35 / 65
本編
31 罰と追憶
しおりを挟む
あれから一週間が経過した。
結局、あの日も私はリヒトに陵辱されてしまった。
彼は『ネイトを傷つけない代わりに毎日お前を犯す』という交換条件を出してきた。
私は否応なくその条件を飲まされ──あの日以来、毎夜実の弟と不本意な交わりをしている。
このまま毎日体を重ね続けていれば、いずれ私は妊娠してしまうだろう。あの時、リヒトは私との子供が欲しいと言っていた。だから、きっと彼は本気で私を孕ませる気でいるのだと思う。
「失礼します、セレス様。リヒト様からの伝言です」
「伝言……?」
軽いノックの音がした後、部屋に入ってきたのはアルメルだった。
この一週間、私は身体的にも精神的にも疲弊してしまい、大体は昼頃まで寝ている。
そのため、朝早くから仕事に出かけていったリヒトとは顔を合わせていない。だから、彼女に伝言を頼んだのだろう。
「ええ。お仕事が立て込んでいるらしく、今日から五日間ほど、魔術研究所に泊まり込みをされるそうです。ですから、今朝セレス様にそれを伝えておくようにと仰せ付かりまして……」
「えっ……」
その言葉を聞いた途端、私は不覚にも「嬉しい」と感じてしまった。
弟と暫く顔を合わせずに済むことを嬉しく思うなんて傍から見れば酷い姉なのだが、事情が事情だけに仕方がない。
それから三日後。
昼食後、何気なく窓の外を眺めていると、不意に見覚えのある姿が目に入った。
淡い灰色の髪と光輝く琥珀色の瞳を持つ質素な服を着た少年が、少し離れた場所からじっと屋敷を眺めている。間違いない。今、下にいるのはネイトだ。私のことが気がかりで、偵察しに来たのだろうか。
「要くん……私はここにいるよ。また、あなたに会いたい。会って、元気な姿を見せてあげたい……」
言葉にした後、はっとして思わず両手で口を覆った。
心の中で思っただけのつもりだった。それなのに……すぐ近くにネイトがいるせいか、気づけば思ったことを口に出していた。自分の声は、全てリヒトに筒抜けだということを忘れて……。
「──まだそんなことを言っているのか」
間髪を入れずドア越しに聞こえてきたのは、聞き慣れた少年の声。「まさか」と思い慌ててドアの方に視線を移す。
……待って。今、ここに彼がいるはずがない。たとえ転移魔法で王都から移動してきたとしても早すぎる。そんな……どうして?
そんなことを考えているうちにドアは勢いよく開き、案の定、憤怒の形相をしたリヒトが部屋の中に入ってきた。リヒトはそのままつかつかと窓の方に歩いていくと、睨むように外を確認しピシャリとカーテンを閉めた。
「あいつ……あれほど釘を刺したのに、まだ俺達のことを嗅ぎ回っているのか」
「リ、リヒト……なんでここに……?」
「お前に会いたくて、仕事の合間を縫って帰ってきたんだ。それ以外の理由があると思うか?」
「……」
「本当は、少しだけ話をして王都に戻るつもりだったんだ。でも……まさかご主人様の言いつけを無視して、他の男にうつつを抜かしているなんてな。やはり、お前にはお仕置きが必要なようだ」
リヒトは私の服を強引に剥ぎ取り、頭頂部を押さえると、その場で跪くよう命じ口淫を強要した。
「ごめんなさい、ごめんなさい……許して……」
「駄目だ。ご主人様の命令は絶対だろ?」
懇願する私にそう返したリヒトは、ズボンのファスナーを下ろし、自身を私の頬に押し付けた。
顔を背け、何とかこの状況から逃れようとしたが、それでも彼は「お前に拒否権はないはずだ」と呟き、私の頬にぐりぐりとそれを押し付け続けた。
「見ろ、セレス。お前の頬に触れただけで、こんなに硬くなってしまった」
リヒトはそう言いながら、自分の体液で濡れた私の頬を執拗に責め続けた。「このまま断り続けたら、また逆上しかねない」と思った私は、涙目になりながらも彼のものを咥える。
その途端、リヒトは私の後頭部を手で押さえ喉の奥まで自身を押し込んだ。思わず咽せそうになったが、何とか耐えて彼のものを咥え続ける。
「咥えるだけじゃ駄目だろ? 俺は奉仕するようにと言ったはずだが?」
「んっ……んぐっ……」
喉の奥まで一物を押し込まれ、抵抗すらできない。苦しい。息ができない。屈辱のあまり涙が出てくる。
