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Vol.1『ファムファタ女と名探偵』
ハードボイルド危機一髪
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「おい誰だお前! 何をしてやがる!」
大事なことなので再掲した。なんとまあ、型通りなセリフだ。
『ちょちょちょちょちょ! だから早くしてって言ったのに! ちょっとどーすんのー!』
由紀奈が耳元でわめく。なんとまあ、絵に描いたようなリアクションだ。
「まあ落ち着けって」
由紀奈と用心棒、どっちにも通じる言葉で返してやった。どうだい、この冷静さ。ハードボイルドの鉄則だ。俺は例のBluetoothユニットを耳から外し、脇にあったサイドボードの上に置いた。部屋の様子がカメラに映るよう、角度を調整する。由紀奈を心配させない配慮だ。
「そこで見てな」
我ながらカッコいい。イヤーピースから由紀奈が何か言ってるのが聴こえた。何と言ってるのかは、わからない。用心棒は戸口につっ立ったまま、俺をじっと睨んでいた。が、顔には警戒の色がありありだ。つまり、ビビってるってことだ。そうだよな、いつ勘づいたのかは知らないが、電気を点けたら水色ツナギの上に黒ブラの俺がいたんだもんな。そりゃビビる。
「で、何の用だ?」
余裕ぶって訊いてみた。
「そ、それはこっちのセリフだァ!」
ああ、ああ。可哀想に。この時点でもう勝負はついたようなもんだ。見れば、いかにも(頭の)悪そうな顔をしているが、どうにも迫力に欠けた体つきだ。俺よりひと回りもでかいわりに、芯が無い。姿勢がまるでなってない。逆に俺はというと、ゆっくりと体重をつま先へ集中させ、床の感触と体の重心とをリンクさせる。肩甲骨をぐるりと回し、臨戦態勢だ。今さら言うのもなんだが、俺はやる気だ。
「お前一人なのか?」
用心棒は二人いる。知ってることだが、あえて訊く。主導権が完全に俺にあるからこその質問だ。
「い、いや……」
「それは何を持ってるんだ?」
間を開けずに質問攻めだ。用心棒Aは手に何か持っていた。よくよく見ると、それはトランプのカードだった。
「おゥ、これは……」
と、哀れなAが愚かにも手元に視線を移した隙に――
「ドゥアッ!」
ごふっ。
俺は一瞬で間合いを詰め、腰を落とした低い体勢から、突き抜けるような掌底をAの腹よりちょいと上にブチ込んだ。みぞおちってヤツだ。
「ワリャアアーッ!」
がぼっ!
掌底のあまりのパワーにAの体がくの字になったところへ、間髪入れずに今度は突き上げるような蹴りを放った。顎の辺りにヒットした蹴りはAを体ごとブッ飛ばし、哀れなAは叫び声すら上げる間も無く、馴染みある二階トイレの扉に後頭部から叩きつけられ、まあ、そのままくずおれ、床にのびちまった。
「やったぜ」
Aの持ってたカードが、床に四、五枚散らばっていた。恋占いでもしてたのか? ヤクザだったら花札だろう。一枚拾って表を見ると、それはハートのAだった。俺はサイドボードへ引き返し、Bluetoothユニットを耳にはめ、カードを見せつけるようにカメラにかざす。
「由紀奈、見たか? 大吉だ。俺、つよい」
『んー角度的にいまいち』
「ズコッ」
『昭和か。まーでも倒したのはわかった。やるじゃん。ちょっと焦ったけど。ねー、いーからさっさとズラかろ? もーほんとに時間無いから!』
「あんな焦った由紀奈も珍しいな?」
『あーあーうっさいうっさい! 早くして! てか早くしろ!』
「まあ俺だってそうしたいのは山々なんだがな――」
部屋に入ってくる、新たな人影が、ひとつ。
「――そうもいかなくなったんだなあ、これが」
さっきのよりも、さらにひと回りでかい。用心棒Bのおでましだ。
『わーっ!』
アンコールには応えないとな。
