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Ⅱ.体に優しいお野菜編
9.僕、我慢ができない竜です!④
しおりを挟む「むう………そういうヴァルは、昨日何かあったんでしょ?」
昨日、僕は初めて神殿に行ったわけだけど。
そこで、神官の仕事?をしているヴァルを初めて見た。
かっこよかったよね。お仕事してるヴァルも。さらに、好きになっちゃったのに。
神殿から帰宅したヴァルはなんだかお疲れモードだった。で、とっても美味しそうな匂いだった。
疲れてるっぽいヴァルに負担をかけたくなくて、僕はいつものようにぐっと我慢して……からの、今朝というわけだ。
おかしいな。昨日は僕がヴァルのお仕事をお手伝いしたのに。
………はっ!もしかしてあの後……?
「また何か嫌なことがあったとか?」
僕が帰った後、誰かに何かされたの?
「……………はぁ、お前が言うか」
「え?」
「はぁ……まあ、いい。いいから、もう神殿には絶対に来んなよ」
「はーい」
そんな怖い顔で睨まなくても。ヴァルの目付き、鋭いんだから。
そんな顔したら、もっと怖いでしょ。怖くないけど。
僕が昨日、神殿に行ったのは単に興味本位だけじゃない。
竜である僕が見れば、僕にしかわからない何かがあるんじゃないか、ってちょっと期待したからだ。
でも結局、神殿には僕についてのことも、他の竜の長に関する収穫もゼロだった。
こんなことならば、孤児院の畑で収穫してればよかったかも、なんて思うくらい。
だけど……むう。全然上手くいかない。
「なんだ?なんか、嫌いなもんでも入ってたか?」
顔を歪めてスプーンをがじがじと齧って唸る僕に、ヴァルが怪訝そうな顔で尋ねた。
「ヴァルの作ってくれるご飯に、嫌いな物なんてないよ。シチューもグラタンも大好きだから!」
「知ってる」
僕の返事に、ヴァルは苦笑する。どこか嬉しそうで、僕はほっとする。
ヴァルはグラタンを食べ終わったようで、丸のままのリンゴの皮をナイフで器用にするすると剥いている。
おおー、全部皮がくっついてる。ヴァルって、本当に器用だよね。
剝いてくれているのは僕の分。
ヴァルは自分は皮付きのままで、丸かじりするから。
「どうせ今日からしばらく、俺は神殿にいねぇからな」
「え?ヴァル、またどこか行くの?」
「いや。ただしばらく、街の自警団に派遣されるだけだ」
「自警団?」
何それ?
「基本的には神殿は固有の騎士団を編成して、街の警備も担ってるんだが。
神殿所属の人員は限られるからな。一般の町民の有志を募って武力の行使を許可されてるのが自警団だ。
で、その統括は神官が交代で派遣されてしてるってわけ」
「へぇ。神官ってそんなこともするんだね」
「神殿は単に自分の腹を痛めたくねぇんだよ。んで、武力の統制をしておきたい」
ふーん……。詳しいことは分からないけど。
でも、ヴァルがしばらく神殿に行かなくていいってことは、昨日みたいな嫌がらせを受けることも、しばらくは無いってことだよね?
あー、良かった。
「ルルド、お前……変なこと考えてねぇだろうな?」
「変なこと?そんなの、考えてないよ」
僕はただ、神殿を消す必要がしばらくは無いみたいでよかったな、て思っただけ。
だって、そんなことしたらきっとヴァルは怒るもんね?僕だって、ヴァルに怒られるのは嫌だから。
でもそうか。だからヴァルは今朝は、神官服を着ずに違う服を着ているのか。
「それってもしかして、自警団の制服?」
「ああ。神官服は動きにくいし、無駄に目立つからな」
だよね。あのぞろぞろしたの、絶対動きにくいよね。僕もそう思うよ。
でもあれが『権威の象徴』なんだって。
何それ。何の意味があるの。全然、美味しくもないし。
自警団の制服と言っても、黒っぽい上着と動きやすいズボンに革靴というだけ。
あの似合ってなかった白い神官服より、ずっと似合ってる。それに、適度に身体にフィットしてとっても動きやすそうだ。
それは良い。良いんだけど……なんていうか。良過ぎる。すごくいい。ヴァルがかっこよすぎる。
最近、ヴァルは何だか前より元気な風貌になった。
以前のような隈が無くなって、カサカサだった肌も色艶が良くなって、パサついてた髪の毛も、しっとりツヤツヤになってきてる。
その結果、全体的にくたびれたやさぐれ感が激減して、変わりに以前からの鋭いシャープな感じが相対的に増している。
わかる?しゅっとした感じで、つやつやしてんの。で、神官なのに、いい身体してんの!
こんなの反則でしょ!!
いやさ。僕は前からかっこいいな、とは思ってたけど……。
ヴァル、何があったの?どうしたの?何かに目覚めたの?
あ。もしかして、さっそくの禁煙効果……?
僕がまじまじとヴァルを眺めていると、切れ長の涼やかな瞳がこちらを向いて目が合った。そして、ふっとその瞳が細められ、頬が緩む。
その微笑みに僕の鼓動がドキリと跳ねて、思わずごきゅっと口の中の物を飲み下す。
「おい、ルルド」
「へ?」
「お前、しっかり噛めよ」
「ええ?しっかり、噛んでるよ?」
「今、飲み込んでただろ」
「ちゃんと、味わってるよ!」
即答する僕に、ヴァルは笑いながら「口の周り、拭いとけよ」と言って、ナフキンをくれる。
僕は何だか恥ずかしくなって、相変わらず口の周りを汚しちゃうのが恥ずかしがってるのを装って、熱くなる顔を誤魔化すように自分の口を拭った。
ホントは、ヴァルに見惚れてたのが恥ずかしかったんだけど……それは、内緒だ。
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