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本編
32 糾弾のテアトル(リヒトside)
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俺はどこまでも続く暗い道を一人で歩いていた。
ここは一体どこなんだ? 辺りに民家などは一切見当たらないし、少なくとも、街中ではないことは確かなのだが……。
そんな疑問を抱きつつも、俺は暗闇の中を当てもなくひたすら歩き続けた。
──ああ、またこの夢か。
暫く歩き続けた結果、そう確信した。
実は、俺は定期的にこの夢を見ている。しかも、現世だけはではない。前世からずっとこの夢を見続けているのだ。
まあ……だからと言って、どうということはない。ただ、一人で終わりのない暗い道を進んで、孤独に耐えきれなくなったところで大体目が覚める。これがお決まりのパターンだ。
前世で初めてこの夢を見た時は、うなされながら目を覚ました。でも……今はもう慣れたせいか、それほど慌てなくなった。ただ夢から覚めるのを待っていればいいだけなのだし、夢だとわかっているのだから、騒いだところでどうしようもないと学習したからだ。
──どうして、セレスが隣にいないんだろう?
ふと、そんな考えが頭をよぎった。昔から、この夢を見る度にそう思っていた。
前世から、俺の見る夢には大体彼女が出てきた。夢の中の彼女はいつも俺の隣にいて、優しく微笑みかけてくれた。
けれども……この夢を見る時だけは、彼女が一切出てこない。もっとも、昔と今では事情が違うのだが……。
「あんなに酷い仕打ちをしたんだから、出てこなくて当然か……」
その場に立ち止まり、思わず自嘲する。
昔ならともかく、今の彼女は俺のことを誰よりも憎んでいる。夢には自分の願望が現れると言うが、その逆だ。ここ数ヶ月、俺の夢には全くセレスが出てこない。
どうやら俺は、自分で思っている以上に彼女に憎まれているという事実が身にこたえているらしい。
「ああ、そうだな。憎まれて当然だ」
「!?」
どこからともなく、声が聞こえてきた。驚いた俺は、慌てて周囲を見渡した。だが、声の主はどこにも見当たらない。
一体、どういうことだ? いつもは、この夢に他人が出てくることなどあり得なかったのに……。
「お前が誰を愛そうと勝手だ。たとえ、それが実の姉だったとしても……」
「誰だ!?」
暗闇の中で響き渡る、何者かの声。でも、俺はこの声に聞き覚えがあった。
「でも、その想いは絶対に伝えたら駄目なんだ。千鶴がどれだけお前を家族として信頼しているかわかっているのか? 実の弟にそんな目で見られていると知ったら、彼女はどうなると思う?」
「……!」
「あれほど言ったのに、なぜ想いを伝えた? なぜ彼女を傷つけた? そうまでして、思いを遂げたかったのか?」
「要なのか!? どこにいるんだ!? 言いたいことがあるなら、出てきて直接言え!」
取り乱した俺は夢の中であることを忘れ、頭上から響く声にそう叫び返した。すると、間髪を入れず他の人間の声が頭上から響いてきた。
「望くん、おかしいよ。いくらお姉さんのことが大切だったとしても、他の女の子に目もくれないなんて。正直、シスコンの域を超えていると思うよ」
「!?」
続けて聞こえてきたのは、女の声。この言葉にも聞き覚えがある。
前世で、高校生一年生の頃に自分に言い寄ってきた同級生が言った言葉だ。彼女は告白を断られた途端、嫌悪感に満ちた表情で俺にこの言葉を浴びせてきた。
他の女子とは違い、彼女だけは自分の意見をはっきり言ってきた。だから、とても印象に残っている。動揺するあまり絶句していると、さらにもう一人の声が聞こえてきた。
「先輩が試合に出てくれないと困るんですよ! 千鶴先輩のことが心配で、看病してあげたいって気持ちはわかりますけど……病気と言っても、ただの風邪なんでしょう? 千鶴先輩だって子供じゃないんだし、付きっきりで看病しなくても大丈夫ですよ! というか……前から思っていたんですけど、先輩って過保護すぎませんか?」
