6 / 9
5
しおりを挟む
その夜、食事や入浴を済ませた私はリビングでランプの光を頼りに薬作りを行っていた。私の目の前にはロイ。渡した本を相変わらず真剣に読んでいる。
―ゴリゴリ
薬草をすり鉢ですりつぶす音が二人だけの空間に響いていた。いくつかの薬を作り終えたところで本の閉じる音がし、気になった私は視線を向ける。そこにば暗い顔をしたロイ。
「…魔女のことを教えてほしい…」
「……変身の呪文じゃなくて?」
ロイは私の質問には答えなかった。代わりに暗い表情のまま口を開く。
「…魔女の変身が必要になった理由。それは身を隠すためだったんだな」
「そう、遠い昔、魔女は忌むべき対象で、人間の敵だった。だから私たちは人間に紛れる道を選んだ」
「…魔女だって同じ人間だ」
「そうね。人間よ。でも、魔法を恐れた人間は次々と魔女を殺していった」
無関係な女も男も関係なく命を奪られた。人間たちは疫病や災害を魔女のせいにし、魔女の居場所をどんどん奪っていった。魔女と決めつけられた人の末路は惨いもので、どれも残忍な殺され方をされた。このままではいけないと思った魔女たちはお互いに協力し、人間に紛れ、生き延びる選択をした。その中には動物に紛れ生活する者もいた。
いわゆる魔女狩りというものはこの国の第十二国王が熱心に行い、人々を煽っていた。その国王が死去し、別の国王に成り代わった際、この風潮がおかしいことを指摘した。そして魔女と国王の間で和平が結ばれ、その事態は収まっていった。その和平には人間を助け、人間を愛せといった記述があるらしい。そして、魔女は人間のために生活魔法を小瓶に封じ込め、それを売る事で自分の安全を手に入れた。
反吐がでる。結局、人間の奴隷になったということだ。個体数の少ない魔女。魔女同士でも必ず魔女が生まれるとは限らないのに。いくら力が優れていても、人間には数で負けてしまうのだ。
「俺は…前世、魔女は嫌な奴しかいないと思っていた…」
「…」
「…こんな惨いことをしていたなんて…田舎町に住む俺は知らなかった…」
勇者が知らないのも無理はない。おそらく勇者が子供の頃の話だ。そのころには事態は沈静化していた。
「…ロイならどうする?同胞を殺されたら…どうする?」
「…殺してやりたいと思うよ…でも、それが解決とは思わない……魔女は誰もが怖いものではないと説いて理解させたい…。人間だって善人も悪人もいる。それと同じなのだと…だから俺は納得してもらうまで、何人にでも声をかけ続けたい…」
ロイの答えに私はぽかんとする。
さすが勇者様。真面目でまっすぐな答え。綺麗事だけど、夢物語のように甘いお話だが、私は嫌いじゃなかった。
もしここで「同じように、それ以上にして人間に苦痛を与える」といったような回答をしていたら私は彼に呪文を教えるつもりはなかった。たまに本に感化され、まるで過去受けたことを自分が受けたように感じる人がいる。そして憎み、復讐することを勝手に決めてしまう。今はもう忘れられてしまったことだというのに。それを今の人間が返されたところで、恨むべき人間はもういない。本を読み、歴史を知ったからって、この世界の人間全員が悪い訳じゃない。差別は残っているが、私はそれで人間と戦争する気にはなれない。骨肉の争いになるのは目に見えているからだ。どこかで終わりにしなければ続いていく関係。そんなことを未来の子供たちに引き継ぐ気にはなれない。
だからこそ、私は今を生きる人間にまで敵意を向ける魔女に呪文を教えるわけにはいかないのだ。
変身の呪文は一歩間違えれば殺人鬼にとっては都合のいい魔法と言える。姿形を変えられ、子供にも鳥にも、誰かの愛する人にも化けることができる。私は魔法を悪いことに使ってほしくなかった。だからこそロイを試したのだ。私が言えた義理ではないことは重々承知しているが…。私はどこかで彼に勇者の面影を探してしまっているのかもしれない。
「ロイ、呪文を一度だけ教える。あとはイメージをしっかりもって唱えて」
「はい」
ロイの背筋が伸びた。ロイはきっと良い魔女となるだろう。
―ゴリゴリ
薬草をすり鉢ですりつぶす音が二人だけの空間に響いていた。いくつかの薬を作り終えたところで本の閉じる音がし、気になった私は視線を向ける。そこにば暗い顔をしたロイ。
「…魔女のことを教えてほしい…」
