吸血鬼だって殺せるくせに、調査と謎解きばっかりじゃん

大野原幸雄

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聖なる力は煙の奥に

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それは、ジェイスも初めてみる光景だった。


「…」


ジェイスとヘンリケは…
ウンディーネを池に返そうと森に入った。

すると、まるで森がジェイス達の歩く道を教えるように…
草木が形を変えて、道を譲るのである。

まるで、王を迎える家臣や国民のように…
森がジェイス達…いや、ジェイスが持つバケツに頭を垂れるのである。


「これは…」

「精霊はコロニーを守る役割を持つ…森はわかっているんだ…主が帰ってきたことを…」


森は、ジェイスが木こりのファッテと入った時とはまた表情が違った。
確かに不気味さはあるが、不思議な力で彼らを守っているような安心感があった。

決して剣を抜く必要はない。
ジェイスはそう感じていた。

森が指示した道をまっすぐ進むと…
例の枯れた一帯に辿りつく。

池の前にやってくると、ヘンリケは池に向かって膝まづき…
やわらかく手のひらをくみ、祈りを捧げるように目をつむった。

ジェイスは池の前に立ち、バケツからそっとウンディーネを池に戻す。

すると…


りん…

りん…


森中から…
まるで鈴のような音が鳴り響いた。

森が、感謝の気持ちをジェイス達に伝えてくれているように。

止まった時が動きだしたかのように、灰色の池が透明になっていく。


「…おぉ…」


池の周囲に…
まるで雪のように光の粒が振る。

灰色だった池とその周囲には、徐々に色が付き始めていた。


「なんと…美しい…」

「しばらくすれば、この一帯も以前と同じように色づくだろう…」


最後にジェイスも膝まづき、手を合わせて池に小さく言った。


「今度は変なところに落ちるなよ…精霊が迷子になるなんて恰好つかないだろ?」


そして立ちあがり…
ヘンリケに言った。


「…もういこう…久しぶりの帰省だ…ゆっくりさせてやろう」

「はい…そうですね…」


そして2人は池を背に、その場を後にしようとする。
その時、ジェイスは声を聞いた。




ありがとう…
剣を持ったおにいさん…




「…!」



どこからともなく、男のような女のような…
それでいて子供のような老人のような…
なんとも形容しがたい声。

思っていたよりもずっと無邪気な声。


ジェイスは振り返り…
少しだけ笑って…


「…じゃあな」


と言って…
農園に戻って行った。








「本当にありがとうございます…これで、ウチの農園をやり直すことができます…」

「ヴェル・トゥーエ家には俺の方から話しておこう…すぐに出荷の制限も解かれるはずだ…むしろ精霊が入り込んだ煙草ってことで、箔がつくかもな」

「なんとお礼を言ったらいいか…」

「礼は煙草でくれればいいさ…用意できるようになっただろ?パーティ用の煙草」

「えぇ…もちろんです…また、ゼオン様のお墓参りに行かなければいけませんね…」

「…墓参り…?」


ジェイスはキャローズ農園の人たちと少しばかりの談笑を楽しんだ。
ディページの体調は次の日すっかりよくなって、昼過ぎにはキャローズ農園を発つことができた。

ヴェル・トゥーエ邸のあるバーネジィに戻る最中。
元気になったディページは、背中にまたがるジェイスと話す。


「まさか精霊が家に帰れなくなっちゃうとはねぇ…俺は精霊嫌いだけど、ちょっとは可愛いところあるんだね」

「…そうだな」

「それにしても…世界広しといえど、身体の中に精霊を入れた悪魔なんて俺くらいだよね!」

「…あぁ…」

「俺がおしっこで出したウンディーネはどうなるんだろ…やっぱ地下の水脈辿って森に戻るのかな…」

「…そうだな」



事件は解決したが、明らかに暗いジェイス…
それに対してディページは面白くないのか…

いつもの悪魔らしい言い回しで、ジェイスに嫌味を吐く。



「ジェイスも可愛いところあるよねぇ~…俺をあんな目に合わせたのがショックで、落ち込んじゃうんだもん」

「…」


ジェイスは図星を疲れると…
黙る。


「まぁ俺に感謝してよ!俺がタバコ吸わなきゃ、聖感だってこともわからなかったわけだしさぁー」

「あぁ…今回はお前に助けられた…改めて自分の未熟さを思い知ったよ…」

「…」

「…」

「ねぇ!!」

「…?」

「落ち込んでるジェイスつまんない!」

「は?」

「別にジェイスの心配とか全然してないけど…いつもみたいに言い返してきてよ…」

「…」

「…」


ジェイスはディページのその言葉を聞いて少し沈黙した後…
その言葉を少しだけ鼻で笑って…


「そうだな」


と微笑んだ。







ヴェル・トゥーエ家の邸宅に行く前に…
ジェイスとディページはゼオンの霊がいる霊園に到着した。

幽霊の3つの願いひとつ『キャローズ農園のタバコの入手』を達成したことを、わがままで欲深い死人に報告するためだ。

吸血鬼からもらったオバケミエール…もとい『フィン・ドイルーの霊薬』を飲み…
ゼオンにキャローズ農園での出来事を語る。



「タバコはパーティの日の朝、ヴェル・トゥーエの邸宅に送ってくれるらしい…」

「ガハハハハ!そうか!ありがとよ!」

「…」



ジェイスは欲深く我がままな幽霊に…
気になっていたことを問いただす。



「お前…知ってたのか?キャローズ農園があんなことになってることを…」

「いや…?なんのことだか…俺はずっとこの墓にいるんだぞ?外のことなんて何にも知らん!俺は美味いタバコが欲しかっただけだ!ガハハハハ」

「…」





「えぇ…もちろんです…また、ゼオン様のお墓参りに行かなければいけませんね…」





「…そうか」

「しかし、まだ俺の願いはまだ叶ってないぞ!パーティをするためにはタバコだけじゃだめだ!いい酒といい女が必要だぜ!」

「あぁ…あとはリヴィーアン養蜂所のハチミツ酒と、べスティナの娼婦だったな…」

「おう!パーティが楽しみだぜぇ!」

「どうやらべスティナの方は何か問題を抱えているらしい…養蜂所も主人が寝込んでいて、満足に経営できていないとか…」

「そうかい、また大変そうだなぁ…ガハハハ!まぁ頑張ってこい!!楽しみにしてるぞ!」

「…あいよ」


そう言ってジェイスとディページはゼオンの墓を後にする。
するとゼオンが…


「ちょっとまてモンスタースレイヤー!」

「…?」

「吸ったか?キャローズの煙草!」

「…あぁ」

「どうだった?」



「…悪くなかったよ…なんてったって精霊がその中で眠っちまうくらいだからな」

「ガハハハハ!」





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