今度は中学時代の後輩だ。当時、運動部に入っていた俺は顧問や他の部員から一目置かれていた。
そんな俺が「熱を出している姉を看病したい」という理由で部活の大会を欠席したものだから、大会が終わった後に後輩が家に乗り込んできたのだ。「うちは養父母が共働きで家に誰もいないから、姉を看病できるのは自分だけなんだ」と事情を説明しても、後輩は納得してくれなかった。それどころか、まるで異常者を見るような目つきで間接的に俺をなじった。
「冗談じゃない……なんで俺が責められないといけないんだ? 俺は、本当は部活なんて入りたくなかったんだ。いつも千鶴のそばにいたいから、部活に時間を費やすのも惜しかったくらいなのに……『どうしてもうちの部に入ってほしい』と言って、ほとんど強制的に入部させたのはお前達だろ!?」
「……そうやって、中途半端に優しくするから皆を傷つけるのよ。私に興味がないなら、優しくなんてしないでほしかった。部活だって、本当に入りたくないなら断ればよかったのに。『困っている人を見過ごせない』なんて台詞、よく言えたものね。ヒーローにでもなったつもり?」
再び、前世で同級生だった女の声が聞こえてきた。
この女は随分俺に入れ込んでいた。その理由は、きっと俺がいじめられていた彼女を助けたからだろう。
中学生になってから習い始めた空手のお陰で、当時の俺はそこらの不良よりは腕っぷしが強かった。だから、彼女をいじめていた生徒達もそれ以来俺を恐れて彼女をいじめなくなった。
俺が彼女を助けたのは、別にヒーロー扱いされたかったからではない。言葉通り、本当に見過ごせなかっただけだ。
俺がこうなったのは、恐らく幼少期に両親から虐待を受けていたせいだ。単純に、昔の自分と重ねてしまうのだ。
前世の俺は、彼女が思い描くような立派な人間ではなかった。空手を習い始めた理由だって、千鶴を守りたかったからだ。当時から、俺の原動力は全て千鶴だった。
表面的には優しく見えても、千鶴以外の人間は二の次だった。全くもって、自分勝手な男だったと思う。
きっと、俺に理想を見出していた彼女にとって、それは大きな誤算だったのだろう。
とはいえ……あの時、純粋に彼女を『助けたい』と思ったのは本当だ。もっとも、その気持ちは彼女に全く伝わっていなかったようだが……。
「僕だって、先輩を尊敬していたんですよ? 先輩は、いつだって僕らの目標だった。憧れの人だった。本当に信頼できる人だと思っていた。それなのに、そんな僕達を裏切って大事な大会を欠席するなんて……あんまりです」
「あなたは、これまで多くの人間を傷つけてきた。それも、無自覚にね」
「僕達を傷つけてまで守りたかったのが千鶴なんだろう? それなのに、今のお前ときたら……」
後輩、同級生の女子、要の三人が口々に俺を責め立てた。
「やめろっ! もうやめてくれ!」
三人からの罵倒と責め苦に耐えられなくなった俺は、頭を掻きむしりながらそう叫んだ。
「今のお前ときたら、どうだ? 大切な人を悲しませた挙げ句、身体的にも精神的にも傷つけて──これじゃあまるで、欲しいものが手に入らないからといって駄々をこねている子供と同じじゃないか。いいか、よく聞け。お前は『取り返しのつかない罪』を犯したんだよ」
怒りとも悲しみともつかない、やや低めの要の声が頭上から響いてきた。
「……違う。違うんだ。俺はただ……」
「お前は、一番信用している人間に裏切られたセレスの気持ちを考えたことがあるのか?」
「……っ! お前達に何がわかるんだ!? そんなこと……言われなくたって、俺が一番よくわかってる。でも……俺はもう、以前の俺には戻れない。元の自分に戻ろうとすればするほど、セレスに対して真逆の言動を取ってしまうんだ……」
「そうか……。それがお前の答えなんだな。それなら、僕は僕のやり方で彼女を救ってみせるよ」
頭上からそう聞こえたかと思うと、頭を抱えながらその場に座り込んでいる俺の目の前に、突然要が姿を現した。
前世の俺がよく知っている、高校生の時の彼の姿のままで……。
「要……?」
「残念だよ……望」
要が口を開くと同時に、同級生の女子と後輩も姿を現した。
二人は要の両隣に並ぶと、同じように蔑んだような目で俺を見た。
