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あと、二日
展望台で
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次に私たちがやってきたのは、展望台だった。
展望台といってもそう大したものではなくて。
螺旋状の階段を登った先にある、ただの高台みたいな。そんな場所。
だけど街の広範囲が見渡せる、昨日迷い込んだ森でさえも。
それを踏まえると、この高台も立派に展望台である。
けど。人気は無い。私たちだけだ。それはむしろ好都合と言える。
お祭りの時は、大人気スポットになるのだけど。
どうでもいいけど、さっきのベンチに座ってた時に、人の会話が聞こえてきた。
内容は『街の正門近くに魔物の死骸があったので色々と混乱中』というものだった。
心当たりしかないけど、普通に無視して、私たちはその場を後にしたのである。
だって……それに関わるのも時間食われそうだし……。
んで、まぁ。見えてきたこの展望台に、足を向けたのだったとさ。
そこにあるベンチに、二人、腰を掛ける。腰掛けてばっかだな。
鉄柵越しに見えるのは、小さな街の風景。
お祭りムードのその風景は、少しだけ面白味がある。
けど、眺めるのもすぐに飽きがきてしまった。
だから私は、リリィを眺めていた。
会話は特に起こらない。
だけど気まずさは特に感じなかった。
それにしても。……リリィの横顔。凄く良い。
ほっぺもツヤツヤしてるし、というか肌全体が綺麗。
今のうちに、たくさんリリィのことを堪能しないと。
これだって、思い出になるから。全てが思い出になるから。
私は、リリィを好きなんだって理解してから、吹っ切れたようにそんな思考をしている。
「ねぇ、ミリア」
唐突に、リリィが私を見らずに声を飛ばした。
「どうしたの?」と、首を傾げながら聞き返す。
「ちょっと……見過ぎ? みたいな」
リリィの目が少しだけ、私を見る。
ほっぺたの色は、さっき見たよりも朱色だった。
「あ、あぁ。ごめん」
私は慌てて顔を逸らす。
リリィと同じ方向を見た。
「別にいいけど……。なんで見てくるのかなって」
細々とした声が届く。
「綺麗だなって」
「……そう」
呟く様に言いながら、ふと思った。
リリィの顔は。本当に、綺麗だ。
おかしいくらいに、美しいんだ。
嫉妬してしまうくらいに、麗しいんだ。
長旅の末、私の元に訪れたのに、とても──。
そこに奇妙な違和感があって。
そこまで思考し、私は首を横に振った。
余計なことを考えそうになった。いや、一瞬だけど考えてしまった。
こんなこと考えていたら、今を楽しめない。
だめだ、だめだ。
「リリィ」
私は気持ちを切り替えようと、彼女を呼ぶ。
肩をポンポンと叩き、人差し指をその辺りに固定した。
「なに?」
言いながら振り向くリリィのほっぺに、添えた私の人差し指が直撃した。
リリィの肩がビクッと跳ねる。
「わーい。ほっぺぷにぷにー」
「もう。なに」
指先に体温が伝わる。
恥ずかしそうにしながら顔をそのままにしているリリィがなんだか面白くって、思わず頬が緩む。
釣られるように、リリィもクスッと笑った。
なんとなく、今度は突っついてみた。
「ぷにぷにだー」
「無視しないで。なに!」
「ぷにぷにだなーって思って」
「答えになってないんですけど」
やっぱり、これがいい。
……リリィがいいって思ってるのか、分かんないけど。
少なくとも、余計なことに思考を巡らすよりかは。
こうして、訳の分からないことをして、笑う方が数倍も。
「さて」
「さてじゃない」
ぷにぷにの感触を覚えながら切り出す。
突っ込まれたけど、なんとなく無視した。ごめん。
「展望台って言っても、することないね。そろそろ移動しよっか?」
「…………」
「あれ?」
「無視する人は嫌い」
「え、私のこと、嫌いなの?」
「……好き」
リリィは私の人差し指の束縛からプイと顔を逸らした。
「やったー」
「……なに? 意地悪してるの? ミリアって、こんな性格だった?」
そう言うリリィは少し不機嫌そうだった。
「……えへへ。ちょっと意地悪したくなっちゃいました」
こんな性格だと聞かれても。
幼い頃に比べたら、性格くらい変わるものだろう。
リリィにこんなことをしている私がいる以上、それが私の性格だ。
好きな人にちょっかいかけるってことくらい、普通。だよね。
……こんな思考も読み取られていたりするのかな。
「……ふーん。そう」
「うん。そう。……ごめんね」
「……謝られることでも無い」
「……ありがとう」
「かと言って、お礼を言われるのも意味わかんない」
「えっと、じゃあ。……何も言わない?」
「何かは言ってほしい」
「むずいなー。えっと──」
「もういい! はい、次。今から、どこか行くんでしょ?」
「あ、うん!」
また『ごめん』って言いそうになって、それをギリギリで飲み込んだ。
リリィが立ち上がり、私もそれに続く。
視界の隅に映った、差し伸べられた手。
