魔法適正Fランクの落ちこぼれ魔法使い、Sランクの魔力蓄積量とスキル《魔力操作》で最強です!

沢谷 暖日

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第1章 強くてカワイイ魔法使い

第9話 侵入、アミア家

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 夜の十一時。
 空には満月が浮かんでいた。
 馬車の出発予定時刻まで、残り一時間程度。
 卒業式からかなり時間が経過したが、それでも私の結論は変わらない。

「…………」

 王都へ行く準備は万端だ。
 既に飲食店の方達との別れを済ませ、ドロシーさんの屋敷の近辺までやってきている。
 黒い衣服に身を包み、帽子を目深に被った私は、木の影で今日の作戦を思い返していた。

 まず。屋敷に入る方法だけど、入口が門しかないことを考えて正面突破になるだろう。
 塀を越えれば庭には入れそうだが、おそらく扉も窓も鍵がかかっているはずだ。
 となると鍵が必要になるが、門番が鍵を腰元にぶら下げていることは確認している。
 最初は一応鍵を借りられないか聞き、話が通じそうに無ければその鍵を盗む。
 そして屋敷の中へ忍び込み、ドロシーさんの部屋へと向かってから。最後に、ドロシーさんを連れ出す。
 これが、私の作戦だ。

「…………」

 木の影から門番の様子を窺う。
 鉄の鎧を身に纏ったそれは、何となく力無い様子で門前にいた。
 まるで今から犯罪者が忍び込む可能性なんて全く考慮していないようだった。
 そもそも自分が門番をする屋敷の前で、見える場所に鍵をぶら下げることがまずおかしいが、それもそうだ。サニスの町は小さい故に犯罪もほぼ起こらない。
 だから恐らく、門番も気が緩んでいるのだろう。

 私は深呼吸をし、二属性の魔法をそれぞれ両手に溜める。
 右手には闇属性。左手には風属性。魔力は確かに両手に注がれてゆく。
 成功するかは分からない。でも、私ならきっと大丈夫なはずだ。
 そんな根拠の無い自信を抱きながら両手をぎゅっと握り、私は木の影から飛び出す。

「だれだっ!」

 一拍遅れで私に気付いた門番は、荒っぽい声を上げ腰の剣に手を添えた。
 だがすぐに「君は……」と何かに気付いた風に緊張を解く。

「確か。ドロシー様の級友の?」
「はい。こんな夜遅くにすみません」

 私は目深に被った帽子を上げ、声を返す。
 その声は緊張からか、少し震えてしまっていた。
 やっぱり私は、今からすることに怯えているのだと思う。
 だってそれは、犯罪者になるっていうことなのだから。
 失敗してしまったらどうなるのか分からない。
 それでも私は、言葉を紡いで、手に力を込めた。

「あの。その腰の鍵を、貸して頂けませんか?」
「…………。それは、どうしてだ?」

 門番は訝しんだ様子で問い返した。
 私は門番を真剣な目で見つめる。

「必要なんです。その鍵が」
「理由は?」
「……ドロシーさんに、会うためです」
「そうか」

 門番は一つ頷いた。
 数秒何かを思案したのち、彼は二の句を継ぐ。

「私も昨日の件は把握している。そして今日、ドロシー様が王都へ向かわれる予定だったということも存じている。……大方あなたは、ドロシー様と逃亡劇でも始めようとしているのだろう」

 心臓がドクリと鳴った。

「君とドロシー様には心から同情する。だが今日は、あなたが来たら追い返すようシアン様に言われているのだ。シアン様に逆らうわけにはいかない」

 シアン様ってのは、恐らくドロシーさんの母さんだろう。
 門番として雇われているのだろうから、当然の反論だ。
 というか。私が来たら追い返すよう言われてたんだ。
 ならもう、安全に入ることは不可能じゃないか。
 私の思惑も、どうやらバレバレみたいだし。

「申し訳ないが、ここはお引き取り願いたい」

 ──だからといって、ここで引き返すわけにもいかない。

 私は俯き、一つ溜息を吐く。
 私の中の淀み、迷い、不安を全て込めて。

「それは、残念です……」

 そして──魔力の込められた右手を、門番の顔に添えた。

「『ダークミスト』」

 闇属性の初級魔法。
 立ち込める黒いもやが、門番の目を覆い隠す。

「なっ! なんだこれはっ!」

 虚を突かれた門番の腰辺りに、私はすかさず左手を添えると──。

「『エアカッター』」

 風属性の初級魔法を放つ。
 風の刃は鍵を繋ぐ金属を切断し、鎧に少しの傷を入れた。
 地面に落ちた数個の鍵をポケットに仕舞うと、塀に沿って走り出す。
 もう、迷ってなんかいられなかった。

「侵入者だ!」

 背後からの怒号に、犯罪者になってしまったなと、何となく思う。
 それでも私は一切も足を止めず、家の裏へと向かい走り続けた。
 門から入るのは難しそうだが、鍵を手に入れた今、正面突破する必要は無い。

 これって、強くてカワイイ?
 そんな問いを投げてみるけど、やっぱりこれは可愛くない。
 強さなんてこれっぽちもないし、それどころか卑怯だ。
 あとさ、こんなの私のキャラじゃないと思う。
 今まで私は、真面目にやってきたはずだ。
 学園でもいつも真剣に授業を受けて、友達もいない物静かな人で。
 成績の悪い面には目を瞑るとしても、やっぱりこんなの私のキャラじゃない。

 ──そんな私は、どうして今、こんなことをしているのだろう?

 なんて思ってしまうけど。
 それは『大事な人が見つかったから』と、そんな簡単な理由で片付くのだと思う。
 大事な人だなんて少し仰々しいけど、でも彼女は私にとって初めての友達で、私を初めて認めてくれた人で、私にもう一度、夢を抱かせてくれた人だった。
 その人を救いたい。もっとその人と一緒にいたい。って、それって別におかしなことじゃないなって、そう思ったから。だから私は、こんなことをしているのだと思う。

「……はぁ。はぁ」

 辿り着いた屋敷の裏で、私は呼吸を整えながら、白い塀を見上げる。
 屋敷を囲うそれは、やはり高く、ジャンプしても届く距離では無い。
 だが、これを超える手立てはとっくに考えている。
 私は目を瞑ると、今度は両手に風属性の魔力を注いだ。
 注いで、注いで、できるだけを注ぎ切ったところで。
 私は両手を地面を張り付かせ、魔力を放った。

「──『エアーインパクト』」

 これもまた風属性の初級魔法だ。
 風の衝撃波を地面にぶつけることにより、己の身体を空へと飛ばす。
 塀のてっぺんをギリギリで到達した私は、手を伸ばし、そのまま内側へと滑り込む。
 体勢を崩しながらも地面に着地し、すかさず人がいないかと首を回す。
 どうやら誰もいないようだが、代わりに私を探す複数の声が遠くから聞こえてきた。

「探せ! 侵入者だ!」
「どこだ! どこにいる!」
「家の裏に逃げたぞ!」
「シアン様がお怒りだ! 早く! 早く見つけるんだ!」

 門番と、恐らく警備員か誰かの声だろう。
 ドタバタと屋敷内がどうやら騒がしい。

「……ふぅ」

 つまり、今の私は完璧な犯罪者。
 心臓の鼓動は恐ろしく早く、呼吸も荒い。
 けど、不思議と嫌な気分では無かった。
 今日の私は、なんだってやれる気がしたから。
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