怪獣特殊処理班ミナモト

kamin0

文字の大きさ
15 / 49
第1章 神獣協会

怪獣そのもの

しおりを挟む
「1ヶ月ぶりだな、源」

 出羽長官は執務机越しに言った。出羽長官の様子は何処かやつれて見えた。やはり、今回の件でその対応に追われているのだろう。

「源、今日お前をここに呼んだのは浄化作業をしてもらうためだ。」

「浄化ですか?一体何の?」

「皇居跡で発見された怪人だ。地球外生命研究所であらかた調査が終わったからな。君にアレを完全に浄化してもらいたい。」

「…それは」

「既に死亡しているのだ。君が浄化をしたとしても肉体を殺すことにはならない」

 出羽長官は源が気にする所をすかさず補足した。出羽長官は立ち上がると、

「では、また地下に行く」

 と言って何事か内線で連絡した。

「もう狛江主任が地下で控えているそうだ。安心しろ、今回は検査も何もない。浄化をして終わりだ」

 源はこの時初めて自分があからさまに嫌そうな顔をしていることに気づいた。前回の検査がかなりキツかったのだ。

 地下66階にある地球外生命研究所には、前回同様狛江が自衛隊員とともに待機しており、そして、白衣を着た助手らしき人が何人か後ろに控えていた。彼らはホログラムではなく本物の人間だった。

 狛江主任は笑顔で源と握手を交わした。

「久しぶり!君の活躍ぶりはよく聞いているよ。確か浄化の時にコアを物理的に破壊したんだって?」

「あれは、何と言うか、自分の意思ではなくて…」

「それを解明するのが僕たちの仕事でもある。今日は浄化だけだけど、間近で観察させてもらうよ」

「狛江主任、安置所まで案内してくれ」

「これは申し訳ない!いやはや、テンションが上がってしまいまして。どうぞ、こちらです」

 狛江主任はそう言うと長い通路を歩き始めた。その奥に何やら自衛隊員に守られている扉があり、狛江主任はそこで立ち止まった。

「ここです」

 狛江主任が扉を開けると、エレベーターのものよりもさらに分厚い隔壁がゆっくりと開いた。

 部屋は薄暗く、病院の手術室のように、真ん中に人がちょうど横たわれるくらいの台が設置されていた。そしてその上には、布で覆われた死体が安置されていた。

「すでに頭蓋は半分切り離しています。あとはコアに直接触れるだけです」

 狛江主任は部下に命じると、布を取った。

「これは…!」

 源は思わず息を呑んだ。露わになった死体の頭部は半分取り除かれていて、そこから見えるのは、真っ黒で空っぽな空間と、その真ん中にぶら下がる小さなコアだった。

「驚くのも無理もない。怪人になると、このように血が黒く変わってしまうのだよ。私も初めて怪人を解剖した時は驚いた」

(これに触れるのか…)

 源はそのグロテスクな光景に若干の抵抗を覚えた。だが、やらなければならない。

「源、できるな?」

「はい。やってみます…」

 源はシャツの腕を捲ると、コアの前に立った。その横にはまじまじとその様子を眺める狛江主任とその助手たちが集まっていた。そして目の前には、源にピッタリと銃の照準を合わせる自衛隊員がいた。

 源は息を整えると、そのコアにそっと触れた。ぬめっとするコアの感触に表情を硬くしながら、目を閉じて浄化に集中した。

 源が思うよりずっと早くその感覚は来た。コアの中に全身が取り込まれるようなあの感覚だ。

(…何だ?これ)

 源はそれに強い違和感を感じた。そして白い空間に漂うあの黒い球を見つけた。それは前回浄化した怪獣とは異なり、色が薄かった。すでに色は黒ではなく灰色で、半透明になっていた。だが、球には傷ひとつなく、黒いモヤのようなものが漏れ出している様子は確認できなかった。

(…とりあえず、浄化を完了させるか)

 源は球を両手に包み込むと、強く念じた。

(壊れろ!)

 球は源の念じた通りにヒビが入り、そこから薄いもやが溶け出した。

(一体何なんだ?あれ)

 源はそこで目が覚めた。

「素晴らしい!源君、浄化は成功です!ほら、お前たちもよく見るんだ、コアにヒビが入っている!」

 狛江主任は興奮した様子でタブレットに何か打ち込んでいる。源は汚れた手を拭きつつ、入り口近くに立っている出羽長官を見た。それを察した出羽長官がこちらに近づいてきた。

「どうした?」

「実は、浄化に違和感があって…」

「具体的には?」

「僕は浄化の時に、ある白い空間に意識が行くんですけど、その空間にあるコアが通常のものより色とか、それに存在が薄かったんです。何より、その空間に到達するまでの時間が短かった。何が言いたいのかと言うと、手応えがなかったんです」

「それはおかしいですねえ」

 いつの間にか隣には狛江主任が立っていた。

「怪人はコアの構造は怪獣と一緒ですし、コアの色とか存在とかが薄いなんて聞いたこともありません。そもそも、源君の言う白い空間というのも気になる。もしかしたら源くんは、無意識のうちに怪獣の深層心理に辿り着いている可能性がありますね。ああ、そうすればコアが毎回破壊される理由もわかるな」

「狛江主任、要約して話してくれ」

「これは失礼。つまりですね、この怪人には、寄生した怪獣の意思が希薄な可能性があります。そして源君は、我々が今に至るまで到達できなかった怪獣そのものにコアからアクセスすることができる」

 源にはいまいちピンとこなかった。

「狛江さん、それはどういう…」

「今回の事件の異常性と君の異常性がよく分かったという話だよ。やはり君は前代未聞だ」

 源は職員寮に帰る最中、ついさっき行った一連の浄化作業を思い出していた。

(狛江主任は僕が怪獣の深層心理にアクセスできると言っていたけど、それはあの声と関係があるのだろうか)

 あの声とは、源が初めて浄化をした時に何処からか聞こえてきた声だ。その声は、

『それを握り潰せば良いのだ』

 と言い、源はなぜかそれに従った。

(一体あの声は何なんだろうか。自衛隊の時の記憶か?それにしては古臭い言い回しに思える)

 源は悶々としたまま寮に戻った。

 連続誘拐事件の捜査には、一向に進展が見られなかった。主要都市はくまなく捜索されたが、手掛かり一つつかめず、政府関係者の間には焦りが広がっていた。そんな中、新たな怪人が現れた。しかも、今度は怪獣を伴って。場所は東北砂漠、旧宮城県である。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...