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第二章 『厄介な日常』
加納院メイについて
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廊下に人が行き交う、休み時間。
俺の予想通り、加納院さんはB組の教室までやってきた。
「多ー田ーさーん!」
クラスの全ての人に聞こえるような声で、彼女は俺を呼んだ。
「おい多田、なんか呼ばれてるぞ」
「え、てかあの子可愛くね? マジかよ多田、お前には神田さんがいるんだからやめとけって」
周りにいた男子生徒達が俺に話し掛けてくる。変な勘違いまでされるし、最悪な展開だ。
「いえ。多田様は行かれなくて大丈夫ですよ。私が参りますので」
彼らの声なんて気にも留めず、堂々たる態度で小熊さんが歩を進める。
「え、なんで小熊っちがー?」
(こ、小熊っち!?)
小熊さん、性別問わず、体育祭をきっかけに仲良くなっていたんだな……。驚いた。
「彼女には、何やら問題があるようなのです。それを知る為に、私は彼女と対面する必要があるのです」
「へ~。あんな可愛い子に、問題がねぇ」
「顔は、人の性質すべてを決めるものではありませんよ。確かにその人に抱く印象として、一番強いものではありますが」
「う、うん。そーだね」
男子生徒は「そこまで真面目に応えられるとは思わなかった」という顔だ。まあ仕方なかろう。
そうこうしている内に、小熊さんは加納院さんの元まで辿り着いた。
「えっと……どちら様?」
俺を呼び出したのに見知らぬ女子が来たのだから、加納院さんの動揺は仕方ない。
「お初にお目にかかります。私、愛様の近侍の小熊凛々と申すものでございます。以後、お見知りおきを」
あまり二人の姿は見えないけれど、声だけは聞こえてくる。
「は、はじめまして……。私は、加納院メイよ。多田さんは何をしてるのかしら?」
怒気を含んだ声だった。
しかし小熊さんは動じず、「さぁ。私が貴方の元に来たので、自分は来なくて良いと判断されたのかもしれませんよ」と応えた。
やっぱり、小熊さんは強いなぁ。
女子が怒っている姿は、男子が怒っている姿よりも心の内に響く恐ろしさがあるというのに。
体育祭の時にも、彼女は強さを見せていた。どんな環境で育てば、そんなものが培われるのだろうか?
「何それ。じゃあもう一度呼ばないと──って、何よ」
もう一度俺を呼び出そうとした加納院さんを、小熊さんが何かしらの方法で止めた……と思われる。
「もう少し、お話を。私はもっと、貴方を知りたいのでございます」
「はぁ? 気持ち悪いわね、愛にベタベタしていればいい物を。私はね、今から多田さんのシャツのシワを伸ばしたり、頭に付いた小さな埃を取ってあげなければいけないの!」
「……それは、多田様から頼まれた事ですか?」
少し間をおいて、小熊さんが問い掛けた。
(傷付けないような解決方法、もう思いついたのか?)
「いや、そんな事されてないけど。でも、些細なことにも『気づく』女ってのは、魅力的じゃない?」
加納院さんは自分のお節介さを誇りに思っているみたいだ。確かに、悪い事ではない、ないんだけど……!
この、どうにもできない感じ。
もどかしくて、たまらない。
「そうですね。でも、時と場合にもよりません? ……人って大きくなれば、ある程度の事はこなせますし」
「分かってないのね。そうやって、人は油断するものなのよ。そこを補えるのは、私しかいないの。そこんとこ、ちゃんと理解しておいて頂戴」
小熊さんの回りくどい反論では、当然加納院さんの意思は揺るがない。
「加納院の方で、そう育てられているんでしょうかね……『気づける人間になれ』と。しかし、度が過ぎるのも考えものだと思いますがね」
一通りの会話を聞いて、愛ちゃんが口を開いた。
小さな事にも気遣える人間ならば、人から信頼されるからであろうか?
