57 / 63
Vol.3『なりそこないのサンタクロース』
サンタクロースの忍び込みスタイル
しおりを挟む
午後の授業もぜんぶ終わって、あたしはそれこそ本当に、そそくさって感じで学校を出た。そして何よりも先に、さっそくスマホを開いてみる。だけど、淳ちゃんからの連絡は、何も入ってなかった。
「……なんだよ」
まだ張ってんのかな。『学校終わったけど。そっちどう?』メッセ送った。…………ま、いっか。とりあえず、事務所に向かうことにした。
イヴちゃんのお父さんの名前は『雪永章一』で、住所は世田谷区の……もしかしたら、お父さんじゃなくてお祖父さんかも? 降矢さん、イヴちゃんはひとり暮らししてたって言ってたっけね、いなくなるまでは。今は実家から車で送られて、アガ大に通ってるってことか。野方女学院の時はどうしてたんだろ。寮かな? たしかウチの学校、寮もあったよね……。
なんてことを考えてるうちに、事務所に着いた。
「よーす。――って、誰もいないよね」
当然だけど。で、事務所PCで、雪永章一さんのことを調べてみた。やっぱお父さんっぽかった。外交官。大使とかって。へー。お金持ちだね。家もどんなか見てみた。どうやらものすごい豪邸らしい。PCのモニターじゃいまいちピンと来ないけど。
と、そこへ、淳ちゃんからメッセ来た。
『こっちも終わった。ちょっと寄り道して帰る』
ふーん。ま、話聞くのは帰ってきてからでいっか。
『わかったー』
ちょっと安心したし、紅茶淹れてあたしも休憩しよっと。ん、紅茶というかルイボスティー。事務所のアドベントカレンダーは、今日の分をまだ開けてなかったみたい。ので開けた。チーズ鱈……びみょー。ちょっとかじって、やっぱやめた。淳ちゃんにあげよう。真っ赤なルイボスティーを飲んで、降矢さんとイヴちゃんのことを考えた。いざ、二人が再会したら、どうなるんだろ。何を話すんだろ。まず始めに、なんて声掛けるんだろ……。
とか思ってるうちにうっかり椅子で寝ちゃってて、気がついたら夕方で、目の前にサンタクロースがいた。あの例の赤と白のモアモアしたやつ着て、帽子被って、白髪がその下でうねうねしてて、白いヒゲ……明らかにつけヒゲで、つまり淳ちゃんのコスプレだった。今度はサンタかよ。
「何してんの、その格好」
「ああ、由紀奈。起きたな。そんなところで寝てたら風邪引くぞ。フォフォフォ」
いつの間にか、ひざ掛けとストールが掛けられてた。
「何してんの、その格好」
「ああこれは、今夜の忍び込みスタイルだ。買ってきたんだ。寄り道すると言ったろう。これのためだ。どうだ、似合うか? フォフォフォ」
「何で急にクリスマス気分? って、忍び込みって?」
「もちろん、雪永邸にだ。さっそくだが、今夜でどうだ?」
「ねー、全然話が見えないんだけど」
「せっかくイヴの居場所、というか家がわかったんだ。あの後、がっちり尾行できたからな、ついに俺は突き止めたんだ。ハマーが地下の駐車場に入っていくのを、ばっちり確認した。ここまで来ればこっちのもんだ。解決は早いほうがいいだろう? 二十四日、クリスマスイヴは目の前だしな。忍び込んで、イヴに接触を図る」
「え、べつに、降矢さんにイヴちゃん家教えて行ってもらえばいーだけなんじゃないの?」
「それなんだが、まあ、門前払いを食らって終わるだけだろうな」
「んー……やっぱそーなるかー」
「ああそうだ。実は俺はあの後、張り込みだけじゃなく、聞き込みもやってたんだ。アガ大から出てくるJD相手にな。イヴ――雪永舞依について、もっと何か情報は無いかと思ってな」
「そーだったんだ」
「直接は知らなくても、ハマーのことを引き合いに出したら、やはりあの車は目立つからな、何人かから、同じ話を聞いた」
「同じ話?」
「あのハマーは、イヴを必ず送り、そして迎えに来る。それ以外の手段でイヴが通学する事は、無い。寄り道なんかも、もちろん無い。ガチガチの箱入り娘だということだ」
「ふーん……」
なるほどね。わかった。
「イヴちゃんにコンタクトを取るには、あたしたちで、直接アタックするしかないってことだね?」
「ああそうだ。だからこそのこの、忍び込みスタイルだ。フォフォフォ」
淳ちゃんの意図もわかった。
「おっけー淳ちゃん。何時に行く? サポート、っていうか今回はむしろ、あたしがいないと無理ゲーだね。淳ちゃんもわかってるだろーけど」
「ああそうだ。頼む。遅くなるが平気か?」
「泊まりでいーよ。いつものことじゃん。家には言っとくから」
