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第26話 秒針の音

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土曜日の朝、雲ひとつない快晴でカーテンの隙間から入ってくる木洩れ日は僕の目覚まし時計だった。

目覚まし時計を10時に設定し昨夜は眠りについたが、木洩れ日は9時30分に僕を起こした。ドアを開けて階段を降り洗面所で顔を洗った。

夜帰ってきた時はどんな顔をしてるのだろうか……

僕はいつも通りコーヒーを飲みながらチーズトーストを食べていた。チーズトーストが大好物の僕は業務用専門スーパーでいつもチーズを買っており今日の待ち合わせ場所もそこだ。

「今日どっか行くんか?」

「まなみと昼過ぎからデート行く」

「そうかあ、
楽しんできいな」

母は外出中でリビングには父しかいなかった。もし母がいたら、またもや質問責めをくらうので多くを語らない父だけでよかった。

朝食を摂った後部屋に戻りテレビを見ていたが、心の落ち着きはなく発表会前の緊張感のようなものを感じていた。待ちに待ったはずの『それ』まであと少しの僕はテレビの内容など全く頭に入ってこなかった。テレビをつけているのに秒針の音が聞こえ時が進むのを誰か止めてくれと願っていた。

家を出るまであと数分という頃には自分が自分でないような気がしていた。

所詮まなみは『それ』のための女に過ぎないじゃないか?

失うものなど何もないだろ?

それならそこまで緊張しなくてもいいのではないか?

自分に言い聞かせ、重い玄関の扉を開けて家を出ると温かな太陽が僕を迎えに来てくれた。駐輪場に向かい自転車に乗ろうとしたが、鍵を持ってくるのを忘れた。このようなヘマを犯すなどいつ以来だろうか……
家に鍵を取りに行き自転車に跨った。待ち合わせ場所のスーパーまでは自転車で15分。

雲ひとつない快晴の中、僕はペダルを漕いでいた。







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