【R18】禁忌の主従契約 ~転生令嬢は弟の執愛に翻弄される~

彼岸花

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本編

28 交わらない想い

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 私達姉弟が過ちを犯してから一週間が経過した。
 私はあの日以来、リヒトと顔を合わせるだけで体が震えるようになってしまった。「また弟に陵辱されるのではないか」と思うと恐怖心が湧いてきて、激しく取り乱してしまうのだ。
 けれども、リヒトはそんな風に震えている私を優しく抱きしめるだけで再び手を出そうとはしなかった。

 ネイトは今、どうしているんだろう。ふと、そんな考えが脳裏をよぎる。
 リヒトは私から彼を遠ざけただけで、直接的な危害は加えていないはずだ。でも……もしネイトが『異変』に気付いて、リヒトにそれを尋ねたとしたら……?
 今のリヒトなら、きっと容赦なく彼を傷付けるだろう。……ああ、駄目だ。胸騒ぎがする。
 そうやってあれこれ思い悩んでいると、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。

「セレス。今から出掛けないか?」

 突然、部屋に入ってきたリヒトがそう提案してきた。
 今日は休日だから、リヒトが一日中屋敷にいる。それだけでも憂鬱なのに、二人で一緒に出掛けるだなんて……。
 それにしても……時刻はまだ正午前だ。散歩をするにしてもいつもは夕方頃なのに、どうして今日はこんなに早いんだろう。

「……」

 何も答えられずただ震えているだけの私を見て、リヒトは悲しそうにため息をつく。暫くの間、気まずい沈黙が続いたが、やがてリヒトは意を決したように口を開いた。

「行こう」
「!?」

 リヒトはそう言って私の手首を掴むと、強引に外に連れ出した。





 強引に列車に乗せられ、気付けば随分と遠くまで来てしまった。
 いつものリヒトなら、この間みたいに特別な事情がない限り私を部屋に閉じ込めて極力外出させないようにしているのに……まさか、こんな遠くまで列車で移動することになるとは思わなかった。

 一体、どこに連れていくつもりなんだろう。
 そんなことを考えながら、窓枠に肘をついて車窓の外を眺めているリヒトの綺麗な横顔を見つめる。
 車掌のアナウンスが聞こえると、それに気付いたリヒトが私の手を引いて座席から立ち上がった。どうやら、次の駅で降りるつもりらしい。


「ここに来るのは久しぶりだろ?」

 列車から降りると、リヒトがそう尋ねてきた。
 ドームのような屋根、そして色とりどりの列車が停車するプラットホーム。この世界では当たり前の風景だけれど……何となく、この場所は前世で修学旅行に行った時に見たロンドンの景色を彷彿とさせる。
 あの時は、望とはクラスが違ったから別行動せざるを得なかったのだが、それでも望は私と一緒に行動したがって同級生からシスコンだの過保護だのと言われてからかわれたのだ。そのお陰で、この駅はやけに印象に残っている。

 確か、この駅の近くには私達が魔力検査を受けた魔術研究所があるんだっけ。ということは、最後にここを訪れたのはもう一年近く前になるだろうか。

 駅を出ると、リヒトは私に少し待つように告げ、駅前のクレープ屋に立ち寄った。そして、そこでクレープを二つ買い一つを私に手渡してきた。
 私の好きな苺が乗ったクレープだ。何も言っていないのに、リヒトは相変わらず私が喜びそうなものを選んでくる。
 それを見て、本当に彼は私のことなら何でも把握しているんだなと実感させられた。
 そう言えば、もう正午を回っているのに昼食もまだだったな。まあ、どうせ食欲もないから、あまり食べる気はしないのだけれど……。

 前世でも、学校帰りによくこうやって二人でクレープを買って食べたっけ。
 甘いものが好きな望は「毎日食べても飽きないくらいだ」と言っていたけれど、私は流石に毎日食べるのはきつかった。とはいえ、私はそうやって幸せそうに食べる弟の顔を見るのが好きだったから、無理をしてでも彼に合わせていた覚えがある。

 その後、リヒトは私好みの服が売っている店に連れていってくれたり、可愛いアクセサリーを買ってくれたりした。
 何だか、こうしているとまるでデートみたいだ。まさか……あれだけ酷い仕打ちをしておきながら、これが罪滅ぼしのつもりなのかな?
 そんな弟の態度に苛立っていると、リヒトは俯いている私の顔を覗き込んで「後で行きたい場所があるからついてきてほしい」と言った。





「ここは……」

 意外な場所に連れて来られた私は、思わずそう呟いた。
 今いる場所は、私達双子が五歳と十歳の時に訪れた小さな礼拝堂だ。私はここで前世の記憶を取り戻した。
 そして、記憶が甦る前の私がリヒトに「結婚しよう」と言われて「うん、結婚しようね」などと無責任な返事をしたのもここだ。今、そのことをとても後悔している。

「ここに来るのは六年ぶりか」
「……どうして私をここへ連れてきたの?」
「やっと口を利いてくれたな」

 私が問いかけると、リヒトは少し驚いた様子で目を見開き話を続けた。

「俺と結婚してほしいんだ」
「え……?」

 思わず聞き返してしまった。一体、彼は何を言っているんだろう……?

「勿論、法律上無理だということは承知の上だ。でも、俺はどうしてもお前と結婚式を挙げたいんだ。形だけでもいいから、花嫁になってくれないか?」

 リヒトの話を聞いて合点がいった。なるほど……それでリヒトは出掛ける前、私に白い服を着るように言っていたのか。
 でも、今の私の精神状態では彼の頼み事を承諾することなんてできそうにない。寧ろ、「どこまで身勝手な男なんだろう」と思ってしまい、さらに怒りが込み上げてくる。

「そんなことを言われても……」

 そう返事をしたものの、真剣な眼差しでこちらを見つめてくるリヒトの気迫に押されてしまい、私は渋々彼の要求を呑むことにした。

「……わかった」
「ありがとう。そのために今日はここを貸切にしたんだ。それと……これも用意した」

 そう言われて視線を下に向けると、リヒトの手のひらには二つの指輪が乗っていた。いつの間にか、指輪まで用意していたんだ……。

 それから、リヒトの言う通りにお互いの指輪を交換して、誓いの言葉を交わして──私達姉弟は結婚式の真似事をした。
 今の私は怒りとか悲しみとか恐怖とか……とにかく、リヒトに対して色んな負の感情を抱いている。
 以前は「弟がここまで変わってしまったのは自分のせいだ」と自責の念を抱いていたのに、今は彼を恨む気持ちのほうが勝っている。
 こうやってリヒトに従っているのも、彼が怖いからだ。そんな状態の私を無理やり結婚式の真似事に付き合わせて、リヒトは本当に満足しているのかな……。

「はい。いつ、いかなるときも、新郎を愛することを誓います」

 抑揚のない声で誓いの言葉を言うと、リヒトは私の腰に手を回し、そっと唇を重ねてきた。

「……教えてくれ、セレス。もし俺が血の繋がった弟でなければ、お前は俺を好きになってくれたか? 俺達の関係は変わっていたか?」

 ゆっくりと唇を離したリヒトが、寂しげな表情でそう尋ねてきた。
 あなたが弟じゃなかったから……? そんなことわからないよ。
 だって、前世でも現世でも生まれた時からずっと一緒で、いつも隣にいるのが当たり前の存在だったから。
 でも、前世の私は幼少時にあなたに対して恋にも似た感情を抱いていた。だから、もし姉弟として生まれなければ、私はそのままあなたに恋をしていたのかもしれない。

 けれども……あくまで仮定の話だ。それに、たとえ子供の頃に本気で『弟と結婚したい』と思っていたとしても、ほとんどの場合成長すれば気持ちが薄れていくものだと思う。私の場合もそうだった。
 だから、私が子供の頃抱いていた感情はそんなに珍しいものではないはずだ。

「……」

 どう答えようか迷って無言のままでいると、リヒトは残念そうに小さくため息をついた。

「答えたくもない、か。相変わらずお前は俺を男として見てくれないし、好きになるどころか日に日に俺を嫌いになっていく。……でも、皮肉なことに体の相性だけは良いみたいだ」
「……!」

 至近距離でそう言われ、私は羞恥のあまりリヒトから目を逸らしてしまう。
 けれども、予想に反して、リヒトは私に拒絶されていることを自覚している。どうやら、一度体を重ねたからといって全部自分の都合のいいように考えているわけでもないらしい。

「俺は肉体的な意味ではお前を満足させてやることができる。でも、俺の愛でお前の心を満たしてやることはできない。そのせいか、こうやって毎日お前を独占しているのに、全然あいつに勝った気がしないんだ」

 その言葉を聞いた私は、なぜか嫌な予感がした。恐る恐るリヒトの顔を見ると、それに気付いた彼がニッと口角を上げた。

「もしかして、ネイトくんに何かしたの!? ねえ、リヒト! 答えてよ!」

 そう叫びながらリヒトの肩を揺さぶると、彼は虚ろな目で私を見つめ口を開いた。

何もしていないぞ。でも、またあいつが接触してきたら……その時は容赦しない」
「なっ……」

 リヒトの口ぶりから察するに……恐らく、ネイトは何か様子がおかしいことに気付いて動き出したのだろう。あれだけ私のことを心配していた彼のことだから、きっと一度で引き下がるはずがない。

「お願い、リヒト! 彼を傷付けることだけはしないで! リヒトだって、本当は前世であんなに仲が良かった友達を傷付けたくなんかないでしょう!? 代わりに、私がどんな罰でも受けるから……だからっ……!」
「やっぱり、まだ未練があるんだな。……どうしてお前はいつもそうなんだ? そうやってあいつの話をすれば──ましてやあいつを庇えば、俺が機嫌を悪くすることくらいわかっているだろう?」

 しまった、と思った。リヒトを怒らせたせいで、ネイトを守るつもりが余計に彼を危険にさらす結果になってしまった。

「……お仕置きだ」

 リヒトはそう言いながら、私をじりじりと壁際まで追い詰めた。そして、右手で私のスカートをまくり上げると、するりと太腿を撫であげ下着に手をかけてきた。
 今日の彼は朝から比較的穏やかだったが、先程とは打って変わって攻撃的な態度になってしまった。
 ああ、どうしてあんなことを言ってしまったんだろう……。特に今は、情緒不安定なリヒトを刺激するような言葉を言っては駄目だとわかっていたはずなのに。

「!?」
「どんな罰でも受けるんだろ? 例えば、俺が『ネイトを傷付けない代わりにこれから毎日お前を犯す』という交換条件を出したらどうする?」
「そ、それは……」
「受け入れるんだろ?」
「……」
「……もういい。お前がそこまであいつを庇うなら、あいつのことなんか考えられなくなるくらい抱いてやる。もう拒絶されても気にしない。どうなったって構わない」
「……い、嫌……やめて……」

 懇願する私に、リヒトは冷たい笑みを返す。同時に私の両手首は彼に掴まれ、強い力で壁に押しつけられてしまった。
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