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第1章 神獣協会
怪獣そのもの
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「1ヶ月ぶりだな、源」
出羽長官は執務机越しに言った。出羽長官の様子は何処かやつれて見えた。やはり、今回の件でその対応に追われているのだろう。
「源、今日お前をここに呼んだのは浄化作業をしてもらうためだ。」
「浄化ですか?一体何の?」
「皇居跡で発見された怪人だ。地球外生命研究所であらかた調査が終わったからな。君にアレを完全に浄化してもらいたい。」
「…それは」
「既に死亡しているのだ。君が浄化をしたとしても肉体を殺すことにはならない」
出羽長官は源が気にする所をすかさず補足した。出羽長官は立ち上がると、
「では、また地下に行く」
と言って何事か内線で連絡した。
「もう狛江主任が地下で控えているそうだ。安心しろ、今回は検査も何もない。浄化をして終わりだ」
源はこの時初めて自分があからさまに嫌そうな顔をしていることに気づいた。前回の検査がかなりキツかったのだ。
地下66階にある地球外生命研究所には、前回同様狛江が自衛隊員とともに待機しており、そして、白衣を着た助手らしき人が何人か後ろに控えていた。彼らはホログラムではなく本物の人間だった。
狛江主任は笑顔で源と握手を交わした。
「久しぶり!君の活躍ぶりはよく聞いているよ。確か浄化の時にコアを物理的に破壊したんだって?」
「あれは、何と言うか、自分の意思ではなくて…」
「それを解明するのが僕たちの仕事でもある。今日は浄化だけだけど、間近で観察させてもらうよ」
「狛江主任、安置所まで案内してくれ」
「これは申し訳ない!いやはや、テンションが上がってしまいまして。どうぞ、こちらです」
狛江主任はそう言うと長い通路を歩き始めた。その奥に何やら自衛隊員に守られている扉があり、狛江主任はそこで立ち止まった。
「ここです」
狛江主任が扉を開けると、エレベーターのものよりもさらに分厚い隔壁がゆっくりと開いた。
部屋は薄暗く、病院の手術室のように、真ん中に人がちょうど横たわれるくらいの台が設置されていた。そしてその上には、布で覆われた死体が安置されていた。
「すでに頭蓋は半分切り離しています。あとはコアに直接触れるだけです」
狛江主任は部下に命じると、布を取った。
「これは…!」
源は思わず息を呑んだ。露わになった死体の頭部は半分取り除かれていて、そこから見えるのは、真っ黒で空っぽな空間と、その真ん中にぶら下がる小さなコアだった。
「驚くのも無理もない。怪人になると、このように血が黒く変わってしまうのだよ。私も初めて怪人を解剖した時は驚いた」
(これに触れるのか…)
源はそのグロテスクな光景に若干の抵抗を覚えた。だが、やらなければならない。
「源、できるな?」
「はい。やってみます…」
源はシャツの腕を捲ると、コアの前に立った。その横にはまじまじとその様子を眺める狛江主任とその助手たちが集まっていた。そして目の前には、源にピッタリと銃の照準を合わせる自衛隊員がいた。
源は息を整えると、そのコアにそっと触れた。ぬめっとするコアの感触に表情を硬くしながら、目を閉じて浄化に集中した。
源が思うよりずっと早くその感覚は来た。コアの中に全身が取り込まれるようなあの感覚だ。
(…何だ?これ)
源はそれに強い違和感を感じた。そして白い空間に漂うあの黒い球を見つけた。それは前回浄化した怪獣とは異なり、色が薄かった。すでに色は黒ではなく灰色で、半透明になっていた。だが、球には傷ひとつなく、黒いモヤのようなものが漏れ出している様子は確認できなかった。
(…とりあえず、浄化を完了させるか)
源は球を両手に包み込むと、強く念じた。
(壊れろ!)
球は源の念じた通りにヒビが入り、そこから薄いもやが溶け出した。
(一体何なんだ?あれ)
源はそこで目が覚めた。
「素晴らしい!源君、浄化は成功です!ほら、お前たちもよく見るんだ、コアにヒビが入っている!」
狛江主任は興奮した様子でタブレットに何か打ち込んでいる。源は汚れた手を拭きつつ、入り口近くに立っている出羽長官を見た。それを察した出羽長官がこちらに近づいてきた。
「どうした?」
「実は、浄化に違和感があって…」
「具体的には?」
「僕は浄化の時に、ある白い空間に意識が行くんですけど、その空間にあるコアが通常のものより色とか、それに存在が薄かったんです。何より、その空間に到達するまでの時間が短かった。何が言いたいのかと言うと、手応えがなかったんです」
「それはおかしいですねえ」
いつの間にか隣には狛江主任が立っていた。
「怪人はコアの構造は怪獣と一緒ですし、コアの色とか存在とかが薄いなんて聞いたこともありません。そもそも、源君の言う白い空間というのも気になる。もしかしたら源くんは、無意識のうちに怪獣の深層心理に辿り着いている可能性がありますね。ああ、そうすればコアが毎回破壊される理由もわかるな」
「狛江主任、要約して話してくれ」
「これは失礼。つまりですね、この怪人には、寄生した怪獣の意思が希薄な可能性があります。そして源君は、我々が今に至るまで到達できなかった怪獣そのものにコアからアクセスすることができる」
源にはいまいちピンとこなかった。
「狛江さん、それはどういう…」
「今回の事件の異常性と君の異常性がよく分かったという話だよ。やはり君は前代未聞だ」
源は職員寮に帰る最中、ついさっき行った一連の浄化作業を思い出していた。
(狛江主任は僕が怪獣の深層心理にアクセスできると言っていたけど、それはあの声と関係があるのだろうか)
あの声とは、源が初めて浄化をした時に何処からか聞こえてきた声だ。その声は、
『それを握り潰せば良いのだ』
と言い、源はなぜかそれに従った。
(一体あの声は何なんだろうか。自衛隊の時の記憶か?それにしては古臭い言い回しに思える)
源は悶々としたまま寮に戻った。
連続誘拐事件の捜査には、一向に進展が見られなかった。主要都市はくまなく捜索されたが、手掛かり一つつかめず、政府関係者の間には焦りが広がっていた。そんな中、新たな怪人が現れた。しかも、今度は怪獣を伴って。場所は東北砂漠、旧宮城県である。
出羽長官は執務机越しに言った。出羽長官の様子は何処かやつれて見えた。やはり、今回の件でその対応に追われているのだろう。
「源、今日お前をここに呼んだのは浄化作業をしてもらうためだ。」
「浄化ですか?一体何の?」
「皇居跡で発見された怪人だ。地球外生命研究所であらかた調査が終わったからな。君にアレを完全に浄化してもらいたい。」
「…それは」
「既に死亡しているのだ。君が浄化をしたとしても肉体を殺すことにはならない」
出羽長官は源が気にする所をすかさず補足した。出羽長官は立ち上がると、
「では、また地下に行く」
と言って何事か内線で連絡した。
「もう狛江主任が地下で控えているそうだ。安心しろ、今回は検査も何もない。浄化をして終わりだ」
源はこの時初めて自分があからさまに嫌そうな顔をしていることに気づいた。前回の検査がかなりキツかったのだ。
地下66階にある地球外生命研究所には、前回同様狛江が自衛隊員とともに待機しており、そして、白衣を着た助手らしき人が何人か後ろに控えていた。彼らはホログラムではなく本物の人間だった。
狛江主任は笑顔で源と握手を交わした。
「久しぶり!君の活躍ぶりはよく聞いているよ。確か浄化の時にコアを物理的に破壊したんだって?」
「あれは、何と言うか、自分の意思ではなくて…」
「それを解明するのが僕たちの仕事でもある。今日は浄化だけだけど、間近で観察させてもらうよ」
「狛江主任、安置所まで案内してくれ」
「これは申し訳ない!いやはや、テンションが上がってしまいまして。どうぞ、こちらです」
狛江主任はそう言うと長い通路を歩き始めた。その奥に何やら自衛隊員に守られている扉があり、狛江主任はそこで立ち止まった。
「ここです」
狛江主任が扉を開けると、エレベーターのものよりもさらに分厚い隔壁がゆっくりと開いた。
部屋は薄暗く、病院の手術室のように、真ん中に人がちょうど横たわれるくらいの台が設置されていた。そしてその上には、布で覆われた死体が安置されていた。
「すでに頭蓋は半分切り離しています。あとはコアに直接触れるだけです」
狛江主任は部下に命じると、布を取った。
「これは…!」
源は思わず息を呑んだ。露わになった死体の頭部は半分取り除かれていて、そこから見えるのは、真っ黒で空っぽな空間と、その真ん中にぶら下がる小さなコアだった。
「驚くのも無理もない。怪人になると、このように血が黒く変わってしまうのだよ。私も初めて怪人を解剖した時は驚いた」
(これに触れるのか…)
源はそのグロテスクな光景に若干の抵抗を覚えた。だが、やらなければならない。
「源、できるな?」
「はい。やってみます…」
源はシャツの腕を捲ると、コアの前に立った。その横にはまじまじとその様子を眺める狛江主任とその助手たちが集まっていた。そして目の前には、源にピッタリと銃の照準を合わせる自衛隊員がいた。
源は息を整えると、そのコアにそっと触れた。ぬめっとするコアの感触に表情を硬くしながら、目を閉じて浄化に集中した。
源が思うよりずっと早くその感覚は来た。コアの中に全身が取り込まれるようなあの感覚だ。
(…何だ?これ)
源はそれに強い違和感を感じた。そして白い空間に漂うあの黒い球を見つけた。それは前回浄化した怪獣とは異なり、色が薄かった。すでに色は黒ではなく灰色で、半透明になっていた。だが、球には傷ひとつなく、黒いモヤのようなものが漏れ出している様子は確認できなかった。
(…とりあえず、浄化を完了させるか)
源は球を両手に包み込むと、強く念じた。
(壊れろ!)
球は源の念じた通りにヒビが入り、そこから薄いもやが溶け出した。
(一体何なんだ?あれ)
源はそこで目が覚めた。
「素晴らしい!源君、浄化は成功です!ほら、お前たちもよく見るんだ、コアにヒビが入っている!」
狛江主任は興奮した様子でタブレットに何か打ち込んでいる。源は汚れた手を拭きつつ、入り口近くに立っている出羽長官を見た。それを察した出羽長官がこちらに近づいてきた。
「どうした?」
「実は、浄化に違和感があって…」
「具体的には?」
「僕は浄化の時に、ある白い空間に意識が行くんですけど、その空間にあるコアが通常のものより色とか、それに存在が薄かったんです。何より、その空間に到達するまでの時間が短かった。何が言いたいのかと言うと、手応えがなかったんです」
「それはおかしいですねえ」
いつの間にか隣には狛江主任が立っていた。
「怪人はコアの構造は怪獣と一緒ですし、コアの色とか存在とかが薄いなんて聞いたこともありません。そもそも、源君の言う白い空間というのも気になる。もしかしたら源くんは、無意識のうちに怪獣の深層心理に辿り着いている可能性がありますね。ああ、そうすればコアが毎回破壊される理由もわかるな」
「狛江主任、要約して話してくれ」
「これは失礼。つまりですね、この怪人には、寄生した怪獣の意思が希薄な可能性があります。そして源君は、我々が今に至るまで到達できなかった怪獣そのものにコアからアクセスすることができる」
源にはいまいちピンとこなかった。
「狛江さん、それはどういう…」
「今回の事件の異常性と君の異常性がよく分かったという話だよ。やはり君は前代未聞だ」
源は職員寮に帰る最中、ついさっき行った一連の浄化作業を思い出していた。
(狛江主任は僕が怪獣の深層心理にアクセスできると言っていたけど、それはあの声と関係があるのだろうか)
あの声とは、源が初めて浄化をした時に何処からか聞こえてきた声だ。その声は、
『それを握り潰せば良いのだ』
と言い、源はなぜかそれに従った。
(一体あの声は何なんだろうか。自衛隊の時の記憶か?それにしては古臭い言い回しに思える)
源は悶々としたまま寮に戻った。
連続誘拐事件の捜査には、一向に進展が見られなかった。主要都市はくまなく捜索されたが、手掛かり一つつかめず、政府関係者の間には焦りが広がっていた。そんな中、新たな怪人が現れた。しかも、今度は怪獣を伴って。場所は東北砂漠、旧宮城県である。
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