怪獣特殊処理班ミナモト

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第1章 神獣協会

ヘッドハンター作戦 会敵

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防衛暦31年、8月23日午後21時。自衛隊特殊作戦群は1級任務、ヘッドハンター作戦を開始した。場所は富士工業地帯最深層、三友グループ傘下実験施設、またの名を神獣協会本部。特殊作戦群は衛生環境庁処理科、特殊処理班の班員3名を伴い富士工業地帯に侵入。21時15分、最深層に到達。特殊作戦群はその場で5部隊に分かれる。上層の特殊処理班は電波拡張装置を使用し、電波灯台と同等の出力で妨害電波を下層に流す。さらにエアダクトを通して致死量の50倍の神経毒ガスを注入。21時20分、特殊作戦群5部隊が施設内に侵入、21時22分、敵怪人と接敵。21時23分、5部隊の内、2部隊が壊滅。

『こちらハンターエータ。ウルフ4と5がやられた。至急応援を願う』

『こちらハンターアルファ、それは不可能だ』

『了解、健闘を祈る』

 21時44分、5部隊の内、3部隊が壊滅。残存する2部隊の内、1部隊が撤退を開始。もう1部隊は、施設中央部に侵入。

『こちらハンターアルファ、ベータ部隊は上層に撤退し通用口を封鎖しろ。我々はこのまま目標を追う』

『了解、健闘を…健闘を祈る』

 22時03分、敵怪人一体が通気ファンの隔壁を破り上層に侵入、ベータ部隊と接敵。

『こちら特殊処理班、ベータ部隊が壊滅した』

『特殊処理班に全体通信は許可していない』

『まだそんなことを…!では特殊処理班のベータ部隊への一時的な編入を要請する!』

『……要請を許可する』

 22時05分、5部隊の内、4部隊が壊滅。ベータ部隊の生き残り1名は上層に留まる。特殊処理班はベータ部隊に編制、22時07分、特殊処理班の班員2名とベータ部隊1名は敵怪人と接敵。

 22時16分……



 特殊作戦群が侵入する一時間前、技的実験坑では、スーツ姿のある男が定着槽を前に、そこに浮かぶ人間を眺めていた。その男はとても端正な顔立ちをしていて、歳は30歳ほどだった。

「殿下」

 不意に後ろからそう声がした。気づくと、男の後ろには3メートル弱もある背丈の大男が立っていた。その男は甲冑のような装甲を身に着けていて、顔は、目の部分に横長の細いスレッドの入った鋼鉄のマスクで覆われていた。その姿はまるで戦車のようだった。

「レストア、どうかした?」

「恐れながら、150人ほどの武装をした人間が地上に集まっております」

「…自衛隊か。案外早かったね」

「殿下、部下たちに過程変異をさせるべきであります」

「過程変異はその場の状況に適応する仕組みだ。恐らく相手は毒ガスを使ってくるだろうから、そのあとに過程変異をさせればいい」

「それでは一部の奴隷共が死亡します。来る日に向けての駒が減ってしまうのでは?」

「構わないよ。私は元々、奴隷には駒としての価値はあまり感じていなかったんだ。それに、仙台に放った奴隷も、たった一人の、しかも生身の人間に負けてしまったからね。そこで完全に価値が無くなったよ」

「…あれは思い出すだけでもはらわたが煮えくり返りますな。そもそも、あのような下賤のものを斥候になど使うべきでは無かった。これは私の責任でもある」

 レストアと呼ばれた大男は苦々しく言った。

「まあそれはいい。レストア、君は例の彼を頼む。恐らくここに来るだろうからね。あの力は我々に有効だ」

「ミナモト殿ですか。承知いたしました」

 それにスーツの男は振り返ると、レストアの目を細いスレッド越しに見据えた。

「おい、レストア。私の前でそのような醜い名前を使うな。彼のことは大君とお呼びしろ。それは私への侮辱として捉えるぞ?」

 その声は絶対的な効力を感じさせた。レストアはそれにたじろぐと、その場に跪いた。レストアは己の迂闊さを悔いた。それはこの男の唯一の地雷だった。

「申し訳ありません…!このレストア、どのような処罰でもお受けいたします!」

「その必要はないよ。だがまあ私もお前には甘すぎる所がある。レストア、君にはノルマを与えよう。そうだな、では、敵戦力の半分を単独で殺害しろ。他の幹部たちよりも先にだ」

