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レーバンと皇太子の出会い(番外編)
レーバンのもと婚約7
しおりを挟む「エミリアはどうなるのですか?」
質問したのはエミリアの母、ケールマン侯爵婦人だ。
いくらエミリアが取り返しのつかないことをしたとしても、今まで家族として愛情を注ぎ自分のお腹を痛めて生んだ子だ。
心配になるのは親として当然だろう。
それに返事をしたのはエミリアの父であるケールマン侯爵だ。
「子供が生まれるまでは私達が責任を持つべきだ。だが、その後は南の大聖堂のある修道院に送るつもりだ」
南の大聖堂のある修道院はそれなりに気候が温かく過ごしやすい。
大聖堂と隣接しているため規模も大きく支援もしっかりされているから、食べ物に困ることもないし凍える心配もない。
ケールマン侯爵なりの親心でもあるのだろう。
侯爵婦人は少しだけほっとして胸を撫で下ろす。
「そうですか。それなら、いつか子供を引き合わせることも出来るかしら」
「エミリアの反省しだいと、子供しだいだがな」
先程の話し合いを振り返ってみると、まだ微妙な気がした。
修道院行きを告げた後、ようやく現実を理解したかと思えば、違ったのだ。
💮💮💮💮
「……嫌。嫌よ!婚約破棄なんて嫌!レーバンと結婚するの!」
「まだそんなことを言うのか。それともまだ現実が見えていないのか……」
絶望に打ちひしがれ唖然と座り込んだまま、ただ床を見つめているだけだったのに、突然叫びだした娘にケールマン侯爵はただただ呆れた。
「だって、ずっと婚約者だったのに、今更破棄だなんて……」
「子供が生まれるというのに、結婚など出来るわけがないだろう?そもそも結婚前に他者と関係を持った時点で婚約破棄の対象だ。それすらも理解していないのか?」
「でも、他の貴族だって結婚前に楽しむと聞いたわ!実際にこの目で……」
「その楽しんでいた第一王子は王位継承権を剥奪され関係のあったご令嬢に婿養子になっただろうが。関係のあった令嬢達だって修道院に送られたり後妻になったりしている。それに、その脅迫文を書いた子爵家の三男も立場が危ういから、こんなバカなことをしでかしたんだろう。素行がバレて、卒業後に家を追い出され平民落ちといったところか」
「でも……でも……」
多分頭ではわかっているのだろう。
甘い言葉の誘惑に負け、都合の良いように唆されたのだと。
2度と幸せだった頃には戻れないと。
けれど、理解しても認めたくなくて、足がいてしまうのだろうとケールマン侯爵は思った。
ここまでくると、憐れにしか思えなかった。
「確かに一定数の令息は婚約時代に火遊びをして、子供さえ作らなければ平然と結婚している者はいる。だが、令嬢の場合はそうはいかない。貴族令嬢の結婚は純潔が基本だ。黙っていても初夜でほぼバレる。もし失って結婚したならば即離婚や契約違反として訴えられても仕方がないんだ。ましてやエミリアは他人の子供を身ごもっているんだ。それでレーバン君と結婚したならば、お前はクロックベル公爵家の乗っ取りと訴えられても仕方ないのだぞ?」
そこまで説明されて、ようやくエミリアは事の重大さを理解したようだった。
あまり叱ったこともなく、娘を信じすぎたからこそ、エミリア自身が甘い考えに囚われてしまったのかもそれない。
これはある意味親の責任だ。
それに関しては申し訳なく思うが、だからこそこれ以上甘やかすことはできない。
「……私は……子供は……どうなりますか」
「さっきも言った通りだ。子供を生むまではケールマン侯爵家にいることを許可するが、その後は修道院に入ることになるだろう。子供はドミニクの養子に入れるつもりだ」
「……そう……ですか」
最後はどこか虚ろな目で遠くを見ているようだった。
これで少しは自覚してくれただろうか。
もう誤魔化しのきかない、言い訳の出来るレベルをとっくに越えているのだと。
💮💮💮💮
「子供はどうしますの?」
「ドミニクの養子にする。本人にも嫁殿にも許可をもらった。ケールマン侯爵を継ぐ子供は生まれているから、跡継ぎ問題も大丈夫だろう。ただ、第一王子の子供だとやっかいだがな」
夫妻の話はまだ続いていく。
話し合わなければならない事が多いのだ。
「確か、第一王子の子供なら王家からの監視がつくのよね?」
「一応育てるのは各家に任されているが、王家の血を継いでいる以上放っておくわけにもいかないのだろう」
何に利用されるかわからない。
本人の意図に関係なく巻き込まれる可能性もあるから、窮屈ではあるが、監視されることは悪いことばかりではない。
成人後は王宮勤めを試験を受けずに出来るし、一応わずかばかりの慰謝料という名の養育費がでる。
監視役は乳母や使用人と、お金は王家持ちで働いてくれる。
利便性はあるが、家族の情報まで知られる危険性もあるので、上手く付き合っていく必要はあるだろう。
「まぁ、多少は大変でしょうけれど、エミリアの子には間違いないのだし、子供には罪はないもの。私達皆で今度こそ、道を踏み外さないように導かなければね」
「ああ、本当にそうだな。今度こそ、見たくないものに蓋にするのではなく、少しでも疑ったのなら真実から目をそらさず、きちんと調べた上で現実を受け止めよう。できれば、その前に止められればと思うがな」
「そうですわね。幸いドミニク達も今回のことを重く受け止めて、向き合おうとしてくれています。子供達のために、私達も頑張りませんとね」
「ふっ……私の妻がお前でよかったよ」
「私もですよ。後はエミリアがいつか悔い改めて、罪を償ってまた会うことができたら良いのですが」
「それに関しては様子見だが、私もそう思うよ」
ケールマン侯爵夫妻は、子供達と自分達のこの先の平穏な未来を思い願うのだった。
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