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レーバンと皇太子の出会い(番外編)
レーバンのもと婚約者6
しおりを挟む「あなた……本当なんですの?」
「ああ、間違いない。エミリアにも確認した」
「そんな……まさかエミリアが」
「私も同じ気持ちだ。だが、事実は受け止めなければならない。親の責任でもあるし、気づけなかった私達の落ち度だ」
「エミリアはレーバン様を慕っていたはずなのにどうして……」
「そうだな。レーバン君のことを惚れてたように思うが、娘はそれでも誘惑に負けたんだよ。私には理解しがたい行為だがな」
信じられないと言いたげな妻の質問に、ケールマン侯爵は淡々と返事をする。
出来るなら侯爵自身も嘘で合ってほしいと思いたいが、事実から目を逸らすわけにもいかず、先程した娘とのやり取りを妻にも話したのだ。
親として、夫婦で受けとるべき問題だからだ。
それでも、娘との話し合いを思い出すと嫌な気になる。
ケールマン侯爵は妻一筋だった。
妻もケールマン侯爵だけを慕ってくれていると信じている。
お互いに政略結婚だったけれど、他の貴族のように愛人や妾などはいない。
そもそも、ケールマン侯爵にとっては妻以外とそういう関係になるというのが信じられなかった。
政略結婚だろうと、結婚とはお互いの信頼関係を誓う儀式のようなものだと捉えていた。
だから、浮気は裏切りであり誓いを破る行為だと認識していた。
他の貴族は知らないが、自分たち家族は誠実さをモットーに信頼関係を大切にしてきたつもりだった。
実際に兄のグレゴリーは親の背を見て育ったかのように、婚約者を大切にし結婚後も妻一筋で今年の始めに嫡男になる男の子も誕生した。
もちろん愛人も妾も一時の浮気もしていない。
それなのに娘は……。
💮💮💮💮
「ここに書かれている内容は事実なのか?」
「……」
「……そうか。残念だよ」
先程まで奇声をあげ、崩れ落ちて方針状態の娘に向かって侯爵は質問した。
けれど返事が返ってくることはなく、娘の様子を見れば手紙の内容は間違いないのだろうと判断した。
本の少し前に届けられた1通の手紙。
ケールマン侯爵家とは関わりのない子爵家からの手紙だった。
ケールマン侯爵宛に直接だったので、関わりないとはいえ貴族なのだから問題ないだろうと当主本人が封を開けて中身を確認した。
だが、そこに書かれていた内容は。
『初めまして、ケールマン侯爵様。私はとある子爵家の三男です。
私はあなたの娘と肉体関係を持っています。私以外ともあなたの娘が他の令息と肉体関係を持っていることをご存知ですか?ドルテア王国学園でお楽しみだったのですよ。 噂の第一王子とも関係がありますよ?
そこで本題です。
私にお金を融資して頂けませんか?少しお金に困っていまして、本のはした金でよいので定期的に頂けませんかね?私が生活に困らない程度に必要でして。
バレると困るのはケールマン侯爵ですよね?確か娘さんはクロックベル公爵の嫡男と婚約中でしたよね?婚約破棄にでもなったら、困るのはそちらではありませんか?醜聞にもなるし、次の嫁ぎ先にも困るでしょう?黙っている替わりにお金を融通して頂けませんかね?
より良いお返事を期待しています』
要約すれば、こんなことが書かれていた。
明らかにケールマン侯爵家を脅してお金を巻き上げようとする、脅迫文だ。
これを見た時の激しい怒りは忘れない。
怒り、悲しみ、失望……そして憐れみか。
娘を愛していたし、信じてもいた。
最近は度が過ぎる我が儘に疲弊もしていたが、それでも、一線を越える事はないと信じたかった。
だが、家族にも内緒で相談したいと隣国いる婚約者に手紙を送ったこと。
婚約者が帰国出来ないと知れば自ら誰にも知らせず隣国に行こうとしたこと。
最近の切羽詰まったような今までの娘の行動を振り替えると、それが答えのような気がした。
それに。
チラリと青ざめたまま黙り状態の娘を見る。
「エミリア、お前は妊娠してるのではないか?」
その父の言葉に、娘はビクリと大きく肩を揺らし反応した。
ケールマン侯爵はずっと違和感を感じていた。
家に戻って部屋に閉じ込めた当初はいろいろ画策していたようだが、後半は大人しくなり反省のいっかんで身支度も自分ですると言い出した。
最初は世話をする者がいない環境は貴族令嬢にとっては苦痛に感じるだろうと思い、了承した。
その内に少し太ったからと緩めのドレスを着始めた。
それも家に戻った最初の頃、旅疲れと言い訳していたが、食事中に吐き気を催しあまり食事がとれない日が続いたのにだ。
しかも医師の診察を頑なに断って。
部屋に閉じ籠ってばかりで運動してないから太ったと言われても、無理がある気がした。
それでも、娘を信じていたケールマン侯爵は、妊娠の可能性など最初から頭になかったから、違和感があっても、それを信じてしまっていた。
けれど、この手紙で全てを理解した気がした。
今までは思いもよらなかったが、行為に及んでいたのならその可能性がある。
既に第一王子は何人もの貴族令嬢と関係を持ち、子供が出来たことで令嬢側から知らされた。
ほとんどの令嬢は第一王子の見た目と王位継承権があることの権力に期待して、打算的な想いで近づいたよだった。
各家からも打算的な思惑があって娘の行動を分かってて止めなかったらしい。
身分の低い側妃の子供だから、立太子するのはかなり厳しい状況ではあるけれど、もしかするとその辺の政治情勢が娘達には見えなかったのかもしれないが。
今ケールマン侯爵にとって重要なのは第一王子と関係を持った令嬢は子を身ごもり、娘とも関係があったという事実だ。
つまりは。
「私達に話せず婚約者だけに相談があると助けを求めたのは、結婚予定のレーバン君との間に出来た子供だと偽ってほしいとお願いするためか、騙して彼との既成事実を作り逃げらないようにするためだったんじゃないのか?その為に一時帰国をお願いし、それがダメだったから自ら向かうために無理やり決行した」
淡々と語る父の推測を聞き、エミリアは更に顔面蒼白になる。
何も言えず、怯えたように父を見上げると、そこには今まで見たこともないような冷たい父の視線があり、見下ろされる。
「我が娘がここまで卑怯者だったとはな。情けないというより、失望しかない」
「……あ……あの……その……」
「分かっているとは思うが、当然レーバン君とはエミリア有責で婚約破棄だ。それから我がケールマン侯爵からも籍を外し、子供が生まれ次第修道院送りにする!!」
今度こそ、エミリアはこの世の終わりのような絶望した顔をした。
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