「……!なんと寛大な処分!やはり殿下こそ我が仕えるべき真の御方でございます」

「もうそれは聞き飽きたよ。私はまだここに用事が残っているから、レストアは正面ホールで待機してくれ。そこから半分ぐらいの人数は入ってくると思うから」

「は!仰せのままに!」

 レストアはそう言うと、すぐにその場を立ち去った。もっとも、出入り口を通るときは身をかがめて慎重に出ていった。

「アシュキル殿下、お話はお済になりましたか?」

 横から研究員らしき人物、いや、怪人が話しかけた。

「ああ、もう済んだよ。それで、進捗というのはなんだい?」

「はい、それがつい1限刻前、実験体の一人の同化実験が半分成功いたしまして」

 研究員は誇らしそうにそう言った。

「それは素晴らしい。半分というと、適合率はどのくらいになるのかな?」

「大体60パーセントほどですな」

「ついにここまで来たか。ではこのまま実験を続けてくれ、と言いたいところなんだが、そうもいかなくてね」

「何かあったのですか?」

「自衛隊にココがばれたんだ。すでに地上に特殊部隊が集まっている」

「何と!では私も戦いに加わりましょうかな」

「そうなる前に終わるさ。相手に私のような人間がいなければね」

「殿下のような?はは、奴らにそこまでの傑物はそうそういますまい」

「さあ、どうだろうね」

 アシュキルは実験坑を後にすると、会長室に向かった。会長室には秘書の野鹿が控えていた。

「斗軽、幹部に一斉連絡してくれ。一人も生きて返すな」

 特殊処理班の侵入直後、ハンターシータとデルタは施設右奥にある倉庫スペースに向かっていた。そこに誘拐された人々がいる可能性が高かったからである。隊員たちはみな、真っ黒の戦闘服と防弾チョッキ、そしてパワードスーツ、機械化装甲を着ていた。これは従来のものと異なり、普通の服のように着こむことが出来る。さらに頭には液晶フェイスガード付きの強化カーボンヘルメットを被り、万全の状態を期していた。そして彼らは、正面入り口に到着した。そこにはレストアが待っていた。

「待っていたぞ!虫けらども!」

『総員、発砲準備。目標、敵頭部』

「何だ?貴様らそのような玩具で我を斃すつもり…」

『射撃開始!』

 隊長の合図で、シータ部隊の第一陣がレストアに向けてショットガンライフルを立て続けに発砲した。そして第一陣が打ち終わると、第二陣が間髪開けずに10ゲージのスラグ弾を撃ち込んだ。その激しい斉射が終わると、レストアは少しよろめいた。もうもうと立ち込める煙の中で、その巨体はしっかりと地面を踏みしめていた。そして、手に握りしめていた、背丈を超す大剣を振りかぶった。

『スラグ弾、効果なし…』

 絶望的な声でそう伝えたシータ隊隊長は次の瞬間、胴体が薙ぎ払われ、吹き飛んでいた。レストアのこの一振りで、見事な横列を組んでいたシータ隊はその大半が上半身を吹き飛ばされ、辺り一面にその臓物をまき散らした。

「……貴様ら、今のは何だ?我は子供のおままごとに付き合うためにここにいるのでは断じてない!その侮り!怠慢!万死に値する!闘気を見せよ、軟弱ものが!」

 レストアはまたも大剣を振りかぶると、発砲するデルタ隊の隊員たちを、またもや一閃した。辛うじてその攻撃を避けた何人かの隊員たちは銃を捨て、短刀を取り出すと、一直線にレストアの間合いに突っ込んできた。

『死ね!化け物!』

「これは中々!」

 レストアは大剣をその場に突き刺すと、今度は腕を振りかぶり、その隊員の腹部をアッパーで吹き飛ばした。

「その度胸、賞賛に値する。刃の一振りではなく、我が拳で逝くのがふさわしい」

 レストアは手にまとわりついた肉片を払うと、またもや剣を手に取り、たじろぐ隊員たちを睨み据えた。

「どうした、何故向かってこない?貴様らの同志が無残に死んだのだぞ?……やはり運だけの雑兵であったか」

 レストアはその巨体からは考えられないスピードで隊員たちに突っ込むと、その頭を正確に切り飛ばした。力なく倒れる隊員たちの死体を見て、レストアはため息をついた。

「はあ、やはり敵に期待しすぎるのは我の悪癖だな。奴ら、小道具ばかり弄して、肝心の肉体が疎かになっている。それに戦士としての死合いを求めるのは酷であったか。まあ何はともあれ、殿下から下されたノルマはこれで達成した。あとは大君を叩くだけだな」

 レストアは真っ赤に染まった正面入り口を抜けて、階層中央の基幹エレベーターまで行くと、それに乗り込んだ。だが、壁のパネルを操作しても一向に反応がない。

「むう、この機械、壊れているのか。仕方ない、天井を破って行くとしよう」

 レストアは外に出ると、その場で両足を折り曲げ、スクワットのような体勢を取った。

「このぐらいであれば十分であるな」

 レストアは勢いよくその場から垂直飛びをした。その衝撃で大きくへこんだコンクリートの地面を背に、レストアはみるみる上昇し、遂に天井に到達した。そして通気ファンの巨大なプロペラをそのままの勢いでぶち破ると、その奥の隔壁を片手で掴み、もう一方の手でぴったりと閉じられた二枚の隔壁をこじ開けると、隔壁の上に上り、もう一度真上にジャンプした。そして長いダクトを抜けると、その蓋を破り、上層に到達した。

「さて、二度目の英雄殺しと行こうか」
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