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しおりを挟む辺りが煙に包まれる。煙が少しずつ薄れていき、ロイの姿が現れた。いや、正確にはロイであったであろう姿だ。
そこには三角の耳、白い毛並み。鋭い爪と牙。体中は真っ白な毛に包まれている。ロイの身長よりも縦にも横にも三倍ほど大きい大男。もとい狼男が低い唸りをあげて黒猫を睨みつけていた。
「ひぃぃぃぃ!」
アンジェリーナは悲鳴をあげて真っ白な狼に背を向けた。
―ダンッ!
目に留まらぬ速さで動いたと思ったら鈍い音があたりに響いた。よく見れば狼が猫の背中を踏みつけている。
「ミギャァァァァァァ!」
猫の悲鳴が響く。私は慌てながらも腰のベルトから杖を取り出し、狼の足元に向け風の呪文を唱える。すると風の魔法が発動し、狼の足を少し浮かせることができた。それに気が付いたアンジェリーナが狼の足から這い出て、狼から距離をとる。
邪魔をするなと言うような狼が私を睨みつける。それに嫌な汗が背中に流れるのを感じていると、アンジェリーナが窓から外に逃げ出そうとしている姿が視界に入った。
「アンジェリーナ!待って!一緒にロイを止めて!」
「嫌よ!エマの弟子なんだから!それに私がいると興奮状態が解かれないでしょ?」
そう言ってアンジェリーナは箒に乗って大空に去っていってしまった。
アンジェリーナが言っていることも理解できる。怒りの対象がいなくなれば収まるケースもある。…が、未熟な魔法を行使して錯乱しているロイの意識が覚醒することはないだろう。錯乱した状態で私の声が届くとは思えない。
なんて思案していると、狼が私に視線をよこす。次の瞬間、私を獲物と認識したのだろう。突然飛びかかってきた。
「きゃーーー!」
間一髪のところで狼をよける。狼は壁に激突したが、何のその。すぐに体制を立て直すと私を追いかけてきた。
杖を狼に向け、呪文を唱える。その瞬間、杖から鎖が出てきて狼を拘束した。それでも暴れ続ける狼。自分の魔力量を考えると長くは拘束しておけない。考える時間はない。
狼に近づき、その心臓に杖を突き付け、目を閉じてから自分の魔力を流し込む。
他人の魔力が体に、流れる感覚に異変を感じたのか、狼が大きく唸る。ビリビリと空気が、建物が震えるが、ここで怯めば私の命はないだろう。狼が何とか鎖から逃げようと暴れる。その度に鎖が軋む音がした。
魔力が尽きかけているせいか視界が霞む。心臓という魔力の核が眠る部分に直接魔力を流しているのに、なかなかロイの魔力が乱れない。少量でも相手の魔法を乱すことができるはずなのだが、少量では乱れないほどの膨大な魔力があるようだ。
「ロイッ!目を覚まして!」
そう私が叫んだ瞬間、ロイの魔法が解けた。目の前に魔法の残り香が飛び散り、綿毛のようにふわふわと舞っている。それは白く光り、次第に小さくなって消えていった。床に視線を向けるとそこには目を閉じて眠るロイ。
私はそれをとらえると、安堵を感じるとともに意識を手放した。
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