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4.厄災編
4-11.厄災のとき
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頻度の増える【スタンピード】に、否応なしに冒険者ギルドの、冒険者たちの緊張感は高まっていった。
セフィリオの心配していた、中弛みなどは起こる暇もなく、これまでよりも頻回に大小の【スタンピード】が各地で連鎖するように起こっていった。
国も、その異常を感知しているようではあったが、各都市の警備を固める程度で精一杯の様子で、大規模な討伐に、国や各領地の騎士団を派兵するには至らなかった。
そうこうしているうちに、ある侯爵領の比較的、都市部の近郊を中心として【スタンピード】が発生して、その領地が直接的な被害を得たことで、貴族社会の間でも危機感が募っていった。
俺が、【厄災】を1年後だと感知して、その日まで、あとひと月半という頃、北の大地に設置した魔素計の魔素濃度が激しく変動をはじめ、中央ギルドはざわめき立った。
元々北の大地の魔素濃度は、他の地域よりも比較できないほど高いらしく、それがぐんぐんと上昇していく様は、その測定を行ってきた魔術師たちを震撼させた。
その様子に、誰もが【厄災】の襲来を理解した。
「何も、恐れることはない。
これは、予測され、分かっていた事だ。
この時のために、これまで繰り返し、皆さんで討伐体制を整えてきたでは無いですか。
規模は違えど、やることは同じだ」
【厄災】の対策会議として、集められた冒険者ギルドの、ギルド長、そして冒険者を前に、セフィリオは臆することなく、凛とした声で言う。
これまで、幾度となく【スタンピード】の討伐の体制を整えてきて、討伐を繰り返し、今がその意義を発揮するときなのだと、そう、皆が奮い立つ。
「大丈夫。
我々は、これまでの歴史を、必ず塗り替えられる」
そう宣言するセフィリオは、やはりどこまでも崇高な英雄そのものだった。
「基本的には、これまでの討伐と同じ戦術で行きたい。
今回は、規模が大きく、長期戦も考えられる。
討伐隊を6部隊に分けて、2時間、長期戦になれば1時間おきに、防衛線を下げながら部隊を交代する。
防衛線は、段階的に100段階は設定しておいた方がいい。
各防衛線には、魔術結界をはり、下げるごとに解除していく」
そう、事前に話し合っていた討伐戦略を、コンラートさんが皆の前で説明した。
特に異論もなく、緊張感が高まる中、討伐参加を冒険者に募り、装備、備品をそろえ、一月後に討伐隊は中央ギルドを出発する手筈となった。
*
そして、その時が来た。
部隊が整い、北の大地にたどり着く。
6部隊に分けられた部隊は、徐々に増加する魔獣を、交代し防衛線を下げながら殲滅することを繰り返す。
人員も足りていて、休息の時間も取れて、食料や回復薬、武器、防具、医療部隊も整備され、作戦は滞りなく遂行されていく。
そうして、4日ほどが過ぎた時、医療部隊の様子が急に慌ただしくなる。
基本的には、常に防衛線へと出ていた俺も、仮眠と休息を促され、休憩していた時だった。
俺は別に、無敵でも、不眠不休で戦える訳でもなく、そこは他の冒険者と変わらない。
負傷した冒険者の傷を洗浄し、希少な治癒魔術の使い手たちが次々と術を施していく。
作戦部隊で今後の戦略を練っていたセフィリオやコンラートさんが、医療部隊のテントへとやってきて、負傷した冒険者の証言を取っていく。
セフィリオは、何かを呟き、指を動かすと、医療部隊のテントを包むほどの、大きな放射を放った。
傷を負い、痛みに苦しんでいた冒険者たちが、穏やかな表情へと変わり、治癒魔術を使っていた魔術師が呆気に取られているが、セフィリオはそんなことはお構いなしだ。
広範囲に治癒魔術を使ったらしい。
セフィリオは、俺と、コンラートさんと、今は非戦闘時間の高ランク冒険者を集めた。
「彼らの話からすると、《厄災の竜》が発生したのだと思う」
