【R18】禁忌の主従契約 ~転生令嬢は弟の執愛に翻弄される~

彼岸花

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本編

4 初めての…

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 魔力検査から一週間ほど経ったある日の夜。
 その夜、私はメイドが持ってきた薬を飲むのを渋っていた。
 なぜ、この薬を飲まなければならないのかと言うと……十歳の時点で魔力が開花していない子供は、リアン予備群として定期的に薬を飲まなければいけないという決まりになっているからだ。

 将来的にリアンになる可能性があるなら、早い内に手を打った方がいいということは理解できるのだが……この薬が、またとんでもなく苦い。苦い上に、不味い。
 十五歳の魔力検査で魔力の片鱗が見られればめでたくこの薬からは解放されるのだが、リアンだと判明してしまえば一生これを飲み続けることになる。それだけは、何とか回避したい。
 ローズブレイド家は代々高い魔力を持つ名家だ。基本的に魔力が高い家系はリアンになり難い傾向にあるらしく、これまでリアンが生まれたことなど一度もなかったそうだ。
 だから、父上からは「余程のことがない限り大丈夫だろう。心配しなくても、十五歳までには魔力が開花するよ」と言われたのだが……やはり、不安だ。

「ね、ねえ……今日だけは飲んだことにして、見逃してくれないかな?」
「お嬢様のお気持ちはわかりますが……それはできません。旦那様から、『必ず飲ませるように』と仰せつかっておりますので」
「うぅ……」

 メイドに断られ、がくりと肩を落とす。すると、隣にいるリヒトが何かを思いついた様子でメイドに近づいた。

「僕が責任を持って、姉上に薬を飲ませます。ですから、もう下がっていいですよ」
「で……ですが、リヒト様……」
「僕のことが信用できないのですか?」
「いえ……決して、そんなことはございません。承知致しました」

 リヒトがメイドを軽く睨みつけると、彼女はそそくさと部屋を出ていった。
 メイドから薬とコップが載ったトレーを受け取ったリヒトは、にっこりと天使のような微笑みでこちらに向き直る。私の大嫌いな薬を持ちながら、その笑顔を向けられると怖い。

「さてと……どうしたら飲んでくれる?」
「ほ、本当に不味いんだって! 元いた世界でもこんな不味い薬は飲んだことがないよ!? リヒトには、わからないだろうけど……」
「本当に十歳の子供ならその言い分もわかるが、中身は十七歳だからな。いや、前世から加算したらもう二十七歳か? いい年して、薬が苦いから飲めないなんて言い訳は通用しないぞ。セレスお嬢様?」
「やめて! 加算して年齢を言われると、落ち込むからやめて! ……ええ、そうですよね。前世と合わせたら中身はもうアラサーですよね……」

 自虐的にそう返すと、リヒトは「まあ、俺も同じだけどな」と呟きながら苦笑する。
 彼は顎に手を当てて少し考え込んだ後、トレーを近くのテーブルに置いた。そして、何を血迷ったかトレーの上に置かれた粉末状の薬を自分の口に流し込み、続いて水を一口含んだ。

「え……何やってんの!?」

 その行動に驚くあまりぽかんと口を開けていると、リヒトは突然私の顎を手で持ち少し上向かせた。一体何をする気なのかと困惑していると、彼はそのまま私の後頭部を支え覆い被さるように唇を重ねた。

「……!?」

 口移しで水と薬が混ざりあった液体を流し込まれ、口腔内に大嫌いな苦い味が広がる。けれど、抵抗する間もなくどんどん水を流し込まれたため、意図せず飲み込んでしまった。

「んぐ……」

 ゴクンと喉が鳴る音を確認したリヒトは塞いでいた私の唇を漸く解放する。離れた瞬間、目が合い微妙にくすぐったさを覚えた。
 リヒトは口の端から零れた水を袖で拭うと、「確かに苦いな……」と言い、後ろにあるベッドに腰掛けて寛ぎだした。
 何だかやけに顔が赤いけれど……口移しで薬を飲ませるために息を我慢していたからだろうか。飲まなかった私が悪いとはいえ、この飲ませ方はちょっと酷い……。

「でも……これで現世では……俺が初めての……」
「あのー、ちょっと!?」

 リヒトは何やら唇を指でなぞりながら独り言を呟き、だらしなく破顔している。美少年に有るまじき表情だ。私はイラッとしてリヒトの両頬を手で掴み、にへら顔をやめさせると彼に詰め寄った。

「何でこんな飲ませ方するの!?」
「いや、その……こうでもしないと飲まないだろう……?」
「だからって、こんな……!」
「……現世で初めてキスをした相手が俺だと嫌か?」
「嫌とかそういうことを言ってるんじゃ……」
「前世でも現世でも、弟なんだから別にいいだろ? それに、この世界では家族間で親愛の印にそういう行為をしてるわけだし……。元いた世界でも、外国ではキスやハグは普通のことだったしな」
「それはそうだけど……って、いやいやいや! 普通は家族でも口移しなんてしないよ!」
「そ、それは……まあ、細かいことは気にするな」

 うーん……釈然としない。やっぱり、異世界に転生してから彼のシスコンぶりが加速している気がする。

「もしかして……俺のことを意識したのか!? そうなのか!?」
「そんなわけないでしょうっ!? ただ、その……前世含め、誰かとキスしたこと自体初めてで……驚いただけというか……」

 私がそう返事をすると、リヒトは一瞬残念そうな顔をしたが、やがて何かに気付いたように目を見開いた。

「初めて……だと!?」
「え、うん。そうだけど、それが何か?」
「ちょっと待て。前世で要と付き合っていただろ?」
「確かにそうだけど……至って清い交際だったよ。だから、精々手を繋いだくらいで……」
「そうだったのか……俺はてっきり、あの男に純潔を散らされたものだとばかり……」
「ちょっ……お願いだから、そういう生々しいことを言うのはやめて下さい!」

 そう訴えてみせたが、リヒトはちっとも話を聞いていない様子だ。

「……良かっ……じゃあ……まだ……寝取……ら……ない……もう……誰……触れ……さ……せな……」

 リヒトは俯きながらじっと床を見つめ、ぶつぶつと何かを呟き始めた。声が小さくて内容がよく聞き取れないが、上ずった声で延々と独り言を呟くリヒトが怖くて思わず後退ってしまった。

「……? さっきから、何を一人でぶつぶつと……」

 とりあえず……あんな強引な飲まされ方をされるのは二度と御免なので、次回からはちゃんと自分で飲むようにしよう。

「……やっぱり、要のことを思い出したりするのか?」

 リヒトは顔を上げると、伏し目がちにそう尋ねてきた。

「え? うん。そりゃあ、そうだよ」
「俺に会えなくなるのと、要に会えなくなるの……どっちが悲しいと思ったんだ?」

 意外な質問だ。大切な人に順位をつけるのはおこがましいことだと思うから、なるべくそういうことはしたくないけれど……私の正直な気持ちはどうなんだろう。
 ……あまり、考えたくないな。

「それは……私にとっては二人共、大切な人だから。どちらかを選んだら失礼でしょう?」
「……そうか」

 それだけ言うと、リヒトは深い溜め息をつきながらベッドに倒れ込み仰向けになった。急に静かになったな……と思っていると、彼はいつの間にかすうすうと寝息を立てていた。
 前世からそうだったけど、眠るの早っ!
 というか、ここ私の部屋なんですけど……。人の部屋で寝ないで欲しいんだけどな……。

 でも、やっぱり寝顔は可愛いなと思ってしまう。当分、ブラコンは卒業できそうにないな。
 私はリヒトの頭に手を伸ばし、さらさらの金髪を撫でる。すると、彼は「千鶴……」と前世の私の名前を呼びながら寝返りを打った。
 前世の夢でも見てるのかな? その様子を見て小学生の頃の望を思い出した私は、思わずふふっと笑みが零れた。
 外見はだいぶ変わってしまったけれど、仕草や癖はあの頃のままだ。望も私のそういう部分を見て、正体に気付いてくれたのだろうか?
 そう言えば……前世の頃から、こうやって隣で寝てしまった彼の頭を撫でるのが好きだったな。

 リヒトはぐっすり寝入っていて、目を覚ましそうにない。仕方がないので、私は執事を呼び彼を寝室に運んで貰うことにした。





 その日の夜。
 私は前世のある日の出来事を思い出していた。今でも鮮明に思い出せる、幼い日の記憶だ。

 当時はまだ父の暴力が本格化していなかったものの、顔を合わせれば怒鳴られたり叩かれたりすることが多く、母も私達に無関心だったため、できることなら家に帰りたくなかった。

「千鶴ちゃん、そろそろ帰ろう?」

 望は俯きながら公園のブランコに座っている私の顔を覗き込んできた。

「……嫌。もうお家に帰りたくない。わたし、ずっとここにいるもん……」
「でも、帰らないと余計に怒られるよ?」

 ひたすら首を横に振り、帰りたがらない私を見て望が困った顔をしている。

「帰るなら、望くん一人で帰ってよ……」
「そんなことできないよ……ね、帰ろう?」
「昨日の夜、ほっぺを叩かれたの……帰ったら、また叩かれるよ」

 そう言いながら、私はまだ痛む頬を擦った。

「じゃあ、こうしよう? 僕が千鶴ちゃんを守るよ。もう、千鶴ちゃんを痛い目には遭わせないから」
「本当……?」
「うん、本当。約束する」

 望はにっこりと微笑んで、私の前でしゃがみ込み、小指を差し出してきた。
 少し気持ちが楽になった私は、望の小指に自分の小指を絡ませ、指切りをする。

「望くん、王子様みたいだね」
「え? そうかな……?」
「うん。わたしが泣いているとき、いつも助けてくれるから」

 私がそう言うと、望は照れくさそうに頭を掻いた。

 その後は、約束通り望が上手く立ち回って私を庇ってくれることが多くなったし、一緒にいる時は毎回盾になってくれた。
 彼は幼少時から頭が良く機転が利く子だったから、どうやったら私が被害を被らないかを常に考えて行動してくれていたんだと思う。
 臆病な私は、いつも望の後ろに隠れて怯えているだけだった。
 もう少し成長してからは、私も何か彼の役に立ちたいと思うようになったのだが……望は「俺は千鶴が笑顔でいてくれれば、それで十分だから」と言って、寧ろ私の世話ばかり焼くようになった。
 今思うと、本当に望に甘えっぱなしの人生だったな。どちらかというと、望のほうが兄だと勘違いされるくらいだったし……。

 よし、現世では彼のお荷物にならないように頑張ろう。私はそう決心すると、眠りについた。
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