土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

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第1章 土方歳三、北の大地へ

第5話

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 その時、土方歳三は悩んでいた。
 仙台城下で一戦して武人らしい最期を遂げたい、との最後の願いが叶わなくなりつつあったからだ。
 そう、それが今や自分に残された、自分を許せる最後の願いにしか、自分には思えなくなっていた。

 土方の脳裏では、かつての京での日々、更に鳥羽・伏見の戦いの後のことが、走馬灯のように駆け巡った。
 鳥羽・伏見の戦いの後、新選組の面々は、江戸に戻り、更に議論の末に、永倉新八、原田左之助といった面々が、新選組から離脱していった。
 流山で近藤勇局長と今生の別れを遂げた後、残された新選組の面々と共に自分は戦っていたが、更に、斎藤一ら、一部の新選組の面々は、会津藩に殉ずると主張して、自分とは路を違えた。
 今や自分と共にいる新選組の面々は、島田魁以下、極少数に過ぎず、伝習隊と行動を共にする現状にある。
 そうした中で、自分は最後まで戦い抜いて、武人として最期を遂げようと思っていた。
 しかし、現状はどうか。

 仙台藩上層部の戦意は、戦況の悪化と共に急激に低下しつつあった。
 このままでは、仙台城下から錦の旗が見えるようになった時点で降伏するだろう。
 仙台藩兵と共に最後の出撃なり、会津藩が行っているように仙台城での籠城戦なりの主張が受け入れられる望みはほぼ無かった。

 かといって、他の幕府諸部隊、例えば遊撃隊等とのみの最後の出撃は、とても採れるものではない、と自分の理性は述べていた。
 鳥羽・伏見の戦いの際の津藩が藩祖高虎の遺訓を守り、さっさと寝返ったように、仙台藩も同様に、これ幸いと自分たちを攻撃して自らの保身を図るのではないか。
 藩祖政宗の所業を思えば、仙台藩がそのようなことをしてもおかしくはないか、とまでつい考えてしまった。
 いっそ、単身、薩長軍に斬り込んで斬り死にするか。

 いかんな、考えが悪い方向に走っている。
 高虎の遺訓が実際にあるわけもあるまいに、と土方が、つらつら考えているところに入ってきたのが、神速丸の到着とフランス人数名が大鳥総督に至急の面会を求めているという話だった。
 大鳥総督が面会してみると、かつての教官のブリュネ大尉達だったとのことで、大鳥総督とブリュネ大尉がしばらく会談した後、大鳥総督は伝習隊の幹部の非常呼集を命じ、それに応じて熱気がみなぎっている。

 大鳥総督が、まずは発言した。
「ブリュネ教官は、我々の命を保障したうえでの降伏の使者として来られた。
 皆の意見を聞きたい」

「バカなことを言うな」
「今更、降伏できるか」
「薩長を信用できるか」
「降伏して武装解除した後、拷問の末に惨殺されるに決まっている」
「しかし、仙台藩が降伏したら、どうやって抗戦するというのだ」
「もう潮時と考えて、降伏を考えるべきだ」

 集まった幹部、それぞれが発言しだした。
 怒号や自分と意見の違う幹部への罵声まで飛び交いだした。
 土方は発言せずに、ひたすら周囲の意見に耳を傾けた。
 自分個人はともかく、伝習隊全体としてはどうすべきだろうか。

 土方が考えにふけるうちに、どれくらい時間が経ったのか、いつか発言が収まりつつあった。
 土方が周囲を見渡したところ、発言していた幹部の面々がお互いに疲れてきたらしかった。

「ここは1つ、ブリュネ教官達の話を聞いて、そのうえで我々の最終決断を下そうではないか」

 大鳥総督がタイミングを見計らったようにそう発言すると、

「異議なし」
「そうしよう」
 との声が、多くの幹部の面々から上がった。

「では、ブリュネ教官達を呼んでくる。
 現在の徳川家や江戸の情勢等が分かるだろう。
 そのうえで、我々はどうすべきかを、決断しようではないか」
 大鳥総督はそう発言して部屋から出て行った。

 土方は、どうすべきかの思索にまた戻った。
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