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第三章 『嫌な展開』
人に歴史あり、だね
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一時間程が経過し、羽衣さんが教室に戻ってきた。
すかさずクラスメイト達は「大丈夫?」と声掛けする。しかし、俺はその輪には入れずにいた。
(加納院さんから羽衣さんの生い立ちを聞いたから、なんだかいつものテンションで話し掛けられないな)
「羽衣さん、元気そうですね。良かったです」
「う、うん。そうだね」
愛ちゃんもきっと俺と同じ気持ちなのだろう。遠くから彼女を見ているけれども、会話をしに行く様子はない。
「……なんとなく、声を掛けに行きづらいですよね。あの話を聞いたことは黙っていなければならないというのに」
「だよね。人に歴史ありっていうのを身に沁みて感じたよ」
「ですね。本当、人ってつくづく不思議な生き物ですよねぇ」
「ははは、だね」
(羽衣さんにすごい過去があったということは、愛ちゃんにもすごい歴史があるのかな……?)
ふと、そんな考えが脳裏に浮かんできた。
絶大な財力を誇る神田家に生まれて、きっと俺達庶民では考えもつかないような贅沢をしてきただろう。けれど、どんな人生にだってきっと困難は存在するはずだ。
お金持ちならではのとんでもない苦労や悩みを抱えていたのかなぁなんて思うと、なんだかんだ庶民が一番だなって感じたりもする。
「晃狩さん、どうやら羽衣さんがお呼びのようですけど」
「え?」
ちらりと羽衣さんへ目を向けると、チョイチョイと俺に手招きをしているではないか。
「ど、どうしよう。ちゃんと話せるかな」
「大丈夫ですよ。それに、ずっと気まずいと思っているままではいけませんから。ね、行ってあげてください」
「……うん、分かった」
俺は立ち上がり、皆の群がる教室の中央部分へと足を運んだ。
「どうしたの、羽衣さん」
「こ、晃狩様……。その、本当に、ごめんなさい」
「!」
「私、最悪なことをしていたなんて、思っていなくて……。好きになってもらえないなら、あんなこと、しても意味なかったのに」
『最悪』。そう加納院さんに言われたことで、自分の罪を理解し、本当の反省をすることができたのだろう。倒れる前と違い、開き直った様子がなかったのでなんとなく伝わってきた。
「いいよ、もう怒ってないから」
「じゃあ、これからも、傍にいて……いいですか」
「まぁ、周りに迷惑かけないならね?」
「あ、ありがとう……っ」
拒否されなかったことに深く安堵したのか羽衣さんは、ものすごく暖かい表情で涙を流し始めた。彼女を囲うクラスメイト達も何故だかもらい泣きしている。
「うぅ……、ぐすっ」
「あぁ、良かったねぇ羽衣さぁん……」
「……っ! ……っ!」
みんな自分のことのようにだらだらと涙を垂らすものだから、なんだか俺まで目頭が熱くなってきた。
(羽衣さん、なんだかんだみんなに愛されているみたいで良かった)
非常識さというか、傲慢さというか、人としてマイナスな面が今回の件で露呈してしまった。そのため、皆が良くない印象を抱くと思っていたのだが、杞憂であったのなら何よりだ。
「おい、多田も泣いていいんだぜ。今日だけは我慢なんて忘れちまおう」
「え、えぇ? でももうすぐ授業始まるし」
「始まるからなんだよぉ、皆でパーっと涙を流そうぜぇ?」
「いや、でも……。!」
視界の奥で、愛ちゃんと小熊さんが涙しているのが見えた。あの二人までこの号泣の渦に呑まれたのか。
(……)
「な? 泣いちまおうぜ、多田」
「……そうだな!」
そう言って俺はクラスメイトに、涙のしたたるとびっきりの笑顔を向けた。
──キーンコーンカーンコーン。
ガラガラ……。
「はーい、授業始めるぞ~。日直、ごうれ……!? どうしたお前ら! 何か悩みでもあるのか!?」
(……たまにはみんなで泣いてみせるのも、悪いもんじゃないな)
すかさずクラスメイト達は「大丈夫?」と声掛けする。しかし、俺はその輪には入れずにいた。
(加納院さんから羽衣さんの生い立ちを聞いたから、なんだかいつものテンションで話し掛けられないな)
「羽衣さん、元気そうですね。良かったです」
「う、うん。そうだね」
愛ちゃんもきっと俺と同じ気持ちなのだろう。遠くから彼女を見ているけれども、会話をしに行く様子はない。
「……なんとなく、声を掛けに行きづらいですよね。あの話を聞いたことは黙っていなければならないというのに」
「だよね。人に歴史ありっていうのを身に沁みて感じたよ」
「ですね。本当、人ってつくづく不思議な生き物ですよねぇ」
「ははは、だね」
(羽衣さんにすごい過去があったということは、愛ちゃんにもすごい歴史があるのかな……?)
ふと、そんな考えが脳裏に浮かんできた。
絶大な財力を誇る神田家に生まれて、きっと俺達庶民では考えもつかないような贅沢をしてきただろう。けれど、どんな人生にだってきっと困難は存在するはずだ。
お金持ちならではのとんでもない苦労や悩みを抱えていたのかなぁなんて思うと、なんだかんだ庶民が一番だなって感じたりもする。
「晃狩さん、どうやら羽衣さんがお呼びのようですけど」
「え?」
ちらりと羽衣さんへ目を向けると、チョイチョイと俺に手招きをしているではないか。
「ど、どうしよう。ちゃんと話せるかな」
「大丈夫ですよ。それに、ずっと気まずいと思っているままではいけませんから。ね、行ってあげてください」
「……うん、分かった」
俺は立ち上がり、皆の群がる教室の中央部分へと足を運んだ。
「どうしたの、羽衣さん」
「こ、晃狩様……。その、本当に、ごめんなさい」
「!」
「私、最悪なことをしていたなんて、思っていなくて……。好きになってもらえないなら、あんなこと、しても意味なかったのに」
『最悪』。そう加納院さんに言われたことで、自分の罪を理解し、本当の反省をすることができたのだろう。倒れる前と違い、開き直った様子がなかったのでなんとなく伝わってきた。
「いいよ、もう怒ってないから」
「じゃあ、これからも、傍にいて……いいですか」
「まぁ、周りに迷惑かけないならね?」
「あ、ありがとう……っ」
拒否されなかったことに深く安堵したのか羽衣さんは、ものすごく暖かい表情で涙を流し始めた。彼女を囲うクラスメイト達も何故だかもらい泣きしている。
「うぅ……、ぐすっ」
「あぁ、良かったねぇ羽衣さぁん……」
「……っ! ……っ!」
みんな自分のことのようにだらだらと涙を垂らすものだから、なんだか俺まで目頭が熱くなってきた。
(羽衣さん、なんだかんだみんなに愛されているみたいで良かった)
非常識さというか、傲慢さというか、人としてマイナスな面が今回の件で露呈してしまった。そのため、皆が良くない印象を抱くと思っていたのだが、杞憂であったのなら何よりだ。
「おい、多田も泣いていいんだぜ。今日だけは我慢なんて忘れちまおう」
「え、えぇ? でももうすぐ授業始まるし」
「始まるからなんだよぉ、皆でパーっと涙を流そうぜぇ?」
「いや、でも……。!」
視界の奥で、愛ちゃんと小熊さんが涙しているのが見えた。あの二人までこの号泣の渦に呑まれたのか。
(……)
「な? 泣いちまおうぜ、多田」
「……そうだな!」
そう言って俺はクラスメイトに、涙のしたたるとびっきりの笑顔を向けた。
──キーンコーンカーンコーン。
ガラガラ……。
「はーい、授業始めるぞ~。日直、ごうれ……!? どうしたお前ら! 何か悩みでもあるのか!?」
(……たまにはみんなで泣いてみせるのも、悪いもんじゃないな)
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