セフィリオのその言葉に、
「はあ?竜だと?本気か?」
コンラートさんが答えた。
竜とは、魔獣の一種と言われている巨大な爬虫類のような生き物で、翼をもち、飛ぶことが出来る。時には、火を吹き、時には冷気を吹き、雷を落とすといわれる。
が、
「そんな、生き物本当にいるのかよ」
そう。
あくまで、語られている竜は、伝説やおとぎ話の中の生き物であり、現実にそれを見たものはいないし、確認されたこともない。
当然、俺も見たことはない。
「負傷した冒険者の証言が正しければ、間違いない。
巨体が鱗で覆われて、鋭い牙と、鋭利な爪。大きな翼と尻尾を持ち、その巨体に似合わない速度で動き、迫ってくる」
と、セフィリオが続ける。
がやがやと、その場が騒がしくなる。存在を疑う者も、何かしら類似する強大な力をもつ魔獣が発生したと考える者も、ただただ、その空気に飲まれる者もいるが、共通しているのは、誰もそこから動かない。
今、こうして議論している時間ではないと、俺は思った。
実際に、何かしらの脅威になる魔獣がいて、それで負傷している者がいる。
セフィリオがいるというなら、そうなのだろう。
俺は、一つ息を吐き、
「《厄災の竜》は、どういった生態なんだ」
セフィリオに尋ねた。
弾かれたようにこちらを見て、彼は答える。
「あくまで、伝説や文献上のことだけれど。
硬い鱗で覆われていて、鋭い牙と、爪、素早い動き。巨体を持ち上げる翼。
他の、話で言われておりような、炎や冷気、雷などの現象を起こすことは具体的な記載がない。
毒は持たず、再生や分裂はしない。
他の魔獣と同様に、その目と口内は他の部分と比較すれば脆弱だと記されている」
なるほど。
俺は、セフィリオのいう魔獣を頭の中で描きながら、その動きや攻撃態勢を想像し、幻想の中で対峙していく。
「了解」
いずれにしても、討伐しなくちゃいけないことには変わりない。
というか、これまでそういった生き物が確認されていないわけだから、どこかで誰かに狩られているはずだ。
つまり、勝機が無いわけでは無いだろう。
俺は、集められていたテントから、一人出ると、前線へと向かおうとして、
「俺も行くよ」
コンラートさんが追いかけてくる。
「いや、総指揮官が前線に出たら駄目じゃないですか」
時間が惜しいので、進みながらコンラートさんを制するが、
「まあ、他のやつらもいるし、どうにかなるだろ」
そう言ってくる。
経験上、コンラートさんとの問答に意味がないことは分かっているので、俺はもう何も言わず、急いで防衛線へと赴いた。
確かに、そこには言われていたような、爬虫類のような、黒い鱗に覆われ、鋭い牙と爪と、大きな翼をもつ、巨大な生き物がいた。
今は魔術結界に阻まれて、防衛線を超えてこないが、何度も爪をたて、巨体で体当たりして、どうにかこちらへ来ようといきり立っている。
興奮しているようで、獰猛な瞳が血走っているが、それでも炎や冷気などを吐く様子はない。
結界を維持する魔術師たちの表情からも、強度と持続時間からしてそろそろ限界なのだろうということが、分かった。
なるほど。
これが竜か。
気を付けるとしたら、牙と、爪、あの俊敏な足と尻尾、巨体を持ち上げる程の強靭な翼と、それが起こす風だろうか。
もう二度と見ることが無いかもしれない巨体を出来るだけ鮮明に記憶する。
後で、セフィリオに教えてあげたい。
魔術結界は、術者を害する意思のある者をはじく術式であるので、俺が出入りできないことはない。非常に有利な状況だ。
俺は、結界内に入ろうとして、
「おい!どうするつもりだっ!?」
慌てた口調でコンラートさんが呼び止めるので、
「魔術結界が保ちそうなので。
セフィリオに動いているところを見せられないのは残念ですが」
そう言って、巨大な竜へと対峙した。
つまり、概ね、セフィリオの言っていた通りの生態だった。
俺の予測したように攻撃をしてくる竜を、結界内に避難しながら攻撃する。
まずは飛ばれても、突風を起こされても厄介そうな翼の被膜を断ち、牙と爪と、その強靭な尻尾に気をつけて、その弱いと言われた目と、口内を狙い、最終的には目から差し込んだ長剣をさらに押し込んで、口内からもコンラートさんに借りた、長槍を突き刺した。
他の爬虫類型の魔獣と同様に、そこに中枢があったようで、いずれかの攻撃が致命的となり、竜は巨体を地響きと共に地面に落とし、絶命した。
その後、同様の《厄災の竜》があと2体ほど現れた。
最後の3体目と交戦中にセフィリオが防衛線へやってきたので、生きている竜を見せることが出来て、俺としては満足した。
「コンラートさん、長槍、貸していただいてありがとうございました。
あ、でも返せないな。
そういえば、今度、槍術を教えてください」
3体の《厄災の竜》を狩った後、他に巨大魔獣の気配は近くには感じ取れなかったため、戦略本部に俺は下がった。
俺と共に、コンラートさんも前線を下がる。
総指揮官だからな。
「……いや、もう。いいけどよ」
酷く疲れた口調で、コンラートさんが俺を見た。
「あの槍も冒険者ギルドの今回の討伐用の備品だから。
あの魔獣を狩るお前に、俺は何を教えたらいいんだ?」
「俺の槍の使い方、適当ですよ。ちゃんとした型から習いたいです」
「……………そうかよ」
随分と長い間があって、コンラートさんが一言、嘆息混じりに呟く。
それは、教えてくれる、ということでいいのだろうか。
「今後、ああいった巨大な魔獣が出なければ、後はひたすら繰り返しだ。
お前も少し休んでおけよ」
そう言われて、コンラートさんに背を押されるように仮眠室に押し込まれた。
《厄災の竜》を狩る前に、それなりに休んで割と元気なのだが。
しかしここを出て行けば、ひどく怒られそうな気がしたので、魔獣の気配に意識を向けたまま、俺は大人しく仮眠をとることとした。
腹の中のむずむずとしたあの感覚が、徐々に収まっていくことを感じながら。
討伐に要した日数10日間。
北の大地を中心として発生した【厄災】は、国中の冒険者ギルドと、国中の冒険者たちの尽力により、国民の居住域を犯すことなく、終息を迎えた。
これは、ふり返ることが出来る歴史上、初めての快挙であった。
セフィリオの心配していた、中弛みなどは起こる暇もなく、これまでよりも頻回に大小の【スタンピード】が各地で連鎖するように起こっていった。
国も、その異常を感知しているようではあったが、各都市の警備を固める程度で精一杯の様子で、大規模な討伐に、国や各領地の騎士団を派兵するには至らなかった。
そうこうしているうちに、ある侯爵領の比較的、都市部の近郊を中心として【スタンピード】が発生して、その領地が直接的な被害を得たことで、貴族社会の間でも危機感が募っていった。
俺が、【厄災】を1年後だと感知して、その日まで、あとひと月半という頃、北の大地に設置した魔素計の魔素濃度が激しく変動をはじめ、中央ギルドはざわめき立った。
元々北の大地の魔素濃度は、他の地域よりも比較できないほど高いらしく、それがぐんぐんと上昇していく様は、その測定を行ってきた魔術師たちを震撼させた。
その様子に、誰もが【厄災】の襲来を理解した。
「何も、恐れることはない。
これは、予測され、分かっていた事だ。
この時のために、これまで繰り返し、皆さんで討伐体制を整えてきたでは無いですか。
規模は違えど、やることは同じだ」
【厄災】の対策会議として、集められた冒険者ギルドの、ギルド長、そして冒険者を前に、セフィリオは臆することなく、凛とした声で言う。
これまで、幾度となく【スタンピード】の討伐の体制を整えてきて、討伐を繰り返し、今がその意義を発揮するときなのだと、そう、皆が奮い立つ。
「大丈夫。
我々は、これまでの歴史を、必ず塗り替えられる」
そう宣言するセフィリオは、やはりどこまでも崇高な英雄そのものだった。
「基本的には、これまでの討伐と同じ戦術で行きたい。
今回は、規模が大きく、長期戦も考えられる。
討伐隊を6部隊に分けて、2時間、長期戦になれば1時間おきに、防衛線を下げながら部隊を交代する。
防衛線は、段階的に100段階は設定しておいた方がいい。
各防衛線には、魔術結界をはり、下げるごとに解除していく」
そう、事前に話し合っていた討伐戦略を、コンラートさんが皆の前で説明した。
特に異論もなく、緊張感が高まる中、討伐参加を冒険者に募り、装備、備品をそろえ、一月後に討伐隊は中央ギルドを出発する手筈となった。
*
そして、その時が来た。
部隊が整い、北の大地にたどり着く。
6部隊に分けられた部隊は、徐々に増加する魔獣を、交代し防衛線を下げながら殲滅することを繰り返す。
人員も足りていて、休息の時間も取れて、食料や回復薬、武器、防具、医療部隊も整備され、作戦は滞りなく遂行されていく。
そうして、4日ほどが過ぎた時、医療部隊の様子が急に慌ただしくなる。
基本的には、常に防衛線へと出ていた俺も、仮眠と休息を促され、休憩していた時だった。
俺は別に、無敵でも、不眠不休で戦える訳でもなく、そこは他の冒険者と変わらない。
負傷した冒険者の傷を洗浄し、希少な治癒魔術の使い手たちが次々と術を施していく。
作戦部隊で今後の戦略を練っていたセフィリオやコンラートさんが、医療部隊のテントへとやってきて、負傷した冒険者の証言を取っていく。
セフィリオは、何かを呟き、指を動かすと、医療部隊のテントを包むほどの、大きな放射を放った。
傷を負い、痛みに苦しんでいた冒険者たちが、穏やかな表情へと変わり、治癒魔術を使っていた魔術師が呆気に取られているが、セフィリオはそんなことはお構いなしだ。
広範囲に治癒魔術を使ったらしい。
セフィリオは、俺と、コンラートさんと、今は非戦闘時間の高ランク冒険者を集めた。
「彼らの話からすると、《厄災の竜》が発生したのだと思う」
セフィリオのその言葉に、
「はあ?竜だと?本気か?」
コンラートさんが答えた。
竜とは、魔獣の一種と言われている巨大な爬虫類のような生き物で、翼をもち、飛ぶことが出来る。時には、火を吹き、時には冷気を吹き、雷を落とすといわれる。
が、
「そんな、生き物本当にいるのかよ」
そう。
あくまで、語られている竜は、伝説やおとぎ話の中の生き物であり、現実にそれを見たものはいないし、確認されたこともない。
当然、俺も見たことはない。
「負傷した冒険者の証言が正しければ、間違いない。
巨体が鱗で覆われて、鋭い牙と、鋭利な爪。大きな翼と尻尾を持ち、その巨体に似合わない速度で動き、迫ってくる」
と、セフィリオが続ける。
がやがやと、その場が騒がしくなる。存在を疑う者も、何かしら類似する強大な力をもつ魔獣が発生したと考える者も、ただただ、その空気に飲まれる者もいるが、共通しているのは、誰もそこから動かない。
今、こうして議論している時間ではないと、俺は思った。
実際に、何かしらの脅威になる魔獣がいて、それで負傷している者がいる。
セフィリオがいるというなら、そうなのだろう。
俺は、一つ息を吐き、
「《厄災の竜》は、どういった生態なんだ」
セフィリオに尋ねた。
弾かれたようにこちらを見て、彼は答える。
「あくまで、伝説や文献上のことだけれど。
硬い鱗で覆われていて、鋭い牙と、爪、素早い動き。巨体を持ち上げる翼。
他の、話で言われておりような、炎や冷気、雷などの現象を起こすことは具体的な記載がない。
毒は持たず、再生や分裂はしない。
他の魔獣と同様に、その目と口内は他の部分と比較すれば脆弱だと記されている」
なるほど。
俺は、セフィリオのいう魔獣を頭の中で描きながら、その動きや攻撃態勢を想像し、幻想の中で対峙していく。
「了解」
いずれにしても、討伐しなくちゃいけないことには変わりない。
というか、これまでそういった生き物が確認されていないわけだから、どこかで誰かに狩られているはずだ。
つまり、勝機が無いわけでは無いだろう。
俺は、集められていたテントから、一人出ると、前線へと向かおうとして、
「俺も行くよ」
コンラートさんが追いかけてくる。
「いや、総指揮官が前線に出たら駄目じゃないですか」
時間が惜しいので、進みながらコンラートさんを制するが、
「まあ、他のやつらもいるし、どうにかなるだろ」
そう言ってくる。
経験上、コンラートさんとの問答に意味がないことは分かっているので、俺はもう何も言わず、急いで防衛線へと赴いた。
確かに、そこには言われていたような、爬虫類のような、黒い鱗に覆われ、鋭い牙と爪と、大きな翼をもつ、巨大な生き物がいた。
今は魔術結界に阻まれて、防衛線を超えてこないが、何度も爪をたて、巨体で体当たりして、どうにかこちらへ来ようといきり立っている。
興奮しているようで、獰猛な瞳が血走っているが、それでも炎や冷気などを吐く様子はない。
結界を維持する魔術師たちの表情からも、強度と持続時間からしてそろそろ限界なのだろうということが、分かった。
なるほど。
これが竜か。
気を付けるとしたら、牙と、爪、あの俊敏な足と尻尾、巨体を持ち上げる程の強靭な翼と、それが起こす風だろうか。
もう二度と見ることが無いかもしれない巨体を出来るだけ鮮明に記憶する。
後で、セフィリオに教えてあげたい。
魔術結界は、術者を害する意思のある者をはじく術式であるので、俺が出入りできないことはない。非常に有利な状況だ。
俺は、結界内に入ろうとして、
「おい!どうするつもりだっ!?」
慌てた口調でコンラートさんが呼び止めるので、
「魔術結界が保ちそうなので。
セフィリオに動いているところを見せられないのは残念ですが」
そう言って、巨大な竜へと対峙した。
つまり、概ね、セフィリオの言っていた通りの生態だった。
俺の予測したように攻撃をしてくる竜を、結界内に避難しながら攻撃する。
まずは飛ばれても、突風を起こされても厄介そうな翼の被膜を断ち、牙と爪と、その強靭な尻尾に気をつけて、その弱いと言われた目と、口内を狙い、最終的には目から差し込んだ長剣をさらに押し込んで、口内からもコンラートさんに借りた、長槍を突き刺した。
他の爬虫類型の魔獣と同様に、そこに中枢があったようで、いずれかの攻撃が致命的となり、竜は巨体を地響きと共に地面に落とし、絶命した。
その後、同様の《厄災の竜》があと2体ほど現れた。
最後の3体目と交戦中にセフィリオが防衛線へやってきたので、生きている竜を見せることが出来て、俺としては満足した。
「コンラートさん、長槍、貸していただいてありがとうございました。
あ、でも返せないな。
そういえば、今度、槍術を教えてください」
3体の《厄災の竜》を狩った後、他に巨大魔獣の気配は近くには感じ取れなかったため、戦略本部に俺は下がった。
俺と共に、コンラートさんも前線を下がる。
総指揮官だからな。
「……いや、もう。いいけどよ」
酷く疲れた口調で、コンラートさんが俺を見た。
「あの槍も冒険者ギルドの今回の討伐用の備品だから。
あの魔獣を狩るお前に、俺は何を教えたらいいんだ?」
「俺の槍の使い方、適当ですよ。ちゃんとした型から習いたいです」
「……………そうかよ」
随分と長い間があって、コンラートさんが一言、嘆息混じりに呟く。
それは、教えてくれる、ということでいいのだろうか。
「今後、ああいった巨大な魔獣が出なければ、後はひたすら繰り返しだ。
お前も少し休んでおけよ」
そう言われて、コンラートさんに背を押されるように仮眠室に押し込まれた。
《厄災の竜》を狩る前に、それなりに休んで割と元気なのだが。
しかしここを出て行けば、ひどく怒られそうな気がしたので、魔獣の気配に意識を向けたまま、俺は大人しく仮眠をとることとした。
腹の中のむずむずとしたあの感覚が、徐々に収まっていくことを感じながら。
討伐に要した日数10日間。
北の大地を中心として発生した【厄災】は、国中の冒険者ギルドと、国中の冒険者たちの尽力により、国民の居住域を犯すことなく、終息を迎えた。
これは、ふり返ることが出来る歴史上、初めての快挙であった。
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