さっそく今夜、決行だ。あたしは準備に取り掛かる。雪永邸の間取り図なんかを用意し、淳ちゃんと作戦の詳細を詰めた。夕飯は、松屋を二人分テイクアウトした。
「……なんだよ」
まだ張ってんのかな。『学校終わったけど。そっちどう?』メッセ送った。…………ま、いっか。とりあえず、事務所に向かうことにした。
イヴちゃんのお父さんの名前は『雪永章一』で、住所は世田谷区の……もしかしたら、お父さんじゃなくてお祖父さんかも? 降矢さん、イヴちゃんはひとり暮らししてたって言ってたっけね、いなくなるまでは。今は実家から車で送られて、アガ大に通ってるってことか。野方女学院の時はどうしてたんだろ。寮かな? たしかウチの学校、寮もあったよね……。
なんてことを考えてるうちに、事務所に着いた。
「よーす。――って、誰もいないよね」
当然だけど。で、事務所PCで、雪永章一さんのことを調べてみた。やっぱお父さんっぽかった。外交官。大使とかって。へー。お金持ちだね。家もどんなか見てみた。どうやらものすごい豪邸らしい。PCのモニターじゃいまいちピンと来ないけど。
と、そこへ、淳ちゃんからメッセ来た。
『こっちも終わった。ちょっと寄り道して帰る』
ふーん。ま、話聞くのは帰ってきてからでいっか。
『わかったー』
ちょっと安心したし、紅茶淹れてあたしも休憩しよっと。ん、紅茶というかルイボスティー。事務所のアドベントカレンダーは、今日の分をまだ開けてなかったみたい。ので開けた。チーズ鱈……びみょー。ちょっとかじって、やっぱやめた。淳ちゃんにあげよう。真っ赤なルイボスティーを飲んで、降矢さんとイヴちゃんのことを考えた。いざ、二人が再会したら、どうなるんだろ。何を話すんだろ。まず始めに、なんて声掛けるんだろ……。
とか思ってるうちにうっかり椅子で寝ちゃってて、気がついたら夕方で、目の前にサンタクロースがいた。あの例の赤と白のモアモアしたやつ着て、帽子被って、白髪がその下でうねうねしてて、白いヒゲ……明らかにつけヒゲで、つまり淳ちゃんのコスプレだった。今度はサンタかよ。
「何してんの、その格好」
「ああ、由紀奈。起きたな。そんなところで寝てたら風邪引くぞ。フォフォフォ」
いつの間にか、ひざ掛けとストールが掛けられてた。
「何してんの、その格好」
「ああこれは、今夜の忍び込みスタイルだ。買ってきたんだ。寄り道すると言ったろう。これのためだ。どうだ、似合うか? フォフォフォ」
「何で急にクリスマス気分? って、忍び込みって?」
「もちろん、雪永邸にだ。さっそくだが、今夜でどうだ?」
「ねー、全然話が見えないんだけど」
「せっかくイヴの居場所、というか家がわかったんだ。あの後、がっちり尾行できたからな、ついに俺は突き止めたんだ。ハマーが地下の駐車場に入っていくのを、ばっちり確認した。ここまで来ればこっちのもんだ。解決は早いほうがいいだろう? 二十四日、クリスマスイヴは目の前だしな。忍び込んで、イヴに接触を図る」
「え、べつに、降矢さんにイヴちゃん家教えて行ってもらえばいーだけなんじゃないの?」
「それなんだが、まあ、門前払いを食らって終わるだけだろうな」
「んー……やっぱそーなるかー」
「ああそうだ。実は俺はあの後、張り込みだけじゃなく、聞き込みもやってたんだ。アガ大から出てくるJD相手にな。イヴ――雪永舞依について、もっと何か情報は無いかと思ってな」
「そーだったんだ」
「直接は知らなくても、ハマーのことを引き合いに出したら、やはりあの車は目立つからな、何人かから、同じ話を聞いた」
「同じ話?」
「あのハマーは、イヴを必ず送り、そして迎えに来る。それ以外の手段でイヴが通学する事は、無い。寄り道なんかも、もちろん無い。ガチガチの箱入り娘だということだ」
「ふーん……」
なるほどね。わかった。
「イヴちゃんにコンタクトを取るには、あたしたちで、直接アタックするしかないってことだね?」
「ああそうだ。だからこそのこの、忍び込みスタイルだ。フォフォフォ」
淳ちゃんの意図もわかった。
「おっけー淳ちゃん。何時に行く? サポート、っていうか今回はむしろ、あたしがいないと無理ゲーだね。淳ちゃんもわかってるだろーけど」
「ああそうだ。頼む。遅くなるが平気か?」
「泊まりでいーよ。いつものことじゃん。家には言っとくから」
さっそく今夜、決行だ。あたしは準備に取り掛かる。雪永邸の間取り図なんかを用意し、淳ちゃんと作戦の詳細を詰めた。夕飯は、松屋を二人分テイクアウトした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる