紋章斬りの刀伐者〜無能と蔑まれ死の淵に追い詰められてから始まる修行旅〜

覇翔 楼技斗

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五章 帝国の洗礼

百六十七話 仲間の確認

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 もはや人とは呼べぬ状態となった『トンテ』と呼ばれる人物は、あれだけの勢いで吹き飛ばしたのにも関わらず何の痛みを感じてない様に立ち上がる。

 やはり異常なまでに頑丈。ガイスのように単に根性で耐えているだけではなく、人間とは思えないほどに肉体が硬質化していた。

「ガイス?」
「……ちょっとだけ時間をくれ」
「わかった」

 俺が言いたいことを理解したのか、ガイスは時間稼ぎを要求してくる。
 俺はその要求に応え、抜刀することはせず納刀したままで刀を振るう。

 魔物は俺の予想通り体が頑丈である代わりのように速度は遅かった。

「ケァァ!!」
「……っ!どいつもこいつも異常な筋力しやがって!」
「テル君も十分だと思うよ~♪」

 ボロ切れのような服の節々から見える肉体は明らかに栄養失調。骨だけでなく血管も浮き出たその肉体に筋力を感じられないのにも関わらず、馬鹿げた腕力で地面を抉った。

 まぁ、別に俺も魔力で身体強化をすれば出来なくはないが、拳で地面殴ったり抉ったりするとか普通に痛いだろ……。

 蹴りならまだしも素手で強引に攻撃したりする時があるとすれば、それは緊急事態の時だけだろう。

「……殆ど原型は残ってないが、ギリギリ見覚えのある服。意識して聞けば分かる奇声の中に残っているあいつの声。そして、俺が絶対に見間違わないあいつの紋章。……間違いない、こいつは『トンテ』だ」
「っ!?や、やっぱり……。トンテ!目を覚ますでやんすよ!」

 俺が魔物の周りを回避し続け、時折ガイスが殴り飛ばす。
 それを繰り返すことで観察する時間を稼いでいると、ついにガイスがこいつがトンテだと確信した。

 俺は能力を使い紋章を見るが……駄目だな、大した異常は見当たらない。
 肉体が異形とかした上で強化される現象。それに関しては二体も見たことがあるが、そのどちらも紋章に異常があったのだ。
 
 となると、他に何か異常があるのか?まさか本当に魔物化した?いや、魔境ならまだしもこんな街中でそんなことが有り得るのか?

 ……いや待て、魔境?魔境で可能なら、この街でも可能かもしれない。それが可能なほどに、最近の技術の発展は著しい。

「あっ、そうでやんす!ボス、テルの兄貴!トンテの体のどこかに変な物が着いてないでやんすか!?」
「変な物?まさか、噂の話か?」
「そうでやんす!トンテが噂と同じ状況なら、何か変な物が体に着いてるはずでやんす!」
「体の何処かに変な物……か?」

 最近、俺達も拝むことになった『ルゼハ原液』。
 あれは魔境から採取された液体であり、あの液体をきっかけに魔境への注目度が上がった。

 ならば魔境で発見、採取された物品の研究は必然的に進むだろう。
 その中に、人を魔物に作り替える物があってもおかしくない。魔境とはそれほどまでに未知で異常なのだ。

「全身を見たが何もおかしなところは無い。もし何処かにあるとすれば……シエ!」
「はいよ~♪……『布風旋ふふうせん』!」
「「っ!?」」

 俺はもう慣れてしまった魔力が抜かれる感覚に二人が驚くような反応をした直後、シエが放った魔術がトンテにぶつかり弾ける。
 相変わらず俺の思考を読んでくれて助かる。

 すると、風の魔術が吹き荒れトンテのボロボロの服だけが吹き飛んだ。恐らくその為だけの魔術なのだろう。

 ……そういえば、新しい魔術はそれなりに構築に時間がかかるのでは?……まぁいいか。

「ひゃ!?と、トンテのトンテしゃんが!?でやんす!?」
「綺麗に吹き飛ばしすぎだぞ、シエ」
「流石にあの布切れは丁度よく飛ばすのは無理かな~♪」
 
 シエの魔術のせいで大切な所までモロ見えになってしまったが、トンテが何も隠せなくなったのでこの際なんでもいいとしよう。

 ネルのなんとも言えない反応を俺達は軽く無視しながら、改めてトンテの肉体を見る。
 
 その肉体はやはり普通の人間とはかけ離れており、肌の色は青白いを通り越してもはや水色。
 そこに浮き上がった骨と紫色の血管が気色悪くトンテの体中を蠢いていた。……蠢いていた?

「ねね、血管ってあんなにウネウネするっけ~?」
「なわけないでやんす!それにあの感じだと……」
「明らかに背中に何かがある!」
 
 俺はトンテがギリギリ追いつけない速度で彼の周りを一周することで、俺達がその背中を見れるように体の向きを誘導する。

 そうして俺達の目に飛び込んできたのは、まるでトンテの背中に根を張るように蠢く植物のような塊だった。

「な、なんだありゃ!?魔物が取り憑いてるのか?!」
「それならむしろ良かったかもな。魔物なら倒せばどうにかなる可能性があった」

 世の中には植物のような魔物も存在しており、生物に種子を寄生させて洗脳し遠くへ運ばせる。なんて特性を持った魔物も居るらしい。

 だが、そういうタイプの魔物は基本的に大元を叩けば自然と消滅する。だが、改めてその塊を能力で見た俺は理解してしまった。

 ……もう半分以上、この植物のような物とトンテは一体化している。
 肉体と魔力も共有してるが故に、俺の目では布越しにこいつを捉えられなかったのだ。

 これはもう、冗談抜きで魔物化していると言っても過言では無いだろう。

「ガイス、ネル。申し訳ないが、こいつはもう……」
「……そうか」
「な、なんてことを言うんでやんすか!まだそんなこと分からないでやんすよ!トンテ、目を覚ますでやんす!」

 もう助からない。そう、俺が言いたい事を察したガイスはとっくの前からわかっていたように視線を下げ、ネルは俺の事を非難する。

 俺は二人の仲間を諦めろと言ってるのだ。ネルが憤慨するのだって当然だろう。
 だが、助ける方法がない以上覚悟は決めなければならないのだ。
 
「もういい。辞めろネル」
「で、でやんすが!トンテも立派な自分達の仲間で立派な家族の一人なんでやんすよ!?自分達が助ける事を諦めちゃダメでやんす!ボスゥ!」
「……」

 ネルの悲痛な訴えが路地裏に響く。きっと、ネルも理解しているのであろう。いや、こいつの姿を初めて見た時から全員わかっていたんだ。
 こいつはもう人間どころか生物ですら無く、ただの『動く死体』でしかないんだと。

 この気色の悪い植物の様な物に魔物として作り替えられ、化け物に成り下がったのだと。
 殺す以外に助ける方法がないことも。

「……本当なら、俺自身の手で止めてやりてぇ。だが、今の俺には無理みてぇだ。……頼めるか」
「任せろ」
「だ、ダメでやんす!や、やめて!辞めるでやんすぅ!!」
「ぼぇ……ジャアアア!!!」

 ガイスはネルが飛び出さないように抱え、ネルはその腕の中で暴れる。

 俺の殺気を感じ取ったのか、今まで以上の勢いでこちらに走ってくるトンテ。
 その両手を前に突き出して走る様子は、まるで少しでも早く救いを求めているようで。

 俺は即座に刀の紐を解いで振り向きざまに抜刀の構えを取り、いつかの為に練習しておいた技をトンテに向けて使う。

「……『穢月みなつき』」
 
 抜刀は一瞬。狙いは首だけ。残心さえ許さず、痛みも恐怖すら与えない贖罪の一撃。

 二つの重みのある物体が地面に落ちる音を聞きながら、俺はゆっくりと息を整えるのであった。


 ♦♦♦♦♦


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『【短編】殺戮に嫌気が刺した死神様は、純白少女に契約を持ち掛けられる』という作品も投稿してみました。
 二千文字程度なので良ければ見てみてください!

 
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