三流魔法使いの弟子

さくな

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その夜、食事や入浴を済ませた私はリビングでランプの光を頼りに薬作りを行っていた。私の目の前にはロイ。渡した本を相変わらず真剣に読んでいる。

―ゴリゴリ

薬草をすり鉢ですりつぶす音が二人だけの空間に響いていた。いくつかの薬を作り終えたところで本の閉じる音がし、気になった私は視線を向ける。そこにば暗い顔をしたロイ。

「…魔女のことを教えてほしい…」

「……変身の呪文じゃなくて?」

ロイは私の質問には答えなかった。代わりに暗い表情のまま口を開く。

「…魔女の変身が必要になった理由。それは身を隠すためだったんだな」

「そう、遠い昔、魔女は忌むべき対象で、人間の敵だった。だから私たちは人間に紛れる道を選んだ」

「…魔女だって同じ人間だ」

「そうね。人間よ。でも、魔法を恐れた人間は次々と魔女を殺していった」

無関係な女も男も関係なく命を奪られた。人間たちは疫病や災害を魔女のせいにし、魔女の居場所をどんどん奪っていった。魔女と決めつけられた人の末路は惨いもので、どれも残忍な殺され方をされた。このままではいけないと思った魔女たちはお互いに協力し、人間に紛れ、生き延びる選択をした。その中には動物に紛れ生活する者もいた。
いわゆる魔女狩りというものはこの国の第十二国王が熱心に行い、人々を煽っていた。その国王が死去し、別の国王に成り代わった際、この風潮がおかしいことを指摘した。そして魔女と国王の間で和平が結ばれ、その事態は収まっていった。その和平には人間を助け、人間を愛せといった記述があるらしい。そして、魔女は人間のために生活魔法を小瓶に封じ込め、それを売る事で自分の安全を手に入れた。

反吐がでる。結局、人間の奴隷になったということだ。個体数の少ない魔女。魔女同士でも必ず魔女が生まれるとは限らないのに。いくら力が優れていても、人間には数で負けてしまうのだ。

「俺は…前世、魔女は嫌な奴しかいないと思っていた…」

「…」

「…こんな惨いことをしていたなんて…田舎町に住む俺は知らなかった…」

勇者が知らないのも無理はない。おそらく勇者が子供の頃の話だ。そのころには事態は沈静化していた。

「…ロイならどうする?同胞を殺されたら…どうする?」

「…殺してやりたいと思うよ…でも、それが解決とは思わない……魔女は誰もが怖いものではないと説いて理解させたい…。人間だって善人も悪人もいる。それと同じなのだと…だから俺は納得してもらうまで、何人にでも声をかけ続けたい…」

ロイの答えに私はぽかんとする。

さすが勇者様。真面目でまっすぐな答え。綺麗事だけど、夢物語のように甘いお話だが、私は嫌いじゃなかった。

もしここで「同じように、それ以上にして人間に苦痛を与える」といったような回答をしていたら私は彼に呪文を教えるつもりはなかった。たまに本に感化され、まるで過去受けたことを自分が受けたように感じる人がいる。そして憎み、復讐することを勝手に決めてしまう。今はもう忘れられてしまったことだというのに。それを今の人間が返されたところで、恨むべき人間はもういない。本を読み、歴史を知ったからって、この世界の人間全員が悪い訳じゃない。差別は残っているが、私はそれで人間と戦争する気にはなれない。骨肉の争いになるのは目に見えているからだ。どこかで終わりにしなければ続いていく関係。そんなことを未来の子供たちに引き継ぐ気にはなれない。

だからこそ、私は今を生きる人間にまで敵意を向ける魔女に呪文を教えるわけにはいかないのだ。
変身の呪文は一歩間違えれば殺人鬼にとっては都合のいい魔法と言える。姿形を変えられ、子供にも鳥にも、誰かの愛する人にも化けることができる。私は魔法を悪いことに使ってほしくなかった。だからこそロイを試したのだ。私が言えた義理ではないことは重々承知しているが…。私はどこかで彼に勇者の面影を探してしまっているのかもしれない。

「ロイ、呪文を一度だけ教える。あとはイメージをしっかりもって唱えて」

「はい」

ロイの背筋が伸びた。ロイはきっと良い魔女となるだろう。
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