いよいよ耐えられなくなった私はリヒトの服の袖を引っ張り、苦しさを訴えた。けれども、リヒトはお構いなしに私の口内を犯し続けた。
リヒトが動く度に、喉の奥からぐちゅぐちゅと淫靡な音が鳴っている。暫くそれが続いた後、漸く彼のものが口から引き抜かれた。
「ねえ、お願い……ちゃんとするから、無理やり押し込まないで」
その言葉を聞いて機嫌がよくなったのか、リヒトは私の口に自身を押し込むのをやめた。「ちゃんとするから」とは言ったものの、私は前世を含め性経験が乏しい。
ぎこちないながらも竿に手を添え先端をちろちろと舌で舐めると、リヒトはすぐにその美貌を快楽に歪ませ息を荒らげ始めた。
「ああ、セレス……最高だ。お前の舌がここに触れるだけで、俺は……」
決して上手なほうではないと思う。けれど、リヒトは私が自分のものを舐めているという状況に興奮を覚えたらしく、ますます手の中の一物が硬くなっていくのを感じた。余程興奮しているのか、ぴくぴくと脈打つように震えている。
先端からは相変わらず先走りが溢れ出ているし、それを舐め取らなければいけないと思うと苦痛だけれど、今は大人しく従うしかない。
「ん……んんっ……んぅ……」
そう思いながらも、やむを得ずいきり立った一物の先端を舐める。すると、リヒトは恍惚とした表情で「いい子だ、セレス」と言い私の頭を撫でた。
私は先程と同じように竿を握ると、それをゆっくり上下に動かしながら喉の奥まで咥え込んだ。
早く時間が過ぎてほしい。とにかく、頭の中はそれで一杯だった。そうやってリヒトの機嫌を損ねないよう、必死に『ご奉仕』をしていると、彼はますます呼吸を荒らげ、再び私の後頭部を押さえ始めた。どうやら、限界を迎えたらしい。
「はぁっ……はぁっ……セレス……お前の口で受け止めてほしいんだ。だから、このまま……」
「……!? ん……ふあっ……んんっ……!」
できることなら、飲み込みたくなんてない。だから、必死に拒否した。だが、強い力で後頭部を押さえられているため身動きすら取れない。
リヒトはそんな私を見て「無駄な悪足掻きはやめろ」と言わんばかりに残酷な笑みを浮かべると、口内に熱い欲を放った。
ああ……苦い。今にも咽せそうだ。そう思い、意識が遠のきそうになりながらも、喉に絡みつく熱い液体を何とか飲み込んだ。
◆
──悪夢のような時間が漸く過ぎると、リヒトは私を横抱きしてベッドまで運んだ。そして、私を柔らかいベッドの上に寝かせると、自分も横になり私を抱えながら眠りについた。余程、疲れていたのだろうか。
以前なら、「お疲れさま」なんて言いながら彼の頭を撫でて寝顔を眺めていたところだが……今はとてもそんな気分になれない。
リヒトは私のベッドで一時間ほど仮眠をとると、また王都に戻っていった。
──もう、こんなの耐えられない……要くん、助けて……。
私は心の中でそう呟くと、いつものように枕に突っ伏した。そして、一頻り泣いた後、もう二度と会うことができないであろう元恋人に思いを馳せ、前世の穏やかな日々を思い出していた。
◆
「千鶴。明日のデートのことなんだけど……」
「うん? どうしたの?」
明日は久しぶりに要とデートをする予定だ。近所に新しく猫カフェがオープンしたと聞いたので、二人で行こうという話になったのだ。
動物好きな要は猫カフェに行くことを楽しみにしていたし、私も猫は好きなほうだ。
約束をしてからは毎日二人で猫の話題をして盛り上がっていたほどなのに今、彼は言い難そうな様子で何かを切り出そうとしている。
要は多忙な学生だ。生徒会の仕事やアルバイトやらで何かと忙しく、いつも動き回っている。もしかすると、急用ができて行けなくなってしまったのかもしれない。
「もしかして、急にバイトが入っちゃったのかな? ああ、えっと……私のことなら気にしないで! 要くんが忙しいことはよくわかっているし、用事があるならそっちを優先して構わないから!」
残念に思いつつも、私はそう返した。
要にはアルバイトを頑張らなければならない理由がある。というのも、彼は母子家庭で早くに父親を亡くしているからだ。
