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深夜のコンビニバイト八十三日目 透明人間来店
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深夜のコンビニバイト八十三日目。
ピロリロピロリロ。
「いらっ.....」
外は台風で、ビュウと雨風が店内に入ってきた。
扉は開いているのに、お客様はいない。
深夜にこういう事があると本当に怖くて店長すぐ呼びたくなるんだけど。
時刻は深夜三時半台風の影響でカタカタと扉を叩く音も相まって余計に怖い。
明るいこちら側とは対照的に雨降る深淵の向こう側をぼうっと見つめながら、扉が閉まる音を聞いた。怖い。
まぁ、あれだ。
何かの誤作動だろう、と考え直してフッと目を閉じると、カタカタという風の音と共に、カツン、カツンという人間の足音のようなものも聞こえる。
「あれ」
店内を見回してみても、誰もいない。
足音、何で?気のせい?
カツン、カツン。
待て、待て待て待て待てやはり聞こえるぞ、嘘だろ。幽霊?お化け?待って無理。無理だよ無理。怖くて俯いた時、俺は恐ろしいものを見てしまった。
店内には、何もいない。
見回しても誰もいないのに、店の床に、台風の中、コンビニにきたのだろうとわかる、泥と濡れた靴の足跡が出来ているのだ。
足跡だけ、その足跡はお菓子コーナーから、どんどん俺の方に近づいてくる。
いやいやいやいやいやいや嫌!!待って待て、誰もいないのに足音と足跡がこっちに近づいてくる恐怖は計り知れないものだった。半泣きになりながら、俺は必死に見ないように考えないようにしようと目を閉じてみるが、足跡は消えないし台風の中深夜に一人でレジに立っているという事実は変わらない。
恐る恐る顔を上げると、板のチョコレートが浮いていた。
「ヴァッ...!?...な、チョコレートが、う、浮いて...」
完全にお化けか幽霊の類ということを察した。いやだってチョコレートだけが浮いて足音と共にこっちに近づいてきてるんだよ!?いつからこのコンビニはポルターガイストの住処になってたんだよ!!深夜にコンビニバイトしてたけど全然気がつかなかったよ!
先に来てた住人の俺にチョコ持って挨拶に来たの!?怖い怖い待って。
チョコレートは、レジ台に置かれた。
そして、レジ台のコイントレーに132円がちゃらり。
俺は、132円とレジ台に置かれたチョコレートを交互に見た。
「まさか...買うってのか?」
透明のポルターガイストはチョコレートを買う為にこちらに歩いてきたらしい。
俺は、純粋にこのポルターガイストはいい人だと思った。透明なら、隠れて持っていけばいいのに、ちゃんとこうしてレジに来てお金を払っている。
お客様だ、俺はハッとして、ピシッと姿勢を正した。
「いらっしゃいませ、ありがとうございます」
チョコレートを購入されたので、レジを打って丁度132円を受け取る。
「ありがとうございます丁度お預かり致します」
ポルターガイストは答えない。
だよな、まぁポルターガイストだからな、喋るわけないか。
「こちら、レシートになります」
レシートを差し出すと、
「あ、レシートいりません」
空間から声がした。
「え?」
「え?」
「お?」
「ん?」
いや、いやいやいやいやいやいやいやいや。俺は首をブンブン振った。
気のせいだろう、聞き間違いだろう。
黙ってレシートを捨てた。反応してしまって恥ずかしい。
「ありがとうございました」
よく考えたら、よく考えなくても俺、はたから見たら透明な空間に接客してる人になる?受け答えまでして。頭を下げながら、俺は自分の今している事に疑問を抱く。お客様で、お金を払ってくれて、物を買ってくれたのに、実態がないと言うだけでどうしてこんなに不安になるのだろう、そこにお客様がいるということをしっかりと肯定しづらくなるのだろう。
チョコレートが浮いて、見えないが、相手がレジから離れていくのを感じた。
「あの、またお越しください」
もし透明になれたら、お金を払わなくても物が手に入るし、女湯だって覗き放題だし、有料のところに無料で入る事ができるだろう。
