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3ページ目 ひらきなおりアタック

前編

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 もう、何度零したのかわからない溜息を吐きつつ、圭介は、キビキビと仕事をこなす上司を、PCの影から窺い見た。
 
 彼は、相変わらず颯爽としている。
 
 あれから、どうなったかといえば、何も変わりはしなかった。
これで言い方が正しいのかどうかは疑問だが。
 
 ようは、確かに圭介には拒否権は無かったらしく、近藤がそのまま居ついてしまった、ということ。
 
 近藤が転がり込んできた、あの悪夢の土曜日から1週間。圭介は近藤との距離の取り方に困っていた。
 
 決算シーズンに入っているため業務は多忙を極めている。
 圭介の帰宅も、23時近いが、近藤はもっと遅くて、夜中の2時、3時にタクシーで帰ってくるのが当たり前の生活が今週は続いていた。
 
 当然、圭介は眠りについていて、彼がシャワーを浴びる水音に一瞬、眼が覚めて・・・

 そして彼が狭いベッドに潜り込んできて・・・
 
 そして・・・自分を抱き寄せて・・・
 
 彼の温もりを背中越しに感じながら、優しい眠りにまた落ちて・・・
 
 絶対に、まずい・・・まずいと思いつつ、近藤のペースに巻き込まれ、流されている自分に圭介は苛立っていた。

 近藤と話そうと思うが、朝も近藤の方が早く出社してしまい、当然職場で、話をすることは出来ないので、土曜日以来、何も話は出来ずじまいが継続中。
 
 日曜日は、部屋の鍵のスペアを取り上げられ、彼の荷物の整理を手伝わされて一日が終わってしまっていたし。
 
 結局、二人の関係には、何も進展がない?まま、また明日は土曜日になる。
 
 圭介は決意していた。

 今度こそ、近藤ときちんと話し合って、彼に出て行ってもらう。
自分と彼は何にも無いのだということを、彼に理解してもらわなければ・・・・・・。
 
 大体、あんたはどうしたんだよ!と言いたいところだ。
 
 圭介は自分の中にある、わけの分からない感情を持て余しながら、こっそり近藤を見つめて、密かに溜息をまた吐くと、目の前の仕事に向かった。
 

 
◇◇◇◇◇


 
「・・・ん・・・・・」
 
 頬に当たる優しい感触に、圭介は眠りから、僅かに引き戻された。​
 
「・・・ぁ・・・こ、んど・・・さん・・・?」
 
 ふわりと前髪を大きな掌で梳かれて、眼を開けると、自分を覗き込む、近藤の優しい眼差しがある。
 
「・・・ぉ・・・ぉかえり・・・なさ・・・い」
 
 圭介の言葉に、ふっと近藤が口元をかすかに緩めて微笑んだ。

 髪を梳く手を止めずに、そのまま、ベッドに身体を滑り込ませてくるのを、ベッドのギシッという音と、抱き寄せられる近藤の力強い腕で感じる。
 
 夢なのか、現実なのかわからず、圭介は、朦朧となすがままになっていた。
こめかみに、温かい感触がまた落ちてきて、今度は近藤の柔らかい声が聞こえてきて・・・
 
「・・・まだ、早い・・・。圭介、もう少し寝てろ・・・」
 
はい・・・・・そう言ったのか言わないのか。
 
 自分をしっかりと抱きしめる力強さに安心して、圭介は心地よい温もりに包まれて、再びまどろみの中に落ちていた。
 
 


 
 もう・・・どうやって話せばいいんだよ・・・
 
 圭介は顔を赤くしたまま、ベッドの上でキッチンに立つ近藤の背中を見つめた。彼は、今キッチンでかいがいしく朝食ならぬブランチの用意をしている。
 
 眼を覚ましたのは、つい先ほど11時・・・陽が高く昇り、部屋に差し込んでくる強い日差しで、圭介はやっと起きた。
 
 起きようと身じろぎしたけど、身体は拘束されていて・・・その拘束の原因が、自分をしっかりと背中から抱きこんでいる近藤の腕だと、気づいた瞬間、圭介の鼓動は早まっていた。
 
うーーーーん、圭介の身じろぎが近藤にも伝わったのか、圭介の腰に回した腕はそのままに、盛大な伸びをした。彼もどうやら眼を覚ましたらしく。
 
「あ・・・お、おはようございます・・・」
 
モゾモゾと彼の胸の中で身を捩って、恐る恐る頭上にある近藤の顔を見る。

 彼は、優しい表情を浮かべていて、昨夜の夢の再現のように、圭介を穏やかな眼差しで見つめている。
 
「ああ、おはよう。」
 
言って、チュッと、圭介のおでこに軽いキスを落とす。
 
「あ、、、、あの・・・・」
 
 恋人めいた甘い行為に、圭介はかぁっと顔を蒸気させると、おたおたと彼の腕から逃げようと身を捩る。近藤はそれを許さず、自分も起き上がって圭介の肩を押さえ込むと、ベッドに易々と組み敷いた。
 
「こっ、近藤さんっ!!」
 
やばい、流されそうな雰囲気に圭介は抗議の声を上げるが、近藤は、ちょっとだけな、といって、唇を押し付けてくる。
 
「やっ・・・!!」
 
 抵抗するように首を左右に振り、彼の胸から逃げを打つが、彼の力は強くて。
 
「・・・ん・・・ん・・・・ぁ・・・ん」
 
 一瞬、冷やりとした空気が唇に纏わりついて、唇が離れたと思ったのもつかの間、また彼の唇の熱に絡め取られていた。
 
 口内に入り込んだ近藤の舌は、恐いくらい熱い。
その熱い舌で、口蓋や歯列を撫でられ、舌を甘噛みされて、きつく吸い上げられると、圭介はもう、何がなんだか分からなくなってしまっていた。
 
・・ちょっとだけな、そんな近藤の言葉は嘘で、離れたと思うと、また戻ってきて、我が物顔の彼の舌に貪られる。

 激しいキスに、圭介は喘ぐと、近藤の背に腕を回して縋り付いた。
そうしていないと、なぜだが怖くて、不安で。
 
 何度も舌を吸われて朦朧とし始めたところで、やっとキスが解かれた。
離れたお互いの唇からツッと、唾液がキスの激しさを物語るように、いやらしく銀糸を引く。
 
「ふぁ・・・こ・・・ん・・・・・どう・・・さ・・・」
 
 近藤は、熱っぽい目のまま、圭介の唾液に濡れた唇を人差し指でなぞり、そして親指で拭うと、やっと口を開いた。
 
「俺は飯の支度をしてくる。お前はおとなしくしてろ」
 
 こんな、まるで恋人同士のような甘い空気に、これからどうやって、彼と、自分たちの関係について話したらよいのか・・・
 
 圭介は、癖になってしまったため息を吐くと、流されやすい自分を呪い、強引な近藤の背を恨めしく眺めた。
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