そのためか、要は普段から口癖のように「女手一つで育ててくれた母を助けるためにも、自分が稼がなければいけない」と言っている。
それに、要にはまだ小学生の幼い妹がいる。彼女を長時間家に一人にしておくのも心配だろうし、私とのデートを優先してもらうわけにはいかない。
「ああ、いや……そういうわけではないんだ」
「え……?」
「明日、母さんと妹が二人で出かけるらしくて、一日中家に誰もいないんだよ。だから、その……よかったら、うちに遊びに来ないか? ほら、千鶴を家に呼ぶ時は、大体家族がいたからゆっくり過ごせなかっただろ? ……というわけで、どうかな? 猫カフェなら、いつでも行けるしさ」
意外な返答だった。てっきり、急用ができたものだとばかり思っていたのに。
要の家には何度か遊びに行ったことがあるけれど、やはり家族がいると気を使ってしまっていた。それに、デートの時はいつも出かけてばかりいたから、たまにはゆっくり家で過ごすのもいいかもしれない。
「もちろん、行くよ!」
二つ返事でそう答えた私を見て、要は安心したように微笑んだ。
そして、デート当日。
午前中は特に何をするでもなく、雑談をしながらまったりと過ごした。
昼食は要の家のキッチンを借りて、手作り料理を振る舞った。普段は望のためにしか作らないから、こうやって弟以外の人に料理を振る舞うのは久々だ。
昼食後はリビングのソファに二人で並んで座り、テレビを見て過ごした。
テレビを見ている時、ふと隣に座っている要が気になり、ちらりとその横顔を見やった。
さらさらの黒髪に、優しげな顔立ち──決して目立つタイプではないけれど、要もそこそこ端正な顔をしていると思う。
私はこれまで、地味でぱっとしない自分に劣等感を抱くことがしばしばあった。きっと、美形で華やかで何でもできる完璧な弟を毎日見ているせいだと思う。
だからなのか、要のようにごく普通の男の子の隣にいると、とても落ち着く。これは、私が彼を好きになった理由の一つでもある。
恋人にするなら、やっぱり一緒にいて落ち着く人が一番だよね……。
「千鶴? どうしたの? 僕の顔に何かついてる……?」
視線に気づいたのか、要は不思議そうに私の顔を覗き込んできた。
「あ、ごめん! なんでもないよ!」
「本当……?」
慌てて誤魔化す私を怪訝に思ったのか、要はますます私に接近してきた。
その瞬間、お互いの視線がぶつかり合った。要の綺麗な黒い瞳は、しっかりと私を捉えている。今まで、こんなに接近したことなんてなかったから、必要以上にどきどきしてしまうな……。しかも、なんかちょっといい雰囲気だし……もしかして、このままキスなんていう展開に……?
そんなことを考えていると、要は突然私の両肩を掴み、ゆっくりと唇を寄せてきた。
ああ、やっぱりそういう展開なんだ。私達はどちらも奥手なタイプとはいえ付き合ってもう三ヶ月目だ。今頃初めてのキスだなんて、最近の高校生カップルにしては遅すぎるくらいだろう。寧ろ三ヶ月も経っていれば、キス以上のことをしていてもおかしくはない。
そんなわけで……覚悟を決めた私は高鳴る心臓の鼓動を抑え目を瞑り、そのまま要に身を委ねた。
──けれども。いくら待っても、キスの瞬間は訪れなかった。暫しの沈黙の後、要は少し上ずった声で口を開いた。
「ご、ごめん……まだ、こういうのは早すぎたね」
「えっ……? そんなことは……」
「第一、千鶴に手を出したら、望に何を言われるかわからないよ。彼なら、きっと『そういうことは結婚してからにしろ!』なんて言いそうだしね」
「ああ……うん。それは確かに……」
「弟と言うより、お父さんみたいだよね。望って」
要はそう言って、私の肩から手を下ろし困ったように笑った。私は何だか拍子抜けしつつも、彼につられて笑ってしまう。
結局──そんな事が何度かあって、私達の関係は進展しなかった。
でも……当時の私は、そんな彼の隣にいることが何よりも安らぎだった。
結局、あの日も私はリヒトに陵辱されてしまった。
彼は『ネイトを傷つけない代わりに毎日お前を犯す』という交換条件を出してきた。
私は否応なくその条件を飲まされ──あの日以来、毎夜実の弟と不本意な交わりをしている。
このまま毎日体を重ね続けていれば、いずれ私は妊娠してしまうだろう。あの時、リヒトは私との子供が欲しいと言っていた。だから、きっと彼は本気で私を孕ませる気でいるのだと思う。
「失礼します、セレス様。リヒト様からの伝言です」
「伝言……?」
軽いノックの音がした後、部屋に入ってきたのはアルメルだった。
この一週間、私は身体的にも精神的にも疲弊してしまい、大体は昼頃まで寝ている。
そのため、朝早くから仕事に出かけていったリヒトとは顔を合わせていない。だから、彼女に伝言を頼んだのだろう。
「ええ。お仕事が立て込んでいるらしく、今日から五日間ほど、魔術研究所に泊まり込みをされるそうです。ですから、今朝セレス様にそれを伝えておくようにと仰せ付かりまして……」
「えっ……」
その言葉を聞いた途端、私は不覚にも「嬉しい」と感じてしまった。
弟と暫く顔を合わせずに済むことを嬉しく思うなんて傍から見れば酷い姉なのだが、事情が事情だけに仕方がない。
それから三日後。
昼食後、何気なく窓の外を眺めていると、不意に見覚えのある姿が目に入った。
淡い灰色の髪と光輝く琥珀色の瞳を持つ質素な服を着た少年が、少し離れた場所からじっと屋敷を眺めている。間違いない。今、下にいるのはネイトだ。私のことが気がかりで、偵察しに来たのだろうか。
「要くん……私はここにいるよ。また、あなたに会いたい。会って、元気な姿を見せてあげたい……」
言葉にした後、はっとして思わず両手で口を覆った。
心の中で思っただけのつもりだった。それなのに……すぐ近くにネイトがいるせいか、気づけば思ったことを口に出していた。自分の声は、全てリヒトに筒抜けだということを忘れて……。
「──まだそんなことを言っているのか」
間髪を入れずドア越しに聞こえてきたのは、聞き慣れた少年の声。「まさか」と思い慌ててドアの方に視線を移す。
……待って。今、ここに彼がいるはずがない。たとえ転移魔法で王都から移動してきたとしても早すぎる。そんな……どうして?
そんなことを考えているうちにドアは勢いよく開き、案の定、憤怒の形相をしたリヒトが部屋の中に入ってきた。リヒトはそのままつかつかと窓の方に歩いていくと、睨むように外を確認しピシャリとカーテンを閉めた。
「あいつ……あれほど釘を刺したのに、まだ俺達のことを嗅ぎ回っているのか」
「リ、リヒト……なんでここに……?」
「お前に会いたくて、仕事の合間を縫って帰ってきたんだ。それ以外の理由があると思うか?」
「……」
「本当は、少しだけ話をして王都に戻るつもりだったんだ。でも……まさかご主人様の言いつけを無視して、他の男にうつつを抜かしているなんてな。やはり、お前にはお仕置きが必要なようだ」
リヒトは私の服を強引に剥ぎ取り、頭頂部を押さえると、その場で跪くよう命じ口淫を強要した。
「ごめんなさい、ごめんなさい……許して……」
「駄目だ。ご主人様の命令は絶対だろ?」
懇願する私にそう返したリヒトは、ズボンのファスナーを下ろし、自身を私の頬に押し付けた。
顔を背け、何とかこの状況から逃れようとしたが、それでも彼は「お前に拒否権はないはずだ」と呟き、私の頬にぐりぐりとそれを押し付け続けた。
「見ろ、セレス。お前の頬に触れただけで、こんなに硬くなってしまった」
リヒトはそう言いながら、自分の体液で濡れた私の頬を執拗に責め続けた。「このまま断り続けたら、また逆上しかねない」と思った私は、涙目になりながらも彼のものを咥える。
その途端、リヒトは私の後頭部を手で押さえ喉の奥まで自身を押し込んだ。思わず咽せそうになったが、何とか耐えて彼のものを咥え続ける。
「咥えるだけじゃ駄目だろ? 俺は奉仕するようにと言ったはずだが?」
「んっ……んぐっ……」
喉の奥まで一物を押し込まれ、抵抗すらできない。苦しい。息ができない。屈辱のあまり涙が出てくる。
いよいよ耐えられなくなった私はリヒトの服の袖を引っ張り、苦しさを訴えた。けれども、リヒトはお構いなしに私の口内を犯し続けた。
リヒトが動く度に、喉の奥からぐちゅぐちゅと淫靡な音が鳴っている。暫くそれが続いた後、漸く彼のものが口から引き抜かれた。
「ねえ、お願い……ちゃんとするから、無理やり押し込まないで」
その言葉を聞いて機嫌がよくなったのか、リヒトは私の口に自身を押し込むのをやめた。「ちゃんとするから」とは言ったものの、私は前世を含め性経験が乏しい。
ぎこちないながらも竿に手を添え先端をちろちろと舌で舐めると、リヒトはすぐにその美貌を快楽に歪ませ息を荒らげ始めた。
「ああ、セレス……最高だ。お前の舌がここに触れるだけで、俺は……」
決して上手なほうではないと思う。けれど、リヒトは私が自分のものを舐めているという状況に興奮を覚えたらしく、ますます手の中の一物が硬くなっていくのを感じた。余程興奮しているのか、ぴくぴくと脈打つように震えている。
先端からは相変わらず先走りが溢れ出ているし、それを舐め取らなければいけないと思うと苦痛だけれど、今は大人しく従うしかない。
「ん……んんっ……んぅ……」
そう思いながらも、やむを得ずいきり立った一物の先端を舐める。すると、リヒトは恍惚とした表情で「いい子だ、セレス」と言い私の頭を撫でた。
私は先程と同じように竿を握ると、それをゆっくり上下に動かしながら喉の奥まで咥え込んだ。
早く時間が過ぎてほしい。とにかく、頭の中はそれで一杯だった。そうやってリヒトの機嫌を損ねないよう、必死に『ご奉仕』をしていると、彼はますます呼吸を荒らげ、再び私の後頭部を押さえ始めた。どうやら、限界を迎えたらしい。
「はぁっ……はぁっ……セレス……お前の口で受け止めてほしいんだ。だから、このまま……」
「……!? ん……ふあっ……んんっ……!」
できることなら、飲み込みたくなんてない。だから、必死に拒否した。だが、強い力で後頭部を押さえられているため身動きすら取れない。
リヒトはそんな私を見て「無駄な悪足掻きはやめろ」と言わんばかりに残酷な笑みを浮かべると、口内に熱い欲を放った。
ああ……苦い。今にも咽せそうだ。そう思い、意識が遠のきそうになりながらも、喉に絡みつく熱い液体を何とか飲み込んだ。
◆
──悪夢のような時間が漸く過ぎると、リヒトは私を横抱きしてベッドまで運んだ。そして、私を柔らかいベッドの上に寝かせると、自分も横になり私を抱えながら眠りについた。余程、疲れていたのだろうか。
以前なら、「お疲れさま」なんて言いながら彼の頭を撫でて寝顔を眺めていたところだが……今はとてもそんな気分になれない。
リヒトは私のベッドで一時間ほど仮眠をとると、また王都に戻っていった。
──もう、こんなの耐えられない……要くん、助けて……。
私は心の中でそう呟くと、いつものように枕に突っ伏した。そして、一頻り泣いた後、もう二度と会うことができないであろう元恋人に思いを馳せ、前世の穏やかな日々を思い出していた。
◆
「千鶴。明日のデートのことなんだけど……」
「うん? どうしたの?」
明日は久しぶりに要とデートをする予定だ。近所に新しく猫カフェがオープンしたと聞いたので、二人で行こうという話になったのだ。
動物好きな要は猫カフェに行くことを楽しみにしていたし、私も猫は好きなほうだ。
約束をしてからは毎日二人で猫の話題をして盛り上がっていたほどなのに今、彼は言い難そうな様子で何かを切り出そうとしている。
要は多忙な学生だ。生徒会の仕事やアルバイトやらで何かと忙しく、いつも動き回っている。もしかすると、急用ができて行けなくなってしまったのかもしれない。
「もしかして、急にバイトが入っちゃったのかな? ああ、えっと……私のことなら気にしないで! 要くんが忙しいことはよくわかっているし、用事があるならそっちを優先して構わないから!」
残念に思いつつも、私はそう返した。
要にはアルバイトを頑張らなければならない理由がある。というのも、彼は母子家庭で早くに父親を亡くしているからだ。
そのためか、要は普段から口癖のように「女手一つで育ててくれた母を助けるためにも、自分が稼がなければいけない」と言っている。
それに、要にはまだ小学生の幼い妹がいる。彼女を長時間家に一人にしておくのも心配だろうし、私とのデートを優先してもらうわけにはいかない。
「ああ、いや……そういうわけではないんだ」
「え……?」
「明日、母さんと妹が二人で出かけるらしくて、一日中家に誰もいないんだよ。だから、その……よかったら、うちに遊びに来ないか? ほら、千鶴を家に呼ぶ時は、大体家族がいたからゆっくり過ごせなかっただろ? ……というわけで、どうかな? 猫カフェなら、いつでも行けるしさ」
意外な返答だった。てっきり、急用ができたものだとばかり思っていたのに。
要の家には何度か遊びに行ったことがあるけれど、やはり家族がいると気を使ってしまっていた。それに、デートの時はいつも出かけてばかりいたから、たまにはゆっくり家で過ごすのもいいかもしれない。
「もちろん、行くよ!」
二つ返事でそう答えた私を見て、要は安心したように微笑んだ。
そして、デート当日。
午前中は特に何をするでもなく、雑談をしながらまったりと過ごした。
昼食は要の家のキッチンを借りて、手作り料理を振る舞った。普段は望のためにしか作らないから、こうやって弟以外の人に料理を振る舞うのは久々だ。
昼食後はリビングのソファに二人で並んで座り、テレビを見て過ごした。
テレビを見ている時、ふと隣に座っている要が気になり、ちらりとその横顔を見やった。
さらさらの黒髪に、優しげな顔立ち──決して目立つタイプではないけれど、要もそこそこ端正な顔をしていると思う。
私はこれまで、地味でぱっとしない自分に劣等感を抱くことがしばしばあった。きっと、美形で華やかで何でもできる完璧な弟を毎日見ているせいだと思う。
だからなのか、要のようにごく普通の男の子の隣にいると、とても落ち着く。これは、私が彼を好きになった理由の一つでもある。
恋人にするなら、やっぱり一緒にいて落ち着く人が一番だよね……。
「千鶴? どうしたの? 僕の顔に何かついてる……?」
視線に気づいたのか、要は不思議そうに私の顔を覗き込んできた。
「あ、ごめん! なんでもないよ!」
「本当……?」
慌てて誤魔化す私を怪訝に思ったのか、要はますます私に接近してきた。
その瞬間、お互いの視線がぶつかり合った。要の綺麗な黒い瞳は、しっかりと私を捉えている。今まで、こんなに接近したことなんてなかったから、必要以上にどきどきしてしまうな……。しかも、なんかちょっといい雰囲気だし……もしかして、このままキスなんていう展開に……?
そんなことを考えていると、要は突然私の両肩を掴み、ゆっくりと唇を寄せてきた。
ああ、やっぱりそういう展開なんだ。私達はどちらも奥手なタイプとはいえ付き合ってもう三ヶ月目だ。今頃初めてのキスだなんて、最近の高校生カップルにしては遅すぎるくらいだろう。寧ろ三ヶ月も経っていれば、キス以上のことをしていてもおかしくはない。
そんなわけで……覚悟を決めた私は高鳴る心臓の鼓動を抑え目を瞑り、そのまま要に身を委ねた。
──けれども。いくら待っても、キスの瞬間は訪れなかった。暫しの沈黙の後、要は少し上ずった声で口を開いた。
「ご、ごめん……まだ、こういうのは早すぎたね」
「えっ……? そんなことは……」
「第一、千鶴に手を出したら、望に何を言われるかわからないよ。彼なら、きっと『そういうことは結婚してからにしろ!』なんて言いそうだしね」
「ああ……うん。それは確かに……」
「弟と言うより、お父さんみたいだよね。望って」
要はそう言って、私の肩から手を下ろし困ったように笑った。私は何だか拍子抜けしつつも、彼につられて笑ってしまう。
結局──そんな事が何度かあって、私達の関係は進展しなかった。
でも……当時の私は、そんな彼の隣にいることが何よりも安らぎだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
結婚式に結婚相手の不貞が発覚した花嫁は、義父になるはずだった公爵当主と結ばれる
狭山雪菜
恋愛
アリス・マーフィーは、社交界デビューの時にベネット公爵家から結婚の打診を受けた。
しかし、結婚相手は女にだらしないと有名な次期当主で………
こちらの作品は、「小説家になろう」にも掲載してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる