堕ちる犬

四ノ瀬 了

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そいつは女だから慈悲で1発で殺してやったんだ。お前はそうはならない。

共に潜入捜査をしていた先輩警察官である木崎が頭を撃ち抜かれたのは、まさに一瞬の出来事であった。彼女の脳髄が彼女の背後の壁に撒き散らされ、血飛沫が壁とベッドにぶちまけられた。これまでも修羅場をくぐってきたと思っていたが、ここまでの、映画でしか見た事がないような光景に現実感がなかった。

寂れたヘルスホテルの一室で一瞬の出来事だった。木崎は何が起こったかさえもわからないままあの世に飛び立っただろう。飛び散った血肉の形がどことなくハテナの形のように見えた。

霧野は見張り役として、部屋のドアのすぐ横に立っていた。正面のベッドには目を見開いたまま動かなくなった木崎、部屋の中心にスーツ姿で一見するとエリート商社マンのように見える川名、彼の手に握られた拳銃からはまだ煙が立ち上っている。彼はゆっくりと拳銃を下ろす。

彼の斜め後ろに派手な服を着崩した巨漢のヘルスオーナーの似鳥と川名の舎弟の美里が立っていた。霧野と美里はこの部屋に入る前まで昨日抜いたAVの話をしていた。似鳥は何も聞かされていなかったのか、頭を抱える仕草をしている。美里はこの中でいちばん若い風貌をしているにも関わらず、微動だにせずガムを噛んでいた。

川名はゆっくりと振り向き視線を霧野に向けた。川名の顔には返り血が飛び散り口元に肉片が着いていた。その口元は笑っていたが、目は全く笑っていなかった。似鳥と美里もこちらを見た。今までに向けられたことがない井戸の底のような瞳だった。
心音が外に漏れ出てしまうのでは無いかと思うほど激しくなり、目の前が霞んでくる。震えるなと思うほど指先が震えた。どこで間違えた?

「お前も死ぬか?」

口を開こうとすると彼は下ろしていた銃をこちらに向けた。

「黙って後ろを向け」

死ぬ、殺される、こんなところで!
身体を震わせながら壁の方に体を向けた。

「……美里」

美里が返事もせずにこちらに近づいてきたのがわかった。彼からはいつも同じ甘い香水の匂いが漂っていた。美里は後ろ手に霧野の手首を結束バンドで止め、肩に手を置いた。
霧野は膝を床に着いた。目の前の黄ばんだ壁に色とりどりのライトの光が蠢いていた。

「心配しなくてもお前はこうはしない。そいつは女だから慈悲で1発で殺してやったんだ。お前はそうはならない。」

「川名さん、ここでふたりやるのは勘弁してくださいよォ、また掃除料金ぼられちまうよォ」

似鳥が部屋の中を歩き回る音が聞こえた。川名は黙ったままだ。それから美里が部屋から出ていった。
美里は手に真っ黒な死体袋を2つ抱えて戻ってきた。後頭部に銃の先が突きつけられた。

「澤野……、いや霧野遥巡査、好きな方に横になれよ、上司と一緒に運んでやる。」



美里がベンツの運転席に座ると、助手席には似鳥、後部座席に川名が座った。キーを回しアクセルを踏み込む。似鳥の体臭がきつく、身体が大きく圧迫感があるため隣に座られるのが不快であったが川名がいる手前文句は言わず黙っていることにした。

車のトランクに詰め込んだ澤野、否、霧野のことを考えると運転を荒くしてやりたかったが、やはり川名を乗せている手前そうはできない。今日のことを川名から知らされたのは昨日の夜だった。何も知らない霧野と無邪気にAV女優の話をしているのはたまらなく面白かったが、その会話は霧野が本当に思ったことを口にしていたのか、警察がヤクザをイメージして練り上げた会話だったのかが気になり、苛立たしくもあった。

川名を乗せて、極めて優しく安全にゆっくり走るために、霧野の女上司の上に霧野を重ねておくようにしてトランクに詰め込んだ。知り合いの死体の上に寝る気持ちはどんなものだろうか。

死体袋がガタガタと震えているのを見るのは初めてでは無かったが、その中身がよく知っている人物であるというのは初めてのことで身体の奥底から何か熱いものが込み上げた。

事務所の前に車を止めると、似鳥と川名はさっさと降りてビルの中に入っていった。車庫に車を入れ死体袋2つを地下室へ運んだ。片方は冷たく片方は熱があり時々暴れた。



地下室はフロアが区切られていないだだっ広いひとつのコンクリート打ちっぱなしの部屋である。窓がないからライトが目に悪いくらい明るく、目を慣らすのに時間がかかる。
しばらくすると似鳥と川名が降りてきた。

「なんで女の方殺しちまったんですか、しかもあんな野蛮なやり方で。なんとでも使えたのに……」

「両方殺すよかいいだろ」
 
川名は地下室の入口で歩を止め、タバコに火を付けた。似鳥だけが美里と死体袋の方に近づいてきた。
似鳥が動いている方の死体袋のチャックを下ろした。眩しさに目を細め眉間に皺を寄せ、猿轡を噛まされた霧野の顔があった。手足ともに結束バンドで束ねてあり、余程のことがない限り外れないはずだ。

ヘルスで見た時の怯えた表情は既になかったが、目の端が赤くなり軽く跡が着いているのが見えた。似鳥がポケットからナイフを取りだし、獣の皮をはぐように霧野の服を剥がしていく。

こうしてまじまじと霧野の身体を見たことはあまり無かったが、「警官」だけあって適度にしなやかな筋肉が発達した肉体を持っており、美しかった。

美里には血の気が多い仕事が多く任された。
その中で相手を制圧させるような暴力関係の仕事が回ってくる場合、霧野と組まされることが多かったが、彼の戦闘能力には惚れ惚れした。しかしそれも警察官として磨かれたものだと考えれば納得がいく。

美里は動かない方の死体袋を開いた。頭の割れた女が眠っていた。血の匂いが鼻先をくすぐった。霧野の方を見ると一瞬だけ目が合ったが霧野はすぐに目を逸らした。
美里は女の服をぬがし裸にするとベルトを外し始めた。霧野と違って拘束をする必要が無いので似鳥のような手間が省けるのもいい。
霧野と再び目があい今度は向こうから外さず信じられないものを見るような目で睨みつけてきた。

「そうか、お前と死体処理一緒にしたことないものな、俺はいつもこうだよ。」

霧野が情けない呻き声を上げているのを見るのは少しいい気分であった。しかしこれからもっとそういった声をいやでも聞くことになることを考えると、ふとした瞬間に飽きてしまうのではという怖さもあった。死んでいる女は飽きない。それ以上の進展も期待もないからだ。

女も警察官であるだけあって場末のヘルス女とは見違えて締まった身体をしていた。この女に霧野はどんな風に自分たちのことを語っていたのだろうか。今となればそれも全て無意味だが。

女と交わりながら霧野の方を向くと、衣服を剥がされ足の結束バンドが外された状態で下半身を露出した似鳥にのしかかられており、顔が見えなかった。

「美里くん、そこにある鉄パイプと紐とってくれないか?暴れるんだよ彼。さっきまで死に損ないみたいな体してたのに。」

似鳥は霧野を押さえつけながら声をかけてきた。

「なんで俺が、自分で取ればいいでしょ」

「美里くんのは動かないでしょ、私のは動くの」

美里は舌打ちをし、衣服を整えると壁に立てかけられていた鉄パイプと無造作に床に投げ出されていた紐束を似鳥の横に投げおいた。似鳥は礼も言わず霧野を抑えたまま鉄パイプを霧野の足を開かせた状態で膝の下に当てた。似鳥は暴れる霧野に何度か鳩尾を蹴られているが、全く岩のように動かず、片膝に縄をかけた。

似鳥は元々は構成員で武闘派閥だったということを美里は先輩の構成員から聞いていた。その巨漢を活かして大きな獲物で敵を切り刻んだとかなんだとか、当時のあだ名は肉屋、今もバカげた派手な服を着替えれば本物の肉屋にも見えるだろう。今でこそ筋肉と脂肪ののった100キロは超える巨体の変態ヘルスオーナーであるが。

あっという間に霧野は足を開かれた状態に固定されそのまま膝立ちうつ伏せの状態に抑え込まれた。それでもまだ抵抗の意思があるのか霧野の背中が上がったり下がったりしていた。

美里は自分のパートナーの方へ戻りながらも、横目で露出した似鳥のグロテスクな下半身を見た。
似鳥の身体と比例して大きな怒張した陰茎にはボディピアスが幾つも埋め込まれており迫力があるのだ。美里は初めてそれを見た時かなり仰天した。今でも見る機会があればどうしても目がいってしまう。霧野はおそらく初めて見たのであろう。
霧野と似鳥は美里を通して面識があったが、深い知り合いという訳では無い。ましては下関係など、霧野は男と寝たことさえ無いはずだ。

似鳥は脱ぎ捨てたズボンのポケットからローションを取り抱し、それでいくらか自分の陰茎しごき、後ろから霧野に押し当てた。霧野は一層身をよじって抵抗し喉の奥で大きな猫科動物のような唸り声を上げた。無駄な抵抗なのだから諦めればいいのにと美里は口にしてしまいたかった。霧野は警察組織の中で教わらなかったのだろうか、上への抵抗は上のものを苛立たせるか面白がらせるかだけだということを。

強引に体重でねじこまれ推し開かれた穴は当然のごとく裂傷し霧野の肛門から流れた血が太ももをつたい床を汚した。
霧野は先程とは異なった切れ切れなくぐもった悲鳴をあげ、太ももの筋肉が異常な事態に間隔あけて引き攣ったように痙攣している。強く握られた拳の中からも爪を立てているせいで血が滲み出ている。霧野の身体の全神経が異物を拒否していることが、余計に似鳥の陰茎を締め付けた。

締め付けられた陰茎は引き抜くことも一苦労で、力任せに腰を引いてはゆっくりと強く押す行為が続く、ピアスが入口の傷に引っかかり抉る度に新たに血が流れ、太ももを伝った。似鳥は霧野の反応や抵抗、出血を意に介せず、締めつけのせいでぎこちないが一定の速さで腰を動かしていた。激しく拒絶する霧野に対して似鳥は静かにその様子を楽しんでいるようであった。

美里はうつ伏せにされた霧野を見ながら女を犯した。霧野は頭を押さえつけられ横を向いていた。目線の先には女の顔があるはずだ。冷えきった中が生きているように熱くなっていき、一気に射精した。その間も似鳥は一定のゆっくりとした速さで嬲るように腰をうちつけている。

霧野は遮二無二に暴れていた状態から、陰茎が深く霧野を抉る度に唸り声を上げるようになっていた。それはよくないと美里は思った。余計に似鳥を楽しませてしまう。無理にでもめちゃくちゃな調子で暴れるべきだ。しかし、霧野にまだそこまで考える余裕は無いらしい。もう少しすればわかるだろうか、似鳥の遅漏は酷いもので、たとえ合意の上の性行為であったとしても多くのものにとっては拷問になる。

美里は霧野の苦悶する様子から目を離せず、死体の横に座ったままタバコに火を付けた。ふと美里が後ろを振り向いたのと同じタイミングで川名が地下室から出ていくのが見えた。

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