義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日

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姉妹の三日間

帰り道

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 食事中は特にあれ以上のことは何もなく、お会計を適当に済ませた。
 1400円くらいで割と安く済んだのだが、お母さんからは2000ほどたかろうか。
 などと不純なことを考えながら帰路に就いた。
 もう四月だというのに、ひんやりとした風が肌を触り、少し肌寒い。

 住宅街は街灯で照らされているけど、少し心許ないというか、暗い。
 現在の時刻は19時30分くらい。
 不審者が出るとは思わないけど、やっぱり女子二人で歩くということには不安が募る。
 心なしか、お姉ちゃんの歩き姿を怯えているように見えなくもない。

「ちょっと帰り道って怖いよね、お姉ちゃん」
「う、うん。お化けでそう」

 お姉ちゃんの声は少し震えている。
 懐中電灯でも持って来れば良かったかな。
 でも、家までの体感距離はさほど遠くない。
 我慢するしかないか。

「て、てんちゃん」
「ん? どうしたの。あ、話しながら帰る? そしたらあんま怖くないもんね」
「いや。それでもいいけど」

 お姉ちゃんは足を止める。
 それに引きずられる様に、顔をお姉ちゃんの方へ向ける。
 暗くて、お姉ちゃんの顔はあまりはっきりしていない。

 でも、少し俯いてるのは分かった。
 スゥと軽く息を吸う音が聞こえる。
 辺りはシーンとしていたので、その音は耳の奥まで届いた。

 そして、手を。
 私の前に差し出す。

「……手つなご?」

 その声は細い。だが、震えているわけではない。
 顔を見れば、いつの間にかこっちを真っ直ぐと見つめていた。
 暗闇の中なのに、その目は心なしか輝いて見えた。
 私は何も言わず、右の手をお姉ちゃんのその手に委ねる。

 暖かい。私の手よりも少し小さいのかもしれない。
 ぎゅっと握られる。
 そこを震源として、身体中に熱さが馳け廻るような感じがする。
 少し手汗をかいてしまって、お姉ちゃんは嫌じゃないのかと不安になった。

 少し歩き出したところで、お姉ちゃんはそれぞれの指の間に、自身の指を一本一本、絡めてきた。
 優しく指を撫でられているようだ。
 少し恥ずかしくて、俯いてしまう。

 だけど、これは別におかしいことじゃない。
 手を繋ぐ。これはキス未満だから。普通だ。
 私たちは、普通の姉妹。仲の良い普通の。
 何回も頭の中でそう唱えた。

 そこから帰り着くまで一切の会話も無かった。

 だけど、静かに感じなかった。
 心臓の音がうるさすぎたから。
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