義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日

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姉妹の三日間

朝食を共に

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 銀色のお盆に食器を乗せて、スキップ気味に階段を上る。
 朝ご飯はチーズが乗ったパン一枚だった。
 正直物足りない気がするけど、今の時刻的に昼ご飯も近い。
 これくらいの量が丁度いいんだろうな。

 そんなことを考えているうちに、部屋の前まで到達し、再びドアをノックする。

「ど、どうぞ」

 瞬間、返事が来た。
 待ち構えていたかの様な返事だ。
 お盆を床に置いて、ドアをそっと開ける。
 カーテンが締め切られている暗い空間だった。
 お姉ちゃんは、部屋の真ん中の小さい丸テーブルの前で、律儀に正座をしていた。

「ど、どうも」

 軽く会釈をし、俯きがちにお盆を持って部屋に邪魔する。
 が、さっきまでの嬉々とした気持ちは何処へやら、心臓が激しく鳴っていた。
 いざ、こうして話すとなると緊張してしまうものだ。

「か、カーテン開けてもいい? ですか?」

 言った瞬間、本当に言ってよかったのかと後悔してしまう。
 お姉ちゃんは、母の死以来、引きこもっているとお父さんが言っていた。
 引きこもりは太陽を嫌うのでは無いかと。そう思ったのだ。
 偏見? うん。偏見だ。
 うん。私は酷い妹だ。

「じゃあ、電気を付けて」

 一人で勝手に葛藤していると無機質な声が返ってくる。
 太陽ではなく、電気を付けることを推薦したのを考えるに、私の偏見もあながち間違いでは無かったのではと、また失礼なことを考えてしまう。

 ──パチン。
 ドア横のスイッチを押し、明かりを付ける。
 暗闇でよく見えなかったお姉ちゃんの顔が、くっきりはっきり現出した。

 ……やはり美人だ。
 幼稚園の頃の彼女はショートだったと記憶しているが、ロングも似合っている。
 引きこもっていると聞いていたけど、整えられた髪の毛だった。
 幼稚園の頃の、瑞樹ちゃんがそのまま成長した感じだ。
 しかし、昔の明るい面影は一ミリも無く、クールな様相を帯びていた。
 
「さぁ、ご飯を食べましょう!」

 お盆を机に置き、なるべく明るく言ってみせる。
 対面になった彼女は、何を見ているのか、兎に角私と目を合わせようとしなかった。

 お姉ちゃんの目の前に、食器を設置する。
 ……この場合は、体の前だろうか。

「お、お姉ちゃん! ほ、ほら、ご飯ですよ!」
「……私はペットなの?」

 まさかの返しだった。
 私も、「ご飯ですよ」はまるでお母さんだなと言いながら思ってしまったが。
 しかし同時に、話してくれたことを嬉しく思った。

「い、いや! そういう訳じゃ! と、ともかく何か話しましょう!」
「……何かって何?」
「そ、それは。姉妹になった訳だし、これから仲良くしよーとか、好きなものの話とか。そういう他愛もない──」
「じゃあさ」

 中断させるように言葉を挟まれる。

「私の父のこと、どう思う?」

 冷たい声で、そう問われた。
 話の脈絡の無さに、若干の戸惑いを覚えつつ口を開く。

「お父さん? 私は優しい人だと思うけど……」
「そう? 母さんを失ったのにも関わらず再婚するような人が?」

 その言葉は、何となく私の存在を否定されてる気がした。

「うん。お父さんにも何か色々考えがあるんだと思う。だって、本当に優しい人だったから」
「そう。私はそうは思わない」

 お姉ちゃんはそう言うと、パンにかけられていたラップを外し、パンをちぎって、もそもそと食べ始めた。
 続くように私もパンを食べる。
 パンの耳はふやけていて、だけど中身は硬くて。
 あまり美味しくなかった。

 気まずい。
 何かしゃべらないと。

「「あの」」

 声が被った。
 見上げると、やっとお姉ちゃんと目が合って、恥ずかしさのあまりか顔が熱くなる。

「ど、どうぞ!」

 食い気味に私は譲る。

「う、うん。あのさ。君の名前って何?」
「……え。え。え! 知らなかったの⁉︎」
「え、まぁ。親とかのメールで送られてきたんだろうけど、その頃は心ここにあらずだったというか、親のメールなんてほとんど無視してたし」
「おお。なんたるお姉ちゃんだ」
「ごめん」
「いや、全然。えっと、私は天川てんかわかえでです。……あ! じゃなくて! 姫川楓です!」

 つい、前の苗字で言ってしまった。
 しばらくはこういう間違いが続きそうで少し不安である。

「ふーん。えっと、じゃあ」

 何かを言いかけて止める。
 お姉ちゃんの口元は、ごにょごにょと動いていて、何かを言いかけそうで言えないような、そんな感じだ。

「どうしたの?」

 そう問うと、彼女の口がゆっくりと開き、

「てんちゃん? で合ってる?」

 幼い頃に、数えられないほど、この声に呼ばれた名前だった。
 すると、塞がれていた道が開いたように、私も色々思い出して、

「そうだよ! みっちゃん!」

 と、ついつい、昔のあだ名で呼んでしまった。
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