ」

隣でえみこちゃんが笑った。

「どうしたの?」

「沢山、買い物してくれそうだねこのおじさん達」

「そういや、えみこちゃんもしかして織田信長豊臣秀吉徳川家康知らないの?全然紹介の時驚いてなかったけど」

「えみこ、このおじさん達よく知ってるよ。前にも一度会ったことがあるから」

「え!?どこで?」

「あの真ん中のおじさんの家」

えみこちゃん、信長様の家に行ったことがあるって、あぁ、ゲーム会社だから社会見学とかだろうか?

「課金カードは家で買えるからな。ワシは見たことがない酒なんかを買おうと思う。家康はどうだ?」

「そうですね、わたしも興味がありますわい。つまみコーナーなるものもあるようで、全部買っていきましょう」

「いいな、猿は何を買うんだ?バナナか?」

「バナナなんて売ってるんですかここは?」

楽しそうに会話しながら、カゴにどんどん商品を詰めていき、あれなんだっけ。何かこれ前にもあったぞ。あぁ、そうだった。
最近アンドロイドのベンリさんが来た時もそうだったな。

「ほれ、カゴが足りないぞ」

10かご分の買い物。
もう規模が違う何この人達。
三人ともバスローブのような服の懐から平然と札束を出してくる。

「ほれ、釣りはいらんぞ」

三人に札束を渡され、この分のお会計ベンリさんがここにいてくれたらだいぶ楽だったよなぁ...。
なんて考えながら、札束を両手で突き返す。

「そういうわけにはいきませんので...」

気が遠くなるようなレジを打つ。
隣でえみこちゃんはケタケタ笑っていた。
レジ経験がないらしく、俺が打ってるのを見ていたいというのでとにかく時間はかかるがレジを打っていく。

「楽しい?お兄さん?嬉しい?お金沢山だね」

俺の隣でレジ台に頬杖をつきながら笑うえみこちゃんに、

「嬉しいというか、楽しいというか、今俺は無だよ。無。これだけ沢山の商品が前に現れたら、店員は感情を殺してただレジを打つのみだよ」

えみこちゃんは、よくわからないというように首を傾げた。

「袋はどうなさいますか?」

「あるだけくれ。物は馬に乗せて帰ることにする」

大量の商品を袋に入れてあげて、馬に積み荷を乗せて豪華三人は帰って行った。

「はぁー、疲れた」

レジの下で膝をつく俺を見て、えみこちゃんはよしよしと俺の頭を撫でた。

「すごいね、お兄さん。よしよし、偉いね」

「ありがとう。えみこちゃんも次はレジ頼むよ」

「ううん、えみこはもう行くよ」

にっこり笑ったえみこちゃんは、なんだか寂しげだった。

「え?勤務時間終わり?」

「ううん、えみこは次の場所に行かないといけないから」

「ん、どういうこと?店長にちょっと話を...」

休憩室から店長が飛び出てきた。

「ごめん、村松君一人にして!お客様は大丈夫だった?」

「え?」

「今日朝からとにかくお客様が沢山来店してくださって...俺も棚がすっからかんだったから品出しがやっと終わったと思ったら、疲れてさっき寝ちゃって...深夜もお客様が沢山きたら一人じゃ大変だと思って!今日昼と朝にフルで皆入ってもらっちゃったから深夜に入ってくれる人がいなくてね...」

何を言っているんだ店長。

「あれ、またとんでもなく商品少なくなってる...やっぱりお客様、深夜も来たんだねぇ...ごめんね、一人にして」

「て、店長...?」

俺は、隣にいるえみこちゃんを指差して震える声を絞り出す。

「あ、新しくバイトで入った俺の今隣にいるえみこちゃんは...」

「え?村松君?隣?新しくバイトで入った子なんて、いなかったと思うけど」

背筋が凍った。
隣でえみこちゃんは、ポツリと呟いた。

「あたし、座敷童子(ざしきわらし)。童子っていうのが可愛くなくて気に入らなかったから、わらしを笑うって字で、笑子(えみこ)って名乗ってるの」

えみこちゃんは、たたたっと走り出して、入り口でくるりと振り返った。

「お兄さんは、あたしが見えてラッキーだね。きっとこの先いい事あるよ」

「えみこちゃん!」

ピロリロピロリロ。

「ひっ!?誰も来店してないのに、何で扉開いたの!?」

店長がビビり、俺は目を見開いて動けなかった。
ここのコンビニ、変わった人来すぎて知らないうちに俺、霊感とか強くなってたりするんだろうか。
でも、えみこちゃんみたいな子が来るのは悪くないな、なんて考えながらごっそりなくなった商品棚を見て、俺と店長は品出しを始めた。
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