義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日

文字の大きさ
4 / 86
姉妹の三日間

朝食を共に

しおりを挟む
 銀色のお盆に食器を乗せて、スキップ気味に階段を上る。
 朝ご飯はチーズが乗ったパン一枚だった。
 正直物足りない気がするけど、今の時刻的に昼ご飯も近い。
 これくらいの量が丁度いいんだろうな。

 そんなことを考えているうちに、部屋の前まで到達し、再びドアをノックする。

「ど、どうぞ」

 瞬間、返事が来た。
 待ち構えていたかの様な返事だ。
 お盆を床に置いて、ドアをそっと開ける。
 カーテンが締め切られている暗い空間だった。
 お姉ちゃんは、部屋の真ん中の小さい丸テーブルの前で、律儀に正座をしていた。

「ど、どうも」

 軽く会釈をし、俯きがちにお盆を持って部屋に邪魔する。
 が、さっきまでの嬉々とした気持ちは何処へやら、心臓が激しく鳴っていた。
 いざ、こうして話すとなると緊張してしまうものだ。

「か、カーテン開けてもいい? ですか?」

 言った瞬間、本当に言ってよかったのかと後悔してしまう。
 お姉ちゃんは、母の死以来、引きこもっているとお父さんが言っていた。
 引きこもりは太陽を嫌うのでは無いかと。そう思ったのだ。
 偏見? うん。偏見だ。
 うん。私は酷い妹だ。

「じゃあ、電気を付けて」

 一人で勝手に葛藤していると無機質な声が返ってくる。
 太陽ではなく、電気を付けることを推薦したのを考えるに、私の偏見もあながち間違いでは無かったのではと、また失礼なことを考えてしまう。

 ──パチン。
 ドア横のスイッチを押し、明かりを付ける。
 暗闇でよく見えなかったお姉ちゃんの顔が、くっきりはっきり現出した。

 ……やはり美人だ。
 幼稚園の頃の彼女はショートだったと記憶しているが、ロングも似合っている。
 引きこもっていると聞いていたけど、整えられた髪の毛だった。
 幼稚園の頃の、瑞樹ちゃんがそのまま成長した感じだ。
 しかし、昔の明るい面影は一ミリも無く、クールな様相を帯びていた。
 
「さぁ、ご飯を食べましょう!」

 お盆を机に置き、なるべく明るく言ってみせる。
 対面になった彼女は、何を見ているのか、兎に角私と目を合わせようとしなかった。

 お姉ちゃんの目の前に、食器を設置する。
 ……この場合は、体の前だろうか。

「お、お姉ちゃん! ほ、ほら、ご飯ですよ!」
「……私はペットなの?」

 まさかの返しだった。
 私も、「ご飯ですよ」はまるでお母さんだなと言いながら思ってしまったが。
 しかし同時に、話してくれたことを嬉しく思った。

「い、いや! そういう訳じゃ! と、ともかく何か話しましょう!」
「……何かって何?」
「そ、それは。姉妹になった訳だし、これから仲良くしよーとか、好きなものの話とか。そういう他愛もない──」
「じゃあさ」

 中断させるように言葉を挟まれる。

「私の父のこと、どう思う?」

 冷たい声で、そう問われた。
 話の脈絡の無さに、若干の戸惑いを覚えつつ口を開く。

「お父さん? 私は優しい人だと思うけど……」
「そう? 母さんを失ったのにも関わらず再婚するような人が?」

 その言葉は、何となく私の存在を否定されてる気がした。

「うん。お父さんにも何か色々考えがあるんだと思う。だって、本当に優しい人だったから」
「そう。私はそうは思わない」

 お姉ちゃんはそう言うと、パンにかけられていたラップを外し、パンをちぎって、もそもそと食べ始めた。
 続くように私もパンを食べる。
 パンの耳はふやけていて、だけど中身は硬くて。
 あまり美味しくなかった。

 気まずい。
 何かしゃべらないと。

「「あの」」

 声が被った。
 見上げると、やっとお姉ちゃんと目が合って、恥ずかしさのあまりか顔が熱くなる。

「ど、どうぞ!」

 食い気味に私は譲る。

「う、うん。あのさ。君の名前って何?」
「……え。え。え! 知らなかったの⁉︎」
「え、まぁ。親とかのメールで送られてきたんだろうけど、その頃は心ここにあらずだったというか、親のメールなんてほとんど無視してたし」
「おお。なんたるお姉ちゃんだ」
「ごめん」
「いや、全然。えっと、私は天川てんかわかえでです。……あ! じゃなくて! 姫川楓です!」

 つい、前の苗字で言ってしまった。
 しばらくはこういう間違いが続きそうで少し不安である。

「ふーん。えっと、じゃあ」

 何かを言いかけて止める。
 お姉ちゃんの口元は、ごにょごにょと動いていて、何かを言いかけそうで言えないような、そんな感じだ。

「どうしたの?」

 そう問うと、彼女の口がゆっくりと開き、

「てんちゃん? で合ってる?」

 幼い頃に、数えられないほど、この声に呼ばれた名前だった。
 すると、塞がれていた道が開いたように、私も色々思い出して、

「そうだよ! みっちゃん!」

 と、ついつい、昔のあだ名で呼んでしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

妹の仇 兄の復讐

MisakiNonagase
青春
神奈川県の海に近い住宅街。夏の終わりが、夕焼けに溶けていく季節だった。 僕、孝之は高校三年生、十七歳。妹の茜は十五歳、高校一年生。父と母との四人暮らし。ごく普通の家庭で、僕と茜は、ブラコンやシスコンと騒がれるほどではないが、それなりに仲の良い兄妹だった。茜は少し内気で、真面目な顔をしているが、家族の前ではよく笑う。特に、幼馴染で僕の交際相手でもある佑香が来ると、姉のように慕って明るくなる。 その平穏が、ほんの些細な噂によって、静かに、しかし深く切り裂かれようとは、その時はまだ知らなかった。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...