95 / 96
深夜のコンビニバイト九十五日目 俺がコンビニバイトを始めたわけ 後編
しおりを挟む
俺は家に帰ってきた。
両親は、死んだような目をして全く笑わなくなった俺を見て、泣きそうな顔をした。
「魂を遊園地においてきたのか!?」
俺は黙って首を振った。母さんと父さん妹達は帰ってきた俺にたくさん話しかけてくれたり、美味しいご飯を作ってくれたり優しかった。俺は、こんなに若くして働いていない事が恥ずかしくてお店にも行きたくなくなって、また働くってなったら理不尽なお客と関わることになるんだろうなと思って全く家に引きこもるようになった。20歳になった俺は、成人式にも参加しなかった。
同級生に「なんの仕事してるの?」と聞かれるのが怖かったからだ。
俺が出かけるところといえば深夜のコンビニくらいだった。黒いフードをかぶってマスクをして、いつもみたいに死んだ目をしてポケットにぶっきらぼうに両手を突っ込んで向かう深夜の道が好きだった。人が全然いなくて好きだった。
「いらっしゃいませ!」
俺をいつも迎えてくれるのはいつもニコニコしていて爽やかな黒髪の短髪をオールバックにした黒縁メガネの元気なお兄さんだった。
「毎日来てくれてありがとう!いつも顔色悪いけど大丈夫?ちゃんと食べてる?」
苗字は"沢口さん"「深夜だからこそテンションが上がるよね?」と言いながら深夜にも元気で、たまにすげぇ失礼な事も言ってくる。最優秀賞は、「ゾンビみたいな顔してるけどちゃんと食べてる?土でも食ってるの?」だった。言っていい事と悪い事がある。
そんな人だし、年齢も若くて近いって事もあって俺はちょっとずつ話しかけられるから話すようになって、仲良くなっていった、と思う。
「うちは店長がマジで神だからね。本当優しくて可愛くて最高なんだよね」
「そうですか」
「でも、ゴリラを三秒で仕留められそうな見た目してんの。ウケるよ」
「失礼すぎる」
女性に対して普通言う事じゃないだろ。そんな見た目の店長もめちゃくちゃ怖いけど!
しばらくして、突然沢口さんは、あっけらかんと言った。
「村松君、俺今日でバイト辞めるんだよね」
「え.....は、は?冗談ですよね」
「んーん、冗談じゃない。海外に彼女がいてね。一緒に住みたいから海外に行くのよ」
肘をついて悪戯っぽく微笑む彼に俺は思考が停止した。明日?嘘だろ?なんで?海外?
「へへーびっくりしただろ?俺に彼女がいたの?って感じでしょ?」
「いや、そうじゃなくて、え?辞めるって」
「本当だよ。俺明日ブラジルに行くから」
「なんで、こんなギリギリ」
「村松君は、深夜にこう毎日俺に会いにコンビニに通ってくれた大好きなお客様だったからだよ。俺さ、正直こんな明るく見えて接客がクソ嫌いなんだよね。ニコニコしてるけど裏では毒づいてるっていうか。それで前の仕事先でお客と上手くいかなくてさ。でも働かないと海外いけないって、深夜にしてもらったんよ。深夜は変わった客多いって言われてたけど、深夜の方が断然楽しいぜ?村松君もその変わったお客様の中に入ってるんだけどね。あはは」
「何言ってんすか...何でそんな、明日だなんて」
「俺こういうの苦手なんだよ。湿っぽいの。だから爽やかに伝えてさらっと行こうと思って」
俺の肩にポンと手を乗せて沢口さんはニコッと笑った。俺は、知らないうちにコンビニに来るのが楽しみになっていた。この人と話ができるから。一人ぼっちで家にいる俺とこうして明るく話してくれる彼に、俺は救われていたのだろう。
「俺がいなくなって寂しいとは思うけど泣くなよ男なんだから」
「泣くわけないじゃないですか。沢口さんが行くくらいで」
声が震えた。嫌だ。泣きたくない。でも、だめだ。込み上げてくる。
「俺は寂しいよ。正直ブラジルに側室として連れて行きたいくらいだよ」
「...気持ち悪い事言わないでください」
「ははっ全く村松君俺と話す期間多すぎて毒舌になったよね本当~あ、村松君」
沢口さんは、思い出したようにポンと手を打った。
「働いてないんだよね?俺店長に話つけておいたから」
「何がですか」
「俺が抜け枠、君が入ってくれるって」
「はぁ!?」
***
俺は、なんだかんだ押し切られて面接に行って可憐な美少女だと思っていた初対面の店長にちびりそうになったわけだが、何だかんだあの人のお陰で楽しい毎日を過ごしている。
行列も昼のコンビニで行列のお客様の前に立つ時は、人が多くて混乱してしまう事が多いが、回を重ねる事に落ち着いてきた。
俺は、なんだかんだ深夜のコンビニで働いている事が楽しかったりするのだ。
「いつも、ご馳走様です店長」
ラーメン奢ってもらって帰り道。
「いやいや、深夜に働いてくれていた沢口君が君みたいに優秀な人を紹介してくれて本当に助かったよ。深夜に働いてくれるのって、張山君くらいしかいないんだけど、彼にはお昼を任せたいから」
「優秀だなんて」
「いやいや優秀だよ。いつも本当に感謝してるんだ」
店長には、一応俺の過去の事を話した。
そしたら、俺の肩に手をポンと置いて、
「俺基本的に隣の部屋で寝てるから何かあったらすぐ呼んでね。俺はお客様は大事だと思ってるけどそれ以上に君達従業員を大事に思っているからさ...ここで働いてくれて本当に感謝してるんだ。こんな事いうの恥ずかしいけど」
店長は、「もし俺が信用に値しないと思ったら辞めていい」とまで言ってくれた。
俺は、店長を信じてよかったと思っている。本当にこの人の下で働く事ができてよかったと思っているよ俺は。
「今度は俺に奢らせて下さい」
「ありがとう。でもいつもお世話になってるから」
店長のこういう所が俺は大好きなんだ。そして、きっとコンビニの店員もお客様もこの人のこういう所が大好きなのだと思う。
両親は、死んだような目をして全く笑わなくなった俺を見て、泣きそうな顔をした。
「魂を遊園地においてきたのか!?」
俺は黙って首を振った。母さんと父さん妹達は帰ってきた俺にたくさん話しかけてくれたり、美味しいご飯を作ってくれたり優しかった。俺は、こんなに若くして働いていない事が恥ずかしくてお店にも行きたくなくなって、また働くってなったら理不尽なお客と関わることになるんだろうなと思って全く家に引きこもるようになった。20歳になった俺は、成人式にも参加しなかった。
同級生に「なんの仕事してるの?」と聞かれるのが怖かったからだ。
俺が出かけるところといえば深夜のコンビニくらいだった。黒いフードをかぶってマスクをして、いつもみたいに死んだ目をしてポケットにぶっきらぼうに両手を突っ込んで向かう深夜の道が好きだった。人が全然いなくて好きだった。
「いらっしゃいませ!」
俺をいつも迎えてくれるのはいつもニコニコしていて爽やかな黒髪の短髪をオールバックにした黒縁メガネの元気なお兄さんだった。
「毎日来てくれてありがとう!いつも顔色悪いけど大丈夫?ちゃんと食べてる?」
苗字は"沢口さん"「深夜だからこそテンションが上がるよね?」と言いながら深夜にも元気で、たまにすげぇ失礼な事も言ってくる。最優秀賞は、「ゾンビみたいな顔してるけどちゃんと食べてる?土でも食ってるの?」だった。言っていい事と悪い事がある。
そんな人だし、年齢も若くて近いって事もあって俺はちょっとずつ話しかけられるから話すようになって、仲良くなっていった、と思う。
「うちは店長がマジで神だからね。本当優しくて可愛くて最高なんだよね」
「そうですか」
「でも、ゴリラを三秒で仕留められそうな見た目してんの。ウケるよ」
「失礼すぎる」
女性に対して普通言う事じゃないだろ。そんな見た目の店長もめちゃくちゃ怖いけど!
しばらくして、突然沢口さんは、あっけらかんと言った。
「村松君、俺今日でバイト辞めるんだよね」
「え.....は、は?冗談ですよね」
「んーん、冗談じゃない。海外に彼女がいてね。一緒に住みたいから海外に行くのよ」
肘をついて悪戯っぽく微笑む彼に俺は思考が停止した。明日?嘘だろ?なんで?海外?
「へへーびっくりしただろ?俺に彼女がいたの?って感じでしょ?」
「いや、そうじゃなくて、え?辞めるって」
「本当だよ。俺明日ブラジルに行くから」
「なんで、こんなギリギリ」
「村松君は、深夜にこう毎日俺に会いにコンビニに通ってくれた大好きなお客様だったからだよ。俺さ、正直こんな明るく見えて接客がクソ嫌いなんだよね。ニコニコしてるけど裏では毒づいてるっていうか。それで前の仕事先でお客と上手くいかなくてさ。でも働かないと海外いけないって、深夜にしてもらったんよ。深夜は変わった客多いって言われてたけど、深夜の方が断然楽しいぜ?村松君もその変わったお客様の中に入ってるんだけどね。あはは」
「何言ってんすか...何でそんな、明日だなんて」
「俺こういうの苦手なんだよ。湿っぽいの。だから爽やかに伝えてさらっと行こうと思って」
俺の肩にポンと手を乗せて沢口さんはニコッと笑った。俺は、知らないうちにコンビニに来るのが楽しみになっていた。この人と話ができるから。一人ぼっちで家にいる俺とこうして明るく話してくれる彼に、俺は救われていたのだろう。
「俺がいなくなって寂しいとは思うけど泣くなよ男なんだから」
「泣くわけないじゃないですか。沢口さんが行くくらいで」
声が震えた。嫌だ。泣きたくない。でも、だめだ。込み上げてくる。
「俺は寂しいよ。正直ブラジルに側室として連れて行きたいくらいだよ」
「...気持ち悪い事言わないでください」
「ははっ全く村松君俺と話す期間多すぎて毒舌になったよね本当~あ、村松君」
沢口さんは、思い出したようにポンと手を打った。
「働いてないんだよね?俺店長に話つけておいたから」
「何がですか」
「俺が抜け枠、君が入ってくれるって」
「はぁ!?」
***
俺は、なんだかんだ押し切られて面接に行って可憐な美少女だと思っていた初対面の店長にちびりそうになったわけだが、何だかんだあの人のお陰で楽しい毎日を過ごしている。
行列も昼のコンビニで行列のお客様の前に立つ時は、人が多くて混乱してしまう事が多いが、回を重ねる事に落ち着いてきた。
俺は、なんだかんだ深夜のコンビニで働いている事が楽しかったりするのだ。
「いつも、ご馳走様です店長」
ラーメン奢ってもらって帰り道。
「いやいや、深夜に働いてくれていた沢口君が君みたいに優秀な人を紹介してくれて本当に助かったよ。深夜に働いてくれるのって、張山君くらいしかいないんだけど、彼にはお昼を任せたいから」
「優秀だなんて」
「いやいや優秀だよ。いつも本当に感謝してるんだ」
店長には、一応俺の過去の事を話した。
そしたら、俺の肩に手をポンと置いて、
「俺基本的に隣の部屋で寝てるから何かあったらすぐ呼んでね。俺はお客様は大事だと思ってるけどそれ以上に君達従業員を大事に思っているからさ...ここで働いてくれて本当に感謝してるんだ。こんな事いうの恥ずかしいけど」
店長は、「もし俺が信用に値しないと思ったら辞めていい」とまで言ってくれた。
俺は、店長を信じてよかったと思っている。本当にこの人の下で働く事ができてよかったと思っているよ俺は。
「今度は俺に奢らせて下さい」
「ありがとう。でもいつもお世話になってるから」
店長のこういう所が俺は大好きなんだ。そして、きっとコンビニの店員もお客様もこの人のこういう所が大好きなのだと思う。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
127
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる