魔法適正Fランクの落ちこぼれ魔法使い、Sランクの魔力蓄積量とスキル《魔力操作》で最強です!

沢谷 暖日

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第3章 そこにいるのは不穏な影

第36話 失敗作

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「勇者、ですか?」

 思わず聞き返していた。
 なぜ私が勇者、ということになるのだろう。
 そもそも勇者なんて、私も言葉は知っているだけで、ろくに存在は知らない。
 だけど『君も』と彼は言った。それじゃあもしかして──。

「僕も勇者さ。勇者という名の材料。君も材料なんだろ?」
「……いえ。意味がよく分からないですけど……」

 はぁ、と重い溜息が聞こえた。
 けど本当に分からないのだからしょうがない。
 ただ勇者という存在は、たまに王都内でも聞こえてきた。
 まぁほとんどが魔王軍襲来の際の『勇者は来ないのか』とかの否定的な内容だったけど。
 その理由が、こんな牢屋に閉じ込められていたから、だとしたら納得がいく。
 しかし勇者と言えば、国の英雄とかそういう類のものだ。
 であれば、こんな場所に閉じ込められているのは不自然でしか無かった。

「……えとあなたは、どうしてこんな場所に?」
「覚えていないか? 6年前に行われた勇者選抜戦を。僕はそれで勇者に選ばれ……この城の地下牢に閉じ込められたのさ」
「城、ですか?」

 てっきり刑務所の牢屋かと思っていたが、城の地下牢?
 ってかこの人、6年前からここに閉じ込められているの?
 勇者選抜戦というもので勇者になり、この牢屋に運ばれた?
 なら勇者をなぜ、そんなぞんざいに扱うのだろう。
 疑問に思うと同時に、彼の言葉が思い起こされた。
 ──『勇者という名の材料』。それが関係している?

「その様子だと、本当に知らないようだな」
「……はい。え、じゃあさっき言ってた材料って?」

 思ったことをそのまま口にすれば、彼は少し気怠げに溜息を吐き。
 そのまま、まるでなんでもないことかのように、平然と言ってのけた。

「人間兵器の、だよ」

 ──人間兵器?
 現実離れした言葉に、混乱した私の頭は一層の混乱を覚える。
 彼はそんな私の頭に追い討ちをかけるように──。

「この国は、最強の人間兵器を作ろうとしている。僕はそのために用意された材料なんだよ。……人間兵器は遺伝子を組み合わせて作られる、人工人間さ」
「は……?」

 思わず強い口調になった。
 彼はふっ、と軽く笑うと「僕も最初は驚いたさ」と死んだ声で続ける。

「優秀な遺伝子を生み出す装置、それが僕さ。……君もそうだと思ったのだけどな」

 呼吸が荒くなる。
 私が人間兵器の材料?
 そのために、こんな場所へと連れてこられた? 
 ……いや。
 少し冷静に考えれば、私がその『材料』になっているとは考え難い。
 私は勇者のように選ばれた人間でもなければ、魔法適正だって皆無なのだ。
 そんな人物を、人間兵器の材料にするわけがないだろう。
 そもそも王国は本当に『人間兵器を作る』なんてことを企てているのか?
 作ったとして、どうなる? 理由が見えてこない。
 第一、この男の嘘だという可能性も捨てきれなかった。
 彼に対して、湧いた疑問を投げる。

「……材料にされるのなら。逃げればいいんじゃないですか?」

 彼は勇者だ。高い魔法適正、蓄積量、戦闘能力を所持しているはず。
 脱獄なんてやろうと思えば、簡単にできるものじゃないのか?

「無理なんだよ。牢屋には魔封じの結界が張ってある。この鉄格子も簡単に壊せない」
「そう……ですか。でも、王国がそんなこと……信じられないです……」
「信じなくてもいいさ。君は材料とは違うようだしな」

 なら、信じないことにした。
 私が黙ると彼は「はぁ」と息を吐いて床に身を投げた。
 逆に私は放心状態で、何も考えられなかった。
 次に意識が現実に戻ったのは、それから数分後のこと。

 ──コツコツ。

 牢屋の奥から、二人分の足音が聞こえた。
 加えて仄かな光が見えている。見回りか何かだろうか。
 だが、どうやら違うようだった。そこに現れたのは足音通り二人の人物。
 一人は隠れて見えないが、もう一人は──私でも知っている人物。
 彼は──アレクシス王国の国王だった。

「目が覚めたようだな」

 長い髭を蓄えたその男が、私に声を投げる。
 そしてもう一人、彼の影に隠れた人物は──。

「リ──」

 リリアンだった。
 彼女は私を見るなり、顔の形を崩壊させた。
 「──っ」声にもならない声を上げ、つーと涙が頬を伝う。
 そんなリリアンに、どうしてここに。とは聞けなかった。
 声が出なかったから。

「君はなぜ、ここに連れてこられたと思う?」

 不意に国王が私に問うた。
 ここで誤った返答をすれば、首が飛びかねない雰囲気だった。
 けれど「分かりません」これしか私には答えられない。

「そうだろう? セレンがお前を見つけたのだ」

 セレンとは第一王子のこと。
 彼が私を見つけた……って、魔王軍が襲来した時?
 しかしあの時の王子はドロシーに用があったはず。
 だが確かに、思い返せば私のことをやけに詳しく聞いてきた。
 天啓スキル、魔法適正、魔力蓄積量について特に。
 でも、それと今私が閉じ込められていることに、何も関係性が見えてこない。

「君、名前は?」
「……クロエ・サマラス、です」

 訝しみながらも答える。
 すると彼は心底面白そうに「ははは」と笑い声を上げた。
 ひとしきり笑うと、今度はニヤリと口の端を吊り上げ、再度問う。

「それは、君の真の名ではないだろう? 君は、本当の両親を知らないだろう?」

 心臓が、有り得ないくらいドクンと跳ねた。
 なぜそれを知っている? 国王は私の何を知っている?
 しかし物心を覚えた時には、既に私はクロエ・サマラスだ。
 本当の両親は知らないが、これが私の真の名であることに違いない。
 なのに、呼吸の間隔が次第に狭く、速くなる。
 国王の背後のリリアンは顔を伏せていた。

「君は、自分自身の能力について疑問を持っているだろう?」

 魔法適正、全属性Fランク。
 魔力蓄積量、全属性Sランク。
 天啓スキルを二つ所持。

「…………」

 あぁ。おかしい。
 知っている。だから、なんだと言うんだ。

「それらの疑問を解消してやろう」

 その言葉と同時に、リリアンがバッと顔を上げた。
 眉間に皺を寄せて『やめて』とでも言いたげな悲痛な表情をする。
 国王は何か、私にとってまずいことでも話そうとしているのだろうか。
 ──『この国は、最強の人間兵器を作ろうとしている』。
 なぜ今、先の勇者の言葉が思い起こされるのだろう。
 私は関係ない。私は何も知らないのだ。
 だから何を言われようと──。

「君の親は──この私だ」

 刹那、時が止まった──そんな気がした。

「あぁそれと、君の真の名だが──」

 ……………………。

「適正と蓄積量が偏った──最強の人間兵器の『失敗作』だよ」

 ……………………。

「喜べ。実に15年ぶりの再会だ。逃した時は、しまったと思ったが」

 ………………私は。

「感動で言葉が出ないか?」

 …………私は。

「お前のことは、次の材料にしてやろう。なに、次は失敗しないさ」

 ……私は。

「まぁいい。後で迎えに行こう」

 私は。一体。なんだ。
 この人は、何を言っているんだ。

「さぁ行くぞ、勇者。お前も随分と待たせたな」

 私は。私は──。

「はあっ──!」

 唐突な勇者の声に、びくりとした。
 遠かった視界が一気に近くなり、同時に眩い光と熱風が吹く。
 だがそれは──わずか一瞬のことに終わった。

「言ってなかったか? 私の天啓スキルは『魔力吸収』だと」

 国王は再び高笑いした。既に勇者は牢屋の外にいた。
 魔封じの結界が張られていないその場所で魔法を使ったらしい。
 腕を掴まれた勇者は項垂れて、私を一瞥する。
 そのうつろな目は、全てを諦めたように見えた。
 彼らはそのまま、来た方とは逆方向に歩いていった。
 その時、国王の背後を征くリリアンがわずかにこちらを向いた。
 表情はくしゃりと歪み、ぽろぽろと涙を零している。

 ──『ごめんね』

 リリアンの口が、そう動いた気がした。


「……………………」

 国王が、私の本当の父親。
 私は、最強の人間兵器の失敗作。
 人間兵器は、人工人間。

 なら私は。クロエ・サマラスは……一体、誰だ?
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