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第二章 『厄介な日常』
意外な性格?
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昨日、俺は愛ちゃんに(加納院さんと仲良くなることについて)「うん」と答えたが……。
「多田さん! 多田さん! これどうぞ!」
「いや、ティッシュなら持ってるからいいよ」
「そう……。あ、多田さん! 足元に段差よ!」
「いつも通ってる廊下だしさすがに分かるよ」
「……あ! 床に汚れが! すぐ掃除するわね!」
早速、自信がなくなってきた。
「う、うん」
拙い作り笑顔で応じる。
ちゃんと笑えてるように見えているだろうか?
「あの、晃狩さん」
「あら愛」
「私は晃狩さんに声を掛けたのです。メイさんはお掃除を続けていて下さい」
「……」
苛立ちを隠さずに加納院さんは掃除を続けた。汚れは相当頑固らしく、さらに腹を立てている様子だ。
「愛ちゃん。どうしたの?」
俺と愛ちゃん──小熊さんと香山もだが──は、同じ車で登校している。教室も同じであるのだから、俺達がはぐれる事は普通に考えておかしい。
けれども、加納院さんによってそれは発生した。
ただ教室に向かうという行為がここまで長引いたのは初めての経験である。
「なんだか、朝からお疲れの様子ですよ。メイさんの対応にうんざりされたのでは?」
本人が下で床を磨いているというのに、愛ちゃんもよく言ったなぁ。
「う、う~ん」
正直な所、かなり疲労感を感じている。本人がいるから言えないが。
愛ちゃんですら、ここまでではなかったというのに。
「ちょっと、多田さんが困ってるじゃないの! 私は親切な行為をしてるのだから、迷惑なはずないでしょ!」
「そ、そうです……よね。アハハハ」
彼女には何を言っても駄目だと察したのか、愛ちゃんはその場から退散した。
あの迷いの無い走り……慣れてるな、愛ちゃん。加納院さんの扱いに。
「邪魔なのが去ったわね。さぁ、床も綺麗になったし、教室はすぐそこね!」
「う、うん」
「なんだか元気なさそうね。熱測る?」
懐から体温計を取り出す彼女。
そして俺は、必要ないと拒む。
「そう。……もう教室ね。じゃあ、後で~」
「あ、はい」
笑顔で手を振る加納院さんに、俺はそれを振り返すことが出来なかった。
冷たい態度で小さな会釈をするのみだ。けれど、心なしかそれにも嬉しそうな反応を彼女は示していた。
「メイさんは何というか、おせっかいなんですよね。昨日出会ってあれ程グイグイ来られたら、晃狩さんとて迷惑でしょう」
愛ちゃんが教室に入っていく加納院さんの姿を眺めながら呟いた。
(何だろう。二人は方向性が違うだけで、グイグイ来てる事自体は変わらないような……)
まあ声には出さないがな。
「まあね。もしかして、この先ずっと続く?」
「う~ん。かもしれません。私の時は距離が離れてしまいましたから」
「私の時?」
「ええ。私とメイさんが初めて会ったのは2歳頃なんですけど、その時はとても可憐で礼儀正しく、私のことをとても尊敬して下さいました」
愛ちゃんを小さくしたような感じか? などと想像しつつ、話を聞いていく。
「それは良かったのですが、沢山お話をしていく内に、こんな事を言い出したのです。『髪、結ってあげようか?』。そのこと一つ取れば、大した事はありませんよね」
「そうだね」
「けれど毎日毎日しつこく、小さな気遣いをみせる。確かに、悪い事ではありません。ですが、余計な事や自分でも理解している事などを執拗に指摘してこられるのです。晃狩さんなら分かると思いますが……、どっと疲れが溜まるんですよねぇ」
「あぁ、分かるよそれ!」
