【完結】疎まれ軍師は敵国の紅の獅子に愛されて死す

べあふら

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ジグムント・ヴァン・グランカリス④

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 渓谷の一戦を境に、全てが好転した。

 水源に毒物を流し、民を害するという明確な罪が明らかになったことで、正当な理由で、宰相を捕らえることができた。

 宰相に与する兵が出払っていたことも大きい。大きな衝突も無く、拘束することができた。後は、芋ずる式に、次々と悪行が暴かれた。

 そして、宰相の送り込んだグランカリス兵は、ムンドの戦士に襲撃される前に、洪水に流されて、鉱石の調査を中断し帰国した。

 こうして、ジグムントは、幼い皇帝ルウェリンの名を汚すことなく、正しく現在の地位と権力を得るに至ったのだ。

 一見すれば、宰相の愚行と、ムンデ国の蛮行だが。

 奇妙な奇跡は、偶然にしては、でき過ぎている。

 ジグムントは、ムンデ国を調べることにした。
 かの軍師が行方知れずとなった後、ムンデ国は荒れ国力もそがれていた。ジグムント自身も多忙であったため、脅威でもない国のことを気に留めるゆとりはなかった。

 そして、ほどなく……フェリの存在を知った。



「ムンデ国は、伝統的な美的感覚が受け継がれていますからね。フェリ様の容姿では、むしろ不器量となるのでは」

 オズは、淡々と職務を続けながらも、ジグムントに答えてくれる。

 ムンデ国では、髪も瞳も黒に近く、肌の色の濃い方が好まれる。そして何より、男性も女性も大柄で、筋肉質な、力強い者が魅力的とされる。

 美的感覚とは、時代や場所で移ろうのが常だ。
 しかし、それに合致しないものを蔑む、その悪しき慣習の方は、移ろうことなく、執拗に受け継がれる傾向がある。それを、是とするかは、また異なる問題だ。

「あの透けるような白い肌も、絹のような艶やかな巻き毛も……何より、あの金色の大きな瞳が……あの眼に見つめられると、逆らえる気がせん」

 フェリの肌は、白磁のように白い。
 グランカリス帝国へ来てすぐは、青白くて、儚げな危うさがあった。
 そして、体調が整うにつれ、ほんのり頬が血色よく染まり、まるで赤子のような健やかさと、色香を纏うようになった。

 淡い黄金色の髪は、くるくると巻き、絹糸を思わせる艶やかな輝きを放っている。

 そして、あの独特の瞳。蕩けるような蜂蜜色の大きな瞳に見つめられると、思わず息を飲み、身が竦む。

 この世の者とは思えない雰囲気が、フェリにはあった。

「愚かな国だが……特に、ムンデの民にとって、白は不吉なとされている。その美的感覚と、慣習にはある意味では感謝せねばなるまい」

 そうでなければ、フェリはどのような辱しめを受けたか。想像に難くない。

「本当に……話が通じない知らない国ですからね」
「苛烈な環境にいたのだ。あまり急かさず、ゆっくりと帝国に馴染めば良い」

 ジグムントがフェリに部屋以外を案内しなかったのは、失念していたのでは無い。

 自分の安全な場所を認識すること。フェリが帝国でまずしなくてはならないことは、それだけだ、とジグムントは考えていた。

「大きな変化は、自覚以上の負担をもたらす。フェリはきっとこれまでずっと張りつめてきたはずだ。何かと心身の整理する必要がある」
「それを、貴方が言いますか?」

 オズは、冷ややかに言い放った。痛いところをつく。

「………善処しよう」
「それに、これ以上、業務を疎かにされては、困ります」
「しかし……共にいると、滾る」
「だから、距離をとってくださいと申しているのです」
「無理を申すな。あの吸引力たるや……今も既に会いたいというのに」

 ジグムントは、旧知の仲であるオズの言うことすら、聞いた試しがない。だからこそ、忌憚のない意見を言えるのだが。

 ジグムントが駄目ならば、フェリに距離を置いてもらう他ない。フェリのいうことであれば、聞き入れるのではないか、という期待もある。

「では、共に仕事をすれば、万事解決では無いか」

 ジグムントの執務室に、場違いな、けれど馴染みのある、子供の声が響いた。
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