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聖なる力は煙の奥に
Ⅴ
しおりを挟むそれは、ジェイスも初めてみる光景だった。
「…」
ジェイスとヘンリケは…
ウンディーネを池に返そうと森に入った。
すると、まるで森がジェイス達の歩く道を教えるように…
草木が形を変えて、道を譲るのである。
まるで、王を迎える家臣や国民のように…
森がジェイス達…いや、ジェイスが持つバケツに頭を垂れるのである。
「これは…」
「精霊はコロニーを守る役割を持つ…森はわかっているんだ…主が帰ってきたことを…」
森は、ジェイスが木こりのファッテと入った時とはまた表情が違った。
確かに不気味さはあるが、不思議な力で彼らを守っているような安心感があった。
決して剣を抜く必要はない。
ジェイスはそう感じていた。
森が指示した道をまっすぐ進むと…
例の枯れた一帯に辿りつく。
池の前にやってくると、ヘンリケは池に向かって膝まづき…
やわらかく手のひらをくみ、祈りを捧げるように目をつむった。
ジェイスは池の前に立ち、バケツからそっとウンディーネを池に戻す。
すると…
りん…
りん…
森中から…
まるで鈴のような音が鳴り響いた。
森が、感謝の気持ちをジェイス達に伝えてくれているように。
止まった時が動きだしたかのように、灰色の池が透明になっていく。
「…おぉ…」
池の周囲に…
まるで雪のように光の粒が振る。
灰色だった池とその周囲には、徐々に色が付き始めていた。
「なんと…美しい…」
「しばらくすれば、この一帯も以前と同じように色づくだろう…」
最後にジェイスも膝まづき、手を合わせて池に小さく言った。
「今度は変なところに落ちるなよ…精霊が迷子になるなんて恰好つかないだろ?」
そして立ちあがり…
ヘンリケに言った。
「…もういこう…久しぶりの帰省だ…ゆっくりさせてやろう」
「はい…そうですね…」
そして2人は池を背に、その場を後にしようとする。
その時、ジェイスは声を聞いた。
ありがとう…
剣を持ったおにいさん…
「…!」
どこからともなく、男のような女のような…
それでいて子供のような老人のような…
なんとも形容しがたい声。
思っていたよりもずっと無邪気な声。
ジェイスは振り返り…
少しだけ笑って…
「…じゃあな」
と言って…
農園に戻って行った。
…
「本当にありがとうございます…これで、ウチの農園をやり直すことができます…」
「ヴェル・トゥーエ家には俺の方から話しておこう…すぐに出荷の制限も解かれるはずだ…むしろ精霊が入り込んだ煙草ってことで、箔がつくかもな」
「なんとお礼を言ったらいいか…」
「礼は煙草でくれればいいさ…用意できるようになっただろ?パーティ用の煙草」
「えぇ…もちろんです…また、ゼオン様のお墓参りに行かなければいけませんね…」
「…墓参り…?」
ジェイスはキャローズ農園の人たちと少しばかりの談笑を楽しんだ。
ディページの体調は次の日すっかりよくなって、昼過ぎにはキャローズ農園を発つことができた。
ヴェル・トゥーエ邸のあるバーネジィに戻る最中。
元気になったディページは、背中にまたがるジェイスと話す。
「まさか精霊が家に帰れなくなっちゃうとはねぇ…俺は精霊嫌いだけど、ちょっとは可愛いところあるんだね」
「…そうだな」
「それにしても…世界広しといえど、身体の中に精霊を入れた悪魔なんて俺くらいだよね!」
「…あぁ…」
「俺がおしっこで出したウンディーネはどうなるんだろ…やっぱ地下の水脈辿って森に戻るのかな…」
「…そうだな」
事件は解決したが、明らかに暗いジェイス…
それに対してディページは面白くないのか…
いつもの悪魔らしい言い回しで、ジェイスに嫌味を吐く。
「ジェイスも可愛いところあるよねぇ~…俺をあんな目に合わせたのがショックで、落ち込んじゃうんだもん」
「…」
ジェイスは図星を疲れると…
黙る。
「まぁ俺に感謝してよ!俺がタバコ吸わなきゃ、聖感だってこともわからなかったわけだしさぁー」
「あぁ…今回はお前に助けられた…改めて自分の未熟さを思い知ったよ…」
「…」
「…」
「ねぇ!!」
「…?」
「落ち込んでるジェイスつまんない!」
「は?」
「別にジェイスの心配とか全然してないけど…いつもみたいに言い返してきてよ…」
「…」
「…」
ジェイスはディページのその言葉を聞いて少し沈黙した後…
その言葉を少しだけ鼻で笑って…
「そうだな」
と微笑んだ。
…
ヴェル・トゥーエ家の邸宅に行く前に…
ジェイスとディページはゼオンの霊がいる霊園に到着した。
幽霊の3つの願いひとつ『キャローズ農園のタバコの入手』を達成したことを、わがままで欲深い死人に報告するためだ。
吸血鬼からもらったオバケミエール…もとい『フィン・ドイルーの霊薬』を飲み…
ゼオンにキャローズ農園での出来事を語る。
「タバコはパーティの日の朝、ヴェル・トゥーエの邸宅に送ってくれるらしい…」
「ガハハハハ!そうか!ありがとよ!」
「…」
ジェイスは欲深く我がままな幽霊に…
気になっていたことを問いただす。
「お前…知ってたのか?キャローズ農園があんなことになってることを…」
「いや…?なんのことだか…俺はずっとこの墓にいるんだぞ?外のことなんて何にも知らん!俺は美味いタバコが欲しかっただけだ!ガハハハハ」
「…」
…
「えぇ…もちろんです…また、ゼオン様のお墓参りに行かなければいけませんね…」
…
「…そうか」
「しかし、まだ俺の願いはまだ叶ってないぞ!パーティをするためにはタバコだけじゃだめだ!いい酒といい女が必要だぜ!」
「あぁ…あとはリヴィーアン養蜂所のハチミツ酒と、べスティナの娼婦だったな…」
「おう!パーティが楽しみだぜぇ!」
「どうやらべスティナの方は何か問題を抱えているらしい…養蜂所も主人が寝込んでいて、満足に経営できていないとか…」
「そうかい、また大変そうだなぁ…ガハハハ!まぁ頑張ってこい!!楽しみにしてるぞ!」
「…あいよ」
そう言ってジェイスとディページはゼオンの墓を後にする。
するとゼオンが…
「ちょっとまてモンスタースレイヤー!」
「…?」
「吸ったか?キャローズの煙草!」
「…あぁ」
「どうだった?」
「…悪くなかったよ…なんてったって精霊がその中で眠っちまうくらいだからな」
「ガハハハハ!」
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