それを繋ぎ、私たちは螺旋を下った。
「じゃあ、次は。庭園! そこ行こ!」
展望台といってもそう大したものではなくて。
螺旋状の階段を登った先にある、ただの高台みたいな。そんな場所。
だけど街の広範囲が見渡せる、昨日迷い込んだ森でさえも。
それを踏まえると、この高台も立派に展望台である。
けど。人気は無い。私たちだけだ。それはむしろ好都合と言える。
お祭りの時は、大人気スポットになるのだけど。
どうでもいいけど、さっきのベンチに座ってた時に、人の会話が聞こえてきた。
内容は『街の正門近くに魔物の死骸があったので色々と混乱中』というものだった。
心当たりしかないけど、普通に無視して、私たちはその場を後にしたのである。
だって……それに関わるのも時間食われそうだし……。
んで、まぁ。見えてきたこの展望台に、足を向けたのだったとさ。
そこにあるベンチに、二人、腰を掛ける。腰掛けてばっかだな。
鉄柵越しに見えるのは、小さな街の風景。
お祭りムードのその風景は、少しだけ面白味がある。
けど、眺めるのもすぐに飽きがきてしまった。
だから私は、リリィを眺めていた。
会話は特に起こらない。
だけど気まずさは特に感じなかった。
それにしても。……リリィの横顔。凄く良い。
ほっぺもツヤツヤしてるし、というか肌全体が綺麗。
今のうちに、たくさんリリィのことを堪能しないと。
これだって、思い出になるから。全てが思い出になるから。
私は、リリィを好きなんだって理解してから、吹っ切れたようにそんな思考をしている。
「ねぇ、ミリア」
唐突に、リリィが私を見らずに声を飛ばした。
「どうしたの?」と、首を傾げながら聞き返す。
「ちょっと……見過ぎ? みたいな」
リリィの目が少しだけ、私を見る。
ほっぺたの色は、さっき見たよりも朱色だった。
「あ、あぁ。ごめん」
私は慌てて顔を逸らす。
リリィと同じ方向を見た。
「別にいいけど……。なんで見てくるのかなって」
細々とした声が届く。
「綺麗だなって」
「……そう」
呟く様に言いながら、ふと思った。
リリィの顔は。本当に、綺麗だ。
おかしいくらいに、美しいんだ。
嫉妬してしまうくらいに、麗しいんだ。
長旅の末、私の元に訪れたのに、とても──。
そこに奇妙な違和感があって。
そこまで思考し、私は首を横に振った。
余計なことを考えそうになった。いや、一瞬だけど考えてしまった。
こんなこと考えていたら、今を楽しめない。
だめだ、だめだ。
「リリィ」
私は気持ちを切り替えようと、彼女を呼ぶ。
肩をポンポンと叩き、人差し指をその辺りに固定した。
「なに?」
言いながら振り向くリリィのほっぺに、添えた私の人差し指が直撃した。
リリィの肩がビクッと跳ねる。
「わーい。ほっぺぷにぷにー」
「もう。なに」
指先に体温が伝わる。
恥ずかしそうにしながら顔をそのままにしているリリィがなんだか面白くって、思わず頬が緩む。
釣られるように、リリィもクスッと笑った。
なんとなく、今度は突っついてみた。
「ぷにぷにだー」
「無視しないで。なに!」
「ぷにぷにだなーって思って」
「答えになってないんですけど」
やっぱり、これがいい。
……リリィがいいって思ってるのか、分かんないけど。
少なくとも、余計なことに思考を巡らすよりかは。
こうして、訳の分からないことをして、笑う方が数倍も。
「さて」
「さてじゃない」
ぷにぷにの感触を覚えながら切り出す。
突っ込まれたけど、なんとなく無視した。ごめん。
「展望台って言っても、することないね。そろそろ移動しよっか?」
「…………」
「あれ?」
「無視する人は嫌い」
「え、私のこと、嫌いなの?」
「……好き」
リリィは私の人差し指の束縛からプイと顔を逸らした。
「やったー」
「……なに? 意地悪してるの? ミリアって、こんな性格だった?」
そう言うリリィは少し不機嫌そうだった。
「……えへへ。ちょっと意地悪したくなっちゃいました」
こんな性格だと聞かれても。
幼い頃に比べたら、性格くらい変わるものだろう。
リリィにこんなことをしている私がいる以上、それが私の性格だ。
好きな人にちょっかいかけるってことくらい、普通。だよね。
……こんな思考も読み取られていたりするのかな。
「……ふーん。そう」
「うん。そう。……ごめんね」
「……謝られることでも無い」
「……ありがとう」
「かと言って、お礼を言われるのも意味わかんない」
「えっと、じゃあ。……何も言わない?」
「何かは言ってほしい」
「むずいなー。えっと──」
「もういい! はい、次。今から、どこか行くんでしょ?」
「あ、うん!」
また『ごめん』って言いそうになって、それをギリギリで飲み込んだ。
リリィが立ち上がり、私もそれに続く。
視界の隅に映った、差し伸べられた手。
それを繋ぎ、私たちは螺旋を下った。
「じゃあ、次は。庭園! そこ行こ!」
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