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五章 帝国の洗礼
百六十六話 二人の作業
しおりを挟む「ん~?もしかしてテル君、噂について考えてる~?」
「まぁな。少なからず噂について心当たりがあるし、『我仰団』とやらも気になる。けど今はそれより……」
俺は椅子に座ったまま同じく椅子に座ったシエから視線を外し、少しだけ離れた場所で作業する二人に視線を向けた。
ネルが袋に入った食材を取り出し、じっくりと品定め?をした後に水で洗ってガイスに渡す。
そしてガイスは受け取った食材を切ったり捌いたりした後に焼いたり茹でたり……。
そう、二人は共同作業で料理をしているのだ。
沢山の食材を見てご馳走だな!と言っていたので何か作るのかと思ってはいたが、勝手に二人が作るという選択肢が頭から消えていた。
特に驚いたのは、あの豪快な攻撃からは想像できないガイスの繊細な包丁使い。人は見た目によらないようだ。
使ってる食材が受け取った物全てを使ってるので何ができるのか全く予想出来なかった。
「ほらよ、食いな」
「名ずけて、『漢の取り立て飯』でやんす!」
「た、食べずらいな……」
「背徳感マシマシだね~♪」
『飯』って確か何処かの国で使われる食材の事じゃ……まぁいいか。
二人が作ったなんとも名状しがたいごちゃごちゃ料理を恐る恐る口に運ぶ。
いくつか見覚えのない食材も入っていたが、匂いも別に変では無いので不味くは無い筈……だよな?
恐らく焼い肉であろう物体と野菜を口の中にかきこみ、しっかりと味わいながら咀嚼する。……うん、普通に美味いな。
「美味し~♪」
「ふっ、この程度お手の物だ」
「ボスはなんでも出来るでやんすからね!」
これはネルが言ったようにまさに男料理と言った感じで、とにかく食えればいい!という気持ちを前面に押し出した料理。
所々で突然味が変わったり味が薄かったりするがそれもまた味変的な効果を産み、何の苦もなく食べ切ることが出来た。
因みにだが、この場所はガイス達が住んでいる誰にも知られぬ秘密基地らしく、キッチンやリビング等がありちゃんと家として成り立っている基地であった。
……まぁ、かなり汚れていたり床に物が散らばっているが。
「うん、確かに美味いな。この料理は独学で学んだのか?」
「いや、昔世話になった酒場のマスターから教わった。なんでも美味い料理に出来る裏技をな」
「当然自分もできるっすよ!もぐもぐ。ぼひゅのひゃへいでやんしゅからへ!(訳:ボスの舎弟でやんすからね!)」
「ったく、食いながら喋るな」
ネルが食べ物を口に含んだまま話す自慢に、ガイスは満更でもなさそうにその頭を撫でながらネルを注意する。
頭を撫でられたネルは嬉しそうに笑みを浮かべ、黙ってご飯を食べ始める。
その笑顔はまるで少女かと思うほど可愛らしく、ネルが少年であることを忘れてしまいそうな……本当に少年だよな?
なんとなく勝手に少年だと決めつけていたが、実は違うかもしれない。
俺は改めてネルの容姿を見る。髪は頭の後ろで括った赤毛で肌は日焼けで少し黒め。
服装は確実にネルにサイズの合っていないブカブカの服なのでガイスのお下がりなのかもしれない。
そのブカブカの服のせいで体格は分からないが、袖から見える手はかなり小さく、そもそもネルの声もよく聞けば少年と言うより……。
「ふわぁ、いっぱい食べたでやんす!……ん?そんなにこっちの事を見て、どうしたでやんすか?」
「いや、ちょっと気になる事があってな。質問してもいいか?」
「いいでやんすよ!自分がなんでも答えて……って、誰か来たようでやんすね?ちょっと質問は待って欲しいでやんす!」
「ああ、わかった」
俺がご飯を食べ終わったネルの質問しようとした直後、玄関のドアがコンコンとノックされた音が聞こえる。どうやら来客のようだ。
ネルは俺に断りを入れ、椅子から立ち上がって小走りで玄関に向かう。
そんなネルの後ろ姿を見ながら、俺はふと思った事を口にする。
「……なぁ、ここって秘密の基地なんだよな?」
「ん?ああ、そうだが?」
「なら、来客なんて来るのか?」
その瞬間、俺達の視線がネルに集中する。しかし、そんな俺達の視線に気が付かずネルはドアに手をかける。
ネルはドア越しにドアをノックした人物に声を掛けると、まるで死にかけの呻き声のような物が帰ってくる。
「どなたでやんすか~?」
「……ぼ……す」
「え!?い、今の声!まさか『トンテ』でやんすか!?」
「……っ!?ネル!」
「ぼ、す……」
「やっぱりそうでやんす!やっと帰ってきたでやんすね!今、開けるでやんすよ!」
「待て!ドアを開けるな!」
俺の制止の言葉は間に合わず、歓喜のままにネルは勢いよくドアを開ける。
『トンテ』という人物は知らないが、ネルの様子を見るに失踪した仲間なのだろう。
しかしドアの前に立っていたのは、もはや人とはいえぬ程に生気も正気も感じ取れない青い肌をした人型の何かであった。
「……ぼ……スゥゥ!!」
「……へ?」
「フン!」
「シッ!」
「ガゲァッ!?」
言葉ではもうどうしようもない。そう判断した俺は即座に走り出し、俺よりも早く動いたガイスの拳と俺の鞘に入ったままの刀が顔面と腹に突き刺さる。
……なんだこれ。異様に硬い!?
俺は一瞬だけ岩でも突いたのでは無いかと錯覚したが、謎の人物の重量が見た目通りだったのとガイスの腕力のおかげで簡単に吹き飛ばす事ができた。
「……お前、本当にトンテか?」
「ぼぅ……ぶぁぁぁ!!」
全身が青白く変色して明らかに異常な肉体を持つ男のような何か。もはやその姿は『人』と言うよりも『魔物』に近い。
ガイス達に『トンテ』と呼ばれる人物は、獣のような耳を劈く奇声を上げて俺達に襲いかかってくるのであった。
♦♦♦♦♦
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