三流魔法使いの弟子

さくな

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チチッチッ…

鳥のさえずりで目を覚ます。早朝の空気は少し肌寒く、肩にかけるストールが欠かせない。眠り目をこすりながらリビングの入り口ではなく、そのもっと奥へ向かう。そこにはお風呂場、トイレ、洗面所があった。洗面所で顔を洗い、胸にかかる金色の髪にブラシを通す。顔を洗ったにも関わらず目覚めない頭。あくびを噛みしめながらリビングに向かう。暖炉に火を灯そうと思って、杖を寝室に置いてきたことに気が付いた。杖を取りに戻るのが面倒で、木のかごの中に入る小瓶に手をかけようとして、誰かの手が止めた。私よりも大きいゴツゴツした手が私の手に被っている。

「火を灯せばいい?」

誰の手か理解する前に頷く。質問には早く答えるのが私のモットーだ。

「うん」

そう答えると同時に、暖炉に火が灯された。その火に手をかざしていると瞼が落ちてきた。私の眠気に気が付いた声の主がまどろむ私にまた声をかけた。

「エマ、眠いなら寝てくれば?何か用意する必要があるなら弟子の俺が用意するよ?」

「うーーーーーん?……誰?」

やっと少しずつ覚醒した脳を動かし、目を開く。先ほどの声の主は私のそばに立っているロイのものだろう。だが寝起きの私の頭がついてこなかった。ロイを見つめて眉を寄せていると、ロイは苦笑いを浮かべ、私の頭を撫でた。

「とりあえず、ソファーに座れば?朝食食べるだろ?」

ロイにソファーへ追いやられ、ソファーの目の前に置かれた小さなローテーブルにコップが置かれた。

「紅茶。そのへんにあった葉っぱ使ったけど大丈夫?」

そう言われ、私は静かに頷く。使ってはいけないものはキッチンにはおいていない。作業する場合はキッチンで行うが、必ず片付けるようにしている。私の朝の目覚めの悪さは自分でも理解しているつもりだ。何度、スクランブルエッグを作ろうと思って自分の髪を焦がしたことか。

ソファーでまどろんでいると、次第にいい匂いが鼻を刺激しだす。そこで私の脳は完全に覚醒した。

「あれ?」

「エッグベネディクト作ったけど食べれるか?」

そう言いつつ、ロイはワンプレートにまとめられた料理を机の上に並べる。それを眺めつつ、私の瞳は輝いていた。

「おいしそう!ロイすごい!」

「こんなの誰でも作れるよ」

そう言いつつ、ちょっと誇らしげなロイはフォークとナイフを並べてくれた。私は嬉々としてそれを手に取り、朝食を見つめる。柔らかいパンにハムや野菜が乗り、その上には丸々膨れた卵。それにナイフをいれると黄色いきみが流れ出し、お皿を黄色く彩る。それらを一口大に切り、口に放り込む。すると口いっぱいに卵とそのほかの素材と、ソースの味がし、私は至極の顔を浮かべた。

「くくくっ、そんな美味しそうに食べてくれて嬉しいよ」

ロイが私の向かいに座りながら笑った。私はソファーに座っているが、反対側には暖炉があり、通行の邪魔になってしまうので椅子はない。必然的に床へ座ることとなってしまうのだが、ロイは気にした風もなく座る。私は背中に置かれた分厚いクッションを掴み、ロイへ投げた。ロイはそれを受け取ると私に視線を寄こした。

「床に座るのは冷たいよ」

「…エマは魔女なのに優しいな」

「…」

本当に私が優しかったのなら、あなたが探している魔女は私だということを告げているだろう。本当に優しかったなら、あなたを来世に転生なんてさせなかっただろう。彼にさらなる苦難を与えることはなかっただろう。そんなどうしようもないことを考えつつ、私は朝食を噛みしめた。

食事を終えた私たちは庭に出て、魔法の練習を始めることとなった。

「ロイの使える魔法を一通り見せてくれる?」

「分かった」

そういうとロイは私から距離をとり次々と魔法を見せてくれた。基本的な火、水、風、雷、闇、光魔法は使えるようだ。魔力量が多いためか、その威力は凄まじい。それもしっかり調節できている。それをみて、私は独学でここまで使いこなしていることに感心した。天才、いや努力家というべきか。

「ロイ、分かった。姿をかえる魔法はセンスがいる。難しいけど、ロイならすぐ覚えられると思う」

「本当か?よかった」

ロイは嬉しそうに顔を綻ばせた。そんなロイに私は一冊の本を手渡す。

「これは?」

「変身に関する根本的な記述が乗っている本。この内容が理解できていないと変身できないから、よく読んでおいて」

魔女の呪文は少しややこしい。魔法陣で呪文をかけることもできるが、それでは手間がかかりすぎる。しかし、魔法陣なしの呪文は難しく、イメージが一番大事となる。変身の魔法ではなりたい姿のイメージが大切となり、そのイメージが曖昧だと体がバラバラになってしまうことがあるらしい。

私は渡した本を熟読するロイを横目に庭の雑草抜きと薬草狩りを始める。
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