「そこで見てな」
再び耳からユニットを外し、スマホと一緒にベッドの上に置いた。血が猛り高ぶるのを、俺は体の芯で感じていた。
大事なことなので再掲した。なんとまあ、型通りなセリフだ。
『ちょちょちょちょちょ! だから早くしてって言ったのに! ちょっとどーすんのー!』
由紀奈が耳元でわめく。なんとまあ、絵に描いたようなリアクションだ。
「まあ落ち着けって」
由紀奈と用心棒、どっちにも通じる言葉で返してやった。どうだい、この冷静さ。ハードボイルドの鉄則だ。俺は例のBluetoothユニットを耳から外し、脇にあったサイドボードの上に置いた。部屋の様子がカメラに映るよう、角度を調整する。由紀奈を心配させない配慮だ。
「そこで見てな」
我ながらカッコいい。イヤーピースから由紀奈が何か言ってるのが聴こえた。何と言ってるのかは、わからない。用心棒は戸口につっ立ったまま、俺をじっと睨んでいた。が、顔には警戒の色がありありだ。つまり、ビビってるってことだ。そうだよな、いつ勘づいたのかは知らないが、電気を点けたら水色ツナギの上に黒ブラの俺がいたんだもんな。そりゃビビる。
「で、何の用だ?」
余裕ぶって訊いてみた。
「そ、それはこっちのセリフだァ!」
ああ、ああ。可哀想に。この時点でもう勝負はついたようなもんだ。見れば、いかにも(頭の)悪そうな顔をしているが、どうにも迫力に欠けた体つきだ。俺よりひと回りもでかいわりに、芯が無い。姿勢がまるでなってない。逆に俺はというと、ゆっくりと体重をつま先へ集中させ、床の感触と体の重心とをリンクさせる。肩甲骨をぐるりと回し、臨戦態勢だ。今さら言うのもなんだが、俺はやる気だ。
「お前一人なのか?」
用心棒は二人いる。知ってることだが、あえて訊く。主導権が完全に俺にあるからこその質問だ。
「い、いや……」
「それは何を持ってるんだ?」
間を開けずに質問攻めだ。用心棒Aは手に何か持っていた。よくよく見ると、それはトランプのカードだった。
「おゥ、これは……」
と、哀れなAが愚かにも手元に視線を移した隙に――
「ドゥアッ!」
ごふっ。
俺は一瞬で間合いを詰め、腰を落とした低い体勢から、突き抜けるような掌底をAの腹よりちょいと上にブチ込んだ。みぞおちってヤツだ。
「ワリャアアーッ!」
がぼっ!
掌底のあまりのパワーにAの体がくの字になったところへ、間髪入れずに今度は突き上げるような蹴りを放った。顎の辺りにヒットした蹴りはAを体ごとブッ飛ばし、哀れなAは叫び声すら上げる間も無く、馴染みある二階トイレの扉に後頭部から叩きつけられ、まあ、そのままくずおれ、床にのびちまった。
「やったぜ」
Aの持ってたカードが、床に四、五枚散らばっていた。恋占いでもしてたのか? ヤクザだったら花札だろう。一枚拾って表を見ると、それはハートのAだった。俺はサイドボードへ引き返し、Bluetoothユニットを耳にはめ、カードを見せつけるようにカメラにかざす。
「由紀奈、見たか? 大吉だ。俺、つよい」
『んー角度的にいまいち』
「ズコッ」
『昭和か。まーでも倒したのはわかった。やるじゃん。ちょっと焦ったけど。ねー、いーからさっさとズラかろ? もーほんとに時間無いから!』
「あんな焦った由紀奈も珍しいな?」
『あーあーうっさいうっさい! 早くして! てか早くしろ!』
「まあ俺だってそうしたいのは山々なんだがな――」
部屋に入ってくる、新たな人影が、ひとつ。
「――そうもいかなくなったんだなあ、これが」
さっきのよりも、さらにひと回りでかい。用心棒Bのおでましだ。
『わーっ!』
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「そこで見てな」
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