召喚魔王×召喚勇者 世界を滅ぼす気も救う気もない二人は共に旅に出る

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第5章 空っぽの村

空の器は何を見据える

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『勇者よ、この時を待っていた──』

 廃れた村の中央に佇みながら、骸の魔術師は森の茂みから現れたリオンに向かって確かにそう告げた。

「はぁ? あんた何言って…… うわそういうことか……!」

 あからさまに顔を歪めたリオンは、その時になって始めて、自分が勇者としてこの場所に導かれたのだと理解する。

『如何にも、我は勇者である貴様に問い掛ける』

 (これは…… あれか? 攻略のヒントを与える的な……?)

 仮にここがゲームの世界なら、この手の人物は序盤から現れるものじゃないかと思うが、リオンは警戒しつつも、突如現れた得体の知れない存在に向かって呆れたように答えた。

「……それで、ありがちな呼び方して何の用だ?」

 すると骸の魔術師は何かを見据えながら、頭に響くような恐ろしく低い声でこう続けた。


『間もなく、魔王が世界を滅ぼす事だろう』


 (は──?)  リオンは一瞬、あの骸が何を言っているのかを理解出来なかった。

『その時、貴様に奴を倒す覚悟はあるか?』

 完全に余裕が無くなり、手に持ったままだった剣の鞘を握りしめ、相手の出方を伺い始める。 

『もう一度問い掛ける。勇者よ、貴様に魔王を倒す覚悟があるか?』

「ふざけんじゃねぇよ……! あいつがそんなことするわけ……」

 ありえない、と真っ向から否定しようとするも、あの骸の放つ威圧感がやたら真実味を帯びていて、リオンは相手を睨み続けるが、冷や汗をかきながら思わず後ずさってしまう。

『そうか…… であるならば──』

 リオンの返事を最後まで聞くことなく、骸の魔術師は朽ちた木の杖を両手で強く握りしめると、杖の上先端に魔力が溜まっていき、白く光る大きな鎌へと変化した。

『此処から先、貴様を通す訳には往かぬ──!』

「──なっ!?」

 突然、骸の魔術師は鎌を大きく振りかぶりながら急接近し、リオンの首に目掛けて刃を振り下ろす。

 キィン───!

 と音を立て、リオンは相手の攻撃を咄嗟に刃の峰で受け止めるが、遠目からではわかりずらかった大きな体から繰り出される一撃はとても重く徐々に押されていってしまう。

 (こいつ、本気で向かって来やがった……!)

 すぐさま身を屈め、鞘から剣を抜き相手の足を狙って斬り払う、しかし切断された部分は黒い影となり、宙へと消え去っていく。

 (幻術!? って言うか──)

「そっちから呼び出しといて、この仕打ちはねぇだろ!!」

 あまりにも理不尽だと思い、どこにいても聞こえるようわざと声を張ってみせると、魔法の気配を感じて振り向いたリオンは、後ろにいた骸の魔術師が赤色の魔方陣から炎の魔弾を次々と飛ばしてくるのを確認した。

「大したことねぇ、魔法が使えりゃどうってこと……!」

 だが転送魔法で避けようとした去り際、反対からもう一人の骸魔術師が現れ、今度は青い魔法陣から水砲が放たれたのが見える。

 (ちょっと待て、これがぶつかったらどうなる!?)

 その疑念も虚しく転送魔法が発動すると、相手の炎と水魔法がぶつかった途端、辺り一帯が水蒸気に包まれ視界が遮られてしまった。

「クソッ! やられた──!」

 転移した直後、何とか相手を見つけだそうと必死に相手の気配を察知し、背後から振りかぶる大鎌を避けて反撃するも、魔術師は再び黒い影となって消えていく。

 すると気温の変化を肌で感じ上を見上げたリオンは、空から氷の膜が周りを覆っていくのが見え、このまま閉じ込められては勝ち目がないと判断するが……

 (やっぱ視界が悪すぎて、行き先が定まらねぇ……!)

 水蒸気の中から抜けられないまま、光が現れたかと思えばいくつかの黄色い魔法陣から槍のような雷の魔法が一斉に放たれた。

 水蒸気と雷、そしてリオンは相手が炎魔法を使えることを思い出す。

「マジかよ、これって──!?」

 そして視界から僅かに見えた骸の魔術師は炎魔法を放ち混ざり合った周りの空気が一気に燃え、

 ──ドォォォン──!!

 と、辺り一帯に大きな爆発を引き起こした。


「ぐっ…… ゲホッ、ゲホッ」

 廃れていた村が跡形もなく消え、かろうじて見えた隙間から転送場所を割り出しギリギリで避けたものの、その衝撃は凄まじくリオンは転がりながら地面に倒れ、肘をついて顔を上げるも体を起こすことが出来なかった。

『ほう、今のを避けたか…… だが此処までだ』

 (水素、爆発……!? こんなことが出来るやつなんて……)

 動くことの出来ないリオンに骸の魔術師は大鎌の刃を彼の首に突き立てて、再び問いかける。

『選べ、未来は二つも選べない』

「だから! その意味がわからねぇって……!!」

『選べる未来は一つだけだ!』

「話聞けっての!!」

 (だってあり得ねぇだろ、あいつが世界を滅ぼすなんて絶対にあり得ない──!)

 先ほどから骸の魔術師による話は全く見えてこないが、リオンは首に添えられた刃を気にも止めず、全身の力を振り絞って必死に立ち上がる。

『ほう、……まだ抗うつもりか?』

「うるせぇ! 当たり前だ」

 首元から血を流し、膝と剣を突きながらゆっくり起き上がると、突き立てられた大鎌の刃を剣を使って押し返していく。

「誓ったんだよ…… 俺は、あいつと生きていくって、あの時誓ったんだ!!」

 初めてアキトと顔を合わせた教会での出来事を思い出し、骸の魔術師を見据えたリオンは大鎌をはね除け、一気に間合いを詰める。

「そこだ!!」

 相手の幻影を突き破りながら前に踏み込み。その奥にいる骸の魔術師が手にしていた杖が角の一部となっている黒い鹿と鉢合わせる。

 ガキィン── と、攻撃は角によって受け止められたが、たしかに手応えを感じたリオンは、相手の実体を捕らえたことを確信した。

「見つけたぞ! あんたが本体だ!!」

 一か八か、水蒸気による目眩ましと幻術を組み合わせた戦い方から、おそらく本体が別にいると読み、それが見事に的中する。

 本体である鹿は青い瞳を僅かに揺しながら、リオンの攻撃を弾き返し、さらに数体もの骸の魔術師を生み出していく。

「7体!? 流石に多いって……!」

 幻影がリオンを囲いながらそれぞれ異なる色の魔方陣を構えた瞬間── 禍々しい炎が飛来し、一瞬にしてそれら全てを焼き払う。

「リオン! 大丈夫!?」

「お前── 何でここに!?」

「だって起きたらいなかったから!」

 後ろを振り返ると、そこには森の中でリオンを探していたアキトが遠くから姿を見せていた。

「あれだれ──?」

「知らねぇ! けど死にかけた!」

「じゃあ敵だね──!」

 幻影を燃やしていた炎が収まり、アキトがリオンのいる廃村跡に向かって駆け寄って行き、二人はやっとお互いの元へと合流する。

『未来に抗うか、面白い!』

 再び骸の魔術師が姿を現し、魔力で出来た大鎌を握りしめて立ちはだかる。

『ならばこの我を倒し、その力を証明してみせよ!!』

 地面が揺れるような重圧を浴びながらも、二人は前を向き、敵に臆することなく立ち向かう。

「チュートリアルは終わりか? んじゃ ──行くぞ!!」

「うん──!」

 リオンが剣を構え、アキトは右手のひらで紫立つ炎を燃え上がらせ、二人は同時に走り出す。

 勝負の未来はすぐそこにまで迫っていた。



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