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レーバンと皇太子の出会い(番外編)
レーバンのもと婚約者4
しおりを挟む(あり得ない、あり得ない、あり得ない!!)
婚約者よりもイスペラント帝国の皇太子を優先するのがエミリアには理解できなかった。
エミリアはいつだって優遇されていた。
両親からも、兄からも、婚約者からも。
もちろん両親が仕事で忙しかったり、兄が婚約者を優先することはエミリアにとって当たり前なので気にはならない。
仕事は侯爵家が存続するには必要なことだし、家族より兄が婚約者を優先するのは、自分もレーバンにそれを求めるだろうから、エミリアにとってはおかしなことではない。
そしてレーバンが生徒会や家の事を優先するのも、生徒会は全校生徒の代表としての世間体があるし、公爵家を優先するのも結婚後に没落しない為の大切なお仕事だ。
けれど今回のイスペラント帝国の帝都学園に留学したのはあきらかに個人的な友人関係でのことだ。
ドルテア王立学園の代表とかではなく、私的な目的での留学だ。
エミリアにとって友人より婚約者を優先するのが当然であり、友人である皇太子を優先させることはあり得ないことだった。
(何を考えてるのよレーバン様は!私がこんなにも悩んでいるのに!婚約者なら心配して駆けつけるのが普通じゃないの!?あり得ないわよ!!)
どうにも怒りが収まらず、その勢いのままに返事を書いて、特急で出すように執事に伝えた。
そのまま部屋に戻り、旅行鞄に着替えや必要なものを詰め込んで、お小遣いで貯めたお金を持ち、使用人にバレないようにこっそり家を出た。
もちろん目的地はイスペラント帝国にいるレーバンのもとだ。
手紙の返事を待っていたのでは、どんなに早くても一ヶ月はかかってしまう。
それじゃあもう遅いのだ。
レーバンと既成事実を成功させたとしても、逆算すれば妊娠期間がおかしなことになる。
もうエミリアには時間がなく、選択の余地がなかった。
もし、今家族に妊娠の事が発覚してしまったら。
想像しただけで恐ろしくてたまらない。
レーバンに会いさえすればまだなんとかなる!
その僅かな希望にすがって、エミリアはドルテア王国に隣接するイスペラント帝国の国境を目指して家を飛び出した。
けれど、貴族令嬢の一人旅などそう簡単に上手くいくはずもなく。
騙されそうになったり間違った行き先の馬車に乗ったりと、四方八方さ迷いながらようやく国境付近にたどり着いたと思ったら、エミリアを捜索していたそれもクロックベル公爵側の私兵に見つかってしまった。
何も書き置きもせずに飛び出してきたから、大事になっているかもしれないとは思っていたが、まさか婚約者の両親であるクロックベル公爵にも捜索を頼んでるとは思わなかった。
やはり家族には一言残して出ていくべきだったかと少しだけ後悔がよぎる。
だが、ここで捕まるわけにはいかないのだ。
「レーバンに会いに行くんだから邪魔しないでよ!!」
エミリアは必死の抵抗で逃げようとした。
ここで捕まってしまえば、帝国にいるレーバンに会いに行くことは出来なくなるだろう。
帰国してからでは遅いのだ。
手を振り払い足をばたつかせて全身で暴れてみるが、私兵に取り囲まれて身動きが出来なくなる。
それでも力の限り叫んでみれば、バシン!と叩かれる音がする。
痛い……と感じたときには、頬を叩かれたのだと理解した。
目を正面に戻せば、泣きながら睨み付ける侯爵婦人がそこにいた。
「エミリア……あなたどうして。いくらレーバン様に会いたかったとしても、非常識でしょ!少しは心配する家族の事も考えなさい!」
そう言ってエミリアの母である侯爵婦人はエミリアに抱きついた。
エミリアからすれば大混乱である。
まさか国境付近のこの町まで来てるとは思わなかったのだ。
「どうして……」
思わず呟いた声。
それに対して父である侯爵もエミリアを睨み付ける。
「どうしてだと?それはこっちの台詞だと思うがな。書き置きもせずに突っ走るとは。こっちは事件に巻き込まれたんじゃないかと心配でクロックベル公爵にも頭を下げて捜索に協力してもらったと言うのに。単にレーバン君に会いたかっただけとは呆れる」
「で、でも、私にとっては死活問題で……」
うっかり自分の今の状況を想像して言い返してしまった。
両親が知るよしもないことなのに。
「言い訳をするな!!どれだけの人に迷惑をかけたと思っているんだ!それに、レーバン君やイスペラント帝国に許可はとってあるのか?単独行動をしてる時点で予測はつくが、自分勝手すぎるぞ!少しは周りを見てくれ!」
最後の言葉にはっとするも、それでもエミリアには今しかないのだ。
理解はできる。
けれどエミリアも引くわけにはいかず。
「お願いです!レーバンに会わせてください!会わないといけないんです!!会わないと私……」
「会わないと、どうなるんだと言うんだ?」
「それは……」
その質問の先の答えを言うことはできず、エミリアは黙りこむしかなかった。
呆れたように、はぁ……と、ため息が漏れるのが聞こえてくる。
父の侯爵が漏らしたものだ。
その間に母も離れ、クロックベル公爵の私兵がまた取り囲む。
「お前はそんなに我儘だったか?昔はもっと聞き分けがよく、ここまで自分勝手ではなかったはずなのに……どこで教育を間違えたんだか。しかも理由を言えないとは」
「だって……」
「じゃないだろう。わかっているのか?許可なく国境を超えようとすれば国際問題に発展しかねなかったんだぞ?まぁ、国境に着いたところで止められていたとは思うが、その時は帝国にも報告がいくからなぁ」
国際問題と言われてさすがに不味いと気づいたが、それでもエミリアには時間がなく、今更引き下がることは出来ない。
「すみませんお父様!皆様に迷惑をかけたことは本当に申し訳なく思っています!全面的に私が悪いです!!解決したあとならいくらでも謝罪します!でも私はレーバン様にお会いしないといけないんです!!何とか帝国側に話をつけてもらうことは出来ないでしょうか?」
しつこいぐらいに懇願する。
無理だろうと何だろうと今のエミリアにはすがり付くことしか出来ない。
これだけ頭を下げて謝罪してお願いすれば、家族思いの父なら、何とかしてくれないかと一縷の望みを託したが。
「いい加減にしろ!我慢の限界だ。悪いがお前の我が儘に付き合うきはない。言っておくが謝罪するのは当然のことなのだからな。はぁ……本当に頭が痛いよ。取り合えず、協力してくれたクロックベル公爵にも改めて感謝と謝罪をせにゃならんし、どうしてもんか」
「そんな!お父様!!」
「悪いがクロックベル公爵の騎士団の方にはこのまま娘をケールマン侯爵家まで連れていってもらえないだろうか?」
「良いのですか?我々はかまいませんが」
「ああ、助かる」
「お父様酷いです!!」
「お前は静かにしてなさい!帰ったら暫く部屋で謹慎だ!!学園に行かなくてもかまわん!少しは反省しなさい!」
「そんな!閉じ込めるなんてあんまりです!!私は嫌です!!お願いです!!私の話を……!!」
こうしてエミリアはクロックベル公爵の騎士団に付き添われ、ケールマン侯爵家まで連行されていった。
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