ハードボイルド探偵・篤藩次郎(淳ちゃん)

黒猫

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Vol.3『なりそこないのサンタクロース』

サンタクロースの忍び込みスタイル

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 午後の授業もぜんぶ終わって、あたしはそれこそ本当に、そそくさって感じで学校を出た。そして何よりも先に、さっそくスマホを開いてみる。だけど、淳ちゃんからの連絡は、何も入ってなかった。
「……なんだよ」
 まだ張ってんのかな。『学校終わったけど。そっちどう?』メッセ送った。…………ま、いっか。とりあえず、事務所に向かうことにした。
 イヴちゃんのお父さんの名前は『雪永ゆきなが章一しょういち』で、住所は世田谷区の……もしかしたら、お父さんじゃなくてお祖父さんかも? 降矢さん、イヴちゃんはひとり暮らししてたって言ってたっけね、いなくなるまでは。今は実家から車で送られて、アガ大に通ってるってことか。野方女学院ノガジョの時はどうしてたんだろ。寮かな? たしかウチの学校、寮もあったよね……。
 なんてことを考えてるうちに、事務所に着いた。
「よーす。――って、誰もいないよね」
 当然だけど。で、事務所PCで、雪永章一さんのことを調べてみた。やっぱお父さんっぽかった。外交官。大使とかって。へー。お金持ちだね。家もどんなか見てみた。どうやらものすごい豪邸らしい。PCのモニターじゃいまいちピンと来ないけど。
 と、そこへ、淳ちゃんからメッセ来た。
『こっちも終わった。ちょっと寄り道して帰る』
 ふーん。ま、話聞くのは帰ってきてからでいっか。
『わかったー』
 ちょっと安心したし、紅茶淹れてあたしも休憩しよっと。ん、紅茶というかルイボスティー。事務所のアドベントカレンダーは、今日の分をまだ開けてなかったみたい。ので開けた。チーズ鱈……びみょー。ちょっとかじって、やっぱやめた。淳ちゃんにあげよう。真っ赤なルイボスティーを飲んで、降矢さんとイヴちゃんのことを考えた。いざ、二人が再会したら、どうなるんだろ。何を話すんだろ。まず始めに、なんて声掛けるんだろ……。
 とか思ってるうちにうっかり椅子で寝ちゃってて、気がついたら夕方で、目の前にサンタクロースがいた。あの例の赤と白のモアモアしたやつ着て、帽子被って、白髪がその下でうねうねしてて、白いヒゲ……明らかにつけヒゲで、つまり淳ちゃんのコスプレだった。今度はサンタかよ。
「何してんの、その格好」
「ああ、由紀奈。起きたな。そんなところで寝てたら風邪引くぞ。フォフォフォ」
 いつの間にか、ひざ掛けとストールが掛けられてた。
「何してんの、その格好」
「ああこれは、今夜の忍び込みスタイルだ。買ってきたんだ。寄り道すると言ったろう。これのためだ。どうだ、似合うか? フォフォフォ」
「何で急にクリスマス気分? って、忍び込みって?」
「もちろん、雪永邸にだ。さっそくだが、今夜でどうだ?」
「ねー、全然話が見えないんだけど」
「せっかくイヴの居場所、というか家がわかったんだ。あの後、がっちり尾行できたからな、ついに俺は突き止めたんだ。ハマーが地下の駐車場に入っていくのを、ばっちり確認した。ここまで来ればこっちのもんだ。解決は早いほうがいいだろう? 二十四日、クリスマスイヴは目の前だしな。忍び込んで、イヴに接触を図る」
「え、べつに、降矢さんにイヴちゃん家教えて行ってもらえばいーだけなんじゃないの?」
「それなんだが、まあ、門前払いを食らって終わるだけだろうな」
「んー……やっぱそーなるかー」
「ああそうだ。実は俺はあの後、張り込みだけじゃなく、聞き込みもやってたんだ。アガ大から出てくるJD相手にな。イヴ――雪永舞依について、もっと何か情報は無いかと思ってな」
「そーだったんだ」
「直接は知らなくても、ハマーのことを引き合いに出したら、やはりあの車は目立つからな、何人かから、同じ話を聞いた」
「同じ話?」
「あのハマーは、イヴを必ず送り、そして迎えに来る。それ以外の手段でイヴが通学する事は、無い。寄り道なんかも、もちろん無い。ガチガチの箱入り娘だということだ」
「ふーん……」
 なるほどね。わかった。
「イヴちゃんにコンタクトを取るには、あたしたちで、直接アタックするしかないってことだね?」
「ああそうだ。だからこそのこの、忍び込みスタイルだ。フォフォフォ」
 淳ちゃんの意図もわかった。
「おっけー淳ちゃん。何時に行く? サポート、っていうか今回はむしろ、あたしがいないと無理ゲーだね。淳ちゃんもわかってるだろーけど」
「ああそうだ。頼む。遅くなるが平気か?」
「泊まりでいーよ。いつものことじゃん。家には言っとくから」
 さっそく今夜、決行だ。あたしは準備に取り掛かる。雪永邸の間取り図なんかを用意し、淳ちゃんと作戦の詳細を詰めた。夕飯は、松屋を二人分テイクアウトした。



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