「本当に残念だわ。望くん」
「先輩には失望しました」
「……消えろ……頼むから、消えてくれ……! もう二度と俺の夢に現れないでくれ!」
俺は三人を追い払うように、右腕を力いっぱい横に一振りした。そして、その手が虚しく空を切った途端、三人の幻影はふっと消えた。
◆
「リヒトくん! 大丈夫か!?」
「……う……ん……」
目を開けると、無機質な白い天井が目に飛び込んできた。視線を隣に移すと、心配そうな顔で俺の顔を覗き込んでいるメルヴィン博士がいた。
「……おはようございます、博士」
「ああ、起きたのか……。随分うなされていたようだから、何事かと思ってね。悪い夢でも見ていたのかな?」
「ええ、まあ……」
魔術研究所に泊まり込みをしてから、今日で四日目。
どうやら、休憩室のベッドで仮眠をとっている間にあの悪夢を見ていたようだ。随分長い夢のように感じられたが、時計を確認してみると仮眠をとり始めてからまだ一時間も経っていない。
「悪夢にうなされるなんて……相当疲れているんじゃないか?」
「いえ……大丈夫です。そろそろ仕事に戻りますね」
「いや、まだ休んでいたほうがいいだろう。他の研究員達には僕から伝えておくよ」
「……すみません」
あんな夢を見るくらいだから、やはり疲れているのだろうか。それとも……自責の念から見た夢なのか?
いずれにせよ、疲弊しているのは間違いないな……。そう判断した俺は、メルヴィンの厚意に甘えてもう少し休むことにした。
「仕事の疲れもあるとは思うが……相変わらず、お姉さんとも上手くいっていないんだろう? それも原因なんじゃないか?」
「ええ、そうですね……それは大いに関係あると思います」
俺とメルヴィンは十歳の魔力検査の時に知り合った。当時、王都の魔術研究所に配属されたばかりだった彼が俺の魔力に興味を持ち始めたのがきっかけで、たびたび連絡を取り始めたのだ。そんな感じで付き合いが長いためか、仕事でもプライベートでも仲がいい。
年は離れているが、めったに他人に悩みを打ち明けない俺が唯一気軽に相談をできる相手でもある。
いや、前世の年齢を加算すれば俺も彼と同年代か。そのためか、こうやって話していてもあまり年上という感じがしない。
メルヴィンには昔からセレスとのことをよく相談していた。だから、ある程度は俺達姉弟の現状を把握している。
勿論、俺が嫉妬のあまりセレスを屋敷に閉じ込めていることも知っている。基本的にマスターは自分の隷属者をどう扱おうと自由なので、彼女を監禁したからといって罪に問われることはない。
とはいえ、流石にセレスと強引に肉体関係を結んでいることまでは言えなかった。
だが……いずれは話さないといけない時が来るかもしれない。何しろ、俺はセレスとの間に子供を作ろうとしているのだから……。
「やはり、そうか……。確か、来週は夜会に初出席するんだったね。実に過密スケジュールだな」
「ええ、そうです。僕ももう十六歳なので、そろそろ社交界デビューするようにと父上から言われまして……」
「まったく、本当に大変だな。貴族ってやつは……」
「ははっ……そうですね」
肩をすくめてみせたメルヴィンに、俺は苦笑を返した。
ここは一体どこなんだ? 辺りに民家などは一切見当たらないし、少なくとも、街中ではないことは確かなのだが……。
そんな疑問を抱きつつも、俺は暗闇の中を当てもなくひたすら歩き続けた。
──ああ、またこの夢か。
暫く歩き続けた結果、そう確信した。
実は、俺は定期的にこの夢を見ている。しかも、現世だけはではない。前世からずっとこの夢を見続けているのだ。
まあ……だからと言って、どうということはない。ただ、一人で終わりのない暗い道を進んで、孤独に耐えきれなくなったところで大体目が覚める。これがお決まりのパターンだ。
前世で初めてこの夢を見た時は、うなされながら目を覚ました。でも……今はもう慣れたせいか、それほど慌てなくなった。ただ夢から覚めるのを待っていればいいだけなのだし、夢だとわかっているのだから、騒いだところでどうしようもないと学習したからだ。
──どうして、セレスが隣にいないんだろう?
ふと、そんな考えが頭をよぎった。昔から、この夢を見る度にそう思っていた。
前世から、俺の見る夢には大体彼女が出てきた。夢の中の彼女はいつも俺の隣にいて、優しく微笑みかけてくれた。
けれども……この夢を見る時だけは、彼女が一切出てこない。もっとも、昔と今では事情が違うのだが……。
「あんなに酷い仕打ちをしたんだから、出てこなくて当然か……」
その場に立ち止まり、思わず自嘲する。
昔ならともかく、今の彼女は俺のことを誰よりも憎んでいる。夢には自分の願望が現れると言うが、その逆だ。ここ数ヶ月、俺の夢には全くセレスが出てこない。
どうやら俺は、自分で思っている以上に彼女に憎まれているという事実が身にこたえているらしい。
「ああ、そうだな。憎まれて当然だ」
「!?」
どこからともなく、声が聞こえてきた。驚いた俺は、慌てて周囲を見渡した。だが、声の主はどこにも見当たらない。
一体、どういうことだ? いつもは、この夢に他人が出てくることなどあり得なかったのに……。
「お前が誰を愛そうと勝手だ。たとえ、それが実の姉だったとしても……」
「誰だ!?」
暗闇の中で響き渡る、何者かの声。でも、俺はこの声に聞き覚えがあった。
「でも、その想いは絶対に伝えたら駄目なんだ。千鶴がどれだけお前を家族として信頼しているかわかっているのか? 実の弟にそんな目で見られていると知ったら、彼女はどうなると思う?」
「……!」
「あれほど言ったのに、なぜ想いを伝えた? なぜ彼女を傷つけた? そうまでして、思いを遂げたかったのか?」
「要なのか!? どこにいるんだ!? 言いたいことがあるなら、出てきて直接言え!」
取り乱した俺は夢の中であることを忘れ、頭上から響く声にそう叫び返した。すると、間髪を入れず他の人間の声が頭上から響いてきた。
「望くん、おかしいよ。いくらお姉さんのことが大切だったとしても、他の女の子に目もくれないなんて。正直、シスコンの域を超えていると思うよ」
「!?」
続けて聞こえてきたのは、女の声。この言葉にも聞き覚えがある。
前世で、高校生一年生の頃に自分に言い寄ってきた同級生が言った言葉だ。彼女は告白を断られた途端、嫌悪感に満ちた表情で俺にこの言葉を浴びせてきた。
他の女子とは違い、彼女だけは自分の意見をはっきり言ってきた。だから、とても印象に残っている。動揺するあまり絶句していると、さらにもう一人の声が聞こえてきた。
「先輩が試合に出てくれないと困るんですよ! 千鶴先輩のことが心配で、看病してあげたいって気持ちはわかりますけど……病気と言っても、ただの風邪なんでしょう? 千鶴先輩だって子供じゃないんだし、付きっきりで看病しなくても大丈夫ですよ! というか……前から思っていたんですけど、先輩って過保護すぎませんか?」
今度は中学時代の後輩だ。当時、運動部に入っていた俺は顧問や他の部員から一目置かれていた。
そんな俺が「熱を出している姉を看病したい」という理由で部活の大会を欠席したものだから、大会が終わった後に後輩が家に乗り込んできたのだ。「うちは養父母が共働きで家に誰もいないから、姉を看病できるのは自分だけなんだ」と事情を説明しても、後輩は納得してくれなかった。それどころか、まるで異常者を見るような目つきで間接的に俺をなじった。
「冗談じゃない……なんで俺が責められないといけないんだ? 俺は、本当は部活なんて入りたくなかったんだ。いつも千鶴のそばにいたいから、部活に時間を費やすのも惜しかったくらいなのに……『どうしてもうちの部に入ってほしい』と言って、ほとんど強制的に入部させたのはお前達だろ!?」
「……そうやって、中途半端に優しくするから皆を傷つけるのよ。私に興味がないなら、優しくなんてしないでほしかった。部活だって、本当に入りたくないなら断ればよかったのに。『困っている人を見過ごせない』なんて台詞、よく言えたものね。ヒーローにでもなったつもり?」
再び、前世で同級生だった女の声が聞こえてきた。
この女は随分俺に入れ込んでいた。その理由は、きっと俺がいじめられていた彼女を助けたからだろう。
中学生になってから習い始めた空手のお陰で、当時の俺はそこらの不良よりは腕っぷしが強かった。だから、彼女をいじめていた生徒達もそれ以来俺を恐れて彼女をいじめなくなった。
俺が彼女を助けたのは、別にヒーロー扱いされたかったからではない。言葉通り、本当に見過ごせなかっただけだ。
俺がこうなったのは、恐らく幼少期に両親から虐待を受けていたせいだ。単純に、昔の自分と重ねてしまうのだ。
前世の俺は、彼女が思い描くような立派な人間ではなかった。空手を習い始めた理由だって、千鶴を守りたかったからだ。当時から、俺の原動力は全て千鶴だった。
表面的には優しく見えても、千鶴以外の人間は二の次だった。全くもって、自分勝手な男だったと思う。
きっと、俺に理想を見出していた彼女にとって、それは大きな誤算だったのだろう。
とはいえ……あの時、純粋に彼女を『助けたい』と思ったのは本当だ。もっとも、その気持ちは彼女に全く伝わっていなかったようだが……。
「僕だって、先輩を尊敬していたんですよ? 先輩は、いつだって僕らの目標だった。憧れの人だった。本当に信頼できる人だと思っていた。それなのに、そんな僕達を裏切って大事な大会を欠席するなんて……あんまりです」
「あなたは、これまで多くの人間を傷つけてきた。それも、無自覚にね」
「僕達を傷つけてまで守りたかったのが千鶴なんだろう? それなのに、今のお前ときたら……」
後輩、同級生の女子、要の三人が口々に俺を責め立てた。
「やめろっ! もうやめてくれ!」
三人からの罵倒と責め苦に耐えられなくなった俺は、頭を掻きむしりながらそう叫んだ。
「今のお前ときたら、どうだ? 大切な人を悲しませた挙げ句、身体的にも精神的にも傷つけて──これじゃあまるで、欲しいものが手に入らないからといって駄々をこねている子供と同じじゃないか。いいか、よく聞け。お前は『取り返しのつかない罪』を犯したんだよ」
怒りとも悲しみともつかない、やや低めの要の声が頭上から響いてきた。
「……違う。違うんだ。俺はただ……」
「お前は、一番信用している人間に裏切られたセレスの気持ちを考えたことがあるのか?」
「……っ! お前達に何がわかるんだ!? そんなこと……言われなくたって、俺が一番よくわかってる。でも……俺はもう、以前の俺には戻れない。元の自分に戻ろうとすればするほど、セレスに対して真逆の言動を取ってしまうんだ……」
「そうか……。それがお前の答えなんだな。それなら、僕は僕のやり方で彼女を救ってみせるよ」
頭上からそう聞こえたかと思うと、頭を抱えながらその場に座り込んでいる俺の目の前に、突然要が姿を現した。
前世の俺がよく知っている、高校生の時の彼の姿のままで……。
「要……?」
「残念だよ……望」
要が口を開くと同時に、同級生の女子と後輩も姿を現した。
二人は要の両隣に並ぶと、同じように蔑んだような目で俺を見た。
「本当に残念だわ。望くん」
「先輩には失望しました」
「……消えろ……頼むから、消えてくれ……! もう二度と俺の夢に現れないでくれ!」
俺は三人を追い払うように、右腕を力いっぱい横に一振りした。そして、その手が虚しく空を切った途端、三人の幻影はふっと消えた。
◆
「リヒトくん! 大丈夫か!?」
「……う……ん……」
目を開けると、無機質な白い天井が目に飛び込んできた。視線を隣に移すと、心配そうな顔で俺の顔を覗き込んでいるメルヴィン博士がいた。
「……おはようございます、博士」
「ああ、起きたのか……。随分うなされていたようだから、何事かと思ってね。悪い夢でも見ていたのかな?」
「ええ、まあ……」
魔術研究所に泊まり込みをしてから、今日で四日目。
どうやら、休憩室のベッドで仮眠をとっている間にあの悪夢を見ていたようだ。随分長い夢のように感じられたが、時計を確認してみると仮眠をとり始めてからまだ一時間も経っていない。
「悪夢にうなされるなんて……相当疲れているんじゃないか?」
「いえ……大丈夫です。そろそろ仕事に戻りますね」
「いや、まだ休んでいたほうがいいだろう。他の研究員達には僕から伝えておくよ」
「……すみません」
あんな夢を見るくらいだから、やはり疲れているのだろうか。それとも……自責の念から見た夢なのか?
いずれにせよ、疲弊しているのは間違いないな……。そう判断した俺は、メルヴィンの厚意に甘えてもう少し休むことにした。
「仕事の疲れもあるとは思うが……相変わらず、お姉さんとも上手くいっていないんだろう? それも原因なんじゃないか?」
「ええ、そうですね……それは大いに関係あると思います」
俺とメルヴィンは十歳の魔力検査の時に知り合った。当時、王都の魔術研究所に配属されたばかりだった彼が俺の魔力に興味を持ち始めたのがきっかけで、たびたび連絡を取り始めたのだ。そんな感じで付き合いが長いためか、仕事でもプライベートでも仲がいい。
年は離れているが、めったに他人に悩みを打ち明けない俺が唯一気軽に相談をできる相手でもある。
いや、前世の年齢を加算すれば俺も彼と同年代か。そのためか、こうやって話していてもあまり年上という感じがしない。
メルヴィンには昔からセレスとのことをよく相談していた。だから、ある程度は俺達姉弟の現状を把握している。
勿論、俺が嫉妬のあまりセレスを屋敷に閉じ込めていることも知っている。基本的にマスターは自分の隷属者をどう扱おうと自由なので、彼女を監禁したからといって罪に問われることはない。
とはいえ、流石にセレスと強引に肉体関係を結んでいることまでは言えなかった。
だが……いずれは話さないといけない時が来るかもしれない。何しろ、俺はセレスとの間に子供を作ろうとしているのだから……。
「やはり、そうか……。確か、来週は夜会に初出席するんだったね。実に過密スケジュールだな」
「ええ、そうです。僕ももう十六歳なので、そろそろ社交界デビューするようにと父上から言われまして……」
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