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第2章 港と船と海の町
穏やかな日々は
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昼を少し過ぎた頃、押し寄せた魔物の群れをすべて退け、船はどうにか港へ辿り着き、二人は無事に船を降りた。
「……やたらと数が、多かった」
「おつかれー ちゃんと着いてよかったね」
「よし、一発殴らせろ」
「なんでー? 痛いのはダメー」
じゃれ合う様な攻防をする中、不意に小さな声がかかる。
振り返ると、両手で大事そうに花を抱えた少女が立っていた。
「あの……! 船を守ってくれてありがとう! これ受け取って」
そう言って差し出されたのは、元いた世界で言うチューリップに似た、赤い一輪の花だった。
二人の手に一輪ずつ渡される。
「俺にか? ……ありがとう」
「ありがと、大切にするね」
リオンの隣でアキトが穏やかに礼を言うと、少女は安心したように微笑み、駆け足で人混みの中へ戻っていった。
「お礼だって、よかったね」
「…………」
「どうしたの? 」
「……これ貰っておいてくれ」
リオンは花をアキトに押しつけると、顔を背けて町の中へと走り去ってしまう。
(ああ、やっぱ駄目だなぁ……)
昔から、どうしても耐えられないものがあった。
「待って」
異変を感じたアキトがすぐに追い付き、リオンの肩を掴む。
「なにがあったか、話してくれる? 」
***
「人に感謝されるのが、どうしても駄目なんだよ」
閑散とした岸壁で釣り糸を垂らしながら、リオンは重い口を開いた。
「へぇ、どうして?」
「そいつの本心? みたいなのが露骨に出る、さっきの子供も、表ではああ言ってても、何か違和感があった。きっと親か誰かにやらされてたんだと思う」
「ふぅーん……」
「嫌な奴だよな、勝手に人の本心覗いて、勝手に落ち込んでんだから。本当にクズだよ」
「そう? わかっちゃうんだから、仕方なくない? 」
「だとしても、ろくな人間じゃないだろ? 」
「そうなの?」
「そうだろ」
「そうなの?」
永遠に続きそうな問いかけに、思わず苦笑が零れる。
「ねぇ、僕のことはわからないの? 」
「へ? 」
「僕が今どう思っているか、当ててみてよ」
「それは…… ってお前!? 竿引いてるぞ! 」
「あ、ホントだ」
「いいから引けって!」
「ちょっと待ってね、せーのっ、と」
勢いよく竿を引き上げると、水飛沫と共に巨大な魚の魔物が宙へと跳ね上がる。
影は太陽を遮り、二人を丸ごと覆い隠すほどの大きさだった。
「いや、魔物じゃねーか! 」
「今日は大きい魚とよく会うね」
「呑気か! どうするんだ!?」
「そうだね…… あ、いいところに」
アキトは竿を握ったまま、同じく釣り糸を垂らしていた怪しげな老人に声を掛ける。
「そこのおじさん── この魚って食べれるの?」
老人は無言のまま、左手を上げてサムズアップをした。
「いけるって」
(──今、問題は)
「そこ──じゃ、ねぇぇぇぇぇ!!」
これ以上どうしようもなく、リオンは剣を抜いた。
一刀のもとに魔物の頭を両断し、さらに素早く三枚におろすように斬撃を浴びせ、魔物を仕留める。
その見事な手際に、周囲から拍手が起こった。
「さすがだね、ありがと」
「…………」
「あ、イヤなんだっけ? こういうの」
「……お前はいい、何考えてるか、全然わかんねぇから」
「そっか、僕はいいんだね」
「変な奴」
アキトは僅かに微笑み、リオンは肩をすくめて苦笑した。
釣り上げた魔物は、その場にいた全員にお土産としても持ち帰ってもらい、自分たちは昼食として調理した。
それでも余った分は、町中で見つけた宿に持ち込み、宿代をまけてもらった。
***
夕食には、釣った魔物の料理が存分に振る舞われ。
釣り上げた本人である二人には、宿にいるの人たちから次々と感謝の言葉が贈られた。
「どの料理も美味しいね」
「……そうだな」
「やっぱり……つらい?」
「いや、ほとんどは心の底からの言葉だった…… まあでも、人間考えてる事なんて一つじゃねぇしな、それはわかってる」
「そっか、君はすごいね」
「……どういう意味だ?」
「せっかくだし、当ててみたら?」
「お前なぁ──」
軽口を交わし合う中で、リオンはふと気付く。
今日は魔物を数多く倒した、それでも勇者を演じさせられていた頃とは違い、心は妙に穏やかだった。
(こんな日が、続けばいいのにな……)
ふと窓の外に目を向ける。月明かりに照らされた港の先には──
黒々とした影が次々と海から姿を現し、その手前から大量の魔物が一斉に町へと迫って来ていた。
「──ッ!? 何だよこれ!!」
「ウフフフフフッ── アッハハハハハハ!」
誰も見ていない上空から、何かが高らかに笑い声を上げていた。
「さあ、始めましょうか、可愛い我が子たち」
「……やたらと数が、多かった」
「おつかれー ちゃんと着いてよかったね」
「よし、一発殴らせろ」
「なんでー? 痛いのはダメー」
じゃれ合う様な攻防をする中、不意に小さな声がかかる。
振り返ると、両手で大事そうに花を抱えた少女が立っていた。
「あの……! 船を守ってくれてありがとう! これ受け取って」
そう言って差し出されたのは、元いた世界で言うチューリップに似た、赤い一輪の花だった。
二人の手に一輪ずつ渡される。
「俺にか? ……ありがとう」
「ありがと、大切にするね」
リオンの隣でアキトが穏やかに礼を言うと、少女は安心したように微笑み、駆け足で人混みの中へ戻っていった。
「お礼だって、よかったね」
「…………」
「どうしたの? 」
「……これ貰っておいてくれ」
リオンは花をアキトに押しつけると、顔を背けて町の中へと走り去ってしまう。
(ああ、やっぱ駄目だなぁ……)
昔から、どうしても耐えられないものがあった。
「待って」
異変を感じたアキトがすぐに追い付き、リオンの肩を掴む。
「なにがあったか、話してくれる? 」
***
「人に感謝されるのが、どうしても駄目なんだよ」
閑散とした岸壁で釣り糸を垂らしながら、リオンは重い口を開いた。
「へぇ、どうして?」
「そいつの本心? みたいなのが露骨に出る、さっきの子供も、表ではああ言ってても、何か違和感があった。きっと親か誰かにやらされてたんだと思う」
「ふぅーん……」
「嫌な奴だよな、勝手に人の本心覗いて、勝手に落ち込んでんだから。本当にクズだよ」
「そう? わかっちゃうんだから、仕方なくない? 」
「だとしても、ろくな人間じゃないだろ? 」
「そうなの?」
「そうだろ」
「そうなの?」
永遠に続きそうな問いかけに、思わず苦笑が零れる。
「ねぇ、僕のことはわからないの? 」
「へ? 」
「僕が今どう思っているか、当ててみてよ」
「それは…… ってお前!? 竿引いてるぞ! 」
「あ、ホントだ」
「いいから引けって!」
「ちょっと待ってね、せーのっ、と」
勢いよく竿を引き上げると、水飛沫と共に巨大な魚の魔物が宙へと跳ね上がる。
影は太陽を遮り、二人を丸ごと覆い隠すほどの大きさだった。
「いや、魔物じゃねーか! 」
「今日は大きい魚とよく会うね」
「呑気か! どうするんだ!?」
「そうだね…… あ、いいところに」
アキトは竿を握ったまま、同じく釣り糸を垂らしていた怪しげな老人に声を掛ける。
「そこのおじさん── この魚って食べれるの?」
老人は無言のまま、左手を上げてサムズアップをした。
「いけるって」
(──今、問題は)
「そこ──じゃ、ねぇぇぇぇぇ!!」
これ以上どうしようもなく、リオンは剣を抜いた。
一刀のもとに魔物の頭を両断し、さらに素早く三枚におろすように斬撃を浴びせ、魔物を仕留める。
その見事な手際に、周囲から拍手が起こった。
「さすがだね、ありがと」
「…………」
「あ、イヤなんだっけ? こういうの」
「……お前はいい、何考えてるか、全然わかんねぇから」
「そっか、僕はいいんだね」
「変な奴」
アキトは僅かに微笑み、リオンは肩をすくめて苦笑した。
釣り上げた魔物は、その場にいた全員にお土産としても持ち帰ってもらい、自分たちは昼食として調理した。
それでも余った分は、町中で見つけた宿に持ち込み、宿代をまけてもらった。
***
夕食には、釣った魔物の料理が存分に振る舞われ。
釣り上げた本人である二人には、宿にいるの人たちから次々と感謝の言葉が贈られた。
「どの料理も美味しいね」
「……そうだな」
「やっぱり……つらい?」
「いや、ほとんどは心の底からの言葉だった…… まあでも、人間考えてる事なんて一つじゃねぇしな、それはわかってる」
「そっか、君はすごいね」
「……どういう意味だ?」
「せっかくだし、当ててみたら?」
「お前なぁ──」
軽口を交わし合う中で、リオンはふと気付く。
今日は魔物を数多く倒した、それでも勇者を演じさせられていた頃とは違い、心は妙に穏やかだった。
(こんな日が、続けばいいのにな……)
ふと窓の外に目を向ける。月明かりに照らされた港の先には──
黒々とした影が次々と海から姿を現し、その手前から大量の魔物が一斉に町へと迫って来ていた。
「──ッ!? 何だよこれ!!」
「ウフフフフフッ── アッハハハハハハ!」
誰も見ていない上空から、何かが高らかに笑い声を上げていた。
「さあ、始めましょうか、可愛い我が子たち」
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