「……変身の呪文じゃなくて?」
ロイは私の質問には答えなかった。代わりに暗い表情のまま口を開く。
「…魔女の変身が必要になった理由。それは身を隠すためだったんだな」
「そう、遠い昔、魔女は忌むべき対象で、人間の敵だった。だから私たちは人間に紛れる道を選んだ」
「…魔女だって同じ人間だ」
「そうね。人間よ。でも、魔法を恐れた人間は次々と魔女を殺していった」
無関係な女も男も関係なく命を奪られた。人間たちは疫病や災害を魔女のせいにし、魔女の居場所をどんどん奪っていった。魔女と決めつけられた人の末路は惨いもので、どれも残忍な殺され方をされた。このままではいけないと思った魔女たちはお互いに協力し、人間に紛れ、生き延びる選択をした。その中には動物に紛れ生活する者もいた。
いわゆる魔女狩りというものはこの国の第十二国王が熱心に行い、人々を煽っていた。その国王が死去し、別の国王に成り代わった際、この風潮がおかしいことを指摘した。そして魔女と国王の間で和平が結ばれ、その事態は収まっていった。その和平には人間を助け、人間を愛せといった記述があるらしい。そして、魔女は人間のために生活魔法を小瓶に封じ込め、それを売る事で自分の安全を手に入れた。
反吐がでる。結局、人間の奴隷になったということだ。個体数の少ない魔女。魔女同士でも必ず魔女が生まれるとは限らないのに。いくら力が優れていても、人間には数で負けてしまうのだ。
「俺は…前世、魔女は嫌な奴しかいないと思っていた…」
「…」
「…こんな惨いことをしていたなんて…田舎町に住む俺は知らなかった…」
勇者が知らないのも無理はない。おそらく勇者が子供の頃の話だ。そのころには事態は沈静化していた。
「…ロイならどうする?同胞を殺されたら…どうする?」
「…殺してやりたいと思うよ…でも、それが解決とは思わない……魔女は誰もが怖いものではないと説いて理解させたい…。人間だって善人も悪人もいる。それと同じなのだと…だから俺は納得してもらうまで、何人にでも声をかけ続けたい…」
ロイの答えに私はぽかんとする。
さすが勇者様。真面目でまっすぐな答え。綺麗事だけど、夢物語のように甘いお話だが、私は嫌いじゃなかった。
もしここで「同じように、それ以上にして人間に苦痛を与える」といったような回答をしていたら私は彼に呪文を教えるつもりはなかった。たまに本に感化され、まるで過去受けたことを自分が受けたように感じる人がいる。そして憎み、復讐することを勝手に決めてしまう。今はもう忘れられてしまったことだというのに。それを今の人間が返されたところで、恨むべき人間はもういない。本を読み、歴史を知ったからって、この世界の人間全員が悪い訳じゃない。差別は残っているが、私はそれで人間と戦争する気にはなれない。骨肉の争いになるのは目に見えているからだ。どこかで終わりにしなければ続いていく関係。そんなことを未来の子供たちに引き継ぐ気にはなれない。
だからこそ、私は今を生きる人間にまで敵意を向ける魔女に呪文を教えるわけにはいかないのだ。
変身の呪文は一歩間違えれば殺人鬼にとっては都合のいい魔法と言える。姿形を変えられ、子供にも鳥にも、誰かの愛する人にも化けることができる。私は魔法を悪いことに使ってほしくなかった。だからこそロイを試したのだ。私が言えた義理ではないことは重々承知しているが…。私はどこかで彼に勇者の面影を探してしまっているのかもしれない。
「ロイ、呪文を一度だけ教える。あとはイメージをしっかりもって唱えて」
「はい」
ロイの背筋が伸びた。ロイはきっと良い魔女となるだろう。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
狼になっちゃった!
家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで?
色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!?
……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう?
これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる