俺は特攻隊員として死んだ

SaisenTobutaira

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老婆

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手を繋ぎ晴子さんの家に向かっていた。道中、俺の心臓は全力疾走した後のように鼓動が高まっていた。心臓の位置を的確に感じ、一拍一拍が鮮明に伝わってくる。

お互い無言で歩いていた。

「賢治君かなあ?」

背後から突然声をかけられ振り返ると見覚えのある顔があった。しかし、名前が出て来ず、とりあえず挨拶をした。俺の気持ちを察したのか老婆が口を開いた。

「お久しぶりです。哲也の母です」

あっ、そうだ。哲也の母だ

数年前に会った時は若々しく、とても老婆には見えなかった。しかし、今日の姿は老婆そのものだ。まるで十歳以上も老けたかのように思えた。

「お久しぶりです」

俺はなんとなく老けた理由がわかっていた。おそらく……

「先日、哲也が殉職しま」

やはり、そうか

老婆は涙を流し、最後まで言葉を発することができなかった。俺はその場で崩れる老婆を抱きしめた。

「哲也君は立派な男でした。彼ほど日本の事を考えていた男を他には知りません。どうかお母様、胸を張って哲也君が愛した日本で生き抜いてください」

老婆の涙はさらに溢れ、路上に湖でもできそうだった。

「すみません」

哲也の姉が母に気づき近づいてきた。俺の顔を見るとすぐに気がついた。

「賢治君お久しぶりです、たくましくなったわね。哲也のためにも絶対生き抜いて下さい」

「はい……」

俺は言葉が出ず、涙を流していた。隣にいる晴子さんも目に涙を浮かべて表情は暗かった。

姉は老婆の手を握り、寂しい背中で去って行った。

哲也と最後に会ったのは開戦日だった。あれが最後の別れになるとは思いもしなかった。

彼の中で俺は腰抜けのままだろうな

昔は無邪気に遊んで仲良かったが、最後の別れは後味の悪いものだった。

俺が死んだら天国で、昔のような無邪気さで酒でも飲もう

胸の中で哲也のご冥福を祈っていた。

そうこうしていると晴子さんの家に着いた。

「入ってください」

俺は晴子さんの家に足を踏み入れた。

「そこに座っていてください。お茶でも持ってきますね」

俺は畳の上に腰掛け、ぼんやりと外を眺めていた。窓から見える庭は綺麗に整えられており、池には鯉が数匹、所狭しと泳いでいた。さすがは華族の家系だ。俺の家とは比較にならないほど、優雅で美しい。

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

縁側に出て、温かいお茶を二人で啜っていた。

「本土は穏やかですね。ここに居ると全く戦争を感じさせません」

俺は日本美に包まれた庭を眺めながら、晴子さんと話し込んでいた。
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