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レーバンと皇太子の出会い(番外編)
レーバンのもと婚約者1
しおりを挟む侯爵令嬢の名前はエミリア・ケールマン。
ケールマン侯爵の娘で2つ上に兄ドミニクがいる四人家族だった。
家族関係はとても仲がよく、両親も兄も優しく誠実な人達だ。
兄には婚約者がいて、エミリアにも婚約者がいた。
12才の頃にクロックベル公爵との事業提携を切っ掛けに、同い年であった公爵家嫡男との婚約話が持ち上がり、そのまま婚約した。
金髪碧眼のまるで王子様のような容姿に見惚れ、今思えば一目惚れだったように思う。
初対面の顔合わせ時に丁寧な挨拶をされ、『お互いに尊重できるような夫婦になればと思います』、と優しい眼差しで言葉にしてくれた。
とても嬉しくて顔を真っ赤にしながら浮かれていたのを今でも覚えている。
確かに、あの瞬間に恋をした。
エミリアも婚約者であるレーバンを大切にしたいと思っていたし、お互いに思いやりをもって愛情を育んでいきたいと誓ったその気持ちに嘘はない。
けれど、あまりにも順調すぎた。
最初から高位の貴族に生まれ、家族も兄も優しくて何の不満もなかった。
素敵な婚約者にも恵まれ、忙しそうでなかなか会えなかったけれど、三日に一度はお手紙をくれたし、婚約者の交流の為の月に二回のお茶会も、出来る限り参加できるように調整してくれた。
記念日には様々な贈り物をくれたし、何らかの理由で2週間以上会えなかった時は、必ず花束とお土産を持参して直接会いにきてくれる。
燃えるような愛情というわけではなかったけれど、とても大切にしてくれている事だけは十分に伝わっていた。
誰からも羨ましがられ、幸せと呼べるほどに何もかもが上手くいきすぎていた。
だから、どこか退屈で刺激を求めてしまったのかもしれない。
始まりはなんだったのか。
15才までは家族の愛情に守られ、婚約者に大切に尽くされ、それを当たり前のように享受していた。
それまでは家を中心として婚約者の家族くらいしか交流がなかっまから、目移りしようがなかったのかもしれない。
ドルテア王立学園に入ることで、エミリアの世界が広がった。
学園には様々な貴族令息令嬢がいて、王族関係やお金持ちの平民等も通っている。
目にするもの全てが新しかった。
エミリアは侯爵と高位貴族なので、繋がりを求めて声をかけられることも多かった。
婚約者も公爵家嫡男で評判もよく男前だったから、たくさんの令嬢に羨ましがられ羨望の目で見られていた。
それが、とてつもない快感だった。
初めて知る優越感、高揚感、自信に繋がり、自尊心を満たしていた。
最初は小さな事で満足していたが、時間がたつにつれ、それだけでは満足出来なくなっていた。
誉められる、望ましがられる、羨ましがらることが当たり前になっていき、それだけの刺激だけでは充足感をえられなくなっていた。
気づかないうちに傲慢になり、まるで自分は高貴の身分であると思い込み、何をしても許される存在だと勘違いして自身を見失っていく。
我が儘になっていくエミリアに、周りも少しずつ距離を置かれ始めるが、近寄りがたい高貴な存在だからだと思い込んでいるエミリアには気づけない。
それでも最低限の周りに対する世間体というものは理解していたから、醜聞にならない程度に振るまいには気を付けた。
そんな時に、声をかけてきたのが第一王子だった。
同じ性質の匂いをかぎ分けれるのか、甘い誘惑をエミリアにした。
最初はエミリアも良くないことだと理解していたから、戸惑ったし断ろうとした。
けれど、同じ金髪碧眼でレーバンよりも怪しく魅惑的な第一王子に
『皆誰でもしているのを知らないのか?婚約者のいる者も結婚前の火遊びとして関係を持っている者は多いぞ?不安なら証拠を見せてやろう』
そう言って囁かれるままに人気のない旧校舎に連れていかれ、とある教室の扉の前にくると、切なげな声が聞こえてきた。
「あ、やぁ……もっと!!」
「ここか?ここが良いんだろ?ならもっと腰をあげろや」
「はああん!!すご!激しくて気持ちいい♪」
「おらおら、いきっぱなしでいっちまえ!!」
「ああああ!!たまんない!!」
後はひたすらパンパンパンと打ち付ける音だけが木霊する。
中を覗かなくても何が行われているかは一目瞭然で、他の教室も見て回れば、同じようなことをしているところがいくつかあった。
エミリアには凄まじいカルチャーショックだった。
まさか、こんなにも開放的な空間があり、自分と同じように学園に通っている貴族令息令嬢が内緒でこんなことを平然としているだなんて。
衝撃であり、刺激的であり、どこか罪悪感を感じつつもスリリングな感覚に、エミリアどこか興奮を覚えた。
平和で退屈なエミリアの人生に、赤という色が落とされたような気がした。
「なあ?俺の言ったら通りだろう?」
息を吹き掛けるように耳元で言われて一気に顔が真っ赤になる。
「なんだ、お前もなんやかんや言いながら興奮してるじゃないか。もともと興味はあったみたいだな。なら、俺と試してみないか?」
色気たっぷりに言われて目を奪われる。
まるで何かを期待しているかのように、エミリアの瞳にも熱がはらむ。
「ふ、もとからそっちの才能があったってことだ。俺の目に狂いはないな。じゃあ遠慮なく、楽しもうか?」
「あ……」
そのまま深いキスをされ、とある教室に連れ込まれていく。
ここで初体験を失い、新しい遊びを覚えたエミリは、欲望の渦に飲まれていった。
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