俺は全力で同意した。
彼女のあれは悪意どころか、親切心からの行為であるからまた痛い。
「……というか、加納院さんどうして愛ちゃんに冷たくなったの? 初めは尊敬されていたんでしょ?」
ふと思ったので、訊いてみただけだった。
けれど愛ちゃんは悲しげな表情で、「晃狩さんは知る必要ありませんよ。少なくとも今は」と答えた。
(幼馴染にも、いろんな形があるんだな)
お金持ちだって、ただ気楽に生きていける訳が無い。だからこその苦労もあるだろう。
「へぇ。まあ過剰な詮索なんてしないよ」
「そうして下さると助かります」
「ただ……加納院さんのあれがこれから毎日続くと思うと、ちょっと不安だな」
彼女なりの好意の示し方ではあるのだろうが、それで相手が疲れてしまうなら意味がない。
愛ちゃんは腕を組み、真剣な面持ちで考え始めた。
「そうですね~。キッパリと『必要ない』の意を表せば、案外いけるんじゃないですか?」
「いえ。それでは彼女は傷付きますよ」
「凛々さん! 話、聞いてらしたんですね」
「ええ。まあ」
昨日もあまり話さなかったから、なんだか久しぶりにあった感じがする。
空白だったのは一日だけなのに。
「悪気をもっての行動ではないのですから、円満に解決させたいところです」
「ていうか小熊さん、加納院さんの事知ってるんだね」
「そりゃ、加納院財閥の一人娘であり、愛様の幼馴染ですから」
いつもより少しつっけんどんな感じだ。
小熊さんも、俺との距離感が曖昧になっているのだろう。
(何かソレ、ちょっと面白いな)
「なに笑ってるんですか」
「……凛々さん、怒らないで下さいっ。それより本題に戻りましょう?」
「はい。愛様」
本当、愛ちゃんには従順だなぁ。
いやでも雇い主だし当たり前か。
「とは言っても、私メイ様とお会いした事もないので……どうもこうも言えませんけど」
「では、休み時間に合いに行くと良いですよ。私の名前とかジャンジャン出しちゃっていいので」
「かしこまりました。では、次の休み時間に」
「多田さん! 多田さん! これどうぞ!」
「いや、ティッシュなら持ってるからいいよ」
「そう……。あ、多田さん! 足元に段差よ!」
「いつも通ってる廊下だしさすがに分かるよ」
「……あ! 床に汚れが! すぐ掃除するわね!」
早速、自信がなくなってきた。
「う、うん」
拙い作り笑顔で応じる。
ちゃんと笑えてるように見えているだろうか?
「あの、晃狩さん」
「あら愛」
「私は晃狩さんに声を掛けたのです。メイさんはお掃除を続けていて下さい」
「……」
苛立ちを隠さずに加納院さんは掃除を続けた。汚れは相当頑固らしく、さらに腹を立てている様子だ。
「愛ちゃん。どうしたの?」
俺と愛ちゃん──小熊さんと香山もだが──は、同じ車で登校している。教室も同じであるのだから、俺達がはぐれる事は普通に考えておかしい。
けれども、加納院さんによってそれは発生した。
ただ教室に向かうという行為がここまで長引いたのは初めての経験である。
「なんだか、朝からお疲れの様子ですよ。メイさんの対応にうんざりされたのでは?」
本人が下で床を磨いているというのに、愛ちゃんもよく言ったなぁ。
「う、う~ん」
正直な所、かなり疲労感を感じている。本人がいるから言えないが。
愛ちゃんですら、ここまでではなかったというのに。
「ちょっと、多田さんが困ってるじゃないの! 私は親切な行為をしてるのだから、迷惑なはずないでしょ!」
「そ、そうです……よね。アハハハ」
彼女には何を言っても駄目だと察したのか、愛ちゃんはその場から退散した。
あの迷いの無い走り……慣れてるな、愛ちゃん。加納院さんの扱いに。
「邪魔なのが去ったわね。さぁ、床も綺麗になったし、教室はすぐそこね!」
「う、うん」
