三流魔法使いの弟子

さくな

文字の大きさ
8 / 9

7

しおりを挟む

辺りが煙に包まれる。煙が少しずつ薄れていき、ロイの姿が現れた。いや、正確にはロイであったであろう姿だ。

そこには三角の耳、白い毛並み。鋭い爪と牙。体中は真っ白な毛に包まれている。ロイの身長よりも縦にも横にも三倍ほど大きい大男。もとい狼男が低い唸りをあげて黒猫を睨みつけていた。

「ひぃぃぃぃ!」

アンジェリーナは悲鳴をあげて真っ白な狼に背を向けた。

―ダンッ!

目に留まらぬ速さで動いたと思ったら鈍い音があたりに響いた。よく見れば狼が猫の背中を踏みつけている。

「ミギャァァァァァァ!」

猫の悲鳴が響く。私は慌てながらも腰のベルトから杖を取り出し、狼の足元に向け風の呪文を唱える。すると風の魔法が発動し、狼の足を少し浮かせることができた。それに気が付いたアンジェリーナが狼の足から這い出て、狼から距離をとる。

邪魔をするなと言うような狼が私を睨みつける。それに嫌な汗が背中に流れるのを感じていると、アンジェリーナが窓から外に逃げ出そうとしている姿が視界に入った。

「アンジェリーナ!待って!一緒にロイを止めて!」

「嫌よ!エマの弟子なんだから!それに私がいると興奮状態が解かれないでしょ?」

そう言ってアンジェリーナは箒に乗って大空に去っていってしまった。

アンジェリーナが言っていることも理解できる。怒りの対象がいなくなれば収まるケースもある。…が、未熟な魔法を行使して錯乱しているロイの意識が覚醒することはないだろう。錯乱した状態で私の声が届くとは思えない。

なんて思案していると、狼が私に視線をよこす。次の瞬間、私を獲物と認識したのだろう。突然飛びかかってきた。

「きゃーーー!」

間一髪のところで狼をよける。狼は壁に激突したが、何のその。すぐに体制を立て直すと私を追いかけてきた。

杖を狼に向け、呪文を唱える。その瞬間、杖から鎖が出てきて狼を拘束した。それでも暴れ続ける狼。自分の魔力量を考えると長くは拘束しておけない。考える時間はない。

狼に近づき、その心臓に杖を突き付け、目を閉じてから自分の魔力を流し込む。

他人の魔力が体に、流れる感覚に異変を感じたのか、狼が大きく唸る。ビリビリと空気が、建物が震えるが、ここで怯めば私の命はないだろう。狼が何とか鎖から逃げようと暴れる。その度に鎖が軋む音がした。

魔力が尽きかけているせいか視界が霞む。心臓という魔力の核が眠る部分に直接魔力を流しているのに、なかなかロイの魔力が乱れない。少量でも相手の魔法を乱すことができるはずなのだが、少量では乱れないほどの膨大な魔力があるようだ。

「ロイッ!目を覚まして!」

そう私が叫んだ瞬間、ロイの魔法が解けた。目の前に魔法の残り香が飛び散り、綿毛のようにふわふわと舞っている。それは白く光り、次第に小さくなって消えていった。床に視線を向けるとそこには目を閉じて眠るロイ。

私はそれをとらえると、安堵を感じるとともに意識を手放した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

狼になっちゃった!

家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで? 色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!? ……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう? これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...