【R18】禁忌の主従契約 ~転生令嬢は弟の執愛に翻弄される~

彼岸花

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本編

14 その口付けの意味は

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 ……ああ、もう朝だ。起きないと。
 カーテンの隙間から漏れる柔らかな陽の光に気付いて目を覚ました私は、ベッドから体を起こすと、重い体を引き摺るように鏡台の前まで歩いていった。そして、アンティーク調の鏡台の前に座り、憂鬱な気分になりながら鏡を確認する。
 自分の首元を見るなり、「はぁ……」と深いため息が漏れた。ちょうど、首の付け根あたりに赤い痣が出来ている。昨夜、リヒトがここに口付けた時に出来た痣だ。

 私がこの部屋に閉じ込められてから、一ヶ月が経過した。
 最近のリヒトは、まるで自分の所有物だとでも言いたげに私の体に『印』を残す。そのせいで、私の首筋や胸元にはいくつも赤い痣が散っているのだ。
 私のマスターはリヒトだから、所有物という表現は間違っていないのかも知れないけれど、首元を覆う服を着なければ場所が場所だけにかなり目立ってしまう。
 まあ、どうせ外には出られないから、人目を気にする必要はないのだけれど……。

 胸元にキスをされた時は、流石に焦った。
 けれど、そこまでしておいてリヒトは相変わらずそれ以上のことは要求しない。
 唯一残った良心なのか、それとも何か考えがあるからなのか。寧ろ、それだけで済んでいるのだから喜ぶべきなのかも知れない。
 でも……だからこそ怖い。今の彼は本当に何を考えているのかわからない。何をするかわからない。

 結局、私は今まで、弟のことをわかった気になっていただけだった。こうなって初めて、その現実を突きつけられたのだから。
 これまで、行き過ぎた言動はたびたび目にしてきたけれど……それは、あくまで私を姉として大事に思ってくれているからなのだと思っていた。
 でも、実際は違った。彼は思い詰めた挙句、私を愛していた。その事に気付きもしなかった自分はなんて愚かなんだろう。
 そう考え、後悔の念に押し潰されそうになっていると、後方からドアをノックする音が聞こえた。

「失礼します。起きていらしたんですね」

 私が「どうぞ」と言った後、すぐに部屋に入ってきたのは真紅の長い髪と深緑の瞳を持つメイド服姿の美女だった。
 彼女はリヒトが新しく契約した隷属者だ。アルメルという名前で、年齢は私より少し年上の二十歳。
 リヒトは日中、留守にしているので流石に人手が必要だと考えたのだろう。
 そんなわけで、少し前から彼女が私の世話係になっている。アルメルには、私が隠居した理由を大方説明しているようだ。「そんな秘密を部外者に喋って大丈夫なの?」と最初は疑問に思ったのだが、基本的に隷属者は契約の指輪がある限りマスターを裏切ることが出来ないし、契約を解除する場合は上級魔法を使ってそれまでのマスターと過ごした記憶を消去することもできるから、その辺りのことは心配いらないらしい。
 記憶の消去が出来る凄い魔法が存在するなんて初耳だし、とても驚いたけれど、同時に怖いと思った。

 ちなみに、私とリヒトの関係は『婚約者』ということになっているらしい。
 まあ、彼は本気で私を妻にする気でいるから嘘は言っていないよね。結婚は出来ないけれど、一生手元に置いておくつもりなのだろうし……。
 髪と瞳の色がそっくりなのは、従姉弟とでも言っておけば説明がつくだろう。というか、アルメルの話を聞く限り、彼女の中では恐らく私達は従姉弟ということになっている。

 そして、アルメルにはアドレーという名前の双子の兄がいる。
 アルメルと同じ真紅の髪と深緑の瞳を持つ美青年で、彼女と一緒にリヒトに拾われて隷属者になったらしい。
 なので、彼もアルメル同様この屋敷の使用人ということになる。
 アドレーとはまだそんなに話をしたことはないのだが、妹思いの良いお兄さんという印象だ。アルメルもそんなアドレーを尊敬している。
 彼らの場合、純粋な兄妹愛なので私とリヒトのように歪んだ関係ではない。
 だから、たまにこの兄妹を羨ましく思う時がある。私とリヒトは、もうずっと昔から気持ちがすれ違っていた。そのことを思い、悲しみに暮れて枕を濡らす夜もある。

「あら? セレス様、首に何か……」
「あ……」

 くしを手に持ち、私の髪の手入れをしようと背後に立ったアルメルが、何かに気付いた様子でそう呟いた。
 ……しまった、気付かれた。

「──リヒト様は、本当にセレス様を愛しておいでなのですね」

 すぐに察した様子のアルメルは、口に手を当てて「ふふっ」と微笑んだ。それに対して、私は苦笑を返す。もし私達が本当に婚約者同士なら、微笑ましい状況なんだろうけれど……。

「私達は、リヒト様に拾って貰えて本当に感謝しているんですよ」
「感謝……?」
「ええ。前のマスターは、とても横暴な態度を取る人で……少しでも気に入らないことがあると、私達に暴力を振るっていたんです。人目を憚ることなく、殴る蹴るは当たり前で、時には魔法を使われ怪我を負わされることもありました」
「そうだったんですか……」
「ある日、いつものように、マスターが街中で私達に危害を加えようとしたんです。私は、『ああ、また魔法で怪我を負わされるのか……』と半ば諦めていました。そんな時、偶然通りかかったリヒト様が助けて下さったんです。それだけでなく、私達兄妹をあのマスターから救い出して下さいました」

 アルメルはそう言いながら、当時を振り返って遠い目をしていた。
 この世界では、高い魔力を持つ者ほど優位に立てる。彼らの元マスターは、自分よりも高い魔力を持つリヒトが彼らを「隷属者として迎えたい」と申し出たため、それに従わなければならなかったのだろう。

「そんなリヒト様に愛されているセレス様は、幸せ者ですね」
「……」

 そんな経緯があったなんて、初めて聞いたな。
 リヒトは、この兄妹に私達の前世を重ね合わせたのかもしれない。だから、きっと酷い扱いを受けている彼らを放っておけなかったんだと思う。

「セレス様……?」
「ああ、ごめんなさい。少しぼーっとしてしまって……」

 俯いて考え事をしていると、アルメルが心配そうに顔を覗き込んできた。
 私は依然として、変わってしまったリヒトを受け入れられないままでいる。でも、今みたいな話を聞いたら、根本的には変わってないのかな? なんて思ってしまう。
 私がリヒトの気持ちを受け入れれば、以前の彼に戻るのかも知れない。
 でも、それは『禁忌を犯す』ということだ。一体、どうしたらいいんだろう。

「知っていますか? 首への口付けは、『執着』を意味するんです。……きっと、セレス様に強く惹かれていて、どうしても忘れられない程にセレス様を想う気持ちの表れなんでしょうね」

 アルメルはそう言うと、にっこりと微笑んだ。何も知らずに純粋無垢な笑顔を向ける彼女が眩しく見える。
 それにしても、執着か……。リヒトはどうしてそこまで私のことを……。

「さあ、終わりましたよ」

 私の髪の手入れを終えたアルメルは櫛を鏡台の引き出しにしまうと、ドアのほうへ歩いていった。

「それでは、セレス様。くれぐれもご無理をなさらずに。ご自愛下さいね」

 それだけ言うと、アルメルはドアを閉め、がちゃりと音を立てて鍵をかけた。
 私は当初の通り、病弱キャラで難病設定になっているらしい。彼女からしたら「無理に出歩いて体調を悪化させないように」と配慮しているつもりなんだろう。
 その配慮が『監禁の手伝い』になっているなんて、夢にも思わないんだろうな……。
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