「なんだか元気なさそうね。熱測る?」
懐から体温計を取り出す彼女。
そして俺は、必要ないと拒む。
「そう。……もう教室ね。じゃあ、後で~」
「あ、はい」
笑顔で手を振る加納院さんに、俺はそれを振り返すことが出来なかった。
冷たい態度で小さな会釈をするのみだ。けれど、心なしかそれにも嬉しそうな反応を彼女は示していた。
「メイさんは何というか、おせっかいなんですよね。昨日出会ってあれ程グイグイ来られたら、晃狩さんとて迷惑でしょう」
愛ちゃんが教室に入っていく加納院さんの姿を眺めながら呟いた。
(何だろう。二人は方向性が違うだけで、グイグイ来てる事自体は変わらないような……)
まあ声には出さないがな。
「まあね。もしかして、この先ずっと続く?」
「う~ん。かもしれません。私の時は距離が離れてしまいましたから」
「私の時?」
「ええ。私とメイさんが初めて会ったのは2歳頃なんですけど、その時はとても可憐で礼儀正しく、私のことをとても尊敬して下さいました」
愛ちゃんを小さくしたような感じか? などと想像しつつ、話を聞いていく。
「それは良かったのですが、沢山お話をしていく内に、こんな事を言い出したのです。『髪、結ってあげようか?』。そのこと一つ取れば、大した事はありませんよね」
「そうだね」
「けれど毎日毎日しつこく、小さな気遣いをみせる。確かに、悪い事ではありません。ですが、余計な事や自分でも理解している事などを執拗に指摘してこられるのです。晃狩さんなら分かると思いますが……、どっと疲れが溜まるんですよねぇ」
「あぁ、分かるよそれ!」
俺は全力で同意した。
彼女のあれは悪意どころか、親切心からの行為であるからまた痛い。
「……というか、加納院さんどうして愛ちゃんに冷たくなったの? 初めは尊敬されていたんでしょ?」
ふと思ったので、訊いてみただけだった。
けれど愛ちゃんは悲しげな表情で、「晃狩さんは知る必要ありませんよ。少なくとも今は」と答えた。
(幼馴染にも、いろんな形があるんだな)
お金持ちだって、ただ気楽に生きていける訳が無い。だからこその苦労もあるだろう。
「へぇ。まあ過剰な詮索なんてしないよ」
「そうして下さると助かります」
「ただ……加納院さんのあれがこれから毎日続くと思うと、ちょっと不安だな」
彼女なりの好意の示し方ではあるのだろうが、それで相手が疲れてしまうなら意味がない。
愛ちゃんは腕を組み、真剣な面持ちで考え始めた。
「そうですね~。キッパリと『必要ない』の意を表せば、案外いけるんじゃないですか?」
「いえ。それでは彼女は傷付きますよ」
「凛々さん! 話、聞いてらしたんですね」
「ええ。まあ」
昨日もあまり話さなかったから、なんだか久しぶりにあった感じがする。
空白だったのは一日だけなのに。
「悪気をもっての行動ではないのですから、円満に解決させたいところです」
「ていうか小熊さん、加納院さんの事知ってるんだね」
「そりゃ、加納院財閥の一人娘であり、愛様の幼馴染ですから」
いつもより少しつっけんどんな感じだ。
小熊さんも、俺との距離感が曖昧になっているのだろう。
(何かソレ、ちょっと面白いな)
「なに笑ってるんですか」
「……凛々さん、怒らないで下さいっ。それより本題に戻りましょう?」
「はい。愛様」
本当、愛ちゃんには従順だなぁ。
いやでも雇い主だし当たり前か。
「とは言っても、私メイ様とお会いした事もないので……どうもこうも言えませんけど」
「では、休み時間に合いに行くと良いですよ。私の名前とかジャンジャン出しちゃっていいので」
「かしこまりました。では、次の休み時間に」
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