「まあ、ね。頼りがいはあるのかもしれないけど、う~んって感じだよね」
「しばらく、この問題の解決は難しいのでは? そもそも、人の性質を解決しようなんておかしいんですし」
愛ちゃんは落ち着いた様子でそう言い放った。切り替えが早いなぁ。
その意見に、反論はない。けれど、加納院さんが俺にベタベタしてきて一番嫌なのは、他ならぬ彼女自身だろうに。
「……よくよく考えてみて下さい。この問題が解決に至るということは、【加納院メイ】という人間を、私達の手によって変化させるという事ですよ!? ものすごく恐ろしい行為に走ろうとしているんだと考えると、私、怖くなってしまって……」
「な、なるほど。そんな考え方もあるんだ。じゃあ加納院さんのお節介は、受け入れるべきだって事だね」
「いえ、強要はしませんよ。ただ──個性は大切にした方がいいかなと、思いまして」
愛ちゃんは弱めに呟いた。
加納院さんがどう思っているかは知らないけど、愛ちゃんにとって彼女は大切な友人だもんな。少しでも変わったら、違う人のようになってしまうから嫌なのだろう。
「大丈夫。俺、あれをちゃんとプラスに受け止めてみせるよ、安心して」
「晃狩さん……ありがとうございますっ」
自分の事ではないというのに、愛ちゃんは笑顔を見せた。
「フゥ……。申し訳ありません、どう説得しても、相手にしていただけませんでした」
表情を曇らせた小熊さんが、申し訳なさそうにやってきた。
(あ、忘れてた……)
「問題ありませんよ、凛々さん。もう、何もする必要はないのですから」
「そ、そうですか……。えぇ!?」
「私の苦労はなんだったのだ」と言わんばかりの叫びだった。小熊さんが加納院さん相手に何を語ったのか途中からは聞いていなかったが、相当面倒だったに違いない。
「まあまあ凛々さん。落ち着いて下さいな」
愛ちゃんは笑顔を崩さなかった。
俺の予想通り、加納院さんはB組の教室までやってきた。
「多ー田ーさーん!」
クラスの全ての人に聞こえるような声で、彼女は俺を呼んだ。
「おい多田、なんか呼ばれてるぞ」
「え、てかあの子可愛くね? マジかよ多田、お前には神田さんがいるんだからやめとけって」
周りにいた男子生徒達が俺に話し掛けてくる。変な勘違いまでされるし、最悪な展開だ。
「いえ。多田様は行かれなくて大丈夫ですよ。私が参りますので」
彼らの声なんて気にも留めず、堂々たる態度で小熊さんが歩を進める。
「え、なんで小熊っちがー?」
(こ、小熊っち!?)
小熊さん、性別問わず、体育祭をきっかけに仲良くなっていたんだな……。驚いた。
「彼女には、何やら問題があるようなのです。それを知る為に、私は彼女と対面する必要があるのです」
「へ~。あんな可愛い子に、問題がねぇ」
「顔は、人の性質すべてを決めるものではありませんよ。確かにその人に抱く印象として、一番強いものではありますが」
「う、うん。そーだね」
男子生徒は「そこまで真面目に応えられるとは思わなかった」という顔だ。まあ仕方なかろう。
そうこうしている内に、小熊さんは加納院さんの元まで辿り着いた。
「えっと……どちら様?」
俺を呼び出したのに見知らぬ女子が来たのだから、加納院さんの動揺は仕方ない。
「お初にお目にかかります。私、愛様の近侍の小熊凛々と申すものでございます。以後、お見知りおきを」
あまり二人の姿は見えないけれど、声だけは聞こえてくる。
「は、はじめまして……。私は、加納院メイよ。多田さんは何をしてるのかしら?」
怒気を含んだ声だった。
しかし小熊さんは動じず、「さぁ。私が貴方の元に来たので、自分は来なくて良いと判断されたのかもしれませんよ」と応えた。
やっぱり、小熊さんは強いなぁ。
女子が怒っている姿は、男子が怒っている姿よりも心の内に響く恐ろしさがあるというのに。
体育祭の時にも、彼女は強さを見せていた。どんな環境で育てば、そんなものが培われるのだろうか?
「何それ。じゃあもう一度呼ばないと──って、何よ」
もう一度俺を呼び出そうとした加納院さんを、小熊さんが何かしらの方法で止めた……と思われる。
「もう少し、お話を。私はもっと、貴方を知りたいのでございます」
「はぁ? 気持ち悪いわね、愛にベタベタしていればいい物を。私はね、今から多田さんのシャツのシワを伸ばしたり、頭に付いた小さな埃を取ってあげなければいけないの!」
「……それは、多田様から頼まれた事ですか?」
少し間をおいて、小熊さんが問い掛けた。
(傷付けないような解決方法、もう思いついたのか?)
「いや、そんな事されてないけど。でも、些細なことにも『気づく』女ってのは、魅力的じゃない?」
加納院さんは自分のお節介さを誇りに思っているみたいだ。確かに、悪い事ではない、ないんだけど……!
この、どうにもできない感じ。
もどかしくて、たまらない。
「そうですね。でも、時と場合にもよりません? ……人って大きくなれば、ある程度の事はこなせますし」
「分かってないのね。そうやって、人は油断するものなのよ。そこを補えるのは、私しかいないの。そこんとこ、ちゃんと理解しておいて頂戴」
小熊さんの回りくどい反論では、当然加納院さんの意思は揺るがない。
「加納院の方で、そう育てられているんでしょうかね……『気づける人間になれ』と。しかし、度が過ぎるのも考えものだと思いますがね」
一通りの会話を聞いて、愛ちゃんが口を開いた。
小さな事にも気遣える人間ならば、人から信頼されるからであろうか?
「まあ、ね。頼りがいはあるのかもしれないけど、う~んって感じだよね」
「しばらく、この問題の解決は難しいのでは? そもそも、人の性質を解決しようなんておかしいんですし」
愛ちゃんは落ち着いた様子でそう言い放った。切り替えが早いなぁ。
その意見に、反論はない。けれど、加納院さんが俺にベタベタしてきて一番嫌なのは、他ならぬ彼女自身だろうに。
「……よくよく考えてみて下さい。この問題が解決に至るということは、【加納院メイ】という人間を、私達の手によって変化させるという事ですよ!? ものすごく恐ろしい行為に走ろうとしているんだと考えると、私、怖くなってしまって……」
「な、なるほど。そんな考え方もあるんだ。じゃあ加納院さんのお節介は、受け入れるべきだって事だね」
「いえ、強要はしませんよ。ただ──個性は大切にした方がいいかなと、思いまして」
愛ちゃんは弱めに呟いた。
加納院さんがどう思っているかは知らないけど、愛ちゃんにとって彼女は大切な友人だもんな。少しでも変わったら、違う人のようになってしまうから嫌なのだろう。
「大丈夫。俺、あれをちゃんとプラスに受け止めてみせるよ、安心して」
「晃狩さん……ありがとうございますっ」
自分の事ではないというのに、愛ちゃんは笑顔を見せた。
「フゥ……。申し訳ありません、どう説得しても、相手にしていただけませんでした」
表情を曇らせた小熊さんが、申し訳なさそうにやってきた。
(あ、忘れてた……)
「問題ありませんよ、凛々さん。もう、何もする必要はないのですから」
「そ、そうですか……。えぇ!?」
「私の苦労はなんだったのだ」と言わんばかりの叫びだった。小熊さんが加納院さん相手に何を語ったのか途中からは聞いていなかったが、相当面倒だったに違いない。
「まあまあ凛々さん。落ち着いて下さいな」
愛ちゃんは笑顔を崩さなかった。
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