だが、俺は今回来てくださったポルターガイストのお客様は、透明でありながら当たり前に、当たり前ではあるが当たり前にお買い物をして、欲しいものを手にしていたのを見て思わず言ってしまったのだ。
怖いとはもう感じなかった。
「ん、また来るよ」
中性的な声で返事が空間から返ってきた。
「いややっぱり気のせいじゃなかった、え!?喋れたんですか!?」
声のした方を向いて声を上げてしまった。
「まぁね、ポルターガイストや幽霊じゃないんだから喋れるでしょ」
また声が帰って来る。衝撃的事実の連続に俺はまた声を上げてしまった。
「え!?ポルターガイストや幽霊じゃなかったんですか!?」
「違うよ、自分は透明人間。君と色が違うだけで、同じ人間だよ。喋れるし、こうしてチョコだって買って食べたりもできる。ただ、あまりにもお化けや幽霊に間違われていちいち説明するの面倒だから喋らんだけ。自分は他と違って万引きやら女子トイレ入るとか興味ないし、こうして買い物する変わり者さ」
「触ったりできるんですか?」
「透明だから不可能。人と話したのなんて何十年ぶりかなぁ。君は自分の事嬉々として見ないからなんか受け答えしちゃった。透明人間なんて、言葉だけで羨ましいだろう?でも自分はそうは思わない。透明人間は"透明人間らしく細々と生きなくちゃいけない"それがどれだけ生きづらいか君達色のついた人間にはわからないんだろうなぁ」
淡々とスラスラと、話す年齢顔性別のわからない初めてのお客様に、俺は本当はこの人は人と話すのが好きなんだろうなと感じた。
「透明人間の自分から言わせてもらうと、色のついた君達が逆に羨ましいと感じるよ」
色のついた君達、俺はそれを聞いて自分の姿を、自分の色のついた両手を無意識に見つめていた。
ピロリロピロリロと、透明人間さんが帰る音がして、俺は扉を呆然と見つめていた。
透明人間さんにとっては、自分達はただ透明なだけの普通の人であり、俺達はただ色のついただけの同じ人間なのだ。
俺達は無意識に彼らを差別的に透明人間とくくっていたが、見えないだけで彼ら、彼女らは、電車の隣の席にいたり、一緒に温泉に入っていたり、そしてコンビニのお客様として来店されたり、一緒に過ごしているのかもしれない。
ピロリロピロリロ。
「いらっ.....」
外は台風で、ビュウと雨風が店内に入ってきた。
扉は開いているのに、お客様はいない。
深夜にこういう事があると本当に怖くて店長すぐ呼びたくなるんだけど。
時刻は深夜三時半台風の影響でカタカタと扉を叩く音も相まって余計に怖い。
明るいこちら側とは対照的に雨降る深淵の向こう側をぼうっと見つめながら、扉が閉まる音を聞いた。怖い。
まぁ、あれだ。
何かの誤作動だろう、と考え直してフッと目を閉じると、カタカタという風の音と共に、カツン、カツンという人間の足音のようなものも聞こえる。
「あれ」
店内を見回してみても、誰もいない。
足音、何で?気のせい?
カツン、カツン。
待て、待て待て待て待てやはり聞こえるぞ、嘘だろ。幽霊?お化け?待って無理。無理だよ無理。怖くて俯いた時、俺は恐ろしいものを見てしまった。
店内には、何もいない。
見回しても誰もいないのに、店の床に、台風の中、コンビニにきたのだろうとわかる、泥と濡れた靴の足跡が出来ているのだ。
足跡だけ、その足跡はお菓子コーナーから、どんどん俺の方に近づいてくる。
いやいやいやいやいやいや嫌!!待って待て、誰もいないのに足音と足跡がこっちに近づいてくる恐怖は計り知れないものだった。半泣きになりながら、俺は必死に見ないように考えないようにしようと目を閉じてみるが、足跡は消えないし台風の中深夜に一人でレジに立っているという事実は変わらない。
恐る恐る顔を上げると、板のチョコレートが浮いていた。
「ヴァッ...!?...な、チョコレートが、う、浮いて...」
完全にお化けか幽霊の類ということを察した。いやだってチョコレートだけが浮いて足音と共にこっちに近づいてきてるんだよ!?いつからこのコンビニはポルターガイストの住処になってたんだよ!!深夜にコンビニバイトしてたけど全然気がつかなかったよ!
先に来てた住人の俺にチョコ持って挨拶に来たの!?怖い怖い待って。
チョコレートは、レジ台に置かれた。
そして、レジ台のコイントレーに132円がちゃらり。
俺は、132円とレジ台に置かれたチョコレートを交互に見た。
「まさか...買うってのか?」
透明のポルターガイストはチョコレートを買う為にこちらに歩いてきたらしい。
俺は、純粋にこのポルターガイストはいい人だと思った。透明なら、隠れて持っていけばいいのに、ちゃんとこうしてレジに来てお金を払っている。
お客様だ、俺はハッとして、ピシッと姿勢を正した。
「いらっしゃいませ、ありがとうございます」
チョコレートを購入されたので、レジを打って丁度132円を受け取る。
「ありがとうございます丁度お預かり致します」
ポルターガイストは答えない。
だよな、まぁポルターガイストだからな、喋るわけないか。
「こちら、レシートになります」
レシートを差し出すと、
「あ、レシートいりません」
空間から声がした。
「え?」
「え?」
「お?」
「ん?」
いや、いやいやいやいやいやいやいやいや。俺は首をブンブン振った。
気のせいだろう、聞き間違いだろう。
黙ってレシートを捨てた。反応してしまって恥ずかしい。
「ありがとうございました」
よく考えたら、よく考えなくても俺、はたから見たら透明な空間に接客してる人になる?受け答えまでして。頭を下げながら、俺は自分の今している事に疑問を抱く。お客様で、お金を払ってくれて、物を買ってくれたのに、実態がないと言うだけでどうしてこんなに不安になるのだろう、そこにお客様がいるということをしっかりと肯定しづらくなるのだろう。
チョコレートが浮いて、見えないが、相手がレジから離れていくのを感じた。
「あの、またお越しください」
もし透明になれたら、お金を払わなくても物が手に入るし、女湯だって覗き放題だし、有料のところに無料で入る事ができるだろう。
だが、俺は今回来てくださったポルターガイストのお客様は、透明でありながら当たり前に、当たり前ではあるが当たり前にお買い物をして、欲しいものを手にしていたのを見て思わず言ってしまったのだ。
怖いとはもう感じなかった。
「ん、また来るよ」
中性的な声で返事が空間から返ってきた。
「いややっぱり気のせいじゃなかった、え!?喋れたんですか!?」
声のした方を向いて声を上げてしまった。
「まぁね、ポルターガイストや幽霊じゃないんだから喋れるでしょ」
また声が帰って来る。衝撃的事実の連続に俺はまた声を上げてしまった。
「え!?ポルターガイストや幽霊じゃなかったんですか!?」
「違うよ、自分は透明人間。君と色が違うだけで、同じ人間だよ。喋れるし、こうしてチョコだって買って食べたりもできる。ただ、あまりにもお化けや幽霊に間違われていちいち説明するの面倒だから喋らんだけ。自分は他と違って万引きやら女子トイレ入るとか興味ないし、こうして買い物する変わり者さ」
「触ったりできるんですか?」
「透明だから不可能。人と話したのなんて何十年ぶりかなぁ。君は自分の事嬉々として見ないからなんか受け答えしちゃった。透明人間なんて、言葉だけで羨ましいだろう?でも自分はそうは思わない。透明人間は"透明人間らしく細々と生きなくちゃいけない"それがどれだけ生きづらいか君達色のついた人間にはわからないんだろうなぁ」
淡々とスラスラと、話す年齢顔性別のわからない初めてのお客様に、俺は本当はこの人は人と話すのが好きなんだろうなと感じた。
「透明人間の自分から言わせてもらうと、色のついた君達が逆に羨ましいと感じるよ」
色のついた君達、俺はそれを聞いて自分の姿を、自分の色のついた両手を無意識に見つめていた。
ピロリロピロリロと、透明人間さんが帰る音がして、俺は扉を呆然と見つめていた。
透明人間さんにとっては、自分達はただ透明なだけの普通の人であり、俺達はただ色のついただけの同じ人間なのだ。
俺達は無意識に彼らを差別的に透明人間とくくっていたが、見えないだけで彼ら、彼女らは、電車の隣の席にいたり、一緒に温泉に入っていたり、そしてコンビニのお客様として来店されたり、一緒に